封印の洞窟②
「な、何が起こった!?」
俺はイカバネのそばに駆け寄ったが、イカバネの頭蓋は圧縮機に掛けられたアルミ缶のようにぺしゃんこに潰れてしまっていた。
急な吐き気が俺を襲うがなんとか耐える。
「やっぱり罠の位置はランダムに変わるみたいだな」
サラは何の感慨も無くそう言うと、イカバネに向かって手を差し伸べた。
「さぁ生き返りて我が身代わりとなれ。イカバネよ」
サラがイカバネの亡骸に触れるとイカバネの頭部がぼこぼこと首から隆起した。見ているだけで吐きそうなほどグロテスクだ。
「うー」
相変わらず言葉は話せないみたいだが、イカバネは完全に先と同じ姿に戻っている。
「おい、これ、いいのかよ」
何もなかったように進もうとする二人に俺は言葉を投げかける。
「いいって、何がだ?」
サラは立ち止まって振り返る。それに続いてアイラも。
「何がって、イカバネに決まっているだろ。こんな、モノみたいな使い方、見逃せねぇよ。特に、信頼しているお前らだからこそな」
俺が言うとサラは眉を顰めた。
「一体何をそんなに必死になっているんだ?済まないが、気を悪くした理由が本当にわからない」
「はぁ!?こんなにいたいけな少女を痛めつけてなんでもない顔をしていることだよ」
俺はイカバネの姿を指さす。イカバネは話の内容がわかっているのか、わかっていないのか、指さした俺の指を甘噛みした。
体温を感じない口の中に、ぞっとする。
「アキヤマさん。イカバネは、魔物なのですよ?敵、なのです」
初めて見るアイラの冷たい目。黒い双眸が俺を射貫く。
アイラは少しはこちらの味方をしてくれるようと思ってたんだが……当てが外れた。
「今は仲間だろ?」
俺の言葉にアイラはむっとする。
「アキヤマ君。一つ言っておこう。これは大切な話だ」
サラがおもむろに話し始める。
「あ、ああ。なんだよ」
「高い魔力を持つ魔物は、しばしば人の言葉を話し、そして人に似た姿を取る。人に似てるかどうかは問題じゃないんだよ。魔物はすべて敵なんだ。だから、これのことは気にするな」
サラはため息を吐く。
「気にするなといって気にしない君じゃないか……。それじゃあ、方針を変えよう。君みたいな優しい……いや、生ぬるい奴には、こう言うことにしよう」
サラは深呼吸して何かを決心したのか、俺を睨んだ。そして、口を開くには。
「文句を言うなら、代案を出せ。無いなら黙っていろ。お前の目的を違えるな。救おうとする者を間違えるな」
重い空気が洞窟内に流れる。イカバネが「うー」と唸る声だけが洞窟に響いた。
俺は何も言い返せずに押し黙った。
確かに、俺はただ駄々をこねているのと一緒か。
俺の目的は、サラを助け、そしてシンシアを救い出すこと。そのためには、この洞窟の攻略が不可欠。俺が先を進めば、真っ先に死んで終わりだろう。
「あの、あの。お師匠様も仕方なく言っているだけなのです」
アイラがあたふたと俺とサラを交互に見て俺にフォローを入れた。俺はその様子についふふっと笑いがこみ上げてきた。
「わかってるよ。じゃあ、俺からの頼みだ。少しでいい。ほんの少しでいい。もう少し彼女に優しく接してやってくれないか」
「まぁ、それぐらいならば、構わないとも」
サラはイカバネに近づくと、頭に手を当て「さ、1号。私のために一緒に戦ってくれるか」と問うた。
1号って……。まぁいいわ。
1号はサラの言葉の意味がわかったのか、少し元気に「うー!!」と返事すると、意気揚々と歩き始めた。
俺たちは、その後ろを付いていった。古典的な罠である落とし穴を始めとする様々な罠が俺たちを待ち受けていた。
1号は……全身を串刺しにされても、切り刻まれても文句一つ言わずに先頭を歩いてくれた。文句を言わないのか、文句を言う知能すらないのかすらわからなかったが。
外からの明かりは遮断されたが、代わりに洞窟の壁面には松明が灯っている。俺たちは何もしていないが、多少のホスピタリティが制作者側にもあったのだろうか。
1号を先頭にして歩くこと1時間。俺たち三人は自然の造形の洞窟とは似つかわしくない重い錆びだらけの金属の扉の前までたどり着いた。
息を整える間もなく、扉に刻まれた魔法陣が光り、俺たちの前に一人の幼女の姿が現れる。その幼女は、眼鏡に白衣を着用し、銀の髪は腰の位置まであり、三つ編みで纏められている。手に持つ杖の先には緑色の水晶玉が付いている。
「やあやあ、挑戦者諸君。よくここまで来たものだな。褒めてやろう」
サラの表情が明らかに変わるのがわかった。
と言うことは、こいつがサラの言っていた……。
「マドルカ……!?貴様……のうのうと……」
憎しみにサラの顔に力が入る。その凄まじさはもうR18Gの域だ。
サラの言葉にマドルカは反応しない。
よく見るとマドルカに実体は無く、触ってもすり抜けるだけ。ホログラムのようなものらしい。
「ここまで来たからには、それなりの猛者なのだろうが、引き返すことをおすすめする。この先にはたいしたものは存在しない。あるのは精々生き遅れババアのハートぐらいよ」
けけけといやらしい笑いをはき出すと、マドルカは真面目な顔に戻る。
「それでも先に進むというなら、止めはしない。ただ、死は覚悟しておくことね。それでは、死が私たちを分かつことがなければ、この先でまた会いましょう?」
その言葉を最後にマドルカの姿は煙のように消えた。
「クソむかつく顔だったな。本当に」
サラは震えながら顔を両手で押さえて怒りを抑え込んでいた。
触らぬ神に祟りなし。
「サラはこの先、どこまで進んだんだ?」
俺は話題を変えた。変わっていないような気もするが。
「この扉の先までだよ。魔力の芯がない状態でアレは倒せなかった。攻略の糸口さえ見つからないまま、私は命からがら逃げ帰ったのさ」
サラは金属の扉を指さす。
「アレって?」
俺が聞くと、サラは一息開けて答える。
「それは……見てのお楽しみだ」
サラは扉に手を掛けた。
俺とアイラは生唾を飲んでその様子を見守る。サラが手を掛けた途端に扉の魔法陣が再び光り、扉は開かれた。




