同居人
寮の自分の部屋に帰ると、すでにハルトは戻って来ていた。
「おう。遅かったな。何してたんだ?」
「いや、別にどうってことないことだよ」
「なんだ? 辛気臭い顔して……あ、そうだ! 飯食いに行こうぜ! そろそろいい時間だろ!」
気にしていなかったが、そういえばそろそろ晩飯の時間ではあった。気づくと急にお腹が減って来たような気さえした。
「ああ。じゃあ行こうか」
これから毎日一緒の部屋で過ごすわけだから、無下に扱うこともできない。しばらくは潜入を終えることもないのだから。残念なことだが。
ハルトは元気よく食堂への道を教えてくれた。そういえば、当たり前だが俺はまだこいつのことを全然知らない。ただ明るい性格の陽気な奴という印象しかない。
食堂に入ると、晩飯の時間だけあって、生徒で埋め尽くされていた。
「おお〜、結構混んでるんだな〜」俺は感嘆の声を漏らす。
「まぁこの時間だからな……あっ、アイラさんだ!! おーい! アイラさーん!」
は? アイラ?
ハルトはアイラを見つけた途端手を振ってアイラの席に近づいていった。その席にはルシエラも座っていた。
「おっ美人な女の子も一緒じゃないですか〜。そちらは?」
「ルシエラといいますわ」
ルシエラはまるでお嬢様かのように振る舞った。猫かぶってやがる。
「そうだそうだ。こちらアイラさん。Bクラスに途中入学して来た女の子。美人だろう???」
ハルトはそう自慢げに言って来たが、めちゃくちゃ知り合いなんですが……。しかし、話の腰を折るのが面倒だったので、話を合わせることにした。それがさらに面倒な展開を呼ぶことになるとしても。
「……そうだな。美人さんだ」
「そういえばアキヤマも途中入学だったよな?」
「ああ」と当たり障りのない返事をする。
「珍しいことって重なるもんなんだな〜」呑気なハルト。
「そ、そうなんだな〜」
ハルトはすっかりたまたま一緒の時期に入学して来た生徒、という勘違いを受け入れてしまっているようだった。
こいつ相当バカで助かった。なんなら潜入終わるまで勘違いしてくれたままでいてくれ。
アイラとルシエラも空気を読んだのか、その場は合わせてくれた。ハルトはよく喋る喋る。男女関係なく仲良くなる天才のようだった。特に女に対しては態度がさらに変わるようだけど。
こういう人間ってやっぱどこにでもいるんだなー……。
「アイラさんは、なんで入学しようと思ったの〜?」
「前からこの学園は憧れだったのです」
「アイラさんは………………………………?」
「ええ? そうなの? ルシエラさんは………………?」
「アイラさんは…………………………?」
アイラが答える度に次の質問を繰り出している。たまにルシエラにも話を振ってたまに笑いもとる。見事にその場を回していた。
しかし俺には聞きたいことねーのな……
黙々とご飯を食べ続けるとみんなより随分早く食べ終わってしまった。それ以上その場にいるのも気まずい気がしたので、先に帰ると言って席を立った。
あいつアイラのこと好きなのかな……。面倒くさいことにならなきゃいいけど。
そう思いながら出口の方に向かって歩いて行くと、端の方に一人で座ってご飯を食べているシンシアを見つけたので、その向かいの席に座る。
「よう」
「よう?」
手を上げて挨拶をすると、シンシアは同じポーズをして首を傾げながら同じことを言った。
「一人なのか?」
「見たらわかる」
シンシアは興味のないことに対しては一貫して冷たい対応だ。
「相部屋のやつとかは?」
「S+は唯一個室がもらえるからいない」
シンシアはうどんのような白い食べ物を一本一本口に運びなから、きっぱりと言い放った。
「前に相部屋だったやつとか」
「最初から」
最初から? ちょっと意味が読み取れなかった。
「ん? どう意味?」
「最初から」
会話が成り立たん……。最初から……最初から……。
「最初からS+だったってこと?」
「それ以外ない……」
この前と違って随分と冷たい対応になってしまっている。魔法陣が書けることを話したらまた違う反応になってくれるのかと思ったが、この先のことを考えてそれは控えることにする。こちらが話しかけないと黙々とご飯を食べ続け、シンシアはとうとう食べ終えてしまった。
「あ、なぁS+って追加で課題が出るのか?」
俺の今の質問には興味を持ったのか、ピクリと動きが止まった。
「食べ終わったから帰る」
俺の質問に答えることなくシンシアはスタスタと帰っていってしまった。あまりの手ごたえのなさにがっくりとうなだれていると。
「振られてしまいましたな〜」
後ろから声をかけられたので振り返ってみるとそこにはいつの間にかアリスがいた。
「なんだよ」
「そんなに追加課題のこと知りたいの? なんでかな〜?」
アリスは前と同じように俺の顔を覗き込んで来た。アリスは笑っていたが、目の奥は笑っていないように見えた。まるで試しているかのような瞳。
「気になるもんは気になるんだよ」
「ふ〜ん? ……ごまかすための答えとしては0点だけど、ボクは優しいから、深くは追求しないでいてあげるね☆」
アリスはそれだけ言うと颯爽とその場を立ち去って言ってしまった。何を考えているのかわからないやつだ。本当に二言言っただけでその場を去って行くなんて。
その場に用のなくなった俺は自分自身も部屋に帰ることにした。ふとハルトの方をみてみると、アイラと目があった。あいつも苦労してるな〜と思い見ていると、さっと目をそらされてしまった。
食堂を去り寮の部屋に帰ると、命がけの授業が続いた疲れからか、すぐに眠りに落ちた。次の日にも待ち受ける授業に不安を抱きながら……。




