lesson crisis① 〜火の魔法編〜
最初の授業は火の魔法の授業だった。HRが終わると教師はかつかつと硬い足音を響かせて教室の中へ入ってきた。その教師は金髪の長い髪をした気の強そうな女の人だった。少しきつめのスーツにはちきれんばかりの体が溢れ出さんと主張している。このお姉さん。エロい。
「今回は初めての生徒さんがいるみたいね。でもここはSクラス。基本的な説明は省くわ。自己紹介だけしておくわね。私はソレイユ。気軽にレイちゃんとでも呼んでね?」
そのテンションに教室は思わず静まり返った。
「こほん。えーっと、今日の課題は、この魔法陣、または自分の持っている魔法陣でもいいわ。火の魔法陣限定だけど。とにかくそれを使って私の使い魔を焼き焦がす、それが課題よ」
えらく物騒なおねぇさんはそう言うと魔法陣を一枚ずつ配っていった。自分の使い魔を焼き焦がすのが課題とか。どんなドSなんだろう。そう思っていると思わぬ方向から発言が上がる。
「そんだけでいいのか?」
アランはむすっとした顔でレイちゃん、いやソレイユ先生に尋ねた。基本アランはむすっとしてるんだとなんだか安心した。自分が初対面で異様に嫌われているってのは結構辛いものがあるから。
「それだけ? まぁ言ってしまえばそれだけよ? 簡単でしょ? まぁ、攻撃を当てられたらの話だけどね?」
ソレイユ先生はアランの質問に答えると続けて言う。
「魔法陣は魔力のあるものなら誰でも実行できると思われがちだけど。実は違う。起動自体の難易度は低い。それこそ魔力さえあれば誰でもできる。でも、人の魔力には向き不向きというものがあり、どの属性に魔力を変換しやすいなどの特徴がある。その上、魔力の供給を止めるタイミングなども自分の感覚で決めなければならない。だから鍛錬が必要なのよ。あ、これは新人くんへのサービス説明ね?」
ソレイユ先生はそういうと俺の方に向かってウインクをしてきた。なんだかノリがえらく軽いな……。
「んで、攻撃を当てられたらって話だけど……私の使い魔は……ま、説明を聞くより体で慣れた方が早いわよね! それじゃあ、移動するわよ。ラン!!!」
ソレイユ先生は、教卓に手を当て、魔力を込めた。教卓に書いてあった魔法陣が起動して光だす。それと同時に教室全体が光に包まれ、気がつくと何もない広い空間に移動していた。
「ここは……?」
思わず疑問が声に出ていた。それが聞こえたソレイユは優しく説明してくれた。
「ここは魔法の訓練用に作った学園内の訓練施設よ。教卓の魔法陣を発動させると教室内の人間は全員ここに移動するっていう仕掛けなの。あ、教師以外は発動させられないようになってるから勝手に使おうとしちゃダメよ?」
そんな魔法まであるのか、と感心して聞いていたが、ふと別の疑問が浮かび上がる。魔法協会の施設の扉の魔法陣といい、今の移動魔法といい結構魔法についての解析はできているのか? なら魔法協会はなぜあんなくそ魔法陣しか公認していないんだ?
俺が妙な表情をしていたことに気づいたのか、ソレイユは尋ねてきた。
「何か気になることでも?」
「いえ。すごい魔法だなと思っただけです」
素直に尋ねるのもどうかと思いとりあえずその場はお茶を濁しておく。しかしその返答にまた予想外の食いつきを見せる者がいた。
「こんな転移魔法のどこがすごいんだよ、お前本当にSクラスか?? こんなの随分前に魔法協会によって確立された魔法だぞ?」
アランは口が悪いが役に立つみたいだ。丁寧に説明してくれた。これならソレイユに怪しまれることもないだろう。
「そうなのか、すまん。無知で」
素直に謝っておくと、ふん、と鼻を鳴らして黙ってくれた。案外こいつはうまく使うと役に立つやつなのかもしれない。
「んじゃ、そろそろいいかしら?」
俺たちの様子を伺っていたソレイユはそう言うと、手のひらサイズの本を取り出し、あるページを開いた。
「ラン!!」
そう唱えると本から地面に魔法陣が照射され浮かび上がり、その中心から狐のような生き物が現れた。
「キュウ〜ン」
なんとも可愛い生き物だけどこいつを焼き焦がせってのか?どんな授業だよ!と心の中でツッコミを入れる。
「言っとくけど。可愛いからって、超絶プリティーな私のような外見をしてるからってなめてたら、ひどい目に合うわよ?」
いちいち発言に独創性がある奴だな。
「はい、ユイちゃんちょっと走ってきてくれるかな?」
ソレイユの命に従い、その狐の使い魔は走り出した。そのスピードは恐ろしく早く、適当な位置まで行くとソレイユの前に戻ってきて再びちょこんと座った。
「今見たとおり、この子は足がすっごく早いわ。あと、もちろん火の使い魔だから火の耐性もあるし、火の攻撃もするから。それは適宜避けちゃってね。じゃあ、一人ずつやっていってもらおうか。あ、あとこれ単位認定あるからね。できなかったら卒業できませんよー。というわけでそれじゃあS+の人たちからやってもらおっかなー。お手本ということで。それじゃあまずはシンシア。やってみて」
ソレイユからシンシアへのご指名が入る。それにしても卒業のためには必ずクリアしなくてはいけないとは、厳しいもんだと思う。潜入が目的の俺は完全に他人事だが。
「ん……わかった」
シンシアはそれだけ言うと、みんなよりも前に出て魔法陣を1枚取り出した。そのあと、ソレイユが合図をだし、狐の使い魔は逃げ回り出した。シンシアは焦ることなく前に出た。そして一言。
「ラン」
冷たく言い放たれたその言葉で持っていた魔法陣は光を放ち出す。相変わらず使い魔は素早く走りまわっている。
「座標軸……固定。座標……決定」
シンシアがその言葉を言い終わるのと同時に、炎の剣が10本現れ狐を囲うように地面に突き刺さる。そしてその刹那、炎剣を繋げるように円状に炎上……いやダジャレとかじゃなく本当に炎の壁が狐を囲った。
「実行完了……」
その言葉が終わると炎の壁の内側に炎の渦が発生し、狐のいた空間は炎の海と化した。
「なんだこれ……」
思わず感嘆の声が漏れる。生徒は皆拍手でシンシアを迎え入れるが、シンシアはなんともなさそうな顔で元の位置に戻ってきた。……そして。狐は見事に丸焦げになっていた。
「お見事! でも先生ほんとは渡した魔法陣使って欲しかったなぁ〜〜。それに攻撃の処理とかも見たかったなぁ……」
「火の魔法なら自由って言った……」
シンシアはソレイユの言葉にも全く動じる様子は見られない。感情が全く読めないと言うのが終始の感想だった。それにしてもS+ってのはとんでもないバケモンなんだなと心の中で腰を抜かした。実際は突っ立っていることしかできなかったんだけど。
「はは……んじゃアリス。私の渡したやつでお願いできるかしらぁ?」
ソレイユは甘い声でアリスにお願いした。それに快くアリスは答える。
「仕方ないにゃ〜。わかったけど、狐はどうすんの?」
アリスのいうとおり、狐は真っ黒焦げになったところだ。
気になって見ているとソレイユは動いた。
「ラン」
さっきの本の魔法陣を実行すると、黒焦げになった狐の使い魔は消え、綺麗になった狐の使い魔が再び現れた。
「キュ、キュウ〜ン・・・」
いやなんかさっきより明らかに元気ないんだけど!? 明らかに酷使されて弱り切ってますよね!? これ動物虐待とかにならないんですか!?
そんな思いを胸にソレイユの方を見ると、ソレイユは冷たい表情でこちらを見つめ返した。
そんなものはない。
そう言われたような気がした……。
ともかく、授業は再開し、アリスの番がやってきた。




