水鏡②
ゆったりとした服の隙間から危うく胸元がはだけてしまいそうな姿。銀の髪に若い女の姿。サラはまったく同じ容姿を持つ偽サラを睨んだ。
一方俺は、自分と瓜二つの男と対面していた。偽アキヤマも、俺と同じようにリブロを構えている。
「「アルティボア!」」
サラの声が重なったことを感じた瞬間、隣から爆風が来て赤い岩壁に叩きつけられた。偽アキヤマも同じように叩きつけられていたので、少し笑った。
「お前も不意打ちだったんだな」
「うるさい。さっさと、殺し合うぞ。それが俺たちの役目なんだろ」
偽アキヤマはリブロをパラパラとめくった。
サラのほうを見ると、ふたつの爆発は威力を相殺したようで、両者傷一つなかった。
「はは、どっちのサラも手加減なしだな」と呟くと、俺は再びリブロを掴んで立ち上がった。「ラン、チャプター1、炎の章。攻撃!」
開いたページにある魔法陣から、偽の俺に向けて油が放出され、後から火の魔法が放たれ炎が増大して偽アキヤマに襲いかかる。
「ラン、チャプター1、炎の章、攻撃」
偽の俺も、同じ魔法をこちらに向けて放った。洞窟は爆発から一転、サウナのような猛暑に見舞われた。しかし、威力は同等。相殺された魔法は互いに傷一つつけない。
「これならどうだ? ラン、チャプター2、氷の章、攻撃!」
俺の左手の前に水が生成され、熱が奪われ氷になる。一方、右手の前には奪われた熱量が湯気となって顕現する。
喰らえ、と叫んで両手を偽の俺に突き出した。
「無駄だ。ラン、チャプター2、氷の章、攻撃」
偽アキヤマはリブロからまったく同じ魔法を繰り出した。俺の左手の氷は奴の水蒸気を、俺の右手の水蒸気は奴の氷に熱を奪われた。
「まったく同じ攻撃力なら、何をやっても無駄なんだ。まだわからないのか?」
偽アキヤマが語りかけてくる間にも、横ではサラがド派手な魔法を繰り出し、壁に無数の衝突痕を残していた。深く息を吸い、覚悟を決めて偽の俺に宣言する。
「やってみなきゃわからねぇだろ! ラン。チャプター3、土の章、攻撃!」
無数の泥人形が洞窟の地面から現れ、のろのろと偽の俺に向かって前進していった。
「無駄だといっただろ? お前は俺なんだから。ラン。チャプター3、土の章、攻撃」
偽の俺が放った魔法は、同数の泥人形を生み出し、俺の作り出した泥人形とぶつかって次々と爆発していく。
「まだまだわからん! ラン、チャプター4、風の章、攻撃!」
「相殺するだけだ。ラン、チャプター4、風の章、攻撃」
偽アキヤマは俺が発生させた旋風と逆向きの旋風を真上から発生させた。結果として、俺の魔法はかき消され、無風で終わった。小さな風の集まりは、集まってこそ価値がある。ひとつひとつを相殺されては、どうしようもない。
「ラン、チャプター5、水の章!」
リブロは弱々しい光を放ち、魔法陣から少量の水が偽アキヤマに向けて放たれる。
「それに関していえば、防御する価値もない。が、チャプター6がある」
偽アキヤマは横に飛んで水を避けた。どうやら俺の企みも読まれていたらしい。手の内はすべて知り尽くされている。
「チャプター6、雷の章、攻撃!」
小さな氷の粒が風に乗って静電気を生み、巨大な雷が偽アキヤマを襲う。しかし、それも嘲笑うかのように、やつはいう。
「ラン、チャプター6、雷の章、攻撃」
偽アキヤマは洞窟の壁に向けて小さい規模の同じ魔法を放った。すると、帯電していた氷の静電気はすべてそちらに吸い込まれ、壁に巨大な雷魔法が放たれた。焦げた痕を残すためだけに放たれたかのような魔法。
「すべては無駄なことだといっただろう? サラだって、攻めあぐねてるぞ」
偽アキヤマは地面の石ころを蹴り飛ばした。
俺は一瞬サラに目をやる。偽アキヤマのいう通り、サラも俺と同じように連続して魔法を相殺され、魔力を消費する一方となっていた。
「魔力が尽きるまで戦い続けるか?」
偽の俺は聞いてきた。ほほのこけた短髪の男。鏡の中で見慣れた姿。話す内容も自分らしさがあって余計に憎たらしい。リブロを持つ手に力が入る。
「やってやるよ。これが最終決戦なんだろ。俺には武器がある。考え、再構築する力がある」
俺はリブロの空きページに新たな魔法陣を綴ることを決意した。




