続・lesson crisis④ 〜風の魔法編〜
「それじゃ、串刺しの刑、しっこ〜」
まるで遊んでいるかのようなアリスの様子ははたから見ていて正気のようには見えなかった。しかも、フリでそういう風に振舞っているわけでもなく、ただただ楽しんでいるようなのだ。
「ラン!! ははは!!!」
取り出した魔法陣を実行すると、一転してアリスは静かになった。魔法陣が光ると、魔法陣の中から9本の剣が現れた。その剣はどれも一般的な金属製の剣ではなく、半透明である。
「これは風の魔素を使ってかたどった剣にございます! 尻尾もちょうど9本だから剣も9本にしてみました! 美少女アリスちゃんの活躍とくとご覧あれ!」
わざとらしく言うと、アリスは再び空中に足場を作ることで、カマイタチの攻撃を避け始めた。しかし、それに加えて、アリスが発生させた風の剣も動き始めた。
「んじゃ、イックよ〜☆」
アリスが操る風の剣は巧みにカマイタチを攻撃し、対してカマイタチからの攻撃はアリスは空気の足場を使って完璧に避ける。
「もっと激しい攻撃してくれてもいいんだよっ!!!」
アリスはカマイタチに近づき、挑発する。舐められてばかりではいられないと思ったのか、カマイタチは渾身の風の刃の攻撃をアリスに向かって放った。それはちょうどアリスが足場を離れた直後で、アリスにとっては最悪のタイミングだった。
「なるほど……ねっ!!!」
アリスはとっさに体を半回転させ、地面の方に頭を向けた。そして足場を自分の上に作り出し、それを蹴ることで重力に逆らわない方向に一瞬で移動した。
「ダメダメ。そんなんじゃボクは殺せないよ〜?」
アリスは心から笑っているようだった。笑いながらそう言う姿は不気味としか言いようがなかった。風の剣で攻撃、空気の足場を使って避ける。それを繰り返すうちにカマイタチの方に疲れが見え始めた。
「そろそろ仕上げかな……ってあ!! そういえばさっき一本切ったから9本出した意味ないじゃん!!」
勝手に自分に自分で突っ込んだアリスは両手を上げ、やれやれといったジェスチャーをするが、言っている意味はよく分からない。
「まぁいいか。じゃあ串刺しで」
アリスがキッとカマイタチの方を見ると、風の剣はカマイタチを包囲し、空中で止まった。
「いっけ〜」
締まりのない声でアリスがそう言うと、9本の風の剣はカマイタチめがけて飛んでいった。そして。ザシュシュシュ! と嫌な音が鳴り響いた。風の剣の切れ味は確かだったようで、9本の剣はしっかりとカマイタチの体を貫通していた。あらゆる方向から。それはいくら俺たちを攻撃してきた存在とはいえ、酷い光景だった。
「終わりかな! ラムじい〜〜」
状況と全く合わないような明るい声でアリスが呼びかけるとラムザールはゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
「ふむ。合格じゃな!Sランク、S+ランク!課題クリアじゃ〜!」
ラムザールはそう明るく宣言したが、今そのテンションはどうかしてる。あたり一面には怪我を負った生徒が倒れているのだ。どうしたらそのテンションでそんなセリフが吐けるんだ。
「怪我をしている者もおるようじゃから、救護班を呼びに行こうかの。とりあえず戻るかの!」
ラムザールはそう告げると転移魔法を発動させ、皆は教室に戻ってきた。すぐさま教室に救護の人たちがやってきて怪我をした生徒は保健室かどこかへ連れられていった。俺も浅い傷ではなかったので、他の生徒と一緒に連れられていき、気づけば途中で意識を失っていた。……そして次に目が覚めたのは、模擬戦のテストがある日の前日だった。
【とある少女の心情】
私は心底驚いていた。転入生が私に話しかけてきたことも、私に頼ってきたことも。私は委員長だけど、優等生じゃない。圧倒的な優等生はクラスのトップに君臨している。私の役目はクラスをまとめることだけだった。
今回の授業も私にできることはできるだけみんなに無理させない、怪我をさせない。それぐらいのことだった。私にできることなんてたかが知れてるから。
転入生は予想していたよりも普通の人だった。あの性悪なジジイの授業についていけてなかったし。私と同じく、その場をなんとなく乗り切って時間を稼ぐものだと思っていた。
……
あのジジイの使い魔の攻撃は容易に生徒たちを傷つけた。私にも攻撃は届いた。痛い。痛いけどみんなほどの負傷ではなかった。転入生くんはさすが、無傷で攻撃を防いでいた。アランもなんとか残っていた。でももう倒すのは絶対無理だ。アランも時期に倒れるだろう。転入生くんと一緒に時間切れまで逃げ続けるか……。
そう思ったとき、予想外の出来事が起こった。転入生がアランをかばったのだ。私は様子を見守ることしかできなかった。私にはあそこに加わるだけの力はないから。しばらくして、転入生くんもようやくやられてしまった。これはダメだ……。アランももうダメだろうし……私一人じゃ逃げ切ることすらできないだろう……。
もう倒れたふりしてればいっか……。
そして私はクラスメイト二人を見捨てて、地面に倒れこんだ。倒れたふりの予定だったけど、疲れからか、いつの間にか本当に眠りについてしまっていた。




