幕間 〜出番〜
あんなことがあってから、俺たちはまずジャックを回収しに向かった。
幸いジャックは生きていた。ボロボロではあったが。ぼろ雑巾のようになった姿で俺たちの姿を確認した際には、しきりに、何度も「すまない」と「あいつはやばい」を繰り返したのが、まるで別人のようでなんだか寂しかった。
さらに地下では串刺しになったアランと気を失ったダニーが紅蓮の牙の救出メンバーによって救出された。グランは既に息耐えていたが、アランはギリギリ息をしていたとのことだ。
紅蓮の牙には医療班があるらしく、彼らによって医療魔法がかけられ、命は取り留めたとの知らせを聞いて俺たちは安堵した。
一方で、医療魔法を受けた後のジャックは紅蓮の牙御用達の宿屋でグレイシーによって看病され、俺とアイラもそこに集まってこれからの話をすることになった。
「悪いな。まだ病み上がりだって言うのに」
俺が言うと、ジャックは「ガハハ」と笑った。
「気にすんな。もう体は大丈夫だ」
ジャックはベッドから上半身を起こして言った。包帯だらけの体は全然大丈夫そうには見えないが。
「そうか。なら、今後の話をさせてくれ」俺は提案する。
「今後か……。一緒にいたお嬢ちゃん、シンシアちゃんが連れ去られちまったんだってな」
「そうだ……」
俺が返すと、ジャックは申し訳なさそうにうつむいた。
「すまねぇ……オレが何とかしなきゃいけねぇ相手だったっていうのに」
「いや、そんなの気にしても仕方ないさ」
「優しいな、アキヤマは」
ジャックは苦笑した。
「シンシアさんは、神都というところに連れていかれたとアリスさん本人が言っていたのです」
アイラは俺たちの会話に割り込んで言った。
「おおそうだ、その話だったな。神都、といっていたのか? あいつは」
ジャックは口元に拳を当てて考えた。
「神都っていうのは?」
もちろんこの世界の知識が大してない俺は神都という言葉は初めて聞いた。
「ああ、アキヤマさんは聞いたことがなかったのですね。神都は魔法教会の総本山とも言える都市なのです」
「総本山……か」
「並大抵のことで行ける場所じゃねぇぜ」
ジャックは言う。
「あそこは、魔法教会に属する、それも上位の魔導士じゃなければ立ち入ることすら出来ないことになっている。いわば禁制の地だ」
「禁制の地か。でも俺たちはシンシアを必ず取り戻さなければいけない。進入する方法はあるのか?」
俺はジャックのそばに控えるグレイシーに視線を送りながら聞いた。
「そうだな、グレイシー、詳しく説明してくれるか?」
ジャックが言うと、秘書のような見た目だったグレイシーはぴしっと姿勢を正してから話し出した。
「神都アポロスフィア。ここから遙か北に位置する独立都市です。魔法教会の幹部クラスのみが立ち入ることを許され、内部では様々な魔法の研究がなされていると聞きます。そのため、都市に入ることは難しく、特に都市を覆う巨大な結界が進入を阻みます」
「結界だって?」
「ええ。どのような仕組みなのかは分かりませんが、強力な結界がアポロスフィア全体を覆っています。未だかつて結界が破られた事はなく、正真正銘魔法教会の者しか中には入ったことすらないのです」
グレイシーは言い切った。
そこまで言うからには、そうとう強力な結界なのだろう。
「でも……俺たちはそこに入らなきゃいけないんだ。何か方法はないのか?」
「そうです! 私を救うために頑張ってくれたシンシアさんを放っておけないのです!」
俺の言葉にアイラが続いた。
「方法ですか……。私の知る限りでは結界を敗れる人物は思い当たりませんね。魔法の事を知り尽くした何百年も生きる魔女ぐらいしかどうとも出来ないんじゃないでしょうか……」
グレイシーはうつむいた。
それにジャックも続いて「でも、魔女なんかそう簡単に見つからねぇしなぁ」と嘆く。
「ん?」
待てよ。
ふと、アイラと視線が合った。
「アキヤマさん、もしかして」
アイラは俺にきらきらした目を向けてくる。
……そうだ。
俺には、魔女の知り合いが一人だけいるじゃないか。何百年も生きて、魔法のことを知り尽くしている魔女が。
「俺はその魔女に心当たりがあるかもしれない」
「なんだと!?」
ジャックは目を大きく開けて驚いた。
「その人は、私の師匠で、とある場所から動けないのです」
アイラは言う。
「その人ならもしかしたら結界を破れるかもしれないのです!」
「なら早速その人の元へ。……でも動けないのでは神都の結界は破れないのでは…?」
グレイシーの言う通りだった。
サラは、未だにあの始まりの町の近くの家で引きこもり生活をしているのだ。そして彼女はあそこから動けない。封印がどうとか言っていた気がするけど。その封印を解く必要があるようだ。
「それは俺たちが何とかする」
俺は断言した。
シンシアのためにも、サラのためにも。
「やってやるのです!」
「ガハハ!そいつは頼もしいな。それなら、神都までの物理的な進入方法はオレたち紅蓮の牙に任せておけ」
ジャックは堂々と言った。
「ありがたい。それじゃあ、ミスリアのことも頼むよ」
「ああ、任せておけ」
「それじゃあ、早速俺たちは俺たちの旅の始まりの地でもあるルクスに向かうよ。移動はどうしようか……」
「もし向こうにその魔女さんがいるのなら、転移魔法を使ったらどうかしら? 転移魔法は起点と結点に魔法陣があれば移動できるでしょ?」
グレイシーは説明口調で教えてくれた。
そんな便利な魔法が。
そういや魔導学園でもなんかそんなこと言っていたな。
「いよいよお師匠さまの過去に踏みいることになるのですね」
アイラはごくりとつばを飲み込んだ。
「ああ……」
「隣の部屋が空き部屋になっています。もし転移魔法を使うのならどうぞ。ここで通信してもらってもかまいませんが、私たちに聞かれたくない話もあるでしょう?」
グレイシーがそう提案してくれたので、俺とアイラは隣の部屋へと移動した。
部屋に入るなり俺はポケットから通信の魔法道具である貝を取り出すと起動した。この貝もなんだか触るのが久しぶりな気がする。
「サラ。聞こえるか。サラ」
「お師匠様!」
「……ん……だ……」
「何だって?」
俺はすべてを聞き取れなかった。
「……ばん……だか……」
「通信状況が悪いのです!」
アイラは猫耳をピコピコと動かして師匠との会話への期待感を示した。
「私の出番はまだかよ!!!!」
久しぶりの会話、一発目は耳がキーンとなる一言だった。




