街の調査①
俺とアイラは二手に分かれて街の様子を探ることにしたので、一人で街を歩く。街はルクスよりも大きいが、活気はルクスの方があったような気がする。西欧風のレンガの家や、道にある市場は面白く、まるで海外旅行をしている気分になった。
まぁ実際は海外よりもすごいとこに来てしまっているんだが。市場で買い物を楽しみたいところだったが、あいにく調査をしなければならないので少しだけにしておこうと言い訳して、市場を少し物色する。魚や果物が並んでいるが、どれもとても安い。そして商人たちはあまり元気がない。
何かあったのだろうか。市場といえば活気があるイメージなのだが。
ゴンリという果物を買い、食べながら市場を通り抜けていくと、遠くに何やら大きい建物が目に入った。
「なんだあれ。デケェ建物だな」
豪邸か何かか、そう思いながらその建物の方に歩いていく。歩いていると気づいたが、その建物はこの街の中心らしかった。近づいていくにつれて、店などはちゃんとした店構えのものが多くなり、近くの家も大きなものが多くなっている。ブランド鞄や高級料理店など、自分には縁のない店ばかり並んでいたが、一つこぢんまりと店を構えているところを発見した。
店の名前はRoyal Magic Itemsと書いてある。名前からいくと魔法道具を扱っている店なのだろう。
面白そうなので入ってみる。古い建物でサラの家の扉のように、開くときにギィィと音がする。
入ると、小さな店に所狭しといろんな道具が置いてある。
こんなに魔法道具というものはあるのかと感心して見ていると、気になる文字が目に入った。
【魔法教会専用】
そう書かれた棚はショーケースのようになっており、客は取り出せないようになっていた。中でもそこに置いてある草はとても高い値段で売られていた。クフイカ草、シケクド草。
その二つは特に高価で、それぞれ5000フォン、3000フォンとなっていた。
ちなみにこの世界の通貨はフォンというらしく、ルクスの街で買った油は300フォン/1Lだった。
普通の魔法道具による仕事をしている人の給料は一ヶ月あたり2000フォンほどらしいので、それを考えるとかなり高額だった。魔法教会の魔法使いの給料は知らないが、普通の人よりははるかに高いのだろう。どうせ。
そこばかり見ていてもしょうがないので、他も見て回る。魔法陣は魔法教会専用の棚にもあったのだが、普通に他の棚にも置いてあった。魔法陣の意味がわかるようになってから魔法教会の魔法陣をまじまじと見るのは初めてだったが、確かにサラの言っていた通り。
ひどい内容だ。
魔力を一定量以上溜めた後に一定量を超えた分の魔力で魔法が発動するようになっている。しかもそこでロスされた魔力は消費されることなく魔法が終了するようになっている。
こんなものを売っているのか。
というか魔法教会はこんな意味のわからない設計の魔法陣だとわかって作ったのだろうか。いや、そもそも魔女に魔法を教えてもらうことを禁じているのに魔法教会はどうやって魔法陣を作ったのだろうか。
自力で?
いや、サラでさえ長い時間をかけてまだ完全に理解していないというのだ。普通の人間に理解はできないだろう。まぁ、言葉の文法や文字がわかり、論理的思考がすでにできている俺はある種チートみたいなものだから別として。そんなことを考えていると誰かが店に入ってきたようだ。
「お邪魔するぜー」
「お邪魔します……」
二人の魔法教会の魔法使いであった。魔法教会の者だと示すローブを着ている。片方は金髪で短髪の人相が悪い男。もう片方は黒髪で癖っ毛の内気そうな女性だった。
俺は思わず隠れて様子を伺った。
「お、あるじゃねぇかシケクド草。ってたけぇな。この草に3000フォンはないだろ。おいババァ!!」
「ちょっと……店主にババァはないでしょ……」
「うるせえ、俺らは客なんだからいいんだよ。おいババァ、ババァいるだろー」
そう金髪の男が二度呼びかけると店の奥から一人の老婆が出てきた。
「なんだい、騒がしい子だねぇ」
「おい、ババァこりゃ高すぎるだろ。シケクド草が3000フォンはねぇよ」
「いやいや。それは済まないんだがねぇ。しょうがないのさ。最近めっきり薬草が取れなくてね。在庫がほとんどないのさ。だからこの値段なんだよ」
老婆はため息をついて言った。
「あぁ? 俺たちぁ魔法教会の魔道士だぜ。そいつにふっかけるってのか」
「文句があるなら買わなくて結構。なんなら自分で取りに行ったらどうだい?」
威勢の良かった男だが、老婆が怯まずに返事をすると、諦めたように言う。
「やだよめんどくせえ。もういいよ。ほら、行くぞ」
金髪の男に声をかけられた癖っ毛の女性はほとんど何も喋らずに店から出て行った。
「嫌な客だな」
思わず声に出ていた。
「あら、あんた、今の見てたのかい?」
聞かれてしまったらしく、老婆に声をかけられた。あれ?老婆だったよな?声がやけに若々しい。見ると、さっきの老婆ではなく一人の少女が立っていた。
「えぇ!?」
思わず上ずった声が出てしまう。
「あっ!」
その少女は何かを思い出したように声をだした。
「ちょっと向こう向いてて!!」
少女は言う。何をすると言うのだろう。
「あ、ああ」
言われる通りに後ろを向くと、「ラン」と言う声だけが聞こえた。
「もういいさね」
振り向くとそこには再び老婆が立っていた。
「さっきの少女は?」
当然の疑問を口にする。
「さっきのは私の孫娘さね。いやぁ、勝手に出てきて困った子だわね」
「いやいやいやいや。さっきの明らかにあなたでしたよね。めっちゃやっちゃった! って感じの声、出してましたよね!」
俺がそう言うと老婆は渋い顔をした後、出口の方に向かって行った。そして老婆は店の看板をclosedにして窓のカーテンを閉め、こちらに戻ってきた。そして戻って来るなり、「エンド」と言った。すると老婆の姿は一瞬で少女の姿になった。
「ちょっとあんた! 空気読みなさいよ!」
ええええええ。
「は、はぁ?」
「人いないと思ったからつい気をぬいて変身解いちゃったじゃないのよ! あんた気配無さすぎなのよ!」
初対面でなんだこの態度は。しかし責められて反射的に謝ってしまう。
「ご、ごめんなさい」
年下に怒られるのは何回目だ。
情けない……
「わ、わかったならいいのよ……んで? あんたは?」
少女は強く出すぎたことを反省したのか、少し物腰が柔らかくなった。
「ちょっと聞いてんの? 名前よ! 名前!」
そうでもなかった。
「アキヤマだけど」
「アキヤマ? 変な名前ね!」
ほんとなんなんだろうこの失礼な少女。アイラと同じぐらいの歳だろうか。見た目が可愛いからって調子に乗りやがって。
「んで? 君は?」
「私? 私はこの店の店主のルシエラよ。よろしく」
「あ、ああ。よろしく」
「私さ、若いじゃん」
突然彼女は語り出した。
「ああ」
「だから、店番してると舐められるわけ。だから普段は魔法で老婆に変身して舐められないようにしてるのよ。そんでそれを知ってるのは家族だけ。客にはいないわけよ」
魔法でそんなこともできるのかと感心する。
「はぁ」
変身できることに気が取られて、気の無い返事をするとキッとこちらを睨んで来る。別に変身しなくても舐められないんじゃないんでしょうかねぇ。
「だ、か、ら! 店の店主の老婆が少女だってことはここだけの秘密だからね!!」
「わかってるよ。そんなこと誰にもいわねぇよ」
「本、当、に?」
「本当だって。約束する。ほら」
俺はそう言うと小指を出す。
「何その小指」
「指切りだよ」
「はぁ?」
まさか指切りが通じないとは。
「こうやって、小指と小指を組んで」
俺はそう言ってルシエラの手をとり小指と小指を絡ませる。
「はぁ!? なにすんのよ!!」
何やらルシエラは顔を赤くしている。うぶかよ。小指繋いだだけだぞ。
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます。指切った」
俺がそう言うとルシエラは不思議そうな目でこちらをみた。
「はい、これで約束の儀式完了」
「何? 今の? 魔法? 嘘ついたら指切れるの?」
「ちげーよ怖いな。まぁおまじないみたいなもんさ」
「へぇー、あんたの故郷の?」
「ああ。そうだよ……」
俺が少し元気なさそうに言うと、ルシエラはそれ以上突っ込んでこなかった。
「はい。んじゃ、営業再開するから。私は老婆に戻るし、君は店を出る。どうせ何も買わないんでしょ」
「そうだけどさ……でもちょっと待って。一個だけ聞かせて」
「一個だけね」
ルシエラは渋々と言った感じで答えた。
「この街の魔法教会の支部はどこにある?」
「ああ、そんなこと? そんなの簡単だよ。街の中心の大きな建物さ」
ずっと遠くから見えていた建物か。王宮か何かだと思っていた。
ルシエラは続いて言う。
「この街では魔法教会はすごい大きな顔をしてるのさ。こうやって魔法道具の店には魔法教会に優先的にいい品物を流すようにしているし、魔法教会本部からも王都からも遠いから、特に好き勝手やってるのさ」
魔法教会みんながみんな横柄で傲慢というわけではないのか。今のところのイメージでしかなかったが。
「なるほど。ありがと」
俺はそういうと、これ以上店の邪魔にならないように出口へ向かう。
「ラン」
後ろでルシエラが再び老婆に変身しているのがわかった。俺がドアの取っ手を握り、ドアを開いた。その時。
「あんた、魔法教会に関わらない方がいいさね」
老婆の声で、忠告を受けた。
「わかった! ありがとうな!」
俺は元気よく返事をして外に出た。
しばくらすると、店の中で老婆は一人、「関わる気満々な顔してたね、あいつ……」と呟き、店の奥に帰って言った。




