街の調査④終
翌朝、起きるとアイラはすでに起きていて、朝食を用意してくれていた。いつ買ったのか、食材もちゃんと用意していたらしい。それを見て「なんか、新妻みたい」そんなバカなことを口走ってしまった。それがアイラに聞こえてしまったようで、アイラは照れて怒ってしまった。
「な、な、何をバカなことを言っているのですかーーー!!! 早くご飯を食べて調査に行くのです!!!」
顔が真っ赤になり、猫耳がピクピクと動いている。
「あ、ああ。そうだよな、ごめんごめん」
「本当なのです! へんなこと言わないで欲しいのです」
猫耳が激しく動いたまま顔を赤くして怒る姿はまさに可愛いの化身である。
「そうだよな、ああ美味しそう。いただきまーすっと」
その異常な照れ方にこっちまで照れてきてしまって、ついついごまかしてしまう。急いで朝食を食べ、調査に出かけることにした。二人して照れてしまったのでへんな空気のまま、街に出かけることになってしまった。
反省しなくちゃいけないと自分を諌める。16歳の女の子に向かって新妻って……俺大丈夫か。そんなことを思いながら街を歩いて行く。さっきの騒動のせいでアイラとの会話は皆無だ。
目的地はとりあえず魔法道具の店だ。アイラも一度行っておきたいとのことだったので、二人でもう一度行くことになったのだ。歩いて行くと市場通りに差し掛かった。
「昨日は忙しくてあんまり市場とか回れなかったんじゃないのか?」
あれから初めてアイラに話しかける。
「ああ。そういえば、そうなのです」
「今日はそんなに急ぐことないんだし、ちょっとみて回らないか?」
ずっと調査調査というのも面白みがないだろうとアイラに提案してみる。
「んー。それもそうなのです。ちょっとだけみて回りましょうか」
否定されるかと思ったが、予想外にアイラの笑顔が見れた。それに驚いて少し言葉に詰まっていると、アイラが訝しげな目で見てきた。
「どうしたのです?」
「いや、断られるかと思ってたから」
「別に私だってそこまで真面目じゃないのです。見て回りましょうか」
ニコッと笑うアイラ。猫耳がピコッと動くのが可愛らしい。
「ああ。そうしよう!」
そう意気込んで市場を見て歩く。市場には様々な果物や海産物が並んでいる。
「アマネは海産物に果物に色々と揃ってるんだな」
「そうですね、アマネは海にも山にも近いですからね。美味しいものもたくさんあります」
試しに赤い果物を買ってみることにする。
「おっちゃんこれ二つください」
果物屋のおじさんに話しかけると、あいよと返事をして赤い果物を二つ手渡してくれた。試しにかじってみると、甘くて酸っぱい味がする。
「あ、これうまいな」
「ゴンリですね」
「え? なんだって?」
「だからゴンリ」
「何それ?」
「だから! その果物の名前ですよ!」
あまりに察しが悪いのでアイラを少し怒らせてしまったようだった。
「ああ! そういうことね。ゴンリって……なんか引っかかるな。この見た目といい……」
「どういうことです?」
「いや。なんでもない……」
「なんですかそれ?気になるのです!」
「いや、な? なんか似た果物を見たことあるし名前も似てるなーって思ったの」
「似た果物ですか? ではアキヤマさんの故郷はゴンリの近種が繁殖している地域だったのですね。アキヤマさんの故郷のヒントが一つ増えたのです!」
アイラは全く理解していない。よって説明するのは諦めて、話をずらすことにする。
「そうだな、あ、あれはなんだ?」
屋台で生地を目の前で焼いて作っているものを指差し、言った。
「あれは、パルムですね。中に具が入っているのです。とっても美味しいのですよ?」
アイラは話をずらされたことに気づかず、その流れに乗ってくれた。その屋台でも二つパルムとやらを買い、歩きながら食べる。中には海産物と野菜とが絶妙にマッチした具が入っており、噛んだ瞬間に旨味の凝縮された汁が溢れ出す。熱々の生地が具を包み込むことによって、旨味を閉じ込めたのだろう。
「これ! うまい!」
思わず大きな声が出る。こっちにきてから食べたものの中で一番美味しいかもしれない。
「でしょ? パルムは私も大好物なのです!」
アイラはそういうと自分もパルムを頬張り、味わうとともに笑顔をこぼす。
「立ち食いなんて行儀悪かったかな? 座って食べるか?」
「ちょっとぐらい、いいのです」
今度は悪戯な笑みを浮かべ、そう言うアイラ。なんだか今日はいろんな表情のアイラを見ている気がする。
「そっか、んじゃ歩きながらでいっか」
そのままパルムを食べながら市場通りを歩いて行く。パルムを食べ終え、市場通りを過ぎて行くと段々街並みが変わって高級な店などが増えて行く。街の中心に近づいている証拠だ。目的地の魔法道具の店はもうすぐだった。
「ここらへんの店はたかそうな店ばっかだよな」
周りを見渡すと、一見では入りにくいようなお店ばかりが並んでいる。
「そうなのです……街の中心は富裕層が主に住んでいるので必然的に高級ブランドの店が増えるのは仕方のないことなのです」
「魔法教会の魔法使いは金結構持ってんのかな?」
「おそらくは。ここら辺は魔法教会の魔道士もよく見かけますから、常連なのかと思います。」
こう言ったお店に常連ってことは相当金持ってやがる。まぁ世界の制度を作っているぐらいだからそれぐらいの特権は持っていてもおかしくはないが。しかし、魔法が使えないものは貧民街で貧しい暮らしをしている一方で、魔法教会の魔道士は私腹を肥やしている。
なんか前の世界と何にも変わらない気がする。上の人間は下の人間のことなんか何にも考えていない。それどころか、下の人間はどうなってもいいとすら思っていいる人間も多い。この世界でもそれは変わらないのであろう。
「アキヤマさん? どうかしたのです? 随分怖い顔していたのです。そんなにお金もちがにくいんですか〜?」
「違うよ、なんでもない」
「そうですか」
アイラは深くは聞いてこなかった。こう言う距離感はきっちり取れるのもアイラのいいところかもしれない。富裕層の街の雰囲気に浮いていると少し感じながらも、歩き続け、とうとう魔法道具屋の店に着く。
「ついたな」
「RMIですか」
Royal Magic Items。略してRMIか。
「有名なのか?」
「当たり前です。全国展開の魔法道具店なのですよ? 昨日は知らなくて来たんですか?」
どうやら常識らしい。この世界の常識というものも全く多くて困る。
「ああ、悪い」
「別に謝る必要はないのですが……」
「それで? RMIってのは魔法教会お墨付きの魔法道具店なんだろ?」
「ああ、それぐらいは知っているのですね。そうです。唯一の魔法教会公認。品物の質は良質ですが、結構値は張るのです」
そういえば薬草がえげつない値段してたしな。
「この街にはここしか魔法道具の店はないようだけど……」
「魔法教会のお膝元にRMIがあったら他に魔法道具の店はやっていけないのですよ。当然魔法教会の魔道士はRMIを使うことになりますし、ここに魔法教会の魔道士以外に魔法使いがいるとは思えないのです。魔法が活発な街ならやっていけるとは思いますが」
需要と供給が割に合わなくなってしまうということか。
「まぁ店の前で長々と話し込んでても仕方ないし、とりあえず中に入るか。店主は昨日話したから話しやすいし」
「そうですね。店主と仲良くなれたのです?それが本当ならアキヤマさんにしてはお手柄なのです」
仲良く、というか秘密を知ってしまったわけなのだが。しかしそれは話すことはできないので、黙っておく。
「俺にしてはとか余計だから。入るぞ」
「ハイなのです」
そのやりとりを終えた俺は扉を開きRMIの店内に足を踏み入れた。




