続・lesson crisis⑤ 〜土の魔法編〜
教室に入ると、これまでとは比べ物にならないほど少ない人数しか生徒がいなかった。ラムザールの授業でのけが人がまだ戻って来ていないようだ。
次の授業はなんなのか知らずに教室で待機していると、入って来たのはラストールだった。なんだか久しぶりに見た気がする。しかしあの真面目な面持ちはこれまでの変な教師たちに比べて安心感があった。なんせあんな変な授業を受けずに済むと思うと気が楽になった。
「みなさん……というには少ない人数ですが。ラムザールさんには困ったものです……。一体どんな授業をすればあんだけの怪我人を出すことになるのでしょう……。と愚痴を言っている場合ではありませんね。授業を始めたいと思います。移動しましょうか。ラン」
転移魔法が実行され、教室内にいた生徒とラストールは見覚えのない空間に移動した。そこはいつも授業を行っている場所とは異なっており、地面は土であり、木々が生い茂っていた。その光景に驚いてキョロキョロしていると、俺の混乱を察したのか、ラストールはその説明がてら授業の説明を始めた。
「この場所に困惑している方もいらっしゃるようですが、ここはいつもと同じ授業用の空間ですよ。事前に私が土や木などのオブジェクトを配置させていただきました。というのも、今回土の魔法を使うにあたって、土の魔素の変換が全く土のない場所だと難しくなるため、配置したのです。木は雰囲気です」
最後のはなんだったのかわからなかったが、状況はわかった。ボケたつもりなのか、そこで一旦話を止めるも、生徒は誰一人笑わない。当然。ギャグかもわかんないし。
「コホン……では具体的に今回の授業内容を説明しますね。ルールは簡単です。私が指定した位置に二人が立ち、私が書いた円から一歩も出ることなく相手を円の外に動かした者が勝ちというルールです。勝ったら課題はクリアになります。……と言ってもそもそもアキヤマくん以外は何回かこの課題はやってるんですけどね。……そうだ!時間もあることですから、今日しかチャンスのないアキヤマくんは総当たり的に対戦していくことにしましょうか!」
「はい?」
「ではそうですね……まずはアリスさんとシンシアさんが見本の試合をしてもらって、それが終わったらアキヤマくんとシンシアさん。次にアキヤマくんとアリスさん。他の人の対戦を挟みつつ進行していきましょう」
いい案を思いついたとばかりに饒舌に喋るラストールだったが、俺はそんなこと望んでいない。クリアしたら適当に理由をつけて休ませてもらおう。
「面白い展開だ! ね? シンシア?」
「別に……」
アリスは面白そうにいうが、シンシアはというと興味なさげに一言返しただけだった。相変わらずの無関心な態度。アリスはアリスでその様子を意にも介していない。
「それでは線を引いてっと……二人はこれが初めてじゃないから要領はわかるよね? 二人とも位置について!」
ラストールは地面に丸い線を描きながらそう言った。そしてシンシアとアリスはラストールが引いた丸い線の内側へと足を進めた。
「それでは、初めてください」
ラストールの声で試合が始まったが、その開始は静かなものだった。
「「ラン」」
シンシアとアリスは同時に魔法を実行した。シンシアの周りからは土がメコメコと盛り上がり、ドーム状の形になり、シンシアを完全に覆った。あれは以前アイラが使った魔法と一緒のものだろう。
一方アリスは真正面から土の塊をシンシアに向かって飛ばしていた。そんな塊を飛ばすだけでシンシアの壁を壊すことはできないだろうと見ていると、その塊はシンシアを覆っている土にぶつかると……爆発した。
土の塊は爆発し、その破片が勢いよくシンシアを覆う壁にめり込む。しかし、壁に穴を開けるまでにはいたらず、再び沈黙が訪れた。
「チッ。だめだったか。おーい、シンシアー! とじこもってばっかじゃ、どーにもならないぞー!」
アリスは傷一つつかないシンシアの壁にイラついたのか、挑戦的な言葉を投げかけた。しかしそれに対する応答は一切なく、依然として沈黙が続いた。
「返事ぐらいしなよ〜! シンシアちゃん!? ……くそ。ラン!!」
返事すらしないシンシアにイラつき早速辛抱を切らしたアリスは次の魔法を実行。アリスの右腕にもつ魔法陣が光り、先ほどとは比較できないほど大きな土の塊が生成された。
「さすがにその壁もこの大きさの爆発には耐えきれないでしょ〜! 亀みたいにそこに閉じこもったままでいいの??」
これに対してもシンシアは無返事。
「もういいや。だんまり決め込むなら吹っ飛ばされちゃえ☆」
アリスは容赦なくその大きな土の塊をシンシアの方に向かって飛ばした。しかし依然としてシンシアの反応はなく、土の塊は遮られることなくシンシアの方へ飛んでいった。土の塊はどんどんシンシアの方に近づいていく。前回と同じく壁に最接近したその時。
シンシアを取り囲む壁から、一本の長いトゲが生えてきた。その棘は勢いよくアリスが放った土の塊に向かって一直線に伸びていくと、大きな土の塊を貫通した。トゲが刺さった瞬間に土の塊は爆発したが、壁から離れていたために壁に傷が付くことはなかった。
「くそっ! 全くもって面倒臭いなぁ。動けないってのは結構なストレスなもんだね〜。ほら、ボクって体動かしながら戦うタイプじゃん?」
「ラン」
アリスの問いかけに初めて答えた(?)言葉は魔法実行の言葉だった。無慈悲にも見えたその言葉を合図に土の壁から鋭利な陶器のような一本の刃が現れ、回転しながらアリスの方へと向かっていく。
「ちょっ、話は最後まで聞きなよっ!! ……っと!」
飛んできた刃は水平にアリスを切り裂かんと迫ってきた。しかもそれはちょうどかがんでも避けきれない高さだった。アリスはその場から動いて避けざるおえないように思われた。しかし、アリスは真上に飛ぶことでその刃を避けた。普通にジャンプして避けれる高さでもなく、アリスはバク転のようなジャンプで避けることになった。
普通に考えればそんなジャンプをした後なのだ。よろけて円の外側へと出てしまうのが普通だ。だがアリスはさっき立っていた全く一緒のところにぴったりと着地して見せた。
「え、あれっていいんですか?」
驚きもあって、俺はラストールにあれがルール上いいものなのかという疑問をすぐに口に出してしまっていた。
「あれ? いいですよ。あ、ちゃんと説明してなかったですね。すみません。あの円から一歩も出るなというルールに反してなければなんでもいいんですよ。ただしそれだと飛んで移動するのがルール上ありになってしまいますから、動いていいのはあの円の鉛直線上だけなんですけどね」
「鉛直線上……?」
「ええ。鉛直線上です」
「ってことは今のアリスのバク転、あの円の鉛直線上から全く出なかったってことですか!?」
「そうなりますね」
ラストールは平然とそう言ったが、それは驚異的なことだと思う。どの授業でも思ったが、アリスの身体能力は異常だ。常人では普通できないことを平然とやってのけたりする。風の授業のときだって魔法で足場を作って次々と飛び移っていたし、相当な身体能力を持っていることがうかがえた。
「んじゃ次行くよ!」
アリスがそう言った直後、シンシアを囲っていた壁が突然崩れた。
「その必要はない……」
シンシアはそう言い放つと、何やら手を前に出した。そして次の瞬間、その手はまるで何かをこしょばしているような動きをした。
「ちょ、ま、へ??? あははははは、ちょっとどういうあはははは、くすぐった……ははは」
何が起こったのか? 見ればすぐにわかった。アリスの後方から土の腕が現れ、アリスの脇腹をシンシアの手の動きと同じ動きでこしょばしていた。
「ちょっとやめて……あはははは……やめっ……本当にっ……あっ……んっ」
アリスは悶えつつもしばらく耐えていたが、とうとう動いてしまい円の外に出てしまった。
「終了! 勝者シンシア! いやぁ、二人とも見事な魔法を見してくれました。アリスさんは魔法こそ一つでしたが、土を爆発させる魔法、その威力は凄まじいものでした。その上、シンシアさんの魔法を体一つで避けるなど見事な一芸を見してくれました」
「一方シンシアは土の壁を利用した見事な防御に加え、土の形を刃上に変化させアリスさんを追い詰めました。その上、最後の魔法。遠隔操作で土を動かすという高等魔法。素晴らしかったです」
「それでは次はアキヤマくん。まずはシンシアさんとやりましょうか?」
見とれていて自分の試合のことをすっかり忘れていたが、ラストールの声で現実に帰った。非情な試合の開始の合図はすぐそこだった。




