真実の眼②終
とりあえず一ヶ月ぐらい先までは予定通り土曜8時更新でやっていけそうです!
サラはアムネシアを指差して、
「アキヤマくんはケツの穴がちっちぇえんだ!」
と最悪の言葉を発したのだった。
「女の子がそんな下品なこというんじゃありません!」
俺の悲痛な叫びは反響するだけ。
「どういうことです? お師匠様」
アイラは不安そうにサラに訊いた。
「前にアキヤマくんの魔力放出量は少ないといっただろう? 彼は穴が小さいんだ。だから魔法陣に注ぎ込める時間当たりの魔力量は少ない。ただし、体内の魔力量も少ないわけではないんだ。穴が小さい代わりに、魔力回復と素の魔力貯蓄量があって魔力は結構もつんだよ」
俺は頭上に大きなクエスチョンマークを浮かべる。
「えっと、つまり?」
「アムネシアは毎日ちょっとずつしかアキヤマくんの魔力を吸い上げることができないということさ。ちびちび甘い蜜を啜るとは、まるで虫だな! 魔物!」
サラはあっはっは、と再び鷹揚な笑いを放つ。
アムネシアは渋い顔を俺に向けた。
「だ、騙したなぁぁぁ!!!」
「いや、騙したのはお前だろ。自業自得」
「契約は終わり! お前なんぞに縛られるなんぞまっぴらじゃ!」
俺はほくそ笑む。せっかく俺だけの召喚獣を手に入れたんだ。とことんまでこき使ってやろう。
「やーだね」と舌を出してやるとアムネシアはあからさまに悔しがっていた。
さて、と小さく声を出すと、俺は奥へと続く扉に歩いて近づいていった。彫刻の入った重く黒い金属扉を押し開く。
アムネシアは渋々、アイラとサラは普通に俺について来た。
そして、扉の奥には先よりさらに広大な空間が待ち受けていた。洞窟には変わりないのだけれど、巨大な像が岩肌に彫ってある。入ってきた扉以外に出口はなく、方々に魔法でつけていると思われる灯りが浮かんで像を照らしている。
像は人の姿をしていて、巨大な顔の眼窩には目玉が入っておらず、横穴のようになっている。しかしそれもどこかへ続いている様子はなく、3メートルほどで行き止まりになっている。
ふと、前と同じマドルカの姿が俺の目の前に現れた。三つ編みにした髪に、白衣。眼鏡の奥には意地の悪そうな大きな瞳。
「やあやあ、よくあの紅のドラゴンを倒してここまでやってきたね。大人数の協力を取り付けたのかな? まあそれはいい」
たぶん、先撮りなんだろう。この女が戦いを見ていたわけではないらしい。
「しかし、ここから先は大人数は許さないよ。なんでもありなのはここまで。ここからは、二人で先に進んでもらう。あれは真実の眼。真実を見通すあの眼には誰にも嘘はつけない。眼窩の穴に一人ずつ入れるようになっている。二人以上入っても先へは進めない」
「なるほど、意地の悪いマドルカのすることだ」
サラは子供のように、いー、と舌をマドルカに突きだす。
聞こえていないマドルカは気にせずに偉そうに話を続ける。
「これから君たちは白黒二つの魔石、宝玉を手に入れなければならない。もちろん、サラ一人でいってもいいし、協力者を一人連れていってもいいだろうね。たとえ召喚獣といえども、連れていくのはルール違反だ。意地汚いサラのことだ。どうにかごまかそうとするだろうけど、いつだってこの真実の眼は嘘を見抜く」
「あーあ、このクソアマ、早くぶっ殺してやりたい」
サラの血走った眼はマドルカの顔に至近距離まで近づいていた。その怨讐は仁王像のようにすさまじい剣幕を作りだしている。
しばらく話し続けたマドルカは、ふうと大きな息を吐いて、
「それじゃ、説明はここまで。どうせ次の試練は乗り越えられないだろうけど。健闘を祈っているよ。お・ば・あ・ちゃん?」
といい残して姿を消した。
「はあ? はあ? 誰が? 誰がおばあちゃん? だいたいマドルカだって同い年だろう?」
サラはマドルカが映っていた場所をげしげしと蹴っている。しかし、すでにそこに彼女の姿はない。白衣を着た偉そうな彼女は、煽るだけ煽って消えてしまった。
「お師匠様。怒ってばかりいる場合でもないのです。あの魔女のいうことが本当なら、私たちのうち、だれが先へ進むかを決めておかないといけません」
アイラはじっとサラに視線を寄せる。まるで、選んでくれとでもいいたげな瞳。しっぽがぷるぷると震えている。
「そうだな、アキヤマくんの消費も激しいだろうし……」
「じゃあ!」
「いや、大丈夫だ」と俺はいいきった。「俺がいく。当然サラもいくだろうから、俺とサラの二人だな」
「だめなのです! お供するのは私なのです!」
アイラと俺はサラに視線を寄せた。決断するのは彼女だ。
「そうだな……」
サラはしばらく唸ってから、
「ここまで進んでこれたのは、アキヤマくんのおかげだ。君が望むなら、君と共に歩こう」と優しく微笑んだ。
「ああ。ありがとう」
「そんなプロポーズみたいな言葉、ずるいのです」
アイラの小声。
なにがずるいのか、考えるのはやめておいた。
「それじゃ、あの顔岩の眼の部分まで上るか。でも、どうやって登ればいいんだ? まさか素手で上るわけにもいかないし……」
俺は岩を見上げる。凹凸はあるが、十メートルほど岩を上って目の部分まで辿りつくのは骨が折れそうだった。
「それなら、いい案があるのです」
アイラはにっこりと微笑んだ。その微笑みには、なにかいつもと違う意地汚さのようなものが含まれている気がした。
「な、なんだよ、いい案って」
「それは、試してみた後のお楽しみなのです。大丈夫。怖がる必要はないのです。火力の調整は、随分と行ったので、飛距離の調整はばっちりなのです」
アイラはポケットから魔法陣を取り出し、構えた。
「おいおいおい、まさかお前、爆」
「お前じゃないのです! アイラなのです! ラン!」
アイラの魔法陣が光ると同時に、俺は足元から衝撃を感じた。次の瞬間、俺は岩肌に叩きつけられ、のめり込んでいた。爆発が起こったのだ。眼窩へは一瞬で辿りつけたものの、荒すぎません?
「さて、それでは行くとしようか」
サラはアイラの爆風を受けることなく、いつのまにか隣の眼の窪みに辿りついていた。え、そんな魔法あるなら俺も運んでくれたらよかったんじゃありません?
アイラ、絶対さっき選ばれなかったことを根に持っているだろ。もう。
俺は最大限恰好をつけていう。
「ああ、必ず心臓を取り戻してやろうぜ」
サラが岩の窪みに入った瞬間、窪みがぐるりと回転し、光に包まれた空間へと俺は放り出された。やがて、光は徐々に収まっていき、俺のよく知る場所が輪郭を明確にしていったのだ。そう。そこは、俺が昔住んでいたはずのアパートだったのだ。六畳一間のボロアパート。壁からは音が漏れ、住人の民度は最低。そんな吹き溜まりみたいなアパートの一室に、俺は立っていた。
すでに試練は――始まっているのだ。




