続・サラ先生の魔法講座②終
晩飯を食べ終わると、サラは魔法で片付けをして、机を片付け、勉強の準備を整えてくれた。
サラは口に人差し指を当てて誘惑するような仕草で、
「それでは邪魔者もいなくなったことだし、二人だけの秘密のレッスンをはじめようか」
と意味深な言葉を吐いた。
「いやいやいや、誤解を招きそうな言い方をするなよ」
「別にいいじゃないか。減るもんじゃあるまいし。それにいまは二人だけなんだから、誰に誤解されるっていうんだい?」
それはごもっともだった。しかしそういう問題ではない。幼女から迫られる大人というのは社会的な死を高確率で迎えることになりかねないのだ。
「それとも、今の台詞でムラムラきちゃったのかなー? アキヤマくんは」
「そ、そんなわけないでしょうが! さぁ、魔法教えてくれるんでしょう!」
サラの言葉責めを逃れようと強引に話を戻す。
「ちぇ、つまらない男だな。アキヤマくんは」
サラはがっかりしたようだ。しかしこの女、どこまでからかえば気がすむのだろうか。
「それで? 魔法陣の本は読みましたけど、何をおしえてくれるんだ?」
「ああ、ということは魔法陣の成り立ちについては説明しなくても問題ないね?」
一応本を読んで理解したつもりなので、肯定する。
「まぁな……」
「よし、では魔法文の組み立て方についてだが…これは正直神代文字が読めないことにはどうしようもないから、幾つかの例文とその意味を覚えて組み合わせていくのが良いかと思うぞ」
サラは得意げにそう言ったが、一つ間違っていることがあった。
「あの、俺、神代文字、読めるんだけど」
神代文字はどこからどう見ても、英語に間違いなかった。なぜ知っている言葉が現れたのかはわからないが、知っているのは知っているしそういうしかない。
……。
「はあああああああああああああああああ!!!!????」
サラはらしくない調子で、これまで聴いたことのないような大きな声を出した。慌てふためいているのが見てわかる。しばらく驚いてから、佇まいを直し、改めてこちらに言葉を投げかけた。
「ア、アキヤマくん? 見栄を張りたいのは、わかるんだよ? 私にもそういう時期はあったさ。でも、嘘はいけないよ嘘は」
散々嘘を言いそうな奴のセリフとは思えなかった。しかし嘘など言っていないのは確かで。
「いや! 本当だけど」
そう言うとサラは放心状態になって動かなくなった。
「あのー、サラさん?」
「私が300年かけて感覚で訳す程度しかできなかった魔法文を……この男は読めるだって!?」
「えぇ、読めます」
「な、なら、これはどういう意味だ?」
サラは魔法陣に書かれた一文を小さな人差し指で示した。
「……火の魔素に変換する、ですかね?」
サラに提示された英文をだいたいで訳してみる。
他にも幾つか提示された英文を読んで見せた。サラはそれを聞くと神代文字が読めることを確信したのか口をパクパクさせて何やら驚いている様子だ。
今日は面白いサラがたくさん見れた。しばらく驚いていると、今度はなにやらしょんぼりし始めてしまった。
「もう君に教えることは何もない……自力で頑張りたまえ天才くん」
そう言うとサラは立ち去ろうとするので、必死にひきとめようとする。
「いや、あのですね? サラさん? 俺がこの文字を読めるのは俺がここにきた経緯と関係してまして……だから天才とかではなく、ただ見たことがあるから知っている、読めるというだけなんだって。天才美女魔女サラに魔法教わりたいなぁ……」
読める言い訳とついでに褒め言葉も混ぜてサラの機嫌を直そうとする。
「ほんとか……? というならそれは興味深いことだな。神代文字が君の来た世界と関係がある……か。調べてみる価値がありそうだ」
どうやら俺の過去の方に興味が移ってくれたようで、機嫌は少し直ったようだ。
「よし、いつまでも拗ねているのでは魔女の名が廃るしなぁ。よし。教えてやろう!」
そこからサラはすっかりと威厳のある態度を取り戻し、しっかりと魔法陣の組み立て方について教えてくれた。具体例とともに。
「それで、アキヤマくん疑問に思っていたことがあるんだが、聞いてもいいかい?」
サラは途中、話の流れを切って質問をして来た。
「ああ、なんだ?」
「君はあの洞窟で、私の使い魔が死んでから、あの状況からどうやってギガプニリンを倒したんだい?」
そういえばサラはあの現場を見ていなかったのか。
「ああ、それは……油だよ」
「油ぁ? どういうことだね?」
サラは首を傾げた。
「アイラの風の魔法に油を乗せて、俺の火の魔法で燃やしたんだよ」
魔力の穴が小さいらしい俺らしい方法だった。しかし、それを聞いたサラは驚いているようだった。
「それは……いつ思いついたんだい……?」
「街に出た時に、料理用具の店で油を見た時から……かな? 風で飛ばすってのはぶっつけ本番って感じだったけど」
俺がそう言うと、サラはしばらく黙っていたが、高らかに笑い出した。
「はーっはっは! 本当か! アキヤマくん! 君は本当に面白いな、面白いよ。すごいな君は」
サラは感心してるようだがなにがすごいのかわからない。キョトンとしていると、サラは解説し始めた。
「この世界の人間はね、魔法に慣れ切っているんだ。だから火というのは燃えるものではなく火の魔素の放出という事象なのさ。だからそういう風に燃える現象として魔法を捉えられたことに感心してるのさ。まぁ君は自称異世界の住人だから当たり前なのかもしれないがね」
つまり、水も風も土も雷も、すべて魔素の放出という風にこの世界の人々は捉えているわけか。逆にこっちが感心してしまう。魔法になれるとそんな考え方になるのかと。
「君はもしかしたらこれまでにない魔法使いになるのかもしれないね」
サラは意味深に言ったがその時の俺はそんなわけはないと軽く流していた。そのときはそれは大したことではないように考えていたが、後々魔法と現象を分けて考えれることが、大きく身を助けることになるなど、この時の俺は知る由もなかった。
サラはそれから上機嫌で授業を再開してくれた。授業には熱がこもったが、一晩でできることも限られており、サラが眠くなると授業は終わりを告げた。
翌日も、翌々日も同じような1日を過ごし、旅立ちの日までに俺はたくさんの魔法関係の本を読み、夜はサラに魔法陣の組み立て方や魔法文の書き方などについて教えてもらった。
自分で書いた魔法文をサラに添削してもらったり、まるでそれは受験勉強のようで、若き日のことを思い出した。まぁ、教師の見た目は10歳そこらなのだが。アイラもアイラで、サラに相当稽古をつけてもらったようで、本人曰く、これでもう敵なしなのですレベルにまで達したらしい。
まぁ俺は見ていないのだが。とにかく魔法漬けの1ヶ月が続き、そして約束の日がやって来た。
「アイラくん、アキヤマくん。君たちはこの1ヶ月よく頑張ってくれた。二人とも見違えるようだよ」
「お師匠様。それほどでもあります」
アイラはこの1ヶ月で随分と調子に乗るようになってしまったようだ。いつかしっぺ返しを食らうぞ。
「ああ、サラもいろいろ教えてくれて、ありがとう」
「まぁ私の頼みで君たちは旅立つのだからね。これぐらいするのは当たり前さ。あとね、旅立つに当たって先立つものが必要になるだろうからね。これは餞別さ」
そう言うとサラは金貨の入った袋をアイラに渡した。
「よく考えて使うんだよ」
「お師匠様、こんなに……いいのですか?」
アイラは目を丸くしている。
「ああ、私には必要のないものだ。気を使わなくてもいい」
サラの心遣いはありがたかった。旅に資金は必須だ。
「重ね重ねありがとう、サラ。俺たちが魔法教会の動きを探ってくる」
「なのです!」
アイラも俺に引き続いて意を表した。
「よし、では任せたぞ、我が弟子達よ! あ、あとこれ通信の魔法道具だから」
サラは抜け目なく通信道具だと言う貝を渡した。
「最初はアマネという北の村に行くと良いだろう。そこには魔法教会の支部が存在する。なんとか動きを探ってくれたまえ。また追って指示は出そう」
サラはそう言った後、俺たちを見送ってくれた。そうして俺とアイラはサラを残し、魔法教会の動きを探る旅に出発したのである。




