箸休め
火の魔法の授業は長く、終わって先生が再び転移魔法を使って元の教室に戻ったのは昼過ぎとなった。そして始まる昼休みという名のボッチの戦いの場。さっきの授業のせいで隣の優しそうなおじさん魔道士も引いてしまっている。クラス全体がそんな感じなんだから、気まずいったらない。
仕方なく俺はアイラとルシエラの様子を見にいってみることにした。ご飯はそれから考えよう。なんならあいつらと食べようなんて思いもあったのかもしれない。……しかし。
待ち受けるていたのは残酷な真実だった。……アイラもルシエラもすっかり教室の人気者になっていた。いや転校生って本来そういうもんなのかもしれないけど。授業でやらかして初日からドン引きされた人の気持ちも考えてっ。しかも年上なんです。いわば多留生と現役生ぐらい溝があるんです。
その現実に打ちのめされ、とぼとぼと廊下を歩いていく。確か購買があったはずだから何か買ってどこか人に見つからないところで食べようと決めた。しかし購買に向かっている途中、後ろから声をかけられた。
「ねぇ……」
「え?」
振り向くとそこにはシンシアが立っていた。相変わらずの無表情で。
「何?」
問いかけるとシンシアは首をかしげる。
「いや、君が声かけてきたんだよね!?」
シンシアは少し驚いたような顔をすると左の手のひらを右のグーでポンと叩き、そういえば、といったようなジェスチャーをした。この子……大丈夫なのか?
「少し……話せる……?」
「えっと……俺は今からご飯を食べるから……。一緒に食べるなら話せるかも?」
俺がそういうとシンシアは何も言わずに歩き出した。
「えっ? ちょっと!! どこ行くの?」
俺がシンシアの謎の行動を慌てて問いかけると。
「購買……行くんでしょ……」
これはご飯を一緒に食べるということか? わかりにくすぎるだろ!! しょうがなく購買までついていき、パルムを買い、校庭のベンチで二人座ってもぐもぐとふわふわしたパルムを頬張る。
「美味しい……」
「ああ、うまいな……ってそうじゃなくて!話するんだろ!?」
「そういえば……」
本当に調子が狂う子だ。しかしこうして改まって隣に座ってみると、髪の色もそうだが、その端麗な容姿も目を引く。クラスで人気があまりないのはこの性格のせいなのだろうか。
「で? 話って?」
「アキヤマ……魔法陣……読めるの……?」
「えっ?」
それは予想していなかった言葉だった。まだ会って数時間しか経っていないし、魔法文が読めることは公にしていない。授業でも先生でさえ座標指定を見事にし続けたと思っていたぐらいだったのに。
「読めるの……?」
シンシアは身を乗り出してまっすぐとこちらを見つめてくる。しかし近い。胸が当たりそうになる。
「いや、その……」
「研究……したの……?」
シンシアはさらに詰め寄ってくる。目は先ほどまでとは違い、ワクワクした気持ちが溢れでているようだ。
「えーっと……それが。読めないんだ……」
シンシアはわかりやすくがっかりとした。珍しく表情がコロコロ変わった。そして直後、また真顔に戻りすぐにその場を立ち去っていった。
「えっ? どこ行くの?」
急に立ち去るものなので意図を尋ねるが、シンシアは歩みを止めない。
「読めないなら用はない……」
そういうとシンシアはスタスタと歩いていき、すぐに見えなくなった。
「えーーーーっ!?」
シンシアは嵐のように過ぎ去っていき、俺は一人残され、寂しく校庭のベンチで一人、パルムを食べる事になった。久しぶりに一人で食べるご飯は……砂のような味がした……。昼休憩が終わると俺は教室に戻ってきたが、そこでも待ち構えていたのは生徒の少し引いたような対応だった。いや休憩挟んで態度が治るなんて思ってはいなかったんだが。やっぱり辛いものがある。いつまでこれ続くんだろう……
潜入を早く終え、こんなとこおさらばしてやると決意した入学初日なのであった。そして休憩が終わって始まるのは、午後の授業だった。次の授業は水の授業らしい。火の魔法の授業の時のように下手したら命に関わるような課題が出ないといいのだが……




