サラ先生の魔法講座③終
アイラが来るまではゆっくりしていよう。そんな風に考えてダラダラしていると、予想以上の早さでアイラが戻って来てしまった。何も朝から来なくても良かったのに。
「おはようございます! お師匠様! ……ああ、それとアキヤマさん」
アイラは昨日一人で帰らされたことがよっぽど気に入らなかったのか、俺はお払い箱という感じの塩対応だ。
「ああ、おはよう。アイラくん、昨日は悪かったね?」
「いや、全然大丈夫なのです。気にしてないのです」
いやいやめちゃくちゃ気にしてるだろ。
「それでだな。アキヤマくんなんだが」
サラはぽりぽりと頬を書きながら言った。
「はい? このどこの馬の骨ともわからない男の人がどうかしましたか?」
めちゃくちゃ棘のある言い方だ。やっぱり、間違いなく気にしている。
「うん。そのアキヤマくんだが。私の弟子にしようと思う。あと少し気になることがあるので調べて来てほしいことがあるんだがいいかな?」
そうサラが言い終わるやいなやアイラは怒涛の勢いで喋り出した。
「ちょっと待ってください。弟子ってこの馬の骨をですか?いやもちろんお師匠様のお決めになったことなら異論などあるはずがないのです? が、しかし、え? どういうことです? だって私に魔法を教えてくれるようになるまでどれだけ大変だったのです? あれ? というか私のことは一切弟子にしてくださらないのになんでその男なのですか???」
よく噛まないで言えるなぁなどと呑気に構えて見ていると、アイラの射殺すような視線がこちらに注がれた。危うく怒りの矛先がこっちになりそうだ。
「いやぁ、どうやらこの男は私にとって特別な存在になりそうだからね。早いとこ唾をつけとこうというわけさ。というかアイラくんを弟子にしないのはアイラくんの社会的な地位を案じてのことだからねぇ。その点この男はどこでのたれ死んでも責任を感じなくて良さそうだから。あと面白そうだし」
何やら聞き捨てならないセリフが含まれた気がするのだが。しかも全然フォローできていない。むしろ焼け石に水を注いでしまってるよ、それ。
「と、特別な存在!? そんなっ! で、でも……ッ!! 私は別に人からどう思われようと平気なのです……」
最初は反論しようと息巻いていたのかもしれないが、反論の余地がなくなってしまったのか、後半はしょんぼりしていた。
「そういう問題じゃないだろう? 魔女の弟子なんてことが知れてしまえばこの世界では生きる場所を失ってしまうだろう。君は魔法教会にだって入れるかも知れない。将来を棒に振ることはあるまいよ」
サラは優しく諭すように言うが、それって俺の生きる場所はこの世界にもなくなっちゃうってことなのではと気づく。
「それなら……。わかったのです。お師匠様が私の身を案じてくれているのは理解したのです……」
サラの言い分に渋々納得したようだ。
「それでだね、最初のセリフちゃんと最後まで聞いてたかな? 最近ルクスの東の森の奥に瘴気黙りができていてね。何が原因かわからないんだ」
「そうなのですか? それは気になるのです……」
「だろう? それでだな……少し街で聞き込みをして来てくれないかな? アイラくん」
「私……ですか?」
「ああ。アイラくん。君にしか頼めないことなんだ」
サラはさらっとジゴロなセリフを言う。
「私にしか……なのです? それはもちろんやらせていただきますなのです!」
興奮して敬語がおかしくなっているしちょろすぎるでしょ猫耳娘。
「そうかそうか! それでは頼んだよ! 何か掴めたらまた来てくれ給え。魔法の修行はいつも言ってある通りにしてくれたらいいからね! その間この男は邪魔だろうし預かっておくよ」
うまいことアイラ抜きで俺で実験する気満々の言葉だ。しかもアイラが自然に俺を預けていけるように誘導している。
伊達に長生きしてないなこの人は。
「はい! 了解なのです!」
アイラはまんまとサラの思惑通りに元気よく返事をすると、ピューっと街に帰って言った。アイラが帰るとサラは俺の方を向きまたニタァと悪意のある笑みを浮かべて言った。
「さて。それではまた実験しようか(おもちゃになってくれるか)」
「もはや本音しか出てないぞ……」
せめて魔法の勉強をしようか(実験しようか)ぐらいにしといてくれよ。その日からアイラが情報を掴んでくるまでの間、サラのおもちゃとなり、魔法の練習をする(させられる)日々が始まった。