幕間 〜封印の魔女〜
「だいたいなぁ、お前たち。幾ら何でも私を放っておきすぎではないのかね? ね?」
サラは相当ご立腹なようだ。
「すみません、お師匠様。私が攫われてしまっていたばっかりに」
アイラはショボンとして答えた。
「いやね、そういうことを言っているんじゃないんだよ。前回私が登場してからどれくらい経ったと思ってるのかね!?」
「いや、そんなに経っていないだろ。ちゃんと王都についてから連絡したじゃないか」
確かペガススと戦う前に一回通信したよな。うん。
「そういうことを言っているわけでもないんだよ! 8ヶ月! 8ヶ月!」
サラが何を言っているのか全くわからなかった。
「まぁいい。それはひとまず置いといて、だ。何があった? 報告したまえ」
サラは相変わらず偉そうに指図した。
「はい! お師匠様。不覚にも私が魔法教会の幹部、ロザリオに連れ去られ、結婚させられそうになっていたところ、アキヤマさんが助けてくれました。颯爽と……」
「アイラくんがうっとりしているところ悪いんだがね。アキヤマ。お前から説明したまえよ。簡潔にな」
サラはやや不機嫌そうな声で言った。
「ああ、アイラ奪還のため、俺たちは地下から王宮に侵入した。地下で幻獣ペガススと対峙し、これを撃退」
「角はちゃんと回収したか?」
「ああ、サラの言った通りに」
「よろしい。続けたまえ」
俺は咳払いをして続ける。
「ダニー、アラン、グランは地下で一騒動あったらしいが、その顛末は聞いていない」
「ああ、それについては興味はない」
味気ない返事だ。
「その後、王宮を登っていき、魔法教会のジュリオン、アレスと対峙。シンシアと紅蓮の牙のグレイシーがこれを撃退。異様な様子のアリスが現れ、ジャックが対峙する。時間は稼いでくれた。俺は単身頂上へと向かい、結婚させられそうになっていたアイラを奪還するため、ロザリオと対決。これに勝利した。間一髪だったがな」
「ほう、期待してはいたがすごいな。さすがだぞアキヤマくん」
そう言われると照れるな。
「いや、ただ相手が油断をしていただけだ。俺の仕込みがうまく行ったっていうのもある」
「その仕込みについては今後じっくりと聴かせてもらうとして。そのあと何かあったんだな?」
サラの声色がシリアスに変わる。
「ああ、その通りだ。アリスはジャックを倒し、登ってきたシンシアを気絶させ抱えて上に登ってきた。アリスはロザリオを始末してシンシアを攫って行った。神都に来れるなら来てみろと言い残してな」
「なるほど。それで私の力が必要になったってわけか。それにしても、シンシアを連れていくとなると、目的は何らかの魔法実験か……?」
「本来の目的は果たせたとか言っていたから、シンシアは奴らにとってそうとう大切なものらしいぜ」
「なるほど……ならこうしてのんびりしている暇はないな。すぐにこちらに戻ってこい。転送魔法陣の結点はこちらに用意しておく。アイラにもたせてある転送魔法陣を起点にして戻ってこい」
アイラの方をみるとアイラは黙って頷いて自分の荷物の中を探って一枚の折りたたまれた紙を取り出した。それをレジャーシートのように広げて、起動しようとした。
「あ! ちょっと待て!」
サラの大きな声でそれは中断された。
「なんだ?」
「危ない危ない。結点の転送魔法陣をそちらの誰かに渡しておけ。私ともどもロマネに戻らねばならんだろう」
「確かに」
それから俺たちはジャックにアイラが同じく持ってきていた結点の魔法陣を渡した。それと交換するように牙型の通信魔法道具を渡され、いざという時に連絡するようにと言われた。
そんなこんなで準備の終わった俺とアイラは再び部屋へと戻り、床に広げられた転送魔法陣の上に乗った。
「じゃあ、行くぞ」
俺はアイラの目を見て言う。
「はいなのです!」
アイラもそれに答え、俺たちは身構えた。
「えっと、どっちが起動する?」
「アキヤマさんの魔力では長距離の転送に耐えれるか不安なので私がやるのです……」
格好つかねぇ。
「ま、途中で下ろされたりバラバラに転送されても困るしな」
「そうです……最悪の場合五体満足でたどり着けるとも限らないのです。昔事故があって魔力不足で……」
「ああ! いい! その話はいいからさっさとやってくれ!」
俺は想像して身が震えたので、アイラにさっさと舵を任せることにした。
「わかったのです。では、改めて。いきますよ。アキヤマさん」
アイラは再び俺の目を見た。
「ああ」
「ラン!」
アイラの小気味良い快活な一言で魔法陣は起動され、俺たちは馴染みのある小屋へと無事に転送されたのだった。
「やぁ。久しぶりだね。私が恋しくて仕方がなかったことだろう? まぁ今日だけは抱きついてくれてもいいんだよ?」
いきなり目の前に現れたサラは開口一番そう言った。相変わらず銀髪と蒼くて大きな目が特徴的で美しい。ま、幼女の姿には変わりないんだけどね。
「それじゃあお言葉に甘えて……」
俺はおふざけのつもりで12歳の容姿のサラに抱きついた。膝をついて、ちょうどサラの胸のあたりに顔がくる。少し柔らかい感触が顔にあたる。
しばかれることを覚悟してのものだったが、サラの反応は予想外のものだった。
「ば、ほ、本当にやるか!? 馬鹿者!? ……でも、そうだな。お前は本当によくやってくれたよ。頑張ったな」
最初こそ照れていたものの、サラは優しく俺の髪を撫でてくれた。
「ずるい……のです。私もなのです……」
長距離転送魔法で体力を使い切ったらしいアイラはよろよろと歩きながら俺の隣でサラに抱きついた。アイラのこともサラは優しく撫でて、アイラの猫耳がうれしそうにピョコピョコと跳ねた。
その様子を見て我に返った俺は今の絵面が大変なことになっていることに気づいて、抱きつくのをやめた。
「あら、もういいのかい?アキヤマくん」
サラは面白いものを見るような目で俺を見据えた。
「ああ、十分だ」
というかそもそもおふざけのつもりだったんだがな。
俺が正気に戻ったのを見て、アイラも正気に戻って顔を真っ赤にして立ち上がった。
「す、すみませんお師匠様!」
「いいんだよ。アイラくんも頑張ってくれたからね。そうだ。疲れただろう。まずは食事でもしながら話そうじゃないか。今後のことをね……」
サラはキッチンへ向かい、魔法を使わずに手で料理を運び始めた。
「あれ? 魔法は使わないのか?」
俺が聞くとサラは困ったような顔で答える。
「いやね。最近どうも調子が良くなくてね。……というか、そろそろ限界というか……」
「どういうことだ?」
「それも含めて食事を摂りながら話そうか」
サラはにっこりと笑って言った。髪で隠れた右目がちらりと見えたが、瞑っていて目そのものは見えなかった。サラはテーブルに色とりどりの料理を並べ、アイラと俺を座らせた。
「それじゃあ、いただくとするかね」
「「いただきます」」
俺たちはひとまずサラの手料理を堪能し、幾百年の歴史仕込みの料理の味を楽しんだ。再会を祝して、旅の些事を話しながら。そして、話題はこれからのことに移行する。
「それで……これからのことなんだが。神都の結界を崩せるのは、お前たちの予想通り私ぐらいのものだ。もちろん、幾百年生きる魔女ならば可能だが、他に私は魔女に心当たりがないしな。これだけ世界から冷遇されれば必然的に身を隠すものだし。しかし、私は以前言ったとおり、ここから動くことができない」
「それは、封印とやらが関係しているんだっけか?」
「ああ。その通りだ。私の心臓はとある魔女によってもう数えるのを忘れたぐらい昔からこの近くの洞窟に封印されている。忌々しいことにな。今考えても腹が立つ。あのノロマでグズなブス魔女が。今度見つけたら八つ裂きにすると心に決めているよ」
サラはにこにこしながらそう語った。
怖いよ。幼女の姿でその言葉遣いやめて。
「私たちがその封印を解けばお師匠様はここから出られるというわけなのですね!」
アイラは嬉しそうに猫耳を跳ねさせながら言った。
「ああ。その通り。……だが、問題はその封印が私を持ってしても100回以上挑戦しても解くことができないほどの陰湿な封印だということだ」
サラの言葉にはところどころに棘がある。相当その魔女が嫌いなんだろうなぁ。
「それでも俺たちはやらなきゃいけない。そうだろ?」
「そう……だな。それがありがたい。実のところ、私の体力ももうそろそろ限界なんだよ。心臓が封印してあるわけだからね。魔力量は本来の10分の1にも満たない上に、年々それも減り続けている。心臓を魔力で代わりに動かしているから、新たな魔力も生成できない。封印が解けなければ私はもうすぐ命を落とさざるを得なかったんだ」
「そんな!?」
アイラは心配そうに叫んだ。
「でも、君たちが封印を解いてくれるのだろう?」
サラは俺たちを見て聖母のような笑みで言った。その表情には並々ならぬ思いが隠れているような気がした。
「ああ、そうだな」
「よし。それじゃあ、まずは!」
サラは一転元気な声で言う。
「まずは?」
俺が聞き返すと、サラはまた元気な声で。
「修行! だな!」
そうして、俺とアイラはサラの封印された心臓を取り戻すために再びサラの指導を受けることになったのだ。
そしてここから、俺の旅はさらに過酷さを増していくことになった。
本章はこれで終わりとなります。
次章はサラの出番だらけですのでご期待ください。
今書き溜めているのでしばらくしたら
一気に更新予定です。




