サラ先生の魔法講座・最終編③
「無抵抗な相手に攻撃するのは気がひけるが、本気でいかせてもらうぜ」
俺は魔法陣の書いた紙を構えて言う。
球の中からサラの声が返ってくる。
「誰がいつ無抵抗だと言った?」
「は?」
俺は耳を疑った。だって、そういう試練のはずだろ?
「さっき、そう言ってただろ?」
「あれ? そんなこと言ったっけ? やっぱりやめ! それじゃつまならないからな!」
「はああああ!?」
相変わらず、むちゃくちゃな奴め。
「来ないならこちらから行くぞ。アキヤマくん。ラン!」
サラの籠もった声。サラの魔法が実行され、球体からとげのようなものが飛び出してくる。それは俺めがけて高速で飛翔した。
「くそ! 結局命懸けなのかよ!」
俺は逃げ惑いながら魔法陣を構える。今回は短期決戦だ。
この魔法は位置の見極めが肝心だ。球の位置までの距離を目算で出すと俺は魔法陣を発動させる。
「ラン!」
発動した魔法は、まず基準となる座標を決定するところから始まる。サラの位置を中心にすることは成功。
そこから十字に魔法陣が4つ外に勢いよく飛んで行き10メートルほどのところで止まった。次にそれらの魔法陣が同時に発動し、風魔法が螺旋状に舞い上がっていく。螺旋の風の流れはどんどん早くなって行き、サラの入った球体を包み込んだ。
悩みに悩んで絞り出した答えは、『parallel』。
魔法文の最後に『end』ではなく『,to circle 2 and 3 and 4 and 5 in prallel』とすることで魔法陣の並列処理を可能にした。並列処理によって一つの魔法陣に割かれる魔力は減り、風魔法の螺旋は効率的に力を増して行った。
「なんだこの魔法は!? うわぁぁぁぁぁ!?」
サラを包みこんでいた土の球体は割れ、中から鎧に身を包んだサラと盾が露出する。風の刃の勢いはどんどんと増していき、サラの盾は縦横無人に切り刻まれ、とうとうサラ本体の鎧にまで傷をつけ始めた。
ようやく勢いが止まると、目の前には、鎧を打ち砕かれ、ほぼ裸で横たわるサラの姿があった。しかし肌には傷一つない綺麗さだった。それは暗に、最後の防御壁は、俺の最大魔力を注ぎ込んだ魔法でさえ、傷一つつけられない要塞的防御力であることを示している。
生傷がないことを確認して、俺はホッとした。
「おい、大丈夫か」
俺はサラに駆け寄り、彼女を起こそうと背中に手を回す。
――問題はそれからすぐに起こった。
「今の音は何なのです!? 敵襲なのですか!?」
アイラはサラの家から出てきて、すぐにその惨状を目にした。サラは全裸で地面に横になり、俺はそれに覆いかぶさるような体勢。
「ぴゃーーーーーー!? お師匠さま!?」
アイラは狼狽しながら叫ぶ。そして混乱しながら俺を睨む。声も出さず、口パクだけで、
「オ、マ、エ、ヲ、コ、ロ、ス」
「いや、あの。誤解だから。本当に、誤解だから。修行の一環で」
俺はじりじりと後ろに下がりながら言い訳を探す。しかし、いい言葉が見つかる前にアイラの怒りが爆発する。
「修行の一環でお師匠様を裸にひん剥いて襲いかかるのですか!? 問答無用、なのです! エクスボア!」
アイラは俺に向かって右手を突き出し、インクルードした魔法を放つ。右腕の光り具合からして、彼女の魔法は以前見たときより、明らかに力を増している。
――死。
思わず頭に浮かんだのは、その一文字だった。
刹那。
俺はポケットから一冊の本を取り出した。それは、本であり、魔法陣の集合体でもあった。
「ランーチャプター0、ゼロの章。食え。リブロ」
本が光り、アイラの魔法が俺に近づいた瞬間、彼女の魔法を包み込んだ。
そして次の瞬間。
まるで風ひとつ吹いていなかったかのように爆発は消え去った。
「出来たら、隠しておきたかったんだけどな」
俺が言うと、アイラはぽかんとした顔で放心した。目の前で起きたことを処理仕切れなかったのだろう。自分が俺を殺すほどの威力で魔法を放ってしまったことも、俺がその魔法を目の前で消し去ったことも。
「な、なんだね今の魔法はぁ!?」
文字通り丸腰のサラが起き上がり駆け寄ってくる。
服を着ろ、服を。
「てか、起きてたのかよ!!!」
「あぁ。面白そうだから寝たふりしてた」
俺の渾身のツッコミを真顔で返すサラ。フザケンナ。
「そうです! 今の魔法は何なのです?」
アイラもにじり寄ってくる。
「いや、まずは落ち着け、な?」
「教え給え!」
「教えるのです!」
すぐ目の前にはサラとアイラの顔。
俺は爽やかな青が広がる空を見上げる。
これは、散々な一日になりそうだ。




