続・lesson crisis⑥終〜土の魔法編〜
「それでは位置について」
非情にもラストールは今にも試合を始めんと準備を進めてくる。しかし、何も準備しないままでは何もできずに終わってしまうだろう。だからと言って短時間で見たこともない土の魔法陣を書くなんて無理だった。あたふたしていると、委員長リサがコソコソと声をかけてきてくれた。
「アキヤマくん、もしかして土の魔法陣持ってないの?」
それはまるで救世主、いや女神のようだった。どうしようもないと思った時の助けは本当に心から感謝の念が湧いてくるものなんだと実感した。
「そう。実はそうなんだよ。土の魔法初めてだから。でも先生は当然持ってるみたいで話進めちゃってるから」
俺も合わせてコソコソ声で返事をした。
「ならこれ、少ないけど・・・魔法陣あげるから何とか頑張って!」
リサはそういうと魔法陣を2枚渡してくれた。それは今の自分にとって本当にありがたいことだった。
「ありがとう!んじゃ行ってくるわ」
そう挨拶をして急かされないうちに円の位置に移動する。どうせシンシア相手じゃ、勝ち目はないだろう。次の試合に向けて何とかもらった魔法陣の使い道を探るぐらいはしようと思いながら、円の内側に立った。
そしてリサに渡してもらった魔法の内容を確認する。一つは土の魔素を体から1m離れた前方に発生させ、土の壁を作る基本的な防御魔法。もう一つは・・・何だこれは。
[1, fix coordinate axes, to 2]
;座標軸を固定、命令文2へ
[2, determine the coordinates, to 3]
;座標を決定、命令文3へ
[3, charge magic power ,to 4]
;魔力を貯める。命令文4へ
[4, convert earth at the coordinates, end]
;決定した座標で土の魔素に変換、終了
一見、火の授業の時に生徒達が使っていた魔法に似ているが、これではただ好きな場所でただ土を作り出すだけの魔法だ。渡してくれたのはありがたいが、こんな魔法じゃシンシアには遠く及べないだろう。
「それでは初めてください!」
思考がまとまる前にラストールの開始の声が響き渡った。土壁を作る魔法と土を好きな位置で作り出す魔法だけで勝てるのか。
「ラン」
先に魔法を発動させたのはシンシアの方だった。アリスの時と同じように自分の周りに土の壁を発生させ、みるみるうちに土の壁に覆われていく。あの壁に閉じこもりながら攻撃を仕掛けてくるつもりなんだろう。どうやったらあの壁を壊せるのだろうか。
そう考えているうちにシンシアは第二の魔法を発動させるようだった。壁の中で声は聞こえなかったが、さっきの試合と同じ大きな刃が現れ、地面と平行に回転しながらこちらに向かってくる。
「ラン!!」
俺はすかさず土壁の魔法陣を実行。目の前に分厚い土の壁が発生し、土の刃を防いだ。あれ?俺の魔力放出の穴って小さいんじゃなかったっけ・・・?それよりとにかく次の攻撃がくる前に手を考えなければならない。が・・・あの土の壁はアリスの土爆弾でも傷つかないほど頑丈なのだ。俺が今使える魔法で破壊できるとは思えない。
ここで、アリスを円から出した時のシンシアの魔法が頭をよぎった。こしょばして相手を動かざるおえない状況にしていたんだ。ふざけているように見えるが、れっきとした攻撃の一つとして成り立っている。
今、シンシアは土の壁の内側にいる。その内部の空間というのはどれくらいの大きさなのだろう。もしその内部に土を発生させたら・・・?それは普段なら全く意味のない魔法でしかない。でも空間が限られている土壁の中にさらに土を発生させたら・・・?自分から土の壁を解除せざるを得なくなる!!
「ラン!!」
俺はシンシアが次の魔法を発動させる前にリサからもらった二つ目の魔法陣を実行した。座標軸を固定、座標をシンシアの土壁の中に決定する。そしてひたすら魔力を注ぐと、見えはしないが確かに魔法は展開されていた。すぐにシンシアを覆っていた土の壁は崩れ始め、中から身体中土だらけになったシンシアが現れた。
「・・・」
土だらけのシンシアはこれまでにない怒りの表情で俺の方を見た。・・・い、いや、仕方なかったんです。
言い訳を言う暇もなくシンシアは初めて言葉を投げかけてきた。
「アキヤマ・・・死にたいみたいね・・・」
「ラン!!」
俺はさらに魔法を展開した。
「・・・?」
シンシアは何が起こっているのかわかっていない様子だった。
「どうしたの・・・?何も起こらないけど・・・もしかして失敗・・・?なら覚悟はいいわよね・・・人に土を被せたらどうなるか・・・教えてあげる」
珍しく喋るシンシア。久しぶりに口にした言葉がおっかない。
「いや。その必要はないぜ」
さっきとっさに思いついた秘策。突然シンシアがバランスを崩しぐらつく。しかし、すぐに元の位置でバランスを取り戻した。
「今のが何かあるとでも・・・?」
「自分の足元を見て見な」
「・・・!?円から出てる・・・?何で・・・?私は一歩も動いていないのに・・・」
シンシアの言った通り、シンシアはすでに円の外に出ていたのだ。それは俺の秘策が成功したことを示していた。
「今回はばけもんを倒すとかの授業じゃなくて助かったよ。おかげで単純な魔法だけでクリアできた」
「素晴らしい!決着ですね!アキヤマくんの勝利です!!まずシンシアさんの土の壁の中に土を生成し土の壁を解除させ、そしてその隙にシンシアさんの足元付近の地面のちょうど表面近くの位置で土を発生させることで私の書いた円を丸ごと横にずらしたんですね!シンシアさんがさっきバランスを崩したのはその影響だったんです。円から動かすのではなく、円を動かす。常識にとらわれないいい発想でした」
あ・・・全部説明されちゃった・・・。ちょっとカッコつけてただけに恥ずかしい・・・。
「そ、そういうこと」
全然格好つかないが一応そう言うしかなかった。それに対しシンシアは。
「・・・」
悔しがるでもなく、驚いた表情でこちらを見つめていた。そしてそれから何も言うことなくみんなの場所に戻っていった。今のは一体どんな反応だったんだろうか。
「それでは!続いて次の試合に行きましょうか!」
「あ!先生すいません!!」
このままでは次々試合をさせられそうだったので、その声を止める。
「何です?」
「ちょっと傷が痛むのでやっぱり他の試合は休んでもいいですか・・・?」
「ああ!そうだったんですね!すいません気が及ばなくて。大丈夫ですよ。見学していてください」
何とか休むことに成功したため、他の生徒の試合を見学して授業は終了した。それにしても土の魔法に関してはあまり魔法に多様性がないようで、どれも似たような魔法だった。結局土を利用した物理的な攻撃に頼るしかないようだった。唯一違ったのはシンシアの土の腕。遠隔操作で土を動かしていたのはシンシアだけだった。シンシアの魔法は何か新たな魔法の鍵となりそうな気がした。
そして授業は終わり、その日の授業はそれで終了。待つことなく日は沈み、次に日が登ればアランとの昇級試験の模擬戦が始まる。寮に帰ると俺はその模擬戦に使うための魔法を吟味した。そして日はまた登り、模擬戦が始まる。




