ジャックという男② ―side Jack―
男と猫耳少女が立ち去った酒場で、ジャックは一人まったりと酒を飲んでいた。
「あんたも人が悪いねぇ、ジャックさん」
店の主人はジャックに問いかける。
「何のことだ?」
「別に私にしらを切る必要もないでしょう。私だって紅蓮の牙の一員なんだから」
店の主人はそう言うと、空になったジャックのグラスを酒で満たした。
「それもそうだな。でも俺は何も人が悪いと言われるようなことはしちゃいないだろう?」
ジャックは酒で満たされたグラスを口に運びながら言った。
「そう言うとこが人が悪いって言ってるんでしょうに……紅蓮の牙を慈善事業団体みたいに説明してあの子らを仲間に引き入れようなんてするののどこが人がいいって言うんだい」
「がはは。別に間違っちゃおらんだろ。困った人を助けるのも仕事のうちだ」
「目的のためなら、どんな汚いことにだって手を染めるのに?」
ジャックは笑みを消した。
「世界を逆転させるためには、犠牲も必要になる」
「人助けはあんたの趣味みたいなもんだろ? もとは魔法教会の人間だったあんたが魔法教会を倒そうとする理由はどこにある?」
店の主人はグラスを棚に片付けながら聞いた。
「がっはっは! 今はそんなこたぁいいじゃないか! 飲もう飲もう! 今の俺は大剣一本で戦う、ただのジャックだからな」
「まぁ俺たちはあんたに惹かれて紅蓮の牙にはいったんだ。あんたの目的が何であれ、地獄の果てまで付き合ってやるさ。ジャックさん」
店主は棚の方を向きながら反対側のジャックに言った。
「がはは。そうかそうか。ありがとうよ。マスター。マスターも一杯どうだ?」
「そうだね。んじゃ一杯だけ」
店の主人はグラスを取り出し酒を注ぐと、ジャックと乾杯を交わした。
「そういや化け物鳥がどうだのあの子達に言ってしまってよかったのかい?」
店の主人はジャックに問いかける。
「ああ。それぐらい、いいだろうさ。ちょっとは俺を疑うようにしてあげたかったってのもあるしな。俺、人がいいだろう?がはは」
ジャックは豪快に笑う。
「自分で自分に人がいいなんて言う奴にろくな奴はいないだろうに……。ま、それもジャックさんらしいがな」
「まぁな。それであの二人なんだが、どう思う?」
ジャックは真剣な顔をして店の主人に問いかけた。
「どう思うも何も、いい子たちじゃないか。貧民街の子供を助けるなんて」
「確かにいい奴らだが、危うくもある。魔法教会に潰されないことを祈ってるよ」
「あんたが祈るなんて言葉を使うなんてな。そんで?」
店の主人はジャックの問いに対する自分の答えが正しくないことを知っていた。
「わかってるなら答えてくれりゃいいのに。どう思うってのは俺たちの脅威になりうるかって話だよ」
「脅威、ねぇ」と主人は呟いた。「確かにあの山の化け物鳥を倒したって言うのはすごいことだよ。しかも調査員の話によるとあのアキヤマってのが一人で倒したらしいじゃないか。何やらものすごい魔法を使ったとか。でも魔法教会をよく思っていないのは同じだろう。別に味方になって心強いことはあっても敵になることはないんじゃないのかい?」
「そうだといいんだがね」
ジャックは酒の入ったグラスを傾けながら、うつむきがちに言った。
「脅威になるかもしれないからって、あんな強引に組織に入れようとしたのかい?」
店の主人はグラスをテーブルに置くと、呆れた顔で言った。
「まぁな」
「確かにあれを一人で倒せるとなれば即戦力だがねぇ。でもあれぐらいできる奴なら紅蓮の牙にいくらでもいるだろう?」
「それはそうなんだが……俺はあの目が気になってな」
「目?」
店の主人はキョトンとした表情で聞いた。
「ああ。あの目。まっすぐで折れない心を持った目だ。あいつは強くなるだろう。どこまでも。かつての俺のようにな。だからこそ早めに仲間に入れておきたかったんだが……」
ジャックは珍しくため息をついた。
「いいじゃないか。協力関係にはなったんだから。出会ったその日に入ってもらえるなんて欲張りすぎじゃないのかい? 頼ってもらえば貸しもできる。とりあえずはそれで十分じゃないのかい?」
そう店の主人はジャックの肩を叩いて励ました。
「それもそうだな。よし。今晩は飲もうじゃないか!!」
元気を取り戻したジャックは再びがははと笑い、店の主人とともに酒を楽しんだ。二人はそれから夜遅くまで飲み明かすことになった。




