入学試験②
アイラが隣の部屋に入ってから数分たち、ドゴォという轟音が鳴り響いてしばらくしてアイラは部屋から戻って来た。いや、あの、試験終わるの早くないですか。まだ魔法考えついていないんですが……。この分だとルシエラの試験も早く終わってしまいそうだったので、必死に魔法を考える。
しかし、魔法を作るなんて実際やって見ると難しい。どういう命令式にすればどういう魔法ができるのかなんてものは、実例を見てみないとなかなか思いつくものではない。慣れ親しんだ事象ではないのだから当然ではあるのだが。実例、と心で念じてから気づく。そうだ。前にやったことを繰り返せばいいのではないか?
「ではルシエラさん、次入ってください」
ラストールの無慈悲な宣告。もうちょっと間を空けてくれてもいいでしょう。ルシエラが機嫌よく別室に入っていき、タイムリミットが迫る。
実例。アマネの化け物鳥と戦った時、俺が使ったのはなんだ? ……雷。そう。雷だ。しかもただ雷を放ったのではない。静電気渦巻く雲と魔法陣とを薄い雷で繋げたのだ。薄い雷が導電体となり、雷は雲から魔法陣へと流れていった。
あれを再現するんだ。
まず水の魔法で小さな雲を作り出す。そしてそれを風の魔法で乱回転させ、静電気を発生させる。それを続け膨大な電力を発生させたところで、その雲から魔法陣までを雷で繋げる。
考えがまとまったところで魔法陣に命令式を書いていく。……しかし。書き終わる前にルシエラが部屋から出て来てしまった。
「らっくしょーね」
ルシエラは余裕綽々でそう笑顔で告げて来たが、俺が今して欲しいことはそんなことじゃなかったと恨みがましい目でルシエラのことを見つめる。
「な、何よ」
「……」
ルシエラに文句を言ってもしょうがないので、仕方なく別室に行くことにする。
「ではアキヤマさん、次入ってください」
ラストールの指示に従い、別室に移動する。
そこはコンクリートに囲まれたような、無機質な部屋だった。実際に何でできているかはわからないけれど。
ラストールは強固なガラスの向こう側に立っていた。
「では、初めて。自由に魔法を使ってください。その出来で私が合格かどうか判断いたしますので」
ラストールの無情なスタートの宣告。しかし魔法陣はまだ完成していない。
「あの〜」
「なんですか」
ラストールは眼鏡をくいとあげて俺の方を見た。
「ちょっとだけ時間いいですか……?」
「制限時間は15分ですから。その時間内であれば問題ありません」
いいことを聞いた。それならなんとかなるかもしれない。というかそんだけ時間あるならもっと時間稼いでくれよと二人に恨みの年を送る。しかしそんなことに時間を使っている暇はないので、魔法陣に命令文を書いていく。
魔法陣1
[1, charge magic ,to 2]
;魔力を貯める、命令文2へ
[2, convert water ,to 3]
;魔力を水の魔素に変換、命令文3へ
[3, scatter water at named point ,to 4]
;指定地点で水を撒き散らす、命令文4へ
[4, make smaller the water ,(if magic power run out) end ,or to 2]
;水をより細かくする、魔力が尽きれば終了、または命令文2へ
これで魔力の供給が途切れない限り雲を発生させることができる。サラ曰く「魔法は指定地点と書くと脳内で自動的に選択できるようになっている」らしく、初めて使って見ることにした。プログラミングに似ているなんて思ったことがあったが、それよりもはるかに扱いやすい。いや、考えようによっては扱いにくいのかもしれないが、楽をしたがっていた俺としては、自動的に選択されるなんていうのは楽以外の何物でもなかった。
プログラミングがコンピュータへの命令であるのと同様に魔法文はコンピュータの代わりに脳を使っているのだ。だからはるかに複雑なことが簡単な命令文でできてしまうのだろう。まぁ、制約はあるようだが。
魔法陣2
[1, charge magic ,to 2]
;魔力を貯める、命令文2へ
[2, convert wind ,to 3]
;魔力を風の魔素に変換、命令文3へ
[3, scatter wind at the need point ,(if magic power run out) end ,or to 2]
;風を魔法陣1で指定した指定地点で撒き散らす、魔力が尽きれば終了、または命令文2へ
これで雲を発生させるまでの魔法は完了した。次は雷だが、これは前に化け物鳥と戦ったときの魔法陣を改良すればよかったのですぐに済んだ。
魔法陣3
[1, charge magic ,to 2]
;魔力を貯める、命令文2へ
[2, convert thunder ,to 3]
;魔力を雷の魔素に変換、命令文3へ
[3, roll out thunder from the named point to this circle, end]
;雷を魔法陣1で指定した指定地点からこの魔法陣まで薄くのばす、終了
これで魔法は全て完成した。円の中に正方形を書き、これらのコードをその中に書き込む。さらには追加で魔法陣の発動のタイミングの指定もかける。
1枚目の魔法陣の最初に追加で書き加える。
[time, circle 1 =circle 2 》circle 3]
;魔法陣1と2を同時に実行、それが終了後、魔法陣3を実行
ラストールの方を見ると、目を丸くしてこちらの方を見ていた。これまで無表情だっただけに驚いた。魔法陣を書けるところを見せてしまったのはまずかったか。……しかしそんなことを今更考えていても仕方ない。
時間もないので三枚の魔法陣の書かれた紙を同時に持ち、早速唱える。
「ラン!!」
魔法陣が三枚とも光り、体から近い順に魔法陣1、2、3が宙に浮き、光りながら1、3は右回りに、2は左回りに周りだす。
指定地点というのを魔法文に組み込むのは初めてだったが、なるほど、発動した瞬間にどこを指定地点にするか、という選択が頭の中に直接流れ込んでくる。それは不思議な感覚だった。俺はラストールが向こう側にいるガラスの手前を脳内で指定地点に設定する。
すると魔法陣1と魔法陣2は同時に実行され、まずもくもくと雲が形成されて行く。いや。もくもくという擬音は正しくないかもしれない。いきなり水が撒き散らされ、それが急に細かくなっていき、乱回転しだし、ついには雲になった感じだ。
雲はだんだんと成長していき、十分な大きさになったところで一旦魔力の供給をやめる。魔法陣1と2の光が弱まると再び魔力を込める。すると魔法陣3が実行され、雷が魔法陣3から雲に向かって伸びていった。そして雲に雷がたどり着いた瞬間、さらなる強さの雷が雲から魔法陣に向かって逆流していき、魔法陣3は光りを弱めた。
……上々の出来だった。
化け物鳥の時とは違い、持っている紙の方まで雷は来なかった。化け物鳥の時は膨大な威力の雷が降ってきたので魔法陣を貫通して魔法陣が書いてある紙にまで雷が来てしまっていたのだ。やはり、威力は調整してこそ魔法を使いこなせたと言えるのかもしれない。
「それまで! お疲れ様でした。退室して結構です」
ラストールがそう告げると俺は二人の待つ部屋へと戻っていった。
戻ってから数分経って、ラストールは俺たち3人が待つ部屋に戻って来た。ラストールが戻ってくるまでの間は、久しぶりに緊張する時間となった。




