街の調査②
魔法道具の店を出た俺は、魔法教会の支部があるという街の中心へを歩を進めた。そこはまるでお城みたい! と女子ならいうような建物だった。街と同じ煉瓦造りだったが、他の建物よりはるかに大きく、魔法教会の地位を誇示するかのごとくそびえ立っていた。入り口には魔法教会のローブを着た門番が立っていて、簡単には入れないようになっているようだった。
門番まであのローブ着てるとか。どんだけ魔法教会好きなんだよ。突っ立って魔法教会支部を見つめていて絡まれても嫌なので、とりあえずその場を後にする。今日はいきなり詳しく調べるのは無理そうだ。そう思い再び街の中心から離れていく。
宿と反対側に歩いていくと、だんだんと街の様子が庶民的になってきた。どうやらこの街の構造は、城下町のようになっているようだ。
魔法教会支部を中心として。支部のくせに権力持ちすぎでは? そう思いながらさらに歩いていくと、今度は、庶民的、というよりはだんだんと貧しいという表現が似合うような様子になってきた。活気がなく、店も閑散としている。歩く人は少なく、座り込んでいる人が多い。
これもこの街の現状というわけか。そんな中にも元気よく遊ぶ子供達がいた。自分たちでゴミを集めて作ったであろうボールを蹴って遊んでいる。それを眺めていると、一人の子供が蹴ったボールがこっちに転がってくる。
「おじちゃん、ボールとってー」
言ったのは茶髪で緑の目をしたみすぼらしい格好をした少女。
おじちゃんって……まだそんな歳じゃないのに。
ちょっとショックを受けつつ、ボールを蹴り返してやろうとする。
いや、ちょっとカッコつけてやろう。小中高とサッカーをしていたから、足技には覚えがある。地面と足を使ってボールを浮かせ、何回かリフティングをした後、少女の方にボールを蹴ってやる。ちょっとカッコつけてやっただけのつもりだったが、少年少女の反応は予想以上のものだった。
「すごーい!」
「おじちゃんうまーい!」
「もっとやってー」
次々と子供達が群がって来る。
「おじちゃんじゃないぞ、お兄さんだからな」
訂正するも子供達は誰も聞いていない。
「おじちゃん、どうやってやるのー?」
「教えてー」
おじちゃんと呼ばれることには諦めて、仕方なく子供達にリフティングの仕方を教える。というか魔法の発達したこの世界でも、こんな遊びはあったのかと今になって思う。
ボールを蹴り上げ、リフティングをするたびに子供達から歓声が上がる。年甲斐もなくそれで嬉しくなってしまい、ついつい遊びに興が入ってしまう。リフティングを終えると、今度は一緒に遊ぼうと誘われてしまい、ついついOKしてしまった。
褒められる、というのは誰からでも嬉しいものだと改めて思う。もし上司がちゃんとした人で、自分の成果に妥当な報酬と評価が与えられていたら、今頃こんなところに来ていなかったかもしれないなどと思ってしまう。
それからしばらく、子供達とボール蹴りに興じた。気がつくと、日が暮れかけている。
「やばい、帰らないと。お前らも帰らないと。送っていこうか?」
子供達だけでは危ないんじゃないかと思ったのだが。
「ダイジョーブ! ここらは僕たちの方が詳しいし」
「おじちゃんこそ早く帰った方がいいよ」
「またね! おじちゃん」
逆に心配されてしまった。子供達は各々俺を見送ってくれた。一緒に遊んだ二人の少年と一人の少女。童心に帰って遊ぶのは思いの外楽しく、またここに来ようと思った。
貧しい装いの街を急いで抜け、反対側の宿へ帰っていく。街の様子はやはり中心に近づくにつれ豪華になっていき、端の宿の方に近づくにつれて庶民的になっていった。しかし夕方になって、めっきり人の往来が少なくなっている。当たり前かもしれないが、少し早くないだろうか。
すると、スピーカーもないのに街にアナウンスが響いた。
「夜時間になりました。危険ですので庶民の皆々様は出歩くことのないよう」
随分と上から目線の放送だ。しかし危険とは一体?
より一層帰る足取りを早める。宿に着く頃にはすっかり日が沈んでしまっていた。
「すまん、遅くなった」
借りた部屋に帰ると、アイラが心配そうな顔をして待っていた。
「アキヤマさん! 心配したのです! 大丈夫でしたか?」
「ああ、問題はない」
「なんで遅くなったんですか? 今日はそこまで頑張らなくても良かったのです。何かあったのかと思って心配したのです」
心配してもらったのが申し訳ない。子供と遊んでいただけなんて、言えない。
「あ、ああ。街の反対側まで行ったら思いの外時間がかかってな」
「そうでしたか。安心したのです」
アイラは本気で心配していたらしく、ほっと胸を撫で下ろし、ピンと立っていた猫耳を下ろした。
「そんで、そっちの収穫は?」
「ええ。そうですね。その話をしなくては。この街はやはりというべきなのかわからないですが、魔法教会支部を中心とした街のようなのです」
「そのようだな」
アイラの言葉に頷く。
「アキヤマさんも気づきましたか」
「さすがにあんだけでかい建物が中心にあったら気づくわな」
ほんとはルシエラに言われて気づいたけど。
「確かになのです」
「んで、街の中心に豊かな層が集まり、端の方には貧民街が広がっているようだ」
「貧民街、ですか。私はそこまでは行ってないのです。その代わり魔法教会支部についての情報を少し集めてきたのです」
遊んでいた俺とは正反対にアイラはきちんと仕事をこなして来たようだ。やり手の猫娘だ。
「アマネは魔法教会本部から遠いため、魔法教会支部は本部からの監視の目が薄く、強い権力を持っているようなのです。そのため魔法教会支部の建物に入るのは簡単ではなく、調査も難しそうなのです……」
あ、ほとんどアイラに言われてしまった。報告できることないや。
「俺もだいたい同じようなことを聞いた。あと、魔法教会の魔道士を二人見たな」
「本当なのです!? どんな方達だったのです?」
役に立たない情報だと思っていたが、思っていたよりアイラの食いつきが良かった。目がキラキラしている。
「片方は金髪に赤い目をした強気な男で、もう片方は癖っ毛の黒髪に引っ込み思案な性格の女だったな。魔法道具の店で偉そうにしていたよ」
「他には? なんかないのです?」
アイラは相変わらずキラキラした目で聞いてくるが、もう答えられる情報はない。魔法道具屋の店主の話はするわけにはいかないし。
「あとは……魔法道具屋に魔法教会専用の棚があって薬草とかすげぇ高かったな」
「なるほど。優先的にいいものを魔法教会に仕入れるシステムになっているのですね。それにしても、そこまで堂々とやるということは、本格的に偉ぶっているみたいなのですね」
アイラはがっかりして言った。魔法教会に憧れでも持っていたのだろうか。
「そうみたいだな。俺が得た情報はこれぐらいかな」
「うーん。どっちも大した情報は得られなかったようなのです。明日は二人で調査して見ましょう。手分けしてもあまり意味ないことがわかったので……」
「おう、そうだな」
そうして翌日の行動はアイラとともに過ごすことになった。
「明日はもっと情報を集めるために魔法道具の店にもう一度行きましょう。あとは酒場で情報集めなのです。私一人では入れなかったので……」
確かにアイラ一人では入れないだろうな。子供の入る場所じゃないし。
「あ、今子供扱いする目をしたのです! 私ももう16になるのです! お酒だって飲める年なのです!!」
「してないしてないって!! それにしても16? 見えないな」
「あ! やっぱりしてるじゃないですか!! 確かに子供っぽいとはよく言われるのです。でも立派な大人なのです!」
アイラがプンプンしてるのはどうでもいいのだが、気になる言葉があった。
「16歳ってのはいわゆる成人ってことなのか?」
16歳で、お酒が飲める。大人というワードが違和感だった。
「そうなのです。知らないのですか?」
当たり前、という感じで聞き返される。この世界では16で成人を迎えるらしい。まぁ、魔法の才能さえあれば暮らしていける世界だ。仕事にも年齢はそこまで関係ないのかもしれない。
「いや、ど忘れしていただけだ」
アイラは俺が異世界から来たなどとは信じていないようなので、とりあえずごまかしておく。
「変なアキヤマさんなのです。ふわぁ」
アイラは右手を口に当てて大きなあくびをした。
「眠いのか? ならもう寝ていいぞ。小さな灯りはつけていても構わないか?」
「ふぁい……わかったのです。もう寝る準備は整っていますので……先に寝させていただくのです……」
アイラはそういうとふらふらと自分のベッドに歩いて行き、布団に潜ると瞬時に寝息を立て出した。寝顔を見ていると、ただの子供のように見えてこんな旅に巻き込んでいいのかという思いが浮かぶ。
「こうも安心して寝られるというのは、信頼されてるってことなのかな?」
俺は独り言つと、自分も寝る準備を始めた。風呂に入り寝巻きに着替えて、寝る準備は終わり、今のうちにやっておくべきことをやる。椅子に座り机に向かう。
カバンから紙を取り出し、魔法陣を描く。魔力の放出が少ない俺にできる新たな魔法を考えなくてはならない。アイラが寝たからこそできること。それは新たな魔法陣の開発だった。




