続・サラ先生の魔法講座①
俺は魔法を教えてもらうためにサラの家の近くの森でアイラとサラと集合していた。天気はよく、爽やかな風が吹いていた。
「それじゃ、旅に出てもらうまで、魔法の勉強に付き合うとするか。あ、アキヤマくんは家で本でも読んでてくれ」
爽やかな風吹いてるって言ったそばから室内ですか。そうですか。
「はぁ?」
とゆーか、魔法陣について教えてくれる約束ではなかったのか。そうサラの方を訝しんで見ていると、近づいて来て耳打ちして来た。
「アイラくんに知られるわけにはいかないだろ。机の上に魔法陣についての本置いといたから、とりあえずはそれを読んでおいてくれ」
幼女に耳のそばで声を出され、むず痒くなる。
「聞いているのか」
耳を引っ張られた。
「痛い痛い。聞いてるってば」
サラに合わせてこそこそ声で返事する。するとアイラはその様子を見たのか不審な顔をした。
「何を二人してこそこそと話してるんです?」
「いや、なんでもないんだよ、ははは」
「誤魔化すのが下手なのです。アキヤマさんは。一体なんの話をしていたのです?」
アイラに問い詰められ、困ってサラの方を見ると、しょうがないなぁと言う感じでため息をついた。
「あのな、アキヤマは幼い娘に耳うちされるのが大好きなんだ。だからたまにこうやって耳打ちしてやるんだよ」
なんとも意味不明な言い訳だ。しかも不名誉すぎるだろ。
「はぁ!?」
ほら、アイラだって信じない。こんなの嘘だってバレバレじゃないか。
「アキヤマさんにそんな趣味があったなんて……正直ドン引きなのです……」
信じてた。しかもゴミを見るような目でこっちを見ている。
「いやいやあの」
「嘘だって言ったらお前一人でごまかせよ」
サラが俺の言葉を遮って再び耳打ちしてくる。
「だからってお師匠様にそんなことを強要するなんて……アキヤマさん。最低です」
アイラの好感度がだだ下がりしているんだが……。しかし、魔法陣のことを知られるのも厄介になりそうだったので、仕方なくそのままにしておく。アイラには冷たい目で、サラにはにやけた目で見送られながらトボトボと家の中に帰っていく。
「さぁ、あんな変態さんはほっておいて私たちは魔法を練習しようではないか」
「はいお師匠様! 旅は私一人で十分なくらいなのです!」
後ろからそんな会話が聞こえてくるので走って家の中に入る。変態って言われて喜ぶタイプの人間じゃないんだよ俺は。家に入り、扉を閉める。これであいつらの声は聞こえなくなった。机の上を見てみると確かにサラの言っていた通り何やら本が山積みになっていた。ざっとおいてある本のタイトルを読み上げてみる。
【天才魔女の活躍集】著:サラ・アイバーン
【来世で使える魔女ジョーク】著:サラ・アイバーン
【魔女の歴史】著:サラ・アイバーン
おいおい、あいつ自分好きすぎるだろ!!! 最後のは少し気にかかったが目的のものとは違うので、スルーする。他の本のタイトルも見てみることにする。
【読もう、書こう、魔法陣】著:サラ・アイバーン
探していたのはこれだ。しかしふざけたタイトルだな。中学生向けの英語の教科書じゃないんだぞ。
本屋に気軽における内容でもないだろうに。と言うか、これ、絶対禁書になってるよな……。魔女が書いた魔法陣の読み方とか魔法教会の禁忌そのものじゃないか。それにしてもサラはたくさんの本を書いているようだ。
さすがは長寿。どうやったら300年も生きていられるんだろうか。姿も変えられるようだし。そんなことまで魔法でできてしまうのだろうか。
しかし自分の書いた本ばっかり並べるとは本当に自分大好き女だな。そう思いながら本を開いた。目次を見ると章ごとのタイトルが列記されている。
『1,魔法陣とは
2,魔法文を書こう
3,魔法陣の組み方
4,魔法陣を使ってみよう
5,インクルードで楽々魔法使い
あとがき,天才魔女サラちゃん』
いちいち自分の自慢を入れないと気が済まないのか、この人は。そう心の中でツッコミを入れた後、軽く1章から見ていく。
『魔法陣とは、魔法文と図形を組み合わせたものである。』
魔法文、初めて聞く単語だ。
『魔法文とは神代文字で綴られた神秘の言葉の連なりである。神代文字は全ては解読されていないが、この私、サラ・アイバーンはすでに五割もの神代文字を解読した。それについては私の別著【簡単魔法単語逆引き辞典】を参考にしてもらいたい。』
ちゃっかりと自分が書いた別の本の宣伝も載せている。抜け目のないやつだ。
『図形は様々な組み合わせがあるが基本的に円と多角形の組み合わせとなる。一般的なのは五芒星、六芒星と円の組み合わせである。これらの組み合わせは様々な魔法との親和性が高い。それと人気が高いのは正方形と円の組み合わせである。その魅力とは……魔法文を書きやすい。それに尽きるだろう。』
書きやすいとか案外そんな理由で使われているんだな。しかしアイラの使っていた魔法教会お墨付きの魔法陣はどれも五芒星だった。魔法教会は一つに決めているのだろうか。
本を読み進めていくと、魔法陣について理解できるようになっているようだな。案外ちゃんとした本を書いている。2章、3章と読んでいく。
『魔法文とは、命令式である。魔力を送ることで魔法文は一つの命令を実行する。一つの魔法は様々な魔法文の組み合わせによってできている。』
面白い内容だった。命令式、まるで自分がこれまで仕事で散々やらされてきたプログラミングみたいだ。
そう思うと、本の内容はするっと頭の中に入ってきた。
『使用例、火の魔法
ラン(実行)
[1,charge magic ,to 2]
命令文1、魔力を溜める、命令文2へ
[2,convert fire ,to 3]
命令文2、魔力を火の魔素に変換、命令文3へ
[3,release straight from my right arm ,end]
命令文3、火の魔素を腕の延長線上に放出
神代文字については別著参照』
驚いた。
神代文字、と言うのは英語なのか。しかしなぜだ……?
当然わからない。疑問がまた一つ増えてしまった。プログラミングとは程遠いものではある。
これはただの英文だ。しかしどこか似た要素を感じる。と言うかこれは、改良すればいくらでも複雑なものが作れるんじゃないか。火の魔法については簡単な命令文で構成されているようだし、大魔法ともなれば、もっと複雑なものになるのかもしれない。
4章、使ってみようの所は、前にサラが教えてくれた通りだった。ラン(実行を意味する)と詠唱し魔力を注ぐことで魔法陣を発動させる。魔素ごとに発動にコツがあり、人によってどの魔法が得意などがある。要点はそこだけのようだ。俺の得意な魔法はなんなのだろうか……
それにしてもこんなに魔法陣のことについてわかっていることが多いのに、どうして魔法教会はこのことを知ろうとしないのか。魔女に頼ることをしたくないのだろうか。それとも他の意図があるのだろうか。今現在魔法を使う人はみな、魔法陣の意味もわからず使っている。いや、使われていると言った方がいいのかもしれない。5章はこの前アイラとサラが言っていたインクルードについて詳しく書かれていた。
『インクルードとは魔法陣を体内に登録する魔法であり、人により容量は様々ではあるが、登録した魔法はショートカットの魔法名を詠唱するだけで使用が可能になる。インクルードの魔法陣はおまけとしてこの本の末尾に乗せてある。やり方は簡単、インクルードの魔法陣を起動させ、次に登録したい魔法陣を起動させ、登録したい魔法名を詠唱するだけで終了だ。ぜひ皆さんお試しあれ。(容量を超えるとインクルードの魔法陣自体が起動しないので注意) 登録を外したい場合はインクルードの魔法陣を起動し、アンドゥ、魔法名と言った具合に詠唱するといい。』
登録のやり方までくわしく書かれていてとてもわかり易かった。サラは教えるのがうまいのかもしれない。まぁ文章は、という話だが。あとがきの自画自賛コーナーは読み飛ばし、早速インクルードをやってみる。
「ラン」
魔法陣が起動し、光り始める。しかし何も起こらない。そこで、暴発が起こったら怖かったので光の魔法陣を起動させることにする。
「ラン、ライト」
安易な名前をつけてしまったが、仮登録ということでいいだろう。どうやら登録が終わったようで、インクルードの魔法陣の光が消える。どうやら成功したようだ。
「ライト」
魔法名を詠唱すると……なんと、身体中が光り始めた。
「なにこれええええ」
つい大声を出してしまい、外にいたサラが様子を見に入ってきてしまった。
「アキヤマくん大丈夫か? 何があっ………ぷははははは」
サラは入ってきて俺を見るなり爆笑した。
「アキヤマくん……光の魔法陣を登録したんだね……ぷははは。やっぱり君は面白いよ!!」
サラは文字通り腹を抱えて笑っている。しばらくして発光が終わると俺は恥ずかしくなってすぐに登録した魔法を取り消す。
「ラン!! アンドゥ!! ライト!!」
インクルードの魔法陣を起動させたあと、光の魔法陣の登録を抹消する。
ひどい目にあってしまった。こんなの聞いてない……
「君に渡した光の魔法陣はさ、魔法陣自体が光るようになってただろ? それが君の体内に登録されたから君自身が光ることになったのさ。それにしてもぷはははは! さっきのは傑作だった! 登録したままにしとけば良かったのに!」
「からかわないでくれ……」
思ってたよりも恥ずかしい。アイラには見られてなくてよかった。死にたくなるところだった。顔から火が出る、と言う表現があるが、今回のは顔から光が出るほどの恥ずかしさだった(?)
「アイラくんにも教えてやろう! さっきの!」
急いで外に戻ろうとするサラを制止する。
「ちょちょちょちょちょっと、待って。本当にやめてくださいオネガイシマス」
必死の頼みに耳を傾けてくれたのか、ふざけるのはやめたようで、普通のトーンで話しかけてくる。
「でもインクルード自体は成功したようだね。本も読み終わったようだし、これで基礎知識は頭に入っただろう。復習したいときもあるだろうから、あの本は君にあげよう。サインもつけてあげてもいいぞ?」
「サラのサインなんかイラナイデス」
「なんだ? 私はこう見えて結構有名人なんだぞ? サインは価値があると思うぞ~?」
相変わらずの自画自賛っぷり。実力が伴っているからたちが悪い。
「ま、これで夜は魔法陣について教えられるな。実践だ。アイラがいない夜にな」
最後の方だけこそこそ声で言うのはやめてほしい。違う意図に見えてしまいそうだ。
「旅に出るまで、よろしく、サラ先生」
遊びのような感覚で先生とつけてみる。しかしサラの反応は思っていたのとは違ったものだった。
「へ? ……先生? なにそれすごいいい響きがする」
ポーッとしている。
『いいとも! このサラ先生に任せてくれたまえー!』
ぐらいの返事を期待していたのだが……いつもと違う反応についドキッとしてしまった。相手は幼女の容姿なのに。大丈夫か俺は。
「ま、任せてくれたまえ! このサラ先生にな!」
まだ顔が少し赤いが、取り繕ってサラらしい言葉を口にした。
「ああ、もうこんな時間だ。アイラを帰らせないでいいのか?」
サラに聞くと、どうやら忘れていたようで、
「いかんいかん、もうこんな時間かー!」
と待たせていたアイラの元に向かった。アイラは日が暮れる前にサラの家を後にし俺とサラは晩飯を食べたあと、魔法陣の勉強を見てくれることとなった。




