fighting in the rain①
翌日、緊張からかアイラより早く目を覚ました俺は、何やらいつもより外の様子が異なっていることに気づいた。まずひたすらザーザーと音が聞こえてくる。
これなんか聞き覚えがあるぞ。前の世界でも良く聞いていた音……。
そうだ……。これは雨の音……。
外に出てみると見事に嵐になっていることに気がついた。しかし、リゼの病気は一刻を争うだろう。雨だからと行って翌日、というわけにもいかない。アイラを起こし、出発の準備をする。きっちりとレインコートを着込み、リュックに山登りに必要なものを詰め、出発する。アイラはレインコートがよく似合っており、猫耳は隠れてしまっているが、相応な娘っぽく子供っぽい感じで水玉模様が可愛らしかった。
「これ子供っぽくて嫌なのです……」
「いいじゃん。似合ってるよ」
「……」
褒めても不機嫌そうなままだ。レインコートが気に入らないのもあるが、そもそも雨が嫌いなようだ。まぁ猫耳は濡れたらめんどくさそうだしな。出発の前に、RMIにより、水ににじまない特殊なインクと濡れても使える魔法紙を買い、リュックに入れておいた。魔法を思いついた時にメモできるようにと念のため入れておいただけだが。
アマネを西からでると、遠くの方に確かに高い山があるのがわかった。あの頂上まで行くのかと思うとそれだけで気が滅入りそうだった。その上、この雨ときた。二人はテンションが低いまま、少女を救うためならばと無心で歩き続けた。地面はぬかるみ、雨は容赦なく降り注いでくる。普段山を登るよりはるかに多くの体力を使っている気がする。歩いて歩いて歩き続けて。
山を登る。ぬかるんだ道は鬱陶しかったが、雨のおかげで獣系の魔物は姿を見せなかった。毛が生えている魔物は雨に濡れるのが気持ち悪いから現れないのだろうか……。
不自然なほど静まりかえる山に雨の音と、自分たちの足音だけが鳴り響く。雨の代わりに魔物が出てこないのは幸いだったが、ぬかるむ地面のせいで随分と登るのに時間がかかる。雨は止む気配を見せずザーザーと同じ音を立て続けている。頂上に着くまで、雨の不快さとぬかるみに足を取られる疲労とで俺もアイラもずっと無口のままだった。そして頂上が目に入る位置に来た時、久しぶりに口を開く。
「あ、あれ、頂上じゃないのか?」
頂上は広い丘のような形をしていた。角度は付いていなく、一番高い部分には草が生い茂っている。
「そうみたいなのです」
「あれがクフイカ草か……? 早く取りに行こう!」
「待つのです!!」
俺が焦って取りに行こうとするとアイラは強い口調で制止した。
「あれを見るのです」
そういうとアイラは空を指差す。……が、雨と暗い雨雲のせいか、よく見えない。
「一体何があるっていうんだ……?」
よく目を凝らしてみると大きな何かが動いているのが見えた。
「うわっ!! なんだあれ?」
俺は思わず大きな声を出してしまう。
「しっ静かに! 気づかれるのです!!」
アイラはすかさず俺に注意するが、雨のおかげか俺たちのことには気づいていないようだ。
「どうやってあれを取りに行くかだよな」
頂上の丘のようになっている地形には木が一本も生えていない。今は木が身を隠してくれているが、クフイカ草を取りに行けば見つかってしまうのは明らかだった。
「そうなのです……戦いは避けられないかもしれないのです」
「いや……俺に考えがある」
「……ろくな考えじゃなさそうですが、一応聞いておきます」
「俺が囮になる。その隙にアイラはクフイカ草を取りに行け」
単純な囮作戦。考えがあるなどとよく言ったものだと自分でツッコミを入れる。
「な、そんなバカな作戦ダメなのです。自分を粗末に扱うのはやめてください」
「そんなつもりはねぇよ。でもこの状況で他に方法が思いつかないってだけだ。それならアイラは何か作戦があるのか?」
少し意地悪を言ってしまった。アイラは答える言葉を持たなかったらしく、黙りこくってしまった。
「ごめん。でも、ちゃんと無事で帰ってみせるから」
「わかったのです。約束ですよ」
大丈夫。魔法があるじゃないか。必殺の魔法でなんなら倒してしまうかもしれないぞ?そんな楽観的なことを思いながら隠れていた木の陰から飛び出す。大きな奴は、すぐにこちらに気づいたようで天高くから舞い降りて来た。
バサァと雨の中に翼をはためかせる音が鳴る。
巨体。
「でか……それになんだこいつ……」
そいつは遠くにいてわからなかったが、近くに来たらすごい大きさだとわかる。俺の3倍以上はあるだろう。しかもその容姿はただの鳥ではない。翼こそあるが、体は変形し、尻尾にはトカゲのような尻尾が生えている。胴体は獣のような毛で覆われている。
俺は誰にいうでもなく、口にする。
「戦闘、開始だ」




