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magi code  作者: ロジカル和菓子
5章 封印の心臓編
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深愛の勾玉②

 ミサは依然愛した姿のまま、俺を親の仇とばかりに睨んでいた。

 しかし、どうやって倒せばいいのだろう。

 机の上を一瞥する。雑多に置かれた裏紙はあるが、肝心のペンが置いていない。つくづく挑戦者に厳しい設定のようだ。


「あなたが反抗する気になったところで、そんな手段ないのよ」


「それは考えてみないとわからないだろ」


 無言でミサはしゃがんだ。膝を曲げ、一気に体重を前に寄せる。俺との距離は一気に縮み、突き出した包丁は俺の腹をかすめた。痛い。皮膚が裂け、血が流れ出る。どんな空間なのか、幻影なのかはわからないが、痛みはきっちりと復元されるらしい。

 俺は息も絶え絶えになりながら、引き出しを次から次へと開けていった。しかし、ペンの類はどこにもない。ミサは背中に追加で包丁を差してきた。


「いてぇ……」


 傷口が温かい。

 これは本格的にやばいかもしれない。


 ミサの狂気を湛えた瞳を俺は眺める。ミサはこんな表情を俺に向けたことはなかった。俺は幻影に負けるわけにはいかない。

 腹部に手をやる。べっとりと血が手についた。明確な死をすぐそばに感じる。この空間で死んだらどうなるのかはわからないが、俺の体が無事という保証はどこにもない。


 ミサが再び迫ってきた。俺は手についた血をミサの目元に飛ばした。見事命中し、ミサは目を何度もこすった。


 これでなんとか耐えた。それでも、この状況から抜け出す方法を探らないと。


「ペンの代わりになるものさえあればいいんだ。インク的なものは……」


 再び俺の右手に視線をやる。

 血だらけの手の平。そうだ。こんな身近にいいインクがあるじゃないか。


 俺はミサが目をこすって視界を取り戻すまで、地面に魔法陣を描いた。コマンドは使えない。省略なしのコードで、ぶっつけ本番の実行。


「change magicpower。今となっては懐かしい響きだな。今回は土と風と火の応用だ」

 俺は背中とお腹から血を垂れ流しながら、ミサを見据えていった。


「やっととれた。今の隙に逃げておけばよかったのに。本当にアキヤマくんって、逃げることすらできないんだね」


 ミサは笑顔で包丁を振りかぶった。俺に近づく。と同時に魔法陣の上に立った。


「ラン」

 と俺は告げた。

 血で描かれた魔法陣が光り、俺の組んだ魔法が実行される。


 まず、魔法陣から土の塊が出現し、ミサの左右に飛んでいった。


「罠にかかっちゃったのかと思ったけど」


 ミサの言葉の途中で窓ガラスが割れた。俺が狙ったのはミサではなく、その左右に位置していた窓ガラスだ。


 まだ魔法陣は光を放ち続けている。窓から風が吹き込んだ。ミサのポニーテールが縦横無尽に暴れまわる。まるで暴れ馬のように。


「まだこっちでやりのこしたことがあるんだ。しばらくは会えないよ。ごめんな」


 最後に、魔法陣からゆったりと炎が舞い上がる。ミサを包み、燃え上がる。炎は轟轟と勢いを増し、ミサを黒く焦がしてゆく。


「やめてぇぇぇぇ!! アキヤマくん! ひどい!」


「そうだな。俺はひどいやつだ」


 煙草でもあったら、ふかしたいところだ。


「今すぐ魔法を解除して、アキヤマくん。私を愛してなかったの?」


 焼かれながらも、はっきりと声を出す。この女は、やはりミサではない。


「愛してたよ。でも、俺は耐えられなかったんだ。自分を取り囲むなにもかもに」


「私はずっとあなたに貢献してきた。なのになんで」

 ミサの唇が動く。うらぎったの? といっていた。


「裏切ってなんか……」


 心なしか、炎の勢いが弱まった。反比例するようにミサは勢いを増す。


「いいえ、裏切ったわ。私の献身に、あなたは仇で返したの」


「お前を養っていけるほどのお金も、一緒にいれる時間もなかったから」


 俺は言い訳のようにつぶやく。また炎の勢いが弱まる。ミサは一歩前に進んだ。包丁を天に掲げて。あと一歩進めば、俺の心臓にそれを突き立てることができるだろう。


「悪かったと、今なら思えるよ。あの頃の俺は、やれるだけやってみてなかったんだ。勝手に無理だと決めつけて、人生を終わらせようとした。でも、こっちで命がけで冒険するうちに、思ったんだ。やってやれないことなんてないんだって。だから、俺。もう逃げない」

 俺はゆっくりと今まさに包丁を突き立てんとするミサを真正面から捉えた。別れを告げる。

「さようなら、ミサ」


 炎の勢いが一気に強くなった。

 風によって外部から供給される酸素によって、炎は燃え続ける。

 唸るような咆哮を放ち、ミサは丸焦げになった。

 そして、急に俺の傷口の痛みが消えた。視界が開けたのは、ほぼ同時だった。


 岩肌のある小さなくぼみにいたようだ。当然横に窓などないし、俺の体からは血が流れているというような事実も、地面に魔法陣も残っていなかった。

 あのまま死んでいたらどうなっていたかはわからない。しかし、あの意地の悪いマドルカとかいう魔女のことだから、ろくなことにならなかっただろうことは予想できる。


 俺は笑っている膝を両手で包み、なんとか立ちあがった。固い岩肌の道を歩いていくと、広間に出た。巨大な髑髏岩があったアイラたちが待つ空間と同じぐらいの広さだ。道は俺の来た穴と、隣にもう一つ穴があるが、中は真っ暗で何も見えない。俺の来た道と同じ暗さなはずなのに。これもまたマドルカの魔法なのだろうか。


「と、いうことは、サラもまた過去と対峙しているってことなのかな」


 俺は独り言をいうと、地面に尻をついた。疲れた。サラがやってくるまでは、少し休もう。


 ゆっくりと目を閉じた。

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