VS紅の竜④
「ちょっとちょっと、困るなぁ。そんな平和的解決望んでないんだよ。もっと醜く争いあってもらわなきゃさー」
突如アムネシアの前に半透明な魔女の姿が現れ、喋りだした。洞窟で以前出てきたものと同じものだ。丸い眼鏡に三つ編みくくりにした髪。マドルカだ。
「だから、そこのドラゴンの自我はもう必要ないかなー。えいっ!」
マドルカが腕を一振りすると、アムネシアの苦しみ方が増した。身体を大きく地面に叩きつけ、巨大な咆哮を上げる。
「それじゃ、虫風情は叩きつぶしちゃってねー」
そう言い残すと、マドルカの姿は消えた。
「わらわがまだ支配に逆らえるうちに翼の支配紋を壊せ」
アムネシアの言葉に俺は強く答える。
「ああ! わかった! ラン! チャプター4、風の章! 攻撃!」
リブロが薄白く光り、以前サラの防御を貫いた風の魔法が発動する。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
俺は叫んだ。叫ぶことに意味などなかった。それでも叫んだ。
風魔法の起点がアムネシアを囲んでいく。そして、少しずつ大きくなった竜巻がアムネシアの翼の下を直撃し、支配紋のついた鱗とその周辺の鱗をえぐり取った。
「やった!」
俺はガッツポーズをして叫んだ。
これで両翼の支配紋を壊せたはず。そしてそれはおそらく、水と雷の支配紋。残りは首と隠れた場所にある風と土の支配紋だろう。
「ぐおおおおおお!」とアムネシアの喘ぎが洞窟にこだまする。
「あ……とは……自力で潰せ」
その言葉を最後にアムネシアの様子が一変した。アムネシアの眼は黒く染まり、会話が止まった。
「アキヤマ君! 無茶をしおって! 再び散開だ!」
サラが遠くから呼びかける。アイラもすでにサラと離れた場所にいるようだ。
「ああ! 済まなかった! でも……」
俺が返事をしようとした瞬間、アムネシアの翼に魔法陣が描かれる。そして、魔法陣は光り、黒い竜巻が四つ巻き起こった。それらは俺達を別々に狙ってきた。しかも俺には二つも。
「まったくしょうがねぇなぁ! ラン! チャプター2! 風の章! 防御!」
俺が叫ぶと、リプロが光り、同時に四つの竜巻の上に魔法陣が展開される。
「今度の魔法は単純なもんだ! 俺の魔力でもいけんだろ!」
俺の想定していた魔法とほぼ同じ威力の魔法が繰り出される。竜巻の上部から強烈な下向きの風を発生させたのだ。
「竜巻ってことは要するに上昇気流だろ? それに打ち消しあう力を発生させれば、ドン! だ!」
俺はかっこつけて言ったが、アイラはよくわからないようで、
「なんだかよくわからないけど誉めてあげるのです-!」と叫んでいた。
「私も負けてはいられないな。せめて一個ぐらいは支配紋を壊さないと面目が立たない!」
サラは走って竜巻から逃げていたが、その足を止めて五枚の魔法陣を取り出した。アムネシアの意識がサラに向いた。サラは自信満々に叫ぶ。
「私のターンだな。ラン!」
サラは言うと三枚の魔法陣を同時に投げた。魔法陣からアムネシアに向けて雷が放たれる。アムネシアは翼で雷を防いだ。翼は少し焦げたのみで、そこまでのダメージには至っていないようだ。
「だろうな! 次行くぞ! ラン!」
サラはアムネシアの方に駆け出した。と同時にアムネシアの上空に魔法陣が出現し、大きな雷が落ちる。アムネシアの意識は上に向き、再び翼でそれを防いだ。
「本当は武闘タイプじゃないんだけどね。こういうこともたまには必要かな!」
サラはいつの間にかアムネシアの懐に潜り込んでいた。サラは服の中から短剣を取り出すと、刃に魔法陣の書かれた紙を巻きつけ、跳躍した。
「ラン! この刃で首の支配紋を貫く!」
サラの短剣の刀身が魔法陣に包まれ、黄色に輝く。そのままサラはアムネシアの首元に短剣を突き刺し、てこの原理で鱗を剥がした。
「やった! これで支配紋はあと一つ! そいつが使える黒い魔術も土だけだ!」
サラは威勢よくそう言って降下に入ったが、アムネシアの翼はサラの降下速度よりも早く、サラを横向きに叩きつけた。
「なっ!」
サラはそのまま洞窟の壁に叩きつけられ、ぐったりと横たわった。
「お師匠様!?」
サラに駆け寄ろうとしたアイラに向けてアムネシアの尻尾が襲う。回転した巨体の尻尾はアイラを殴りつけ、アイラはサラと同じ場所に転がることになった。
「アイラ!」
どうやら動けるのは俺だけになってしまったらしい。サラが首の風の支配紋を壊してくれたのはいいものの、残りの支配紋の場所は分からず仕舞いだ。
焦る俺をあざ笑うかのように、アムネシアは再び黒き魔法を展開する。黒き土が生成され、赤い体を覆っていく。翼の端は刃物のように鋭利になり、鱗にはとげが、尻尾は何でも貫けそうな鋭さだ。
「それでも俺一人しか残っていないんだし、やるしかないよな……」
俺は覚悟を決めてアムネシアと対峙した。




