模擬戦③終
あれは、昨日の夜のことだ。
模擬戦の対策を練っていた俺の部屋に、アイラとルシエラが訪ねて来た。二人も模擬戦はあるのにわざわざ心配してきてくれて。なんだかんだいい奴らだ。
かと思えば、話に割り込んでこようとするハルトを無理やり部屋の外に追い出したりと鬼畜なやつらでもあったのだが。
「魔法は命令文……を脳で処理して……えっと……。お師匠様に替わるのです……」
何やら言伝を授かっていたらしいアイラだが、複雑な内容に混乱して覚えきれなかったみたいだ。サラと交信するための貝型の魔法道具を出すと即座に発動。慣れたものだった。
「……聞こえるかい……」
「聞こえるのです。お師匠様。早速ですが……この前アキヤマさんに伝えて欲しいと言われたことなんですが……」
「ああ。もしかして覚えきれなかったのかい? ……ということは今そこにアキヤマくんがいたりするのかな?」
サラは相変わらずの察しの良さで段取りを数段飛ばしてくれた。
「そうなのです」
「おー、いるぞー」
「ふむ。久しぶりの天才美少女魔女っ子の登場にみんなの心が沸き立っていることだろう。しかし尺の都合上説明をさっと終わらしてしまわなければならないのが口惜しい。そうだろうアキヤマくん?」
「あ、ああ。そうだな?」
サラはたまに意味のわからない言葉を放つ。まぁ適当に相槌を打っておくと次の話題に写ってくれるから、いいのだが。
「さて。それで? 聞きたいことはなんだい? あ、いっておくが私はわからないことになんでも答えてくれる便利なお助けキャラじゃないぞ!? 都合のいい女じゃないんだからな!?」
「いや、あの。そんなこと思ってないから! 大丈夫だから!」
「コホン。そうか。取り乱してしまったな」
勝手に突然取り乱したんだがな。
「えっと、話を続けるぞ。サラの魔法単語の本を読んでるとだな、image:想像する、だのcontrol:制御する、だの曖昧な表現の単語があるからさ。それはどういう風に使うんだ?」
「ふむ。それについてはちょっと二人きりで話したいからね。個別通信に移ろう。私の方からすこ〜し魔力を送って個別通信に移るよ?」
個別通信の意味がわからなくてアイラの方を見てみるが、アイラも知らないらしい。ルシエラも茶々を入れずにひたすら聞き手に徹してくれていたが、初めて口を開いた。
「個別通信は通信魔法道具の真の機能よ。うちは魔法道具も多く取り扱ったから知ってるんだけど、そもそも通信に使う魔力の量がとてつもなく多いから実用してる人はほとんどいないわね。周りとの接続を遮断して相手と一対一で通信するのよ。あ、もう始まるみたいよ」
貝型の通信道具はさらに光を増すと、俺の周りから光が消えていった。何事かと驚くところだが、ここのところいろんな体験をしすぎて少し慣れてきてしまった。案の定、暗闇はある地点で綺麗に晴れて、懐かしいサラの家の様子が目に入った。……そう。自分はいきなりサラの家に来た、といった感覚に近い。
「やぁ。こうして姿を見ながら話すのは久しぶりだね。元気にしていたかい?」
「ああ。それなりにな。何回も死にかけたけどな」
「アイラから色々大雑把な話は聞いていたけど、詳細が気になるところだ。しかし今日はそんな話をしている暇はないようだし、また今度にしよう。それで、魔法文の話だったね」
「ああ。曖昧な表現の魔法文の取り扱い。どうすればいいんだ?」
「それに関して述べるには、少し込み入った話をせねばなるまい。いいかい?」
「ああ。手早く頼む」
「ふふ。そうだね。急ぎで説明しよう。もっとも肝心なワードはこの……imageだ。私の長年の研究によるとこれはどうやら創造的な意味を持っているらしく……ってもしかしてこれの意味もアキヤマくんはわかっていたりするのかい……?」
サラはなんと読むのかわからずimageを書いて説明してくれたが、意味も読みも知っているんだよなぁ。
「え、あ、ああ。一応……」
「ぐっ……まぁいい」
あからさまにショックを受けた顔をしたが、さすがに時間がないからか、気合いで持ち直した様子だ。
「とにかく、これは魔法文の中では特別な意味を持つが、使うのは非常に難しい。頭の中で考えたことを具現化させる作業に等しいのだからな。それはただ考えるだけでは発動しない。頭の中での想像がよりリアルに感じれるほどの具体性を帯びた時に発動する。とまぁそれについて今どうこういってもわからんだろう。魔法教会の名門家あたりが使うだろうからそれを見て学べ」
「はぁ」
「そして他の曖昧な魔法単語も一緒だ。というか曖昧なのは私も意味がちゃんとわかっていないから……というのもあるんだがとにかく! 困った時はイメージするんだ! そもそも魔法とは脳と体の魔力回路との橋渡しなのだからな!」
「……」
「おっと、もうそろそろ戻ったほうがいいんじゃないか? 他に聞きたいことがあればまだ時間は取れるが……」
「あ、てかこれはどういう魔法なんだ?」
「今気になるのがそれかい……全く君ってやつは。この魔法は投影。今君の目があるはずの場所にはこちらの貝の魔法道具があり、こちらの様子をどうやってかは知らんが君の目と耳に映し出しているんだよ」
「投影……? それって何魔法なんだ?」
「……詳しくは私も知らないの!! ちょっと先生だからって根掘り葉掘り聞きすぎ! 天才にだってわからないことはあるのさ……」
再びサラは落ち込んでしまったようだ。なんてめんどくs……。
「すまんすまん!」と俺は軽く謝った。「てっきり知ってるかと思って……。んじゃそろそろ戻りたいんだけど……どうすれば……?」
気まずいのはうんざりなので早めに通信を切り上げようとした。
「ふん。乙女の機嫌を直さないまま退場かい。いいけどさ。ほれ」
サラがそういうとブツンとまるでテレビの電源が切れるように突然目の前が真っ暗になり、さっきまでの寮の自分の部屋の視界が戻って来た。周りを見渡すと心配そうに覗き込むアイラとルシエラの顔があった。
「アキヤマさん! 大丈夫だったんですか!? まるで反応しないので死んだのかと思ったのですよ!?」
「そうよ!? 大丈夫だったの!?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと話せたよ」
それから個別通信の様子を二人に話すといつの間にか夜も更けていたので、解散することになった。それが昨日の出来事だった。え?ハルト?もちろんその時間まで自分の部屋から締め出されてしくしく泣いてたよ……。
そんなことまで思い出してしまったが、今は戦闘真っ最中。作り出したゴーレムの体を制御しなければならない。
魔法はイメージ……。わざわざ魔法文をいくつにも分けて命令を分割しているのはその命令を感じやすくするためだったのか。例えば炎を出す! だとイメージだけでは行えないが、魔力を貯める、火の魔素に変換するという具体的な命令があればイメージができる。そういうことなのかもしれない。
今は制御に関するイメージだ。制御……制御……。コントロール。コントロールで頭に浮かんだのは、昔やり込んだゲームのコントローラーだった。魔法文の命令がコントロールのところに差し掛かったとき、目の前に昔やり込んだコントローラーそのまんまのものが目の前に現れた。
それは実物ではない。なにせコントローラーの向こう側が透けている。しかし、確かにそこに存在していた。透けているけど手を伸ばせば触ることができた。これが俺の中のコントロールのイメージ。懐かしい感覚に浸っている暇はなく、すぐにコントローラーを掴み、スティックを動かした。スティックを上に動かすとゴーレムは前進しようと足を踏み出した。……しかし。よろける。そして崩れる。
「ははは! なんだその魔法!? 何もしないまま崩れたぞ!?」
アランは馬鹿にして笑ってくるが、こちらとてぶっつけ本番でやるしかなかったんだ。一回の失敗ぐらい予想していたわ。そう考えながら、さらにアランとの距離をとる。別にゴーレムが崩れたからといって、次にその地点の近くからゴーレムの復帰が可能なのだから、距離をとるのは構わないはずだ。
そもそもちゃんと動かなかったのは当然、いくらコントローラーが現れたからといってそれを動かすだけで自由自在に動かせるなんてことはないだろう。コントローラーとゴーレムの動きの関連のイメージ。そう考えるとコントローラーの前に魔法陣とキーボードのようなものが現れた。
「んだ……? これ?」
俺の独り言に少し気をとられたアランは「あぁ?」と言ったが、そのほかに特に反応はない。これは俺にしか見えていないようだ。もしかしたら、このキーボード。俺の目に体に染み付いたものだから、イメージで入力装置として具現化してしまったのか!?
それは座標軸の固定をした時や座標の決定などをした時と同じ空間だった。世界は少し青く見え、自分と自分以外の物が、モノ、つまりはオブジェクトとして認識できる。感覚に従ってキーボードに馴染みのある文字を入力する。
[response ↑=move to front →=move to right ↓=move to back ←=move to left B=dash]
それぞれの動きを頭の中で鮮明にイメージしながら打ち込むと、それは魔法陣に出力されコントローラーに吸い込まれていった。何が起こったのかはわからないが、謎の自信がある。ゴーレムは動く。そして動きさえすればなんとかなる。そんな自信があった。
「いけぇ!!」
再び魔力を使ってゴーレムを形成し、コントローラーのスティックを上に動かすとゴーレムは再び動き出した。さっきとは違いちゃんと前に歩き出した。
「なんだ? その魔法……。見たことねぇ。けどな、土魔法で俺が負けるはずねぇだろォが!!」
アランはなんのプライドを刺激されたのかゴーレムに攻撃を集中し、幾本もの土の槍はゴーレムを貫通し、ゴーレムは再び崩れ落ちた。俺自身を攻撃したらいいのに。
ゴーレムの再生成。今度はBボタンを押しながら走る挙動を再現。これもまた、うまくいった。そこからはアランの土の槍と俺の操作テクとの勝負になった。俺はさらにジャンプの挙動をコントローラーに組み込み、操作はより複雑なものとなったが、俺の操作テクは慣れて上昇する一方。アランは躍起になってゴーレムを潰しにかかっていた。もう熱くなってしまっている。
数分後……。コンテニューほぼ無限可能でかつどんどん操作に慣れていく俺はもちろんアランの近くにまでたどり着いていた。
「アラン。お前熱くなりすぎだよ。それがお前のいいところでもあり、悪いところなのかもな」
程よい距離に近づくとゴーレムを再び魔力に変換し、それを圧縮。すると何が起こるのか。命令文は圧縮して終わりとなっているが、限界まで凝縮された魔力は……。爆発する。
それはアリスが土の授業の時に使った爆弾魔法と同じ原理だった。魔素を再び魔力に変換して凝縮、一見無駄に見えるその魔法は、存外強力なものとなりうる。なぜなら魔素自体が膨大な魔力の変換体であり、そうして移動させることによって効率よく魔力を運ぶことができているというわけだ。
人型のゴーレム大の土の魔素分の魔力の爆発は予想よりも強力で、アランを大きく吹き飛ばすに至ったようだった。そしてアランは場外へ。
「聞こえてなかったか」
独り言のようにアランに近づいてそう言うと。
「聞こえ……てる……よ。馬鹿……」
そう言い残すとアランは気絶した。それは予想よりもはるかに早い決着だった。おそらくアランが得意とする土魔法を用いたことが勝因だろう。土で挑むことで、アランは熱くなって魔法そのもので圧倒的大差をつけて勝とうとした。それが意外な魔法を使った俺の作戦にはまった形だろう。
「勝者、アキヤマ!見事な魔法でした。あんな複雑な挙動をする魔法。なかなかないですからね。お見事でした。では次……」
ラストールの試合終了の声を聞き、安心して皆の元に戻ると、拍手喝采が巻き起こった。そしてラストールは次の試合の誘導を行い始めた。
みんなして褒めてくれるのだが、正直実感はほとんどない。むしろ今ので良かったのかとさえ思えてくる。なにせ、今回はただ勝てばいいだけではない昇級までして初めて目標が達成できるのだ。
自分の番が終わるとあとはただただ眺めているだけだった。リサや他の人たちの試合も、特に見る気にはなれなかった。自分の評価はどうだったのか、調査を進めることができるのか、それだけが俺の関心ごとだった。
ぼーっとしていたら、時はすぎていくもので。気づけば皆の試合は終わっていた。その日はそれ以降ほとんど何をしたか覚えていないほどぼーっと過ごした。
そして、その翌日。
掲示板に、模擬戦の評価が張り出された。




