fighting in the rain②
化け物鳥はその大きなまなこでこちらをまっすぐ見つめてくる。……そして。
「ギャォォォォォォォ!!!」
馬鹿でかい咆哮が鳴り響いた。音の大きさと迫力に思わず身を竦ませてしまう。その隙を逃さず、そいつは俺に襲いかかって来た。翼を翻し、俺の方に飛んで来て、その鉤爪で俺を切り裂かんと迫って来る。一瞬ひるんだせいで、その爪にかすってしまった。
「いてぇ!!」
かすっただけなのに肩の肉が少しえぐられてしまった。血が雨と混ざり、地面にこぼれ落ちる。化け物鳥の後ろでアイラがクフイカ草を必死に集めているのが見える。その光景が俺を冷静にしてくれた。
なぁに、ちょっとの間逃げ回るだけだ。なんとかなるさ。そう自分を鼓舞する。そいつは再び俺との距離をその大きな翼を使って縮めてきた。
「そう何回も同じ手に乗るかよっ!!」
必死に横に飛び、化け物鳥の攻撃をかわす。地面はぬかるんでいるので当然俺は泥だらけになる。しかしそんなことに構っている暇はない。アイラの方を見ると十分な量のクフイカ草を取り終えたようだった。
「先に逃げろ!! アイラ!! 俺も後から追う!!」
「ダメです!!」
「わがまま言うな!!! リゼを助けるんだろ!!」
俺とアイラの会話を化け物鳥が待ってくれるはずもなく、俺に向かって再び飛んでくるそいつは今度は直線ではなくジグザグに近づきながら俺を狙ってくる。鳥のくせに考えたな。これじゃ横に飛んだとしても捕まってしまうだろう。しかし、ジグザグに動くなら一瞬止まる瞬間があるよな? 俺は一瞬で思考をまとめながら、アイラに言う。
「リゼを頼んだ!!」
こう言えばアイラは動かざるをえないと思った。だからずるくてもこれでいい。女の子を危険な目に合わせるなんて男じゃねぇだろ。
そう自分を奮いたたせ、化け物鳥が右に動き、止まった一瞬を狙い、スライディングを決める。化け物鳥はちょうど移動の節目に動かれ、思うように俺を攻撃できず、スライディングは気持ちよく決まる。ぬかるんだ地面はよく滑り、思った以上に化け物鳥との距離を開けることができた。
「よし、今ならいける!! ラン!!」
炎と油の魔法陣を実行する。……しかし。雨で油にうまく炎が燃え移らない。
「あ……雨じゃん!!!!」
化け物鳥は魔法が不発に終わった隙を狙い、翼を使い宙を舞い突っ込んでくる。鉤爪が目の前に迫る。今世紀最大のバカなミスで命を落とすのか……。よりによって今日こんなに雨降ってるなんてな……。そう思った時、こちらの世界に来てからの出来事が頭に浮かんだ。
走馬灯、何回見るんだよ……
いろんなことがあった。アイラに出会って、助けてもらって。サラに魔法を教えてもらって。……サラ? ……サラが見せてくれた魔法ってなんだったっけ……
そうだ……雷。
俺は空を見上げた。
「ラン!!」
とっさにポケットに入れていた雷の基本魔法を実行する。もちろん威力はほとんど無いに等しい。化け物鳥に向かって撃っても目の前まできた鉤爪は止められない。しかし、自分に向かって打つなら話は別だ。
自殺? ・・・違う。
生き残るための自傷だ。
魔法教会の開発した雷の基本魔法は魔力消費が無駄に大きく、俺には使えない。そこで俺はとりあえず、その、無駄な魔力消費をなくし、単純な魔素変換だけを行う魔法陣を作っておいた。それがさっき自分に向かって放ったものだ。魔法陣を掴み腕を自分の方に向け実行した。そして俺は……跳んだ。雷は当然俺の方に向かい、俺は感電する。
俺はさっきまで逃げ回っていたおかげで体じゅう泥だらけ。泥というのは電気を通すと聞いたことがあった。自分が感電し、中に浮くことで、攻撃する化け物鳥の鉤爪が俺に触れた瞬間。
……化け物鳥も感電した。
もちろんそれは大したダメージにはならない。でもそれは俺も同じ。その上、化け物鳥は何が起きたかわからずひるみ、攻撃を止めることになった。一瞬の機転にしてはよくできたと自分でも思う。
しかし攻撃を止められたとはいえ自分も感電しているわけだから、すぐに逃げられるわけでは無い。さてどうするかね。とりあえず動けるようになったので、化け物鳥から離れようとするが、あいにくそんな簡単に逃げさせてもらえるような相手では無いようで、すぐに向こうも臨戦態勢に戻る。
「全く逃げるだけでこんなにしんどいとはね」
ただでさえ雨で疲れているところにこの戦闘だ。勘弁してくれと思う。息も切れて、体力は残り少ない。しかしいくら悲観しようと、状況は変わらない。
どうにかしてこの状況を打破しようと思考を巡らせる。この雨の中、炎の魔法は使えないだろう。土の魔法、風の魔法。ダメだ利用できる気がしない。やはり雷の魔法しかない。
この雨の中……何ができる?
俺は空を見上げた。暗雲が立ち込め、雨は降り注いでいる。ゴロゴロと空は機嫌が悪そうに音を鳴らしている。これは雷が落ちそうな天候になって来た。
「ゴロゴロ……?」
俺は化け物鳥から逃げ続けながら必死に考える。逃げても逃げても丘からは出さないように工夫して追いかけてくるからこいつは厄介だ。知能が高いのは間違いないだろう。この大きさなのだ。脳まででかいのかもしれない。それならこれだけ狡猾なのも納得する。
「雷……そうか雷を使うんだ!!」
俺は頭の中で思いついた命令文を紙に書き起こす。幸い化け物鳥は一気に攻め込んだりはしてこない。どうやら追いかけ回して俺が疲れ果てたところを仕留めるつもりらしい。
願ったり叶ったりだ。化け物め。一発逆転を起こしてやると意気込んで命令文を書く。
魔法教会の雷の基本魔法の命令文はこうだ。
1.魔力をレベル10以上蓄積 命令2へ
2.レベル10を超えた分の魔力を雷の魔素に変換 命令3へ
3.魔素を腕の前方に放出 命令終了
レベルというのは魔力の強さのことで、俺はせいぜいレベル10ほどしか一気に出せないので、基本魔法ですらしょぼい威力になってしまう。魔法教会の魔法陣はレベル10分の魔力を丸々無駄にしているのだ。
俺が一発逆転の可能性を込めて作る魔法陣はこうだ。
1.魔力をレベル10以上蓄積 命令文2へ
2.貯めた魔力を雷の魔素に変換 命令文3へ
3.魔素を陣から垂直線上に細く伸ばす 魔力の供給がなくなると命令終了
放出しダメージを与えるのではなく、薄く伸ばすのだ。必死に魔法陣を書き上げ、発動のタイミングを待つ。化け物鳥が近づいてくるのを待ち構え、攻撃を必死の覚悟でかわし、再び化け物鳥は宙に舞う。自分のちょうど真上に化け物鳥が来るように動いた。
そして……チャンスが到来した。




