VS紅の竜②
俺にも黒い攻撃が危なすぎることだけは理解できた。一刻も早く支配紋を破壊しなければあの黒い攻撃は止まないらしい。
「しょうがない。出し惜しみはなしだ。ラン! チャプター4! 風の章! 攻撃!」
俺はドラゴンの足元に旋風をいくつも発生させる。これが重なり合って大きな暴風となるのだが……。
俺が巻き起こした小さな風の集まりは、ドラゴンの翼のたったひとなぎで消失した。ドラゴンは少し宙に浮かびかけたが、スペースが小さく、大きく翼を広げていられないようだ。
「隙だらけだな! ラン!」
サラはドラゴンの喉元に正確に雷の魔法を放った。しかし、警戒したドラゴンは首をひねって魔法を避ける。
頭にアイラの魔法が直撃したことで、警戒されたらしい。
ドラゴンが地に完全に降りた瞬間、俺はドラゴンの右翼の下に支配紋のついたうろこを見た。
「翼の下かよ!」
かすかに見えた紋章はしずくのような形。おそらく水の支配紋だろう。
右の翼にあるということは……。
ちょうど俺と逆側に逃げていたアイラが大きな声を上げる。
「こっちの翼の下にもあったのです!! 雷のようなマークなのです!!」
俺は冷静にドラゴンの姿を観察する。現状、頭にあった火の支配紋を潰し、首に1つ、翼の下におそらく水と雷の支配紋を2つ確認出来ている。
「ということはあと一つだな。」
そして、その二つは風と土の支配紋か?
「アキヤマさん! 危ないのです!」
アイラの忠告でドラゴンが俺に視線を向けながら翼を広げていることに気が付いた。しかし、気づくのが少し遅かった。ドラゴンは翼を大きく振りかぶり、俺に向かってひとなぎ。
すると、一瞬にして翼から放たれた猛風が俺を襲った。成すすべもなく、風は俺を直撃し、俺の体を運んでゆく。強い衝撃の後、自分が横になっていることに気が付いた。
洞窟の壁にぶつかったのだ。俺は背中が猛烈に痛むのを我慢しながらドラゴンの様子を伺った。幸いドラゴンは追いかけてとどめを刺そうとはしてこなかった。
「アキヤマ! 大丈夫か!」
サラが駆け寄ってくる。しかし、俺は痛みに地面に伏せたまま。こんな痛みは長らく味わったことがなかった。交通事故にあって以来だろうか。もう記憶すら怪しい。
「だ……いじょうぶに見えるか……?」
「軽口を叩けるならまだ大丈夫だな。済まないが荒療治だ。」
サラは俺の体を横向きにすると、俺の唇を奪った。
「お師匠様!!??」
後ろでアイラの悲鳴が聞こえたが、俺はそれどころではない。幼女の姿を持つ者に唇を奪われていることもそうだが、背中の痛みが尋常ではなかった。
その痛みが、どんどんと和らいでいくのを感じた。
「な……何をしたんだ?」
俺は少し顔を赤らめて聞いた。幼女とはいえ相手は年上だ。
「直接アキヤマくんの体に魔力を注入した。私の魔力は濃厚でな、人の生命活動力を底上げすることが出来る。つまりは回復力の強化だ。ただし二度は使えん。中毒になるからな。」
サラは舌で自分の唇を舐めた。
「中毒になりたいのであれば、止めはしないがな。」
「お師匠様!!??」
叫ぶアイラをよそに、俺はドラゴンの様子を再度観察した。しかし、ドラゴンは攻め入る様子を見せない。
「なあ、サラ、アイラ。あのドラゴン、何かおかしいと思わないか?」
「え……?」
アイラは冷静になってドラゴンを見る。
「どこがです?」
サラは俺の言葉の意味を理解したようで、こう言う。
「ああ。おかしいな。敵が遠くで寝転がっているのに、追撃の様子を見せない。あの大きな体をあそこから動かそうとしていない。」
「もしかして、後ろの扉を守っているのか?」
俺の質問にサラは首を横に振った。
「いや、扉はおそらくあのドラゴンを何とかしないと開かないようになっているだろう。なんて言っても相手はあの底意地の悪いマドルカだ。眠らせたりしてこっそり通り抜けようとした者に絶望を与えようとするだろうさ。」
サラは口を歪ませる。余程嫌いなマドルカの性格を理解しているのだろう。
「なるほど……じゃあなんでだ?」
「わからん。なんらかの理由はあるだろうが、今気にしている余裕はない……な。」
サラはドラゴンを指さした。静かになったと思っていたドラゴンが尻尾を立て、尻尾の先には黒い水の塊が集まっている。
「おいおいおい! なんだあれ!?」
俺は訳も分からず叫んだ。
「わからんが、危ないことだけはわかる! 一旦散開!」
サラが言うと同時に、ドラゴンは尻尾を俺たちに向かって振りかぶった。
一気に死の気配を感じる。俺は必死にドラゴンに対して右側に走り始めた。サラとアイラが逆側に走っているからか、ドラゴンはあちらを向いている。
「こういうときに素直に喜べる性格になりたかったもんだな!」
俺はあえて立ち止まり、ドラゴンを睨みつける。
「竜だかなんだか知らねぇが、俺の仲間に手を出すんじゃねぇ!」
俺は啖呵を切った。ドラゴンの注意が明らかに俺の方に移ったのが分かる。
「ばか! アキヤマさん! こっちは二人いるんです!」
「そうだぞ! 防御魔法も二人分だ! 心配するな!」
アイラとサラは言ったが、俺の本能があの黒い水はやばいと明確に告げている。
「水相手なら、雷しかないよな。」
俺はリブロを握りしめる。雷の章はまだ試せてない。正常に働くかどうかは賭けみたいなものだ。
「でも! やるしかねぇ!」
俺は告げる。
「ラン! チャプター6! 雷の章! 攻撃!」




