魔法社会の産物
ルクスからアマネへはそれなりに長い旅となり、移動手段が徒歩では何日かかるかわからない。そこで、荷物を運ぶものがあるなら、それに乗せてもらおうと、移動手段を探した。
この世界には牛車ならぬ、竜車というものがあるようで、それは小型の非飛行型のドラゴンを動力として荷車を動かしてもらうというものらしい。そこで竜車を片っ端から当たってみた所、都合よくアマネへと向かうと言う竜車が見つかった。
お金を払うので荷物と一緒に乗せてくれないかと頼むと、快く引き受けてくれた。引き受けてくれたのは狸の獣人だった。狸の耳と尻尾が特徴的だ。商人にとっては空いているスペースを無駄にしないで済むし、お金ももらえるし願ったり叶ったりのようだ。そうして、俺とアイラは竜車の荷車に乗り込んだ。そして荷車に揺られながらアマネへ到着するのを待った。
商人曰く、竜の足でルクスからアマネまでは1日ほどで着くらしいので、ゆっくり昼寝でもして待っておこうなどとも考えたが、荷車は人を乗せることを目的に作られていないので、そこまで快適に過ごせるわけでもなく、というか揺れるし細かい衝撃は伝わるしとても寝れる環境ではなかった。
荷車に揺られること半日、朝に出発してもう日が暮れかけているような時分のことだった。突然竜車が止まったようだった。何が起こったのか確認しようと、アイラとともに外に出ると竜車の周りを盗賊が取り囲んでいるのに気がついた。
「兄貴ぃ! 今日はラッキーですぜ!! 女が乗ってますぜ!!」
いかにも三下っぽい感じの輩が目上の立場らしい男にいかにも三下っぽい言葉を発した。
「ウルセェぞ、ゴンド。三下みてぇなセリフを吐くんじゃねぇ」
「へいっ、すいやせん兄貴! ではこいつら、どうしやすか?」
ゴンドと呼ばれた三下っぽい男は、そう言うと兄貴と呼ぶ男の隣で兄貴の言葉を待っているようだった。こっちの都合はお構いなしってか。まぁ盗賊ならそうか。しかし、ラッキー?逆だ。こちらには頼り甲斐のある猫耳娘がいる。
「あの、お話のところ悪いのですが、私たちは急いでアマネに行かなくてはならないのです。そこを退いてもらえますか?」
アイラは穏便にことばを選んだが、そんなのに従う奴らではあるまい。取り巻きたちがアイラを嘲笑する。
「はーはっは、聞いたか、お前ら」
兄貴と呼ばれた男は取り巻きたちに同意を求める。それに答えて取り巻きたちはより一層笑いだす。
あーあ。俺知らない。この猫耳娘、強いんですよー。そう心の中で警告するが届くはずもない。
「ひゃーひゃっひゃ! 兄貴面白いことを言うガキですね!!」
ゴンドと呼ばれた男は猿のように笑った。
「ふ、世間知らずのお嬢様みてぇだな。お前ら、わからせてやれ」
兄貴と呼ばれる男がそう言うと取り巻きたちは一斉に襲いかかってきた。
「アイラ!」
思わず声をかけた。
「わかっているのです!! ボア!!」
取り巻きの近くで小さな爆発が起きる。この魔法を見るのは何回めかになるが、魔法を勉強してから見るのは初めてだった。火を飛ばしてるわけではない。突然爆発が起こっているように見える。爆発に驚いた取り巻き達に動揺が起こる。
「ヒェッ!?」
「なんだなんだ!?」
「お前ら!! 落ち着きやがれ!!」
兄貴と呼ばれた男が一言言葉を発すると動揺は一気に収まった。
「もう一度聞くのです。そこを退いてくれませんか?」
アイラはにっこりと笑って言った。
「あ、兄貴?」
ゴンドは不安そうに兄貴の方を見る。
「お前ら、あんなんにビビってんじゃねぇ! 数で攻めりゃなんとかなる!!」
兄貴とやらがそう言うと、取り巻き達は再び襲いかかってくる。
「全く、お師匠様からの指令の邪魔をするな!!! なのです!!! エクスボア!!」
アイラが俺の初めて聞く魔法名を発すると、先ほどとは比較できないほど大きな爆発が起き、取り巻きと兄貴は吹き飛んでいった。
「さ、通らせてもらうのです」
アイラはそう言うと歩いて竜車に戻った。あまりの出来事にあっけにとられた商人はしばらくぽかーんと口を開けたまま突っ立っていた。
「早く出発するのです!」
アイラがそう声をかけると商人はビクッとして「はいっ今すぐに!」と言うと急いで竜車に戻り、再出発した。それにしてもさっきのアイラの魔法の威力、相当だった。人に向けて放つもんじゃないわ。あれ。
「さっきの盗賊達、やけに弱くなかったか?」
「当然なのです! 私は優秀な魔法使いなのです!」
アイラは誇らしそうに、ない胸を張る。
「あいつらは、魔法が使えなかったのかな」
最初から三下オーラはプンプンしていたが。
「魔法が使えないから、盗賊に身を落とすことになったのだと思います」
アイラは気になることを言った。
「どう言うことだ?」
「この世界は魔法が全てです。生活も魔法道具や魔法陣の力によって発達しているのです。そしてそれらは全て魔法教会が管理している。当然それを使える者と使えない者には差が生まれるのです」
「魔法が使えなきゃ仕事もろくにできないってことか……?」
「魔法道具は魔法陣より魔力が少なくても使えるようになっていますから、それさえ使えればなんらかの仕事はあるのです。でも、それさえ使えない場合、本当に仕事がないのです。肉体労働もあることにはあるのですが、魔法でやるとすぐに終わるようなことばかりなので単価も安く、それだけでは暮らしていけないのです。そうなるともう農業ぐらいしか暮らして行くすべはないのです」
夢のような魔法という概念が存在する世界に待っていたのはひどい現実だった。
「で、でも作物を育てる生活ならなんとか暮らしていけるんだろ?」
「……そうですね、自給自足ならなんとか。魔法道具で急速成長させられる作物と比べられると稼ぎは微々たるものですが。ただ、その土地さえ持っていない者は……」
「死ぬしかないってのか!?」
「いえ、それはないのです。魔法教会に申請すれば衣食住が用意された暮らしが用意されます」
なんだ、前の世界で言う生活保護の制度はあるのか。そう思い、ホッとした顔をしていると、アイラは渋い顔をした。
「アキヤマさんが思っているようなものとは違うと思うのです。魔法教会は生きるのに不自由ない暮らしを用意してはくれるのです。しかし、それは等価交換、衣食住の代わりに差し出さなければいけないものがあるのです」
アイラはもったいぶって言う。
「な、なんだよその差し出すものってのは」
「血です」
「血ぃ?」
「そうなのです。血です。魔法が発達しても唯一増やせないものが血なのです。だから魔法道具さえ使えないものは血しか売れるものがないのです」
よくある話といえばよくある話だ。提供できるものが血しかない。よくある話でもひどい現実だ。しかも、それが生まれながらにして決まってしまう、そんなのおかしい。間違っている。
「そんなのおかしいだろ。もし裕福な家庭に魔法の使えない子が生まれたらどうなるんだ?」
「普通魔法の優秀な親からは魔法の優秀な子が生まれてきますからそれはほとんどあり得ませんが……もし生まれてきたとしたら……魔法教会に血を売ることにはならないとは思います……けどひどい扱いを受けることになるとは思うのです」
アイラはさっきよりひどい苦虫をかみつぶしたような顔をして言った。
「そんな……」
「だからあの盗賊たちもなりたくて盗賊になったわけではないと思うのです」
「魔法社会の産物ってことか」
まぁそれにしても三下っぽすぎたが。なるべくして盗賊になったような性格のようだったが、悲しい過去があいつらにもあったのかな。などと吹き飛んで言った盗賊たちに黙祷を捧げる。死んでないけど。
「ま、私たちが気にする必要はないのです」
俺がしょんぼりしていると思ったのか、アイラは励ましてくれた。
「ああ。そうだな、俺らは身を守らなければやられていたんだから」
「そうなのです」
そんな会話をしていると、竜車の動きが止まった。そして商人から中継地の村、トルネオについたことを告げられた。




