幕間 〜中継地点トルネオ〜
補給はすぐ済むとのことだったので、俺とアイラは荷車で待っていることにした。アイラと談笑して待っているが、どうにも帰りが遅い。しばらくすると商人が何やら焦った様子で戻ってきた。
「どうしたんだ?」
俺は焦った商人に尋ねる。
「いやぁ、あのですね。ちょっと困ったことになりました」
「何があったのです? 私で力になれることがあればお手伝いしますが」
アイラがそう言うと商人は困ったように頭をぽりぽりと掻いた。
「それがですね。この先、アマネに行くまでに岩に囲まれた一本道を行かなくてはならないんですが、少々問題が起こりまして……」
「その問題っていうのは?」
俺が聞くと商人は渋々と言った感じで言う。
「一本道の途中に巨大な魔物が、ハマっていまして。通れないのです」
「ハマっている?」
「ええ、ラジクという魔物なんですが、とにかくでかいのなんのって。ええ。しかも相当凶暴でして、なんとかしようにも近づけない。というわけでどうしようもない状況です。はい」
商人は申し訳なさそうに言った。
「なるほどな……」
「さすがに私の魔法でもそこまで大きい魔物は倒せないと思うのです・・・」
「あのさっき使った魔法でも無理なのか?」
「やってみないとわかりませんが……魔法消費が大きいので連続して使うのは辛いのです」
「なるほどな」
ふむ。なら俺の新作魔法のお披露目のチャンスになりそうだな。
「商人さん。どうするのです?」
「んー、ここにとどまっていても通れるのはいつになるかわかりませんからねぇ。引き返して遠回りして行くしかないですね」
「いや、待ってくれ。試してみたいことがある」
俺は自信満々に言った。
「はぁ」
商人は半信半疑だ。アイラも驚いたような目でこちらをみてくる。
「任せとけって。あと、悪いんだが、この村で買えるだけの油を集めてきてくれないか?」
「油は貴重なものなのです。こんな村にはほとんどないと思うのですよ?」
「何ぃ!?」
予定が狂う。しかしこの場を凌ぐのに十分なストックは持ってきている。洞窟での魔法の、再現だ。再び竜車に乗り、魔物がいるという地点の手前まで連れてきてもらった。
「それじゃ、危ないから下がっててくれ」
「無茶はしないでくださいなのです」
アイラは心配そうにこちらをみてくる。
「まぁ見てろって」
そういうと俺はラジクが攻撃できない位置まで近づく。近づいたらわかるのだが、すごく大きい。ギガプニリンの4倍ぐらいはあるぞ。しかしこれは予想内。用意してきた魔法は、特別だ。
「動けないとこ悪いな」
俺はそうラジクに謝る。でも俺が対処しなければそれで出る犠牲もあるかもしれない。
生きるのには何かを犠牲にしなければいけないのだ。
俺は用意してきた3枚の魔法陣の書かれた紙を取り出す。それを右手に持ち、叫ぶ。
「ラン!!」
叫ぶと同時に魔力を込めると、3枚の魔法陣が光りだす。伸ばした腕の先に三つの魔法陣が浮かび上がり、体に近い方から魔法が発動していく。
まず一つ目、
[1, release wind from my arm, power=max, to 2]
;風を腕から出力最大で放出。命令文2へ
[2, run circle 2]
;魔法陣2を実行
単純な魔法。風を放出して魔法陣2を発動する。
風の魔法がラジクの巨体に向かって吹く。
2つ目の魔法、
[1, release oil from circle 2, to 2]
;油を魔法陣2から放出。命令文2へ
[2, run circle 3]
;魔法陣3を実行
油を放出するだけの魔法。油を貯めるのにはまた違う魔法陣を必要とするので面倒だが、それもサラに教えてもらった。
3つ目の魔法、
[1, release fire from circle 3, power=2 ,after 1m end]
;炎の玉を魔法陣3から放出、1分後に実行終わり
炎が魔法陣から発射される。
油が風に乗って飛び散り、それを火の玉が燃やすと炎の渦がラジクの方に向かって飛んで行く。炎の渦はギガプニリンと同じようにラジクの巨体を包み込む。魔法陣から放たれる炎は1分間続いた。
あ……これ調整間違えたかもしれない。明らかなオーバーキルだこれ。
そして炎はその体を焼き焦がした。1分後、巨体は灰になっていた。
「はい、これで通れるな」
ドヤ顔で帰ってきた俺を待っていたのは二人の驚く顔だった。二人ともポカーンと口を開けている。 二人の肩をポンと叩くと、我に帰ったようだ。
「い、今のは……?」
「魔法だよ。魔法」
商人は我に返っても開いた口がふさがっていない。
「そのお嬢さんもすごい魔法使いだとは思いましたが、まさか大魔法使い様だったとは。いやはや驚きました」
「いやぁ、それほどでも……」
俺が照れていると、アイラが小声で話しかけてくる。
「今のってギガプニリンを倒した時と一緒なのです!?」
「ああ」
俺も小声で答えた。
「なんで魔法を自由に操れるようになっているのです!!」
アイラは声を抑えきれていない。いずれバレることだろうし、仕方ないので真実を告げる。
「サラに特別に教えてもらってたんだよ。あ、アイラはダメだぞ。理由はサラから聞いてるだろうけどな」
いずれ魔法教会に追われることになったとしても、追われるのは俺一人でいい。
この世界の住民じゃない俺だけで。
「ムゥ……」
アイラは反論できずに言葉に詰まり、不機嫌そうに返事した。
そしてアイラと俺は竜車に戻り、竜車は再び走り出した。アマネへと続く道は険しく、岩を踏むたびに尻が痛かったが、遠回りしていたら余計時間を食っていただろう。予定通り歩を進めた俺たちは、荷車に揺られアマネへの道を行くのだった。座り心地は悪かったものの、竜車の足というのは本当に早いようで、本当に一日で目的地のアマネにつくことができた。野営しなくて済んだのは本当にありがたい。
アマネはルクスと同じような雰囲気だったが、ルクスよりはるかに大きな街だった。魔法教会の支部があるというのも頷ける。アマネに着くと、商人とは別れを告げ、俺とアイラは宿を探すこととなるはずだった。しかし別れ際、商人が世話になった礼だと言ってお金を受け取らなかった上、宿まで紹介してくれ、宿探しに時間を使わなくて済むようになった。そうしてアマネについての一日目は、宿に泊まるだけで終わった。
アイラとは……アイラがお金がもったいないというので同室になったが……もちろん何もなく、こちらが一方的に申し訳ないと思っているだけのようだったので、結局俺も気にせずゆっくり眠った。普段は人と一緒の部屋というのは寝にくいものなのだが、命をかけた戦友としてアイラを信頼したのか、魔力を使ったからなのか、すぐに眠りの世界に入っていった。




