ジャックという男③ ―side Aila―
酒場でそんなやりとりをしているとはつゆ知らず、猫耳の少女は倉庫の部屋で一人、通信の準備をしていた。横の部屋で眠る男の妨げにならないよう、あまり物音を立てないようにしながら。アイラが魔力を投じると暗い部屋で通信の光だけが浮かび上がる。
「……か……聞こえるか……」
かすれた音声が通信機から発せられる。
「聞こえているのです。お師匠様」
アイラは耳と尻尾をぴんと立てた。
「……おお、アイラか。久しぶりだな。私のことなど忘れてしまったのかと思ったぞ」
「そんなわけないのです……ただ色々とありましたから、通信する暇がなかったのです」
サラの意地悪に対しアイラは真面目に答える。
「ふふ、なぁに、気にするな。アイラくん。別に通信の間が開こうが、問題ないよ。本当は。それで? 何があった? 話してくれたまえ」
アイラはRMIの倉庫の片付けをして、魔法教会支部に潜入して、アキヤマが化け物鳥を倒し、リゼを救い、ジャックと言う男と出会ったことを告げる。
「ほほう。面白いことが色々とあったようだなぁ……全く。私も行きたかった……」
「無理を言わないでください! お師匠様は家を離れられないのですよ!? 心臓の代わりを果たしている魔力は、洞窟から離れれば弱まっていくんですよね!?」
またもサラのわがままにアイラは真面目に答えた。
「わかってる! わかってるさ……行きたいと言うぐらいいいだろう? 真面目だなぁ。私とて旅なんてものはここ100年はしてないんだ。面白そうな話を聞くと行きたいと思ってしまうんだよ。叶わないんだがね」
サラは一転、寂しそうに言った。
「お師匠様……」
「おっと。湿っぽい話になってしまいそうだったね。あ、アキヤマくんはどうしているんだい?」
「ぐっすり眠っているのです」
「そうか。一人で合成魔物を倒したんだ。疲れているのも無理はないだろうさ。にしても一人で倒すなんて成長したんだな。アキヤマくんは」
「いえ……また無理して一人で死にかけていたのです。成長したと言っていいのかどうか……。やっぱり私がいないとダメなのです。……もっと頼ってもらいたいのです」
アイラは寂しげな表情で、隣で寝ている男を眺めた。
「はは、それはアキヤマくんに直接言ってやりなよ」
「……そうですね。起きたら言ってやることにするのです」
「そうしなよ……。それにしても私も同行してあげられれば危険な目に合わせずに済んだのに。すまないね」
「それは言わないでください。しょうがないことなのです」
「優しいな、アイラは」
「当然のことを言った……だけらのです」
アイラはすでに船を漕ぎ始めている。言葉にもそれが表れ始めていた。
「そっか。それよりアイラは寝なくても大丈夫なのかい? 戦いにはあまり参加してないとはいえ雨の中山を上り下りしたんだ。疲れたろう」
サラはすかさずアイラが眠そうにしていることに気づき、助け船を出してやった。
「確かに少し眠いのです」
アイラはウトウトして頭を揺らす。
「ふふ、ゆっくりおやすみ。では切るよ。次の通信はまた困った時にでもしてくれたらいいさ」
その声を最後に通信はプツリと途絶え、アイラはすぐに自分の布団に入った。そして猫耳の少女は丸くなって眠る。まるで本当の猫のように。そして部屋は完全に静寂に包まれ、時は過ぎていく……。




