表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
magi code  作者: ロジカル和菓子
1章 始まりの街、ルクス編
12/167

旅のはじまり

 俺はサラの家のベッドで目を覚ました。一体あれからどれぐらい寝ていたのだろうか。起き上がろうとすると身体中が軋んで痛みを感じる。


「痛たた……」


「あ、目を覚ましたようだね? アキヤマくん」


 サラの声だった。見るとパタパタとこちらに走って来ていた。


「ええ、おかげさまで」


「長いこと眠っていたからね。お腹すいたろう。あ、今、食事を持ってこよう」

 再びパタパタと走り去っていく。そしてしばらくしないうちにまた戻って来た。

「はい。食べなよ」

 そういうとサラはスープとパンを差し出した。それを受け取り、口に運ぶ。暖かいスープが身に沁みた。


「ところでアイラは? 大丈夫だったのか?」


「ああ、敵にやられた傷は大したことなくてね。君より早く目を覚まして今や元気なものだよ。連絡をしておいたからじきにここに顔を出すだろうさ」


「そうか……よかった」


 アイラの無事にホッとして息が漏れる。


「ご苦労だったね。あれほどの脅威がいるとは予想していなかった。魔法教会を舐めすぎていたかな。アキヤマくんはよくやってくれた」


「え、なんだいきなり優しくなって、雪でも降るんじゃないのか?」


「な、人がせっかく心配してあげてるというのに!! 全くアキヤマくんは……」

 サラが珍しくプンプンと怒っている。こう改めてみるとところどころちょっとかわいいな。


「いや、悪い。本当にあの時は迎えに来てくれてありがとうございました」

 サラにきちんと頭をさげる。


「そこまでしなくていいんだが……どうした? 急に改まって」


「いや、帰り道、あのまま魔物に遭遇してたら死んでただろうから。ちゃんと礼を言っときたかったんだ」


「律儀なやつだな、君は」

 サラはポリポリと頭をかく。照れているのだろうか、少し顔が赤い。


「まぁそれもサラが来てくれていれば問題なく片付いたんだろうけどな」

 つい余計な一言を言ってしまう。


「はは、それについては言い訳のしようがない。すまなかったな」


 反論が来ると思っていただけに素直に謝られて困惑する。

「……?」


「なんだ? 私が素直に謝ったから驚いているのか? 失礼なやつだな、私だって悪いと思ったことにはちゃんと謝るぞ?」


「いや、あまりに意外だったから」


「なんだとぅ……!?」

 サラはじろりとこちらを睨んで威嚇してきた。


「それにしてもあそこの研究施設はなんだったんだろう」


「お前も見たじゃないか、あの奥にいたものを。あそこはキメラを作るための施設だよ」


「魔法でそんなこともできるのか?」


「そのようだな。結果は散々だったようだがな」


 驚きだった。まだまだこの世界には俺の知らないことがたくさんありそうだ。


「キメラなんか作って何をするつもりだったんだろう……魔法教会は」


「さぁな。だがあれだけの規模の施設だ。目的があることは間違いないな」


 魔法教会がキメラを作る目的……今ある情報だけじゃ全く見当がつかない。


「情報が少なすぎるな……」


 サラも同じことを思っていたようだ。


「確かに……」


 二人してうーんと唸る。


「二人して何してるのです?」


 気づけばアイラがもう着いて家の中に入ってきていたようで声をかけられた。


「いやぁね、魔法教会の意図を考えていたんだけどさっぱりでね……」


「魔法教会の意図……なのです? キメラを作ることではないのです?」


 そう単純だったら苦労はしない。


「わからんな。まぁ私たちが気にする必要もあるまい。なんせこの付近での魔力溜まりは解消されたわけだし。しかもあの洞窟はぶっ壊しておいたからな。当分は厄介ごとはないだろうさ」


 あれからあそこぶっ壊したのかよ……。物騒な話だ。それにしても当分は厄介ごとにならない……か。サラの言う通りになれば良いのだが。


「さすがお師匠様なのです! でもよかったのです? 外に出てしまって」


 アイラは変わらずサラびいきの発言だ。


「どう言うことだ?」


 外に出てしまって? 引きこもりが外に出るには理由がいるのか? そんなことを思いながらサラの方を見る。


「いや、ハハハ……。私だって別に引きこもりたくて引きこもってるわけじゃないんだからな?」

 サラは目を合わせずに言い訳した。


「ザ、引きこもりって感じのセリフだな……」


「いやいや、本当なんだよ?」


「お師匠様をそこらへんの引きこもりと一緒にしないで欲しいのです!!」

 すかさずアイラがフォローするがそれはフォローになっているのだろうか。


「引きこもり引きこもりって何回も言うなぁ君達…」

 サラは少しうなだれて言った。


「私はここからあまり離れられないんだよ。本当に離れたくても離れられないんだ」


「どういうことだ?」


「少し昔話をしようか。昔々あるところに超絶天才美人魔女がおりました」


 いきなり絶賛じゃないか。


「その魔女を妬む超絶凡才不細工魔女は天才をどうにかして貶めてやりたいと思い、近くの街の人々に噂を流しました。あの天才魔女は人間を実験道具にする悪い魔女だ、ほっておくとお前らも犠牲になってしまうと。不細工魔女は天才魔女には戦っても勝てないから、騙して封印してやろうと考えました」

 サラは指を振ってどこかに用意していたコーヒーをキッチンから移動してくる。サラはズズズとコーヒーを飲むと、話を再開した。

「不細工な魔女にそそのかされた街の人々は美人天才魔女を騙して街のはずれに呼び出し、不細工魔女の言った通りに動きました。そして無事、見事に天才魔女を封印することができたのです。天才魔女は人間を信じたことを後悔し、そして不細工なくそアマに痛い目を合わせてやろうと目論むも、封印は解けず引きこもるようになりましたとさ。めでたしめでたし」


「いや、全然めでたくないし。オチもまとまってないじゃないか」


「なんだ冷たいなアキヤマくんは。超わかりやすい昔話だったろ?」


「……まぁ分かりやすいかは別として、その天才魔女ってのがサラのことなのか?」


「お、よく気がついたね。当然天才で美女と言ったら私だよな。うん」

 サラは得意げに言った。すごい自信だ。自画自賛が過ぎるよ。


「お師匠様の昔話、私も初めて聞いたのです」


「アイラくんにも話してなかったね。そういえば」

 アイラでさえ肝心なことは話されてこなかったようだ。まぁそれもアイラのことを思ってかもしれないが。


「というわけで、しょうがなく引きこもるしかない私に変わって、君達に任務を授けまーす」


「いやいやいやいや、ちょっと待て。その封印ってのは解く方法はないのかよ? 大体どこに封印されてるんだ? って言うかこの前迎えに来てくれたのはなんだったんだ?」


 疑問が溢れ出てくるので思わず質問を畳み掛けてしまった。


「おいおい、一度にたくさんの質問をするな、落ち着きたまえよ。ったく」


 サラはやれやれといった感じで言った。説明不足なのも悪いと思うのだが。


「えっとな、封印、と言うか、呪いみたいなものなのだよこれは。ちょっとこの近くにね、私の心臓が封印されているんだわ。これがね」


「え……? 心臓?」


「そうそう。心臓。何百年も生きてるような魔女を封印するにはね、心臓をくり抜くのさ。そんでそれを隠してしまうんだよ。魔女は魔法で生きながらえることができるんだけどね、心臓から離れてしまうと心臓の方が弱っていって止まると死んでしまうんだよ」


 サラはなんともないように言うが、衝撃の封印方法だった。心臓をくりぬいて封印……? ということは昔サラは街の人たちに心臓をくり抜かれて……?


「で、その心臓はこの近くに隠してあるってわけだ。理解したかい?」


 サラはあっさりとそう言った。まるでなんともないことのように。自分の心臓が封印されているっていうのに。


「じゃあその心臓を探し出せば」


「無理だ!!」

 急にサラは強い口調で反論した。さっきまでの余裕の態度とは全く異なって、焦りのような気持ちが垣間見えた。


「いや、すまんね。もう何百回とトライしたさ。場所はわかってるんだ。でもあのいやらしい魔女が仕掛けたトラップは心臓がない私の力ではどうしても切り抜けることができなかったんだよ」


 あの巨大なドラゴンを召喚したり、木を丸焦げにできるサラでも、何百回かけても無理だったと言うのは一体どれほどの障害なのだろうか。ふとアイラの顔を見るとキャパを超える重さの話にその表情は見事に引きつっていた。


「君たちが気にすることではないさ。でもね、まちがっても封印をとこうなんて思っちゃいけない。場所はもちろん教えないからな。行っても無駄死にするだけだから……絶対行くな」


 真剣なトーンで話すサラの雰囲気と話題に、場の空気が重くなる。

 俺を睨む双眸は深い海のような青色で、視線を捉えて離さなかった。


「ま、というわけで私はこの家以外で君たちの力になってやることはできそうにない」


「そっか……」

 引きこもりにそんな理由があったとは。ヒキニートとか思ってすまなかった。


「それでだな?? 最初の私の言葉、聞いていたかい?」


「頼み……だったのです?」


「そ、アイラくんの言う通り!!」

 サラは無理矢理にテンションを上げているように見える。しかし、なんか嫌な感じがするな。サラの頼みってろくなことじゃないんじゃないか?


「君たちには、旅をして魔法教会の様子を探って来て欲しいのだよ!」


 ババーンとそんな擬音がふさわしいような感じで腰に手を当ててサラは言った。


「は?」


「わ、私もなのです?」


 突飛すぎる内容に二人して大したリアクションを取れない。


「いや、でも」


「もちろん今すぐにとは言わないさ。しかしできるだけ急いだ方が良さそうだ。そうだな、一ヶ月後ぐらいでどうだ? それなら色々準備できるだろ。いいか? これは君たちにしか頼めないことなんだ。君たちにしか!!」

 サラさんや・・・あんたほんとすげえよ・・・。強引さが。


「わ、私たちにしかできない……。お、お師匠様が言うなら仕方ないのです! まぁもともと旅をしている身でしたから。お師匠様と離れるのは寂しいですけど、これまでとやることは変わらないのです。行くのです」

 騙されやすいアイラはすっかり行く気になってしまったようだ。そんなに信用していい女なのか? この無責任な女は。


「おいおい、俺はまだ行くとは」

 俺が反論しようとすると、サラが耳打ちしてくる。


「行くなら魔法陣の読み方とか色々教えてあげるぞ、アイラには秘密でな」

 こそこそ話しがむず痒い。しかし、知りたいことを教えてくれると言うのは魅力的な話だ。でもだな……。


「アキヤマさん!! 行きましょう!!」


 すっかりやる気になったアイラが俺の肩を掴んでキラキラした目で見つめてくる。


「わかったよ……」


 もうどうにでもなれと言う感じだ。もともと、ここに来たのも死のうとしてのことだったのだ、今更どこに行こうと関係あるまい。そう思うと気は楽になった。そんな成り行きでアイラと俺は魔法教会の動向を探るため、旅をすることになってしまったのだった。


 これからどうなるの? 俺。そして再び始まる、サラ先生の魔法講座の日々。しかしここからの一ヶ月はただの魔法講座じゃない。もっと根本的な、魔法教会の禁忌とされている、魔法陣の解読。それをサラは教えてくれると言う。困難は待ち受けているかもしれないが、楽しみな一ヶ月が始まる。そしてそれが終わればこの世界を旅することになる。


 一体どんなことが待ち受けているのか。危険なことはもうないといいんだけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ