鍵となるのは②
「ああ、そうだ。おそらく、血統によって引き継がれる何らかの要素を軸にすることで先祖代々伝わるようにできたんだろう」
サラはカップに入った液体を啜った。
「ちょっと待ってくれ。そんなことができるのか? 俺以外に魔法文を読める奴がいたってことか?」
「そうだったかもしれないし、もともと知っていたのかもしれない。なんてったって、ロマネスク王朝は元々、憤怒の魔女、アレクシーナが協力して作られたんだからな」
サラの口からどんどんと新しいワードが出てきて混乱する。
「それは有名な話なのです。かの魔女なら、可能だったのかもしれないのです」
アイラは頷くが、俺は全く納得できない。
「いやいやいや、初耳なことがありすぎるんだが、その魔女は一体今どこにいるんだ? 会って話を聞くことはできないのか?」
俺が興奮気味に言うと、サラはフリーズした。
「それはちょっと無理かもしれないね……申し訳ない……」
「なんでサラが謝るんだ?」
聞くとサラはまた顔をしょぼくれさせた。
そして言うには。
「食べちゃったから……」
「「は?」」
俺とアイラは同時に発声。
「てへ」
サラはぺろっと舌を出す。
「いやいやいやいや。……え?」
正直、ドン引きだった。
「食べたの? 魔女を? サラが?」
俺が聞くとサラは黙ってうなずいた。
「いや、ちょーっと前に喧嘩になって、気づいたら、ぺろりとサ」
サーっと血の気が引いていくのが分かった。隣でアイラも絶句している。
「一つだけ教えてくれるか?」
「な、なんだね?」
「人間は食べたことないよな?」
俺は恐る恐る聞いた。
「ないに決まっているだろう! 馬鹿を言うな! 原始の魔女しか食べたことはない! 大体私が食らうのは生物ではなく、魔力だ」
「人間は魔力が少ないからって話か。なるほど。……でもその口ぶりだと、他にも食ってるな?」
俺は冷たい視線をサラに送った。
「いや、そんな目で見ないでおくれよ。アイラ君も。私だって食べたくて食べるわけじゃないんだよ。胃がねじ切れるほどの空腹状態で、目の前に濃厚な魔力の塊があったら食べてしまうのも無理はないだろう?」
サラの蒼い目は、必死で無実を訴えていた。本気で俺たちに嫌われたくない顔をしてる。
確かに、俺たちはサラの事情を知らない。少し話を聞いただけでわかった気になるのも良くないだろう。
「わかった。とりあえずはいいよ。それで? 他にどの魔女を食ったんだ?」
俺は聞くとカップに入った茶のようなものに手を付けた。フルーティな香りが鼻の奥へと広がる。
「嫉妬以外全部……」
サラの言葉を聞いて俺は紅茶を吹き出した。サラはまるでおやつを勝手に食べたペットのようにしょんぼりとしている。その様子に責めようにも責めきれない。
「お師匠様……」
「違うんだ。聞いてくれ。私は君たちを信用しているからこそこうして正直に話しているんだ。そこは分かってくれ」
サラの弁明。
「わかってるよ。続けてくれ」
「うむ……。あれは、悪夢だよ。私たち魔女は、元々七人いた。でも、なぜかお互いが不自然なほど嫌いあっていてね。会うたびに殺しあっていた。何て言うのかな。目にすれば自然と腸が煮えくり返るような、そんな感覚だよ」
「へぇ……」
よくは分からないが、俺もこの世界のことを知り尽くしているわけじゃない。真実なのならなんらかのからくりがあるのかもしれない。
「それで、お師匠様は強すぎて五人の魔女を倒したのですね!?」
アイラは一転目を輝かせた。
ああ、こいつお師匠様武勇伝大好きだったっけ。
「そ、その通りだ。でも、唯一私の前に一切姿を現さない臆病者がいてね。五人を食べたあとの私は強大な力を得たこともあって傲慢になっていた。あ、もちろん人間には手出しをしていないぞ? 人間には敬意を払えと叩き込まれたからな」
ん?
なにか引っかかるが……。
「油断していたんだね。私は。嫉妬の魔女、マドルカの策略にまんまとハマって心臓を封印されたというわけだ。魔石を囮にして罠にかけるなんぞ。あの糞女が……」
サラの目つきがギラリと鋭くなる。しかしそれはすぐに戻った。
「ともかく……。あれ? 私はなんの話をしていたんだっけ? そうだそうだ。元はロマネスク・ホーンの話ではないか。憤怒の魔女、アレクシーナは、ユニコーンを生み出し、王家の守護に就かせた。それ故、この魔石には王家の血統にだけ反応して魔力を与える効果がある。もちろん、一度きりしか使えないし、その知識は王家には伝えられてはいないが。私もアレクシーナから聞いた話だ」
サラは一呼吸開けて続ける。
「もちろん、副作用がないわけではない。それでも君がやるというのなら。アイラ君。これをもって、唱えるのだ!」
サラは魔石をアイラに渡した。
アイラは戸惑いながらも決意を瞳に灯した。
「わ、わかったのです!! お師匠様を、シンシアさんを救えるのなら!! なんだってするのです!! ラン!!」
アイラの声に呼応して魔石が輝き始め、アイラを覆っていく。
光はだんだんと増していき、俺は思わず手で光を遮った。しばらくして光が収まると、アイラは床に倒れていた。
「アイラ!?」
俺が近寄ると、サラは言う。
「しばらくは目を覚まさないだろうさ。ベッドに連れて行ってやってくれないか?」
「ああ!」
俺はアイラを抱きかかえるとベッドまで運んでいく。その体は火照り、触れると暑くてやけどしそうなほどだった。
「魔力をただ取り込むのではないみたいでね。魔力を使って魔力の大元を無理やり増強するんだ。だから体は悲鳴を上げ、高熱にうなされるそうだよ。悪ければ死ぬこともあると」
「そんな!?」
「でも、大丈夫だ。私とて策もなしに愛弟子を危険にはさらさないさ。アイラ君の元々の魔力のキャパシティなら耐えられる。絶対に乗り越えてくれるさ。それより、君もアイラ君の心配をしているだけではいけないのではないか?」
サラの双眸は俺の瞳を捉えた。
「言っておくが、君の相対したペガスス並みの力をアイラ君は手にするんだぞ? アキヤマ君も足手まといにならないように……って、アキヤマ君はそれを倒したんだったな。失礼失礼」
「いや。その通りだよ。俺はいつだってみんなの力を借りて危機を乗り越えてきた。ロザリオに勝てたのだって、あいつが油断してくれていたからに過ぎない」
俺は自分の無力さを振り返った。
「あの、本。……あれみたいな力があれば」
「本?」
サラはぽりぽりと頭を掻いた。
「もしかして、魔導書のことか?」
「知っているのか?」
「ああ、もちろんだ。というか説明してなかったか……。私の落ち度だな。完全に。いいだろう!ここで、再びこう宣言させてもらうことにするよ!」
サラは息をゆっくりと吸う。
そして高らかに。
「サラ先生の魔法講座・最終編といきますか!」




