狂気インストール
5話目ですよろしくお願いします。
『はぁ…はぁ…っ……いっつぅううう!お前ら何してるんだっ!?あの高さから飛んだら、まだ身体が出来ていないお前らは死んでしまうぞ……はぁはぁふぅ。スリルを楽しむのは俺は否定しないが……限度があるんだよ。くそっ!あちこち痛いな……、今の時間病院受付してるよな?……っておい、聞いてるか…おい!死ぬんじゃない……おっ、おまえは……ああん?……ああっ、分かった。……、……。』
一度大きなノイズが現れると、次に視界が鮮明になると目の前に緑の髪の人がいました。
『ユ…トくん…は?』
『おうっ、生きてるぜ!だからおまえも……サクラも死ぬんじゃねえ!お前の彼氏も、横で寝てるぜ。もう直ぐ、救急車が来るってよっ……つぅ……俺も喋るのも辛いからよ。救急車が来るまで、近くで休ませて貰うぜ?』
私の顔を心配そうに覗きこんで居た緑の髪の人は、さっきまで掛けていなかったメガネを掛けていました。頬が土で汚れていて、身体のあちこちに私達をキャッチした傷や汚れで凄まじさを感じられます。
命の恩人の彼に何時か出会えたら、私はありがとうございますときちんとお礼が言いたいと思います。
『うぐっ……ううっ…』
『泣くんじゃねえよ……誰にだって危険と分かっていながら、冒険しちまう事ある。俺も、お前らの歳の頃に高い樹に登って大人に大目玉もらったもんだ。だから、次はもっと良く考えて、命の危険の無い危険に挑もうぜ?』
いや、この時の私の心の中では……ユウト君と一緒に天国に行けなかった後悔しかしてません……。
今も、緑の髪の人が傍を離れたら隣で眠っているユウト君の命を狙ってますよ私……。負傷しても歯を食いしばって愛する人の命を狙う事を諦めない過去の私と飽きやすい冷めやすいの今の私。過去と今、私に何があったのでしょうか?この後に分かると良いのですが、きっと良い所で目が覚めるのでしょうね。夢みたいに。
『しっぱい…した。しっぱいしちゃったぁよぉ……ごめんユウト君』
『何が失敗したんだ?……そんなに泣いて、あそこから飛んで何かしたかったのかおまえら?』
『ユウト君と一緒にね……』
『一緒にね……それで?』
『天国に行こうとしたんだけど……失敗しちゃった。えへへ……次は……もっと頑張らないと……ユウト君愛してる、だから待っていてね。身体が動けるようになったら、一緒に天国にいこうね……』
『何っ!?おいっ!おい!!起きろよサクラ!くそっ、医者になんて言えばいいんだよっ!!』
喋るのにも痛みが走るのに、良く喋りますね過去の私……。そしてそんな、やっかいな私の言葉を聞いた緑の髪の人の顔が百面相みたいに変わって……大変混乱してるのが分かり、本当にごめんなさい……。
そして恐らく最後の得大のノイズが視界を覆いつくすと、目の前に先ほどと同じく……私の事を凝視している成長したユウト君が居ました。
……あれから、どのくらい経ったのでしょう?私が回想していた体感時間は、結構なものでしたけど……ここではどのくらい経っているのか……あっスマホを見れば良い話ですね。うーん、時間が数秒しか経っていませんね。あの記憶を数秒で見せるなんて……私の脳はどんな構造をしていのでしょうね?
ズキン…ズキン…ズキン
ぐっ!頭がズキン…ズキン…として、しゃれにならない痛みがしてやばいですね……。それと頭の中に……今まで……両親とお医者さんに弱った身体の治療と言われて騙されて忘れさせられていた……過去の私の記憶が蘇ってきまし…た。何か……私の”何か”が変わっていきます。”サクラ”いやいや、私でも分からないほど、自分の心が変わって行くのが分かります……どうなってしまうのでしょうか?
「君は、もしかして”あのサクラ”なのか……?」
「んん?悠斗も姫ノ宮さんと知り合いでしたの?なら、もっと早くに姫ノ宮さんと出会いたかったですわ」
「まあ、俺の知っているサクラならだが……で、どうなんだ?」
そんな私に話しかける現在のユウト君……、嬉しい嬉しい嬉しい!あのユウト君が覚えててくれたよ!ずっと会えなかったから……私を置いて先に天国いったんじゃないかって心配したんだから。それと、水無瀬さん?私のユウト君にそんなに近づかない事と、気安く話し掛けないで。
私のユウト君に……水無瀬さんの匂い……がって、どうしちゃったのユウト君!?そんな俺なんて言葉、あの頃の優しかったユウト君は使わなかったよ!そうか……そうなんだ、あの日からだいぶ経ったから……横の水無瀬さんの匂いに毒されたんだ。だから、私が好きじゃない……そんな目をするんだ?
「………っ」
私は昔と違う印象のユウト君の問いに、一瞬思考が乱れて言葉を詰まらせてしまいました。あの優しそうな少年のユウト君がここまで、荒々しい雰囲気の青年に変わるなんて……幼い頃の私は夢にも思わないでしょうね。……あれっ、さっきまで私が私じゃなかったような?気のせい……嫌、記憶が戻って昔の私。狂った私と今の私の記憶が融合し始めて、過去と今の意識が混濁しているのかもしれないです……。
早く…一秒でも早くこの人達から離れないと、今の私が何をしでかすか私でも分からないです……。このまま無言でベンチから立って、早く教室に帰りましょう。
それで転校初日ですが、早退をして昔お世話になったお医者さんに見てもらわないと……。このままだと、私が私で無くなって……私が彼らを……。せっかく水無瀬さんと友達になったのに……。
私は荷物をまとめて傍から離れようと、ベンチから立って彼らから背を向けましたが……ユウト君に方を捕まれました。
「いっ……」
「そんなに力を入れるつもりはなかったんだがごめんな……だけど、俺にはどうしても確かめないといけない事だったんだ分かってくれよ」
ごくりと私は唾を呑み込む。私の肩に食い込むユウト君の硬い指の感触に、ズキンとする痛みを感じましたが……私はその痛みを嬉しいと思ってしまいました。ひさしぶりにユウト君に触れてもらえて、嬉しいともっと触れてと心からそう思ってしまいます。
……って黙って帰らせてくださいよ。本当にもう、ユウト君の事を好きすぎて……その逞しくなった身体をギュっと抱き締めたいじゃないですか?ああっ……もう、頭が可笑しくなりそうです。
さっさと答えて、帰らないと私じゃなくなる。
「ちょっと……!?ちょっと悠斗、女の子には優しくしなさいと何度言えば分かるのです!前々から思っていたのですが……」
「悪い可憐。……少し黙っててくれないか?今の俺は真剣なんだ。分かるよな可憐?」
「そう…なんですの。分かりましたわ、でも!わたくしの友達に姫ノ宮さんに、怪我させてはいけませんですのよ!もちろん、泣かせてもです!分かりました悠斗?」
「分かった…分かったよ可憐。さてと、もう一度聞くぞ?俺の知っている”あのサクラ”なのか……?」
ユウト君と水無瀬さんのやりとりを見ているととても……とても、不愉快な気持ちになります。この気持ちも過去の記憶が蘇った影響ですね。二人の長年一緒に生活してきて、お互いの考えが分かってますっと言う態度が気に入りません。……本当なら私がユウト君の隣に居たのに、なのに別の子が私のユウト君を取ってしまいました。いたっ……胸が痛い……本当に痛い。何で私の場所に水瀬さんが居るの?そこは私の場所なんだよ?返してよ……あの優しかったあの頃のユウト君を返してよ!
私は忘れていた想いもユウト君を愛した記憶をすべて思い出して、忘れていた私からすべてを取り戻した私に変わっていく……。ごめんなさい水無瀬さん、もう無理みたいです私。
「黙って無いで何か言ってくれよサクラ……。」
私はその声に従うように身体をユウト君に向けて、あの優しかった目元が険しい眼つきに変わってしまった目を見て口を開く。
「久しぶりです望月君。確か最後にあったのは……えーと、ごめんなさい。何故か思い出せません」
記憶を思い出す前の”私”でユウト君と話す事にした。だって水無瀬さんが見ているのに急に態度変えたら可笑しいでしょ?それにしても……すごく背が大きくなったねユウト君♪あの日のユウト君はまだ私と一緒の背丈だったのに、これだと運動でもユウト君に負けちゃってるよね?
やだっ!久しぶり会ったユウト君を見ていると頬が緩みそうだよ♪
「あの時の記憶が無いのか……本当に親父が言った通りなんだな。ごめんな、俺も最後に会ったのは何時だったか思いだせない。それにしても、サクラも大きくなったよな。……そういえば、昔ちょっと大きな怪我したって聞いたけど。今でも怪我の影響とか残っているのか?ええと、これはその俺個人の興味なんだ。だから、不快だったら答えなくてもいいぞって不快だったら本当にごめんな」
あの私への可笑しな治療の事をユウト君の親も知っていたの?もしかして、ユウト君の親があの可笑しな治療を勧めた可能性があるのかも。ならココで私が記憶が蘇ったってバレたら、またあの病院に戻されてしまいそう……。やだやだ、またあの白い部屋でユウト君を忘れていくなんて……嫌だ!
「えーと、私が昔大きな怪我したって誰に聞きました?私自身その事を覚えて無いから何とも言えないですけど……私の身体には、傷跡が残って居ないので、怪我の影響は無いと思いますよ?」
「実は病院に勤めてる親戚がそう言う話してたのを聞いたから、小さい頃遊んだサクラの事がずっと心配だったんだ。怪我の影響が無くて良かった」
ユウト君はあの日の怪我の心配を、してくれているみたい。あの日の怪我は幸いにも緑の髪の人のお陰で大事にならなかったけど、その代わりに……怪我の治療と一緒に頭の治療されちゃったけどね。
それで治療と言う名目で愛した記憶も想いも消された私は、別人のように何も興味も無いつまらない私になっちゃたけど……それって治療した事になるのかな?まあ、今はすべてを思い出したから別にどうでも良いけど。
「心配をおかけしました。今ではこの通り、普通に生活しています」
「普通に……ね」
「何か……私は普通じゃないところありますか?うーん……こう言う事は、他の人に言われないと気が付かないので遠慮なく教えてくれると助かります」
「いや……俺の気のせいだった」
ユウト君は逞しい腕を組んで、何か私に違和感を感じてるみたいだった。もしかして、私が過去の記憶を思い出したかもしれないと疑ってるのかな?
そんな事を考えていると、ユウト君は組んでいた腕を解いて私に手を差し出した。
「それから……久しぶりに会って、サクラは俺の事忘れてそうだから念のために自己紹介しとくぞ。俺は望月 悠斗。そこに居る可憐と同じでこの学園の二年生だ。何か困った事があったら俺か、可憐に相談すればサクラの助けになるぞ」
「私は姫ノ宮 桜です。今日転校してきたばかりなので、お二人を頼りにする事がありますがどうぞよろしくお願いします」
私はそう言ってユウト君の差し出した手を握る。ユウト君の手を握ったのはあの頃以来なので、懐かしくて恋しくて……この手をずっと離したくない。
このまま、ユウト君をどこかに閉じ込めてずっと一緒に居たいなぁ……。過去の私は一緒に天国に行って暮らす事ばかり考えてたようだけど、今の私は考える知識も手段もある。でも閉じ込めるにしても……まだ、場所も用意してないし。焦って失敗したくないから、じっくりと計画しないとユウト君とずっと一緒にいられないよね。うん、焦らないで私!
「ゴホン……ゴホン!そ、そろそろわたくしも、喋ってもよろしいかしら悠斗?」
ワザとらしく咳き込まないで、ずっと静かにしててよ水無瀬さんと思った事を口にしそうになった。
「あ、ああ……黙っていてくれてありがとう可憐。もう喋ってもいいぞ」
「それで……いつまで、姫ノ宮さんの手を握ってるのかしら。一応わたくしは悠斗の許婚でしてよ?例え手を握ってる相手がわたくしの友達の姫ノ宮さんだとしても、いつまでもそうしいるのでしたら……わたくしも良い気持ちしませんわ」
「悪かった可憐……つい懐かしくてサクラの手を握ったままにしてしまった。これから可憐の許婚として気をつけるよ」
水無瀬さんが悲しそうな声でユウト君にそう言うから、ユウト君が私の手から手を離しちゃった……あーあ、ずっと手を握っていたかったのに。でも……ユウト君もずっと私と手を握っていたかったのかな?そうだとしたら、嬉しい……けど。
さっき水無瀬さんから”許婚”って聞き捨てならない言葉を聞いたような?もしかして……あの日、ユウト君が言った親が決めた許婚って水無瀬さんの事だったの?もし、そうだとしたら……友達だとしても絶対に許せないよね。うん、絶対に。
水無瀬さんが居なければ……水無瀬さんさえ居なければ……!私とユウト君は離れ離れにならずに済んで、ずっと一緒に居られたのに。こいつが居なければ……ユウト君と一緒にこの町で過ごせた、例え学校が別々でもあの公園で待ち合わせして二人で放課後町で楽しい思い出を作れたかもしれない……。
……でも現実はたぶんこいつとユウト君が、私と作る筈だった楽しい思い出を作ってたに違いないと思う。私があんな事になったのだって、きっとこいつのせいなんだ。こいつが企んで無くてもユウト君とこいつの親が愛しあっているユウト君と私を離れ離れにするために、私にあんなひどい事したんだから。
それだけじゃない……。
私が涙をながしながらユウト君を愛した記憶も想いも忘れていくなか、水無瀬さんこいつはユウト君と一緒にいた。
記憶が消えてく苦しんで誰に話しても理解して貰えなくて、この想いを消したくないと泣いてる間……水無瀬さんこいつはユウト君と一緒にいた。
想いも愛した記憶も消えた私が異性の顔を認識できない事が原因で、前の学校で異物扱いされていじめられてる時に水無瀬さんこいつはユウト君と一緒にいた。
ああっ許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない……。返せよ……返してよ!私とユウト君のある筈だった思い出を!
ぎゅっ……。
手を握りすぎて手の平に爪が食い込んで痛い……でも悔しくて悔しくてその痛みを感じてないと、ユウト君の目の前で水無瀬さんの綺麗な頬を叩いてしまいそうだから。せっかく再会したのにユウト君に嫌われるのは嫌だから”今は”我慢して、ユウト君の前では”水無瀬さんの良い友達”として接しようと思うの……。
「どうしましたの姫ノ宮さん?わたくしの顔をじっと見て、何かついてますか?」
ここまで読んでくれてありがとうございます。