学園生活①
寮に戻ると、自分の部屋に明かりがついていることに気がついた。相部屋の生徒が戻ってきたのだろうか。入ってみるとやはり予想通り、一人の男子生徒が部屋で待ち構えていた。
「おっ、あんたが今日から編入してきたっていうやつか?」
その男は20歳前後でいわゆるイケメンという部類に入る顔つきをしていた。服はスウェットのようなズボンに、Tシャツというラフな格好をしていた。
「ああ。そうだけど?」
「これから一緒の部屋だな。よろしく! 俺はハルト」
「俺はアキヤマ。よろしく」
ハルトは挨拶をすると手を出してきた。握手か。フランクなやつだな。そう思いながら俺はハルトの握手に応じた。
「それにしてもアキヤマ? 変な名前だな。それに結構年とってんのな」
初対面で早速これとは失礼なやつだ。変な名前だのもそうだが、わざとなのか知らないが、敬語も知らないのか? ま、それに関しては俺がどうこう言えるような立場じゃないんだけど。
「生まれが地方の方でね。変わった名前なのはそのせいさ」
「へぇ〜」
聞いておいて全く興味がなさそうなのもまた失礼なやつだ。
「んじゃ、俺は早く寝るから」
そう宣言すると、早速俺は寝る準備を整え始めた。そしていざ寝ようって時になって。
「ちょいちょいちょい! 同じ部屋になったんだからやるべきことがあるっしょ!」
まだ、何かあるのか。と言うかまだこの軽薄そうな男に付き合わないといけないのか? そう思いながら返事をする。
「なんだよ。俺はもう眠いんだけど?」
今日は散々アイラとルシエラからこってり絞られたのだ。早く寝て体力を回復したい。そう思うと思わず面倒臭そうな返事をしてしまう。
「まぁ、そう言うなって、相棒! 同じ部屋になったらやるべきことは決まってるっしょ!歓迎会だよ。歓・迎・会!」
こいつ、根はいいやつなのかもしれないが、今はそこはかとなくめんどくさいぞ……。それにこのノリ……まだおじさんじゃないけど、この年になるときついものがある。
「いいって。そんなの。とにかく俺は寝るから」
そう言って無理やりベッドに潜ろうとすると、服を掴まれ阻まれる。
「まぁ、そう言うなって、相棒。ほら、ちょっとだけだからさ。ちょっとだけ」
こいつ……。いいえボタンを押し続けたらストーリーが全く進まないゲームのキャラかお前は! それに気になる人には気になるセリフで終わるなぁ。このまま断り続けていても、本当に話が進まないので、渋々歓迎会とやらに付き合うことにした。
「わかったよ。んで?なにすんだ?」
「ジャジャーン!」
ハルトがわざとらしくそう言って出したのは酒とつまみだった。前に酒場で飲んだビターと肉の干物のつまみだった。お菓子とジュースとかじゃなくてよかった。
「お、酒か。いいじゃん」
「祝いと言ったらお酒だからな!さ!早速!」
そう言うとハルトは二つのコップに酒をなみなみと注ぎ、二人ともコップを手に持った。
「かんぱーい!」
「……乾杯」
俺たちは歓迎会なるものを始め、酒を飲み始めたが、一向に終わる気配はなかった。結局テンションの低い俺は生返事をしつつ、ハルトのトークに夜遅くまで付き合わされたのだった。
翌日、朝早めに起きると準備をさっさと済ませて寮を出た。朝からハルトに付き合うのはごめんだったから。今日から授業が始まる予定だったが、教室ではなく、職員室にまず来るように言われていたので、職員室に向かう。職員室前にはちょうどアイラとルシエラもすでにきていた。
「あ、アキヤマさん。おはようなのです。昨日はよく眠れたのです?」
アイラは昨日とは一転、機嫌が良さそうで、耳がピーンと立っていた。こういう耳の場合はワクワクしている時だ。経験でわかってきた。
「いや……それが……同じ部屋のやつが歓迎会とか言って酒盛り始めてあんまり寝られなかった……」
「知らない人が相部屋ってのも大変なのねぇ」
ルシエラは他人事だ。しかしルシエラも機嫌は治っているようだ。
「まぁな」
「おや、皆さんもうお揃いですか。早いですね」
声をかけられたので振り向いてみると、そこには昨日の試験官だったラストールが立っていた。相変わらずのローブの中にスーツ姿だった。ネクタイは曲がることなくピシッとその形をとどめている。
「当然なのです! 初日に遅刻とあってはお師匠様に申し訳が立たないのです!」
「……? そのお師匠様と言うのが誰なのかはわかりませんが、立派な心がけです。それではこんなところで話しているのもなんですから、早いですが中で説明をいたしましょう」
ラストールは職員室の隣の応接室に俺たちを通してくれ、お茶まで出してくれた。豪華な椅子に座ると、ラストールは説明を始めた。
「えー、では学園生活の説明をしていきたいと思います。まず、アキヤマさんはSクラス、アイラさんはBクラス、ルシエラさんはCクラスに配属されました。そのクラスは、現段階での一時的なクラスに過ぎません。と言うのも、クラスが上がるか、下がるか、そのままになるかを判断するテストが毎月一回あります。まぁ大体の人はそのままになることが多いんですが……。それはさておき、そのテスト次第で、あなた方のクラスは変動していくことになります」
それを聞いたアイラとルシエラはガッツポーズをとる。やる気満々という感じだ。お前ら完全に潜入が目的ってこと忘れてないか?
「授業は火、水、土、風、雷がそれぞれ一つずつ。それに光と隠の魔法がワンセットで1科目となり、一週間にローテンションで勉強してもらいます。それに加え、実戦の授業と、魔法道具についての授業もあります。そして月に一回のテスト。これも実戦形式で行われます。これについてはまた近くなったらお教えしますね。つい最近行われたばかりなので、次は一ヶ月後になりますから。とまぁこれぐらいが授業、学園生活についての説明になります。また何か質問などあればいつでも声をかけてください」
「了解なのです!」
「「はーい」」
アイラだけが元気よく返事をし、それに続いて俺とルシエラはだるそうに返事をする。本当にアイラは教わること、勉強することが大好きなんだと実感する。
「おや、そろそろ時間ですね」
ラストールはそういうと、俺たちをそれぞれのクラスに案内してくれた。ルシエラはC、アイラはBクラスに入っていった。二人とも入る瞬間に歓声が聞こえた。やっぱ女の子の転校生って言ったら盛り上がるよなぁとしみじみと思うも、自分の扱いがどうなるのかを考えると悲しくなった。こんな年上かつ男なんて……絶対盛り下がるじゃん!
アイラがBクラスに入っていく時、ドアが開いた隙間からハルトの顔が見えた。アイラを見た途端目を輝かせていたけど……嫌な予感がする。というかそもそもあいつBクラスだったのか。ラストールについていくとSクラスの前まで連れてきてくれた。そしてどうやらラストールはSクラスの担任らしく、俺と一緒に教室に入るみたいだった。
一体どんな人たちが待ち受けているのか。
期待と不安を胸に抱きながら、俺はSクラスの教室の扉を開いた。




