VS紅の竜③
雷の章は……発動しなかった。
まずいまずいまずい。俺は心の中で連呼する。
ドラゴンはすでに尻尾をこちらに向けて振り切っていた。黒い水の塊が俺に向けて飛んでくる。すでに立ち止まっている俺に避けきる手段はない。
「それならば!」
相手は水だろ!
「ラン! チャプター2! 氷の章! 攻撃!」
俺は左手を黒い水の方に向けた。俺の目前で黒い水が動きを止める。そのまま右手から自ら奪った熱を当てる。氷は溶け、地面に黒い水は垂れていく。
黒い水が垂れた場所から岩が溶け、地面に大きな穴が開いた。
「毒の類だ!」
サラが大声で知らせてくれた。
まったく、次から次へとやっかいな技を。俺はドラゴンの尻尾を観察した。よく見ると尻尾の先が溶けてしまっている。
自分にも害があるのか……?
「何故……何故じゃ……この屈辱、果たさずに終わるのか……?」
ドラゴンは血の涙を流している。俺は懸命に頭を働かせる。思いついた『それ』はある種の賭けでしかなかった。しかし、俺の体はいつの間にか動き出していた。
「おい! ドラゴン!」
俺はドラゴンに近づき、堂々と体を相手の目の前に晒す。
「ばか! アキヤマ! またか!」
サラの怒号が聞こえるが今はとりあえず無視だ。
「なんじゃ……虫風情が。わらわをただのドラゴンと一緒にするな。わらわは数千年の時を生きる紅の竜じゃ」
「でも、マドルカってのに捕まってんだろ? ただのドラゴンでも一緒だ」
俺はへらへらして言う。アイラとサラの「相手は魔物だぞ」だの「早く逃げろ」だのと言った叫び声が耳にうるさい。
「ほざけ。今すぐ貴様を殺してやる」
赤き竜は爛々と目を輝かせて俺を睨む。その眼光には侮辱された怒りが明らかに宿っていた。
「その得体のしれない黒い魔法でか?」
「何? この忌々しき力の何を知るというのじゃ!」
赤いドラゴンは鼻息を荒くする。ドラゴンが殺意を行動に移す前に俺は会話を進める。
「なんか知らないけど、マドルカってのに与えられた力なんだろ?」
「む……そうじゃ。わらわには制御できず、わらわ自身を傷つける忌々しき魔法じゃ。あの女の支配さえ解ければ、わらわの本来の魔法で貴様など消し炭にしてくれる」
「そんなら、俺がその支配。解いてやるよ。だから、お前はそのあとに俺を消し炭にすればいい。」
俺は憶病になる心を精一杯抑えて笑顔を作る。うまく作れているかどうかは神のみぞ知るってところだ。
「なんじゃと……? 貴様、魔物であるわらわを憎んでおらんのか?」
ドラゴンの動きが止まる。鼻息は相変わらず洞窟内に風の流れを作っているが。
「なんで会ったばっかりの爬虫類を憎まないといけないんだよ。むしろ好きの部類だっての。」
俺は実家で飼っていたトカゲのことを思い浮かべた。餌を与えすぎないように必死になっていた記憶が蘇る。
「わらわが……好き……じゃと……? ふざけおって……。バカにするのもそれぐらいにするんじゃな。……そうじゃ」
ドラゴンの眼がいやらしく笑う。
いや、なんか告白したみたいなノリも違うけどね。
「わらわを憎んでいないというのなら、……わらわを……その、好きと言うなら、わらわを信じることが出来るか? わらわは今から貴様を、わらわの本来の力で攻撃する。ただし、ぎりぎりのところで外してやる。わらわを信じて微動だにしなかったら、貴様を信じてやってもいい」
「なるほど、そりゃいいや。簡単だな」
「言ってくれる。では行くぞ」
ドラゴンの眼がギラリと光る。俺は覚悟して目を見開いた。サラとアイラの叫び声が聞こえる。
彼女達には心配させて済まないと思う。でも、俺は目の前のドラゴンのことを救いたいなって思っちゃったんだ。だから、今ある命を懸けてでも行動する。
赤い炎がドラゴンの口から俺に放たれる。俺は微動だにしない。それが約束だからだ。炎は見事に俺を避けていき、後ろの壁を黒こげにした。黒い炎に負けずとも劣らない威力だ。
俺は内心小便をちびりそうになりながら言う。
「ほらな」
ドラゴンは瞬きを止めた。
「何故じゃ? 何故わらわを信じた?」
「誇り高きドラゴンなんだろ? そんなしょうもない嘘つかないだろ」
「ふふふ。確かにその通りじゃ。貴様、面白いな」
「誉めてくださり光栄ですってね。それで、提案なんだが、俺を信じて支配紋を晒してくれないか?」
俺は望みをかけて言った。もし無抵抗で支配紋を壊すことが出来たら、ドラゴンも傷を負うことなく先に進むことが出来る。幸い、マドルカに対する忠誠心なんてものはさらさらないみたいだったし。
「む……。そうだな。よかろう。人間よ。わらわの支配紋を壊せ」
「ありがとう。それじゃ、翼を開いたまま、静止してくれるか?」
「うむ。ただし、わらわの鱗だ。そう簡単な魔法ではびくともせん。ただ、貴様以外の魔法をむざむざ受けてやる気はさらさらないぞ。……それから、わらわの名はアムネシアじゃ。貴様には特別にそう呼ぶことを許そう。たとえ貴様が今日死ぬことになってもな」
アムネシアは嫌味を言いながらも素直に翼を開いた。俺はリブロを構える。
その瞬間。アムネシアに明らかな異変が起こった。アムネシアは目をひん剥いて苦しみだした。
いよいよ評価が500ptを超えてきて嬉しい限りです。
ブックマークも200超えたいですね。




