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magi code  作者: 城宮 斜塔
1章 始まりの街、ルクス編
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サラ先生の魔法講座①

 サラに自己紹介した翌日、再び俺はアイラとともにサラの家に来ていた。


「さて……それでは、サラ先生の魔法講座、はっじまっるよーー」


「あれ、サラ、キャラ変わってない?」


 突然のハイテンション。


「コホン。ちょっとはしゃいでしまったかな。ではアイラには復習になってしまうけど基本から説明しようか」


「復習でもありがたいです!」

 アイラは目をキラキラさせ、尻尾を振り、耳をピョコピョコさせながら言った。


「おっと。その前に。はい。これ。首からかけたまえ」

 サラはそう言うとネックレスのようなものを渡してきた。


「これは確か……?」

 俺は昨日の記憶を辿る。ああ、なんかアイラが付けていたやつか……。


「言の葉の珠、と言ってね。詳しい説明はまた今度にして手っ取り早く言うと言葉を理解出来るアイテムってやつだよ。正直君の言葉は聞きとりづらい。まるで言葉を覚えたての子供と話してるかのようで不快だ」

 子供の姿してるサラに言われるとは。しかも不快とまで……。

 一ヶ月でそれなりに話せるようになったと思っていただけに少しショックを受ける。しかし、そのネックレスをつけると本当に言葉がまるで日本語かのように聞き取れ、ショックなど頭から吹き飛んだ。


「すげえ……本当だ」

 夢のような発明じゃないか。それなら俺が言葉勉強した意味って……。


「よろしい。では講義を始めるぞ。まずはじめに。魔法では自然の五つの魔素を利用します。何かわかるかね? アキヤマくん?」

 俺の反応も半ばにサラは尋ねてきた。


「えー? なんか中2ぐらいの時に流行ってたゲームでなんかあったな。火、水、土、雷、風とかか?」

 俺が答えると、正解だったのかサラは驚いたような顔をした。


「正解だ。五つの魔素と魔力を使って魔法は効力を発揮する。それではどのように魔力と魔素を魔法に変える?」


 そんなの聞いたこともない。

「ああ? 知らな――」


「はい!!! 魔法陣!! です!!!」

 アイラは手を上げて俺が答え終わるのを待たずにそう割り込んで答えた。よほど興奮しているみたいだ。


「そう。魔法陣によって魔素と魔力が変換されて魔法となる。これは覚えておけー」


 テストに出ますよーってか。でも説明されても意味がわからん。


「あのーせんせー。言葉だけじゃワカリマセーン」

 学校でよくいるヤジを飛ばす生徒のように茶々を入れてみると、アイラがすごい形相でこちらを見てきた。いや、ちょっとふざけただけじゃん。


「ふむ。それももっともだ。少し実演しよう」

 サラはそう言うと机の引き出しから紙を一枚取り出すとサラサラと何かを書き出した。あ。……ダジャレじゃないよ。


「なんだ?」

 俺が思わず疑問を口にすると、サラは間髪入れず答えた。


「何って。魔法陣さ。ちょっとついてきな」

 サラが紙に幾何学的な模様と文字を書き終えると、その紙を持って外に出た。俺とアイラもそれに続いて外に出る。外に出るとサラはその紙を手に持ち、叫んだ。

「ラン!!」

 サラが声を発すると同時に紙の模様が光り、サラの手から雷がほとばしり、木が一本丸焦げになった。


「な……」

 俺は驚きすぎてそれ以上声が出なかった。アイラの魔法を見た時も驚いたが、炎ならマジックの要領でなんとかなるんじゃないかと心の隅で思っていた。しかしサラの魔法は規模が違う。魔法というものの存在を信じるに足る実演だった。


「さすがお師匠様なのです!」

 アイラはサラに近づくと、ぴょんぴょん跳ねて興奮している様子だ。


「今のが、魔法か?」


「ああ。見ての通り、すごいだろ?」


「すごいなんてもんじゃない。……超すごい」


「もっと褒めろ褒めろ〜」

 サラがそう言って俺の前に立ち、にっこりと笑うと、その幼い姿につられて思わず頭を撫でてしまう。


「すごいすごい」

 撫でた後にまたぶっ飛ばされるかと後悔したが、そんなことはなかった。と言うより反応はむしろ良かった。


「もっと撫でていいぞ?」

 サラは頬を少し赤く染めてそう言いながら俺のことを見上げたが、アイラは隣から目からビームを放つ勢いで睨みつけてくるので、それぐらいにしておいた。


 サラもアイラのその視線に気づいたのか咳をして佇まいを直した。

「それでだな。諸君。今見せたのが魔法陣を使った魔法。しかし魔法にはもう一つ使い方がある」


「それってもしかしてアイラが俺を助けるときに使ったやつか?」

 アイラが俺を助けた時、魔法陣らしきものは見えなかった。


「そうなのです。あの魔法は私の体内にインクルードされているのです」


 またなんか単語が出てきた。


「その通り。アイラくんはすでに魔法陣を体内に蓄えているのだよ。それがインクルード。インクルードした魔法陣の魔法は魔法名の詠唱だけで実行できる」

 なんかちょいちょいプログラミングみたいな単語が出てくるな。しかも、run、includeって英語じゃないか。どうなってるんだ? ここは異世界じゃないのか? ラノベとかでよくあるご都合主義ってやつなのか?


「聞いているかい? アキヤマくん」


「あ、ああ。すまん。聞いてるよ」


「ふむ。では続けるとしよう」


「魔法の使い方はその二通りに加えて実はもう一つあるんだが、これは君たちにはあまり関係のない話だ。聞き流してくれて構わないよ」

 サラはもったいぶって言った。


「あとの一つは直接詠唱。魔法陣に書き込む命令式を直接詠唱することによっても魔法は使える。まぁでもこれを出来る人間はこの世界に5人といるかどうかってところだ。ほぼ君たちには関係ない」

 アイラはふんふんと鼻息を荒くして説明に聞き入っている。


「それで? その魔法陣に書いたり詠唱したりする命令式をあんたが教えてくれるのか?」

 そう聞くとサラは高らかに笑った。


「ははははは、君は面白いことを言うな」


 何が面白いのか全くわからないが。


「そうなのです。ふざけているのです?」


 アイラも追随して責めてくる。


「ふざけてなんかないけどサ……」

 少女と幼女に責められると思ったより悲しいものだ。


「ふむ。私が教えるのは魔力の込め方と魔法の使い方だけだよ。第一、魔女から魔法を教わるのは三大禁忌と言われているほど重罪なんだよ?」

 サラの口から告げられる驚きの事実。


「んなぁっ!!?? じゃあやばいじゃん!! 俺もアイラも重罪人じゃん!! この世界に来ていきなり俺大ピンチじゃん!!!」

 その言葉を聞くとサラは瞼をピクッと動かした。しかし何事もなかったかのように言う。


「君が何を言っているのかはわからないが、とりあえず落ち着きたまえ。魔女から魔法の本質を教わりさえしなければ別になんてことはないんだよ。だから私は君たちに魔法の【使い方】を教えるのさ」


「何それ反則ギリギリみたいなの……」


 なんか脱法なんちゃらみたいなのを思い出したよ。もはや屁理屈のように思えるのは果たして俺の気のせいなのだろうか。


「本当にそれなら問題ないのです。その禁忌自体には。何より協会公認の魔法陣を使っていれば問題ないのです」

 アイラが口を挟んできた。


「その通り。問題ないんだよ。うん。では、早速使ってみよっか」

 サラは軽いノリで言ったが、そんなこと言われてもという感じだ。

「魔法陣は、アイラ。持ってきたかい?」


「はい。お師匠様」

 サラに指示されて、アイラは魔法陣を3枚取り出した。サラはそれを一枚受け取ると、再び魔法陣を構えた。


「ラン!」

 サラがそう唱えると魔法陣が光り、手から炎が放たれる。轟々と燃える炎塵は木に直撃し、木には大きな焦げ目がついた。なかなかの威力だ。人なら焼け死ぬぐらいの威力がある。


「……ふぅ。ダメだなこれも」


 俺から見たら凄い威力だがサラは不満げだ。


「十分凄かったけど……」

 俺は正直な感想を言った。


「いや全然ダメ。この森焼き尽くすぐらいの魔力込めたつもりだもん」

 サラは幼い姿で恐ろしいことを言った。


「さすがです! お師匠様!!」

 アイラはアイラで目をキラキラさせてサラを見ているし。


「魔法教会のお墨付きの魔法陣はどれも込めた魔力に効果が似合わないんだよ」

 サラはまるでゴミを見るような目で魔法陣の書いてあった紙くずを見下ろした。先ほどまで綺麗だった紙は焦げ焦げになっている。

「ロスが大きすぎるのだよ。この魔法陣は。だから強大すぎる魔力が注がれると魔法陣自体も負荷に耐えきれずに崩壊してしまう。全く何でこんなゴミ魔法陣しか認めてないのか。……まぁ次はアイラくんやってみたまえ」


 散々な言い様だ。


「それでは……ラン!!」

 アイラがそう唱えると、今度はサラの放った炎塵よりも小さめの火の玉が木に向かって飛んで行った。木に当たると焦げ目を少し残して火の玉は消滅した。


「まぁまぁだな」とサラがそう言うとアイラは飛び跳ねて喜んだ。


「んじゃ次、アキヤマくん? やってみたまえ」

 サラは無茶を言う。


「やれっていわれても……」

 全くわからない。


「コツは魔法陣に向かってクソをひねり出す感じだ!!」

 幼女の口からとんでもないセリフが出た。だいたいなんだよクソを手からひねり出す??

 ……クソわかりやすいな。


「ラン!!!」

 そう言いながら手からクソを(以下略)感じで力を込める。すると魔法陣が光り出した。そしてアイラの時と比べて光りだしてから時間がかかったものの。


 ぽふ


 手からライターの火ぐらいの大きさの火の玉が出てすぐに消えた。


「え」


 使えちゃったよ。使えちゃったけども……。サラの方を見ると驚いたような顔をしていたがすぐにそれは笑みに変わった。


「ぷ、ぷははははは!! 面白いなアキヤマくん!!」


「わ、笑ったら可哀想ですよ師匠」

 サラは爆笑、アイラもアイラで口に手を当て笑うのをこらえている。


「どうやらアキヤマくんのケツの穴は随分と小さいようだ……ぷっ、くく」

 年上のサラに向かって幼女がそんなこと言っちゃいけませーん。とは言えず。屈辱を耐える。


「おほん。それにしても、アキヤマくんの魔力の総量はアイラくんに負けず劣らず多いように見受けられるんだけどね。まさかケツの……ぷはは」

 サラは堪えられずに途中で笑い出した。もう好きにしてくれ。アイラはアイラで半笑いでこちらを生暖かく見守ってるし……。

「それにしてもこれじゃ他の魔法陣についてもダメかもしれないね。まぁ努力次第で多少は強化できるけども。発動してあれじゃ話にならない。そうだね……そうだ! ちょっと今日はここに泊まって行きな。アキヤマくん。そんで今日の魔法講座はこれまで。アイラは一人で帰れるね?」


 それを聞いてアイラは目を丸くした。

「お師匠様? それはどういう風の吹き回しで?」


「いやちょっとアキヤマくんに興味が湧いてね」

 サラはそう言うと舌なめずりした。何? 俺食べられちゃうの?


「お師匠様がそう言うなら……私は今日は帰るのです……」

 自分より正体不明の男を優先されたのが気にくわないのかアイラはあからさまにしょんぼりしていた。


「なんか、悪いな」とそんなアイラに声をかけると、「別にいいのです。どうせ最初だけなのです。私が魔法を始めて使った時もお師匠様は驚いてくれたのです」とめちゃくちゃムキになっていた。


 アイラはしっかりしているけどまだまだ子供なのだと実感する。急に終わりを告げることとなったサラ先生の魔法講座。本当は初めて触れる魔法という文化をもっと学びたい気分だったのだが。


 そして、俺はサラの家に残り、アイラは一人寂しく街の方に帰って行った。思えばまた女の子と同じ屋根の下。役得だ!と言われるかもしれないが、忘れてはいけなかったのだ。その女の子が自分よりはるかに長く生き、自分よりはるかに強い女の子だということを。


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