銀髪ドリルと赤い髪の彼
2話目で一話目から数年後です。
好きな人の記憶も想いも忘れた主人公。
★ 数年後
木の上で猫っぽい雰囲気の背の低いこの学園の青色の髪の男の子が寝て居ますが、落ちないのでしょうか?まあ、私には落ちようが他人なので関係ないですね。
はぁ、暑い夏が過ぎて、涼しい秋になり……暖かい物が食べたくなります。特にホカホカのおでんが食べたい……からしも少しつけて、「あついあついーでも美味しいの」って言いながら食べたいです……。
そんな事を考えながら、本から手を離して目を隠すような長さの前髪を手で弄る。
「それにしても……前髪を切っても切っても、目に掛かるくらいまで直ぐに伸びてきてしまうのですよね……」
これは……私の髪の毛に、なにか呪いのようなのが掛けられてるのでしょうか?そろそろ、お祓いしてもらったほうが良いのかもしれませんね。
この近くでお祓いしてくれる神社はどこかな?っと思っていると隣に何か途轍もない気配を感じたので、顔をそちらに向けると銀色のドリルがいました……。
「ル、ルビィちゃんが……現実に……」
えっ、ドリル……!?それにルビィちゃん?何を言っているのでしょうか。
今も「…現実にいるのですわ。きっと運命ですわ」と言ってるけど、運命?なにが?
「そこのあなた!特別にわたくしの友達にしてあげてもよろしくてよ?」
「え……」
「特別にわたくしの友達にしてあげてもよろしくてよ!」
「二度も言わなくても、聞こえてますよ……。ええと……私は今日この学園に転校してきたばかりなので、知り合いもいませんし。あなたと友達になるのは構いませんが……」
「ではわたくしとあなたは今日から友達ですわね♪」
「はぁ……よろしくお願いします」
何が嬉しいのか、ニコニコと笑顔のドリル……。
彼女はお昼休みに学園の庭のベンチで静かに読書している私の隣に座って、『私の友達にしてあげる』と言ってきました。傲慢な態度な彼女でしたが悪い気はしません。
私は前の学校でも友達と呼べる人達は居なかったので、彼女のようにはっきりと友達と言ってくる人は新鮮で友達作りが苦手な私にはあり難いです。
こうして私が小さい頃に住んでいた町に戻ってきてこの学園に転校してから初めて出来た友達は、健全な男の子達なら放って置かないだろうと思えるほどの恵まれた容姿に……思わず2度見してしまう、頭にドリルを装備しているのかと思える髪型の女の子でした。
そしてあの女の子の印象的な髪型。あの髪型は縦ロールって、言うんでしたっけ?まあ目の前の彼女の縦ロールはどうみてもドリルにしかみえないので私の心の中ではドリルにしときます。
それにしても本当にあの髪型にしてる人を、この目で初めてみました……。
巻き髪してる人は、さすがに見た事ありますがあんなにドリルにしてる人は見た事がなかったです。
ガクガクガク!
読んでいる途中の開いている本に赤色の栞を挟んで、パタンと本を閉じる。
その時庭に風が吹き、お隣の彼女からは甘いお菓子の匂いがした。
ここに来る前に、お菓子でも食べたのでしょうか?
ガクガクガク!
「あなたとわたくしは友達……ああ、友達。わたくしにもついに、友達が出来ましたわぁ♪」
「それは……良かったですね。それはそれとして、今すぐ友達の私の身体を……激しく揺らすのはやめて貰えますか?」
ガクガクガク!
「あら!?」
「……うっ」
彼女は頬を赤く染めて嬉しそうにはしゃぐのは、彼女の自由なので良いのですけど……私の二の腕を掴んで、私の身体を揺らさないで欲しいです。ううっ……食べたばかりのお昼のお弁当が、リバースしそうです。
彼女は私が青い顔しているのに気が付いたのか、そっと腕から白く美しい手を放してくれました。
「つい嬉しくて……ごめんなさい。あなたのお身体は大丈夫ですの!?」
「……大惨事にならなかったので大丈夫です」
転校した初日に嘔吐して、悪い意味で有名になるところでした……。
それで彼女は心配そうに、私の顔を覗きこんでじろじろと見ていますが……彼女の目はツリ目なので、何だか睨まれてるのか心配されてるのか分からないなぁーっと思ってしまいますね?
「本当に……大丈夫ですの?ね、念のために、わたくしのお父様が経営に携わっている病院のお医者様に検査してもらいましょう!ええと……携帯じゃなくて、スマホはどこにしまったかしら……?」
彼女が慌てふためきながら制服のポケットから防水対応の最新式のスマホを取り出したので、彼女が誰かに連絡する前に私がスマホを取り上げます。
少し気分が悪いですけど……うぷっ……お医者さんにお世話になるほどじゃありません。
「ああっ!わたくしのスマホを、返して下さいですの!後日、あたなが病気になって集中治療室に運ばれてからでは遅いですのよ!?今からお医者様に検査して頂ければ、あなたの助かる可能性が上がりますわ。だから、スマホを返して下さいですの!」
びゅん!すっ…。びゅん!すっ…。
「お、お、げ、さ……で、す、よっと」
彼女は両手を握り締めてふんす!ふんす!と鼻息荒くして頭を、激しく揺らすため。私の視界では、彼女の左右のドリルヘアが伸びて上下左右にムチみたくビュンビュン飛び回っています。
私は彼女の直ぐ近くに居るので、ドリルヘアがムチのように襲いかかってくるのを上半身をそらして連続回避しました。……このままでは彼女のドリルヘア(ムチ)が私の目に入ったら、本当にお医者さんのお世話になりそうです。おっと、鼻先を掠りました……もう勘弁してください……。
彼女の殺意溢れるドリルを止めないと、自身の目が危ないのでとりあえず動きを止める事にします。
ガッ!
「あうっ!な、何ですの!?突然、わたくしの高貴な頭を掴まないで欲しいのですわ?」
「突然、頭を掴んでごめんなさい。このままだと、ドリルに病院送りにされそうでしたので」
「ん???良く分かりませんでしたが……友達のあなたが言うのでしたら特別に許してあげますわ!」
自分のドリルがどれほど危険だったか、キョトンとした目をして何も分かってなさそうだけど……彼女に頭を掴んだ事を許して貰いました。
「それでその……わたくしのスマホを返してくださいますの?」
彼女の視線はスマホと私の顔をいったりきたりとさせて、さっきよりは控えめに私にスマホを返して欲しそうに言いました。
なんでしょう……彼女の今の表情を見ていると、子供からオモチャを取り上げたような罪悪感が沸きあがってきます。なんとか目は痛くなりませんでしたが、なんか胃が痛くなりそうです……。
「勝手にスマホを取り上げてすみません。でもこの通り、元気なので大丈夫です」
「後で少しでも具合が悪くなりましたら、わたくしに言いなさいね?約束ですわよ?」
「ええ、その時はお世話になります」
私は彼女に先ほど取り上げたスマホを返した。
私からスマホを受け取ると彼女はスマホの画面を何度か押して異常がないのを確認したのか、ほっとした表情で手元のスマホを大事そうにしています。彼女にとってのスマホは、私以上に大切な物なのかもしれません。
「気になりますの?」
私が興味深そうにスマホを見ているのに気が付いたのか、彼女は手元のスマホの画面をこちらに見えるように向けてくれました。……スマホの画面に映っていたのは、青色の髪の可愛い女の子の絵描かれていました。目がパチパチしたり、表情を変えたりして可愛いですね。けれど女の子の髪型と容姿が私と似ているような気がします。気のせいでしょうか?
んー、あれ?その女の子をどこかで見た事あるような……あ、そうです!テレビのCMで見たスマホ専用恋愛ゲームのヒロインの一人でした。
「恋愛ゲームの……」
「そうですわ。今わたくしのスマホの画面に映っているのは、今現在攻略中のお気に入りの子のルビィちゃんですの♪」
「へえ、そうなんですか」
「普段は主人公の好意に反応が冷たいのですけど、ルートに入って二人きりになると……もうっ!デレデレで最高に可愛い子になるのですわ!ですわ!」
やばいです……彼女が興奮をしてオーバーなリアクションつきで話を始めたので、またドリルがゆら…ゆら…と揺れ始めて『次は絶対病院送りな?』と言ってるみたいで……あのドリルから目が離せません。
何故かあのドリルから殺意を感じるので、直ぐ避けられるように身を引き締めます。
「そうですか、良かったですね」
「この子以外にも可愛い子が………」
一応ドリルに警戒して相槌しながら話を聞いてますが、恋愛ゲーム初心者の私にはさっぱりです。この話は何時終わるのでしょう……結構話をしてますが目の前の彼女の恋愛ゲームの話が止まりません。
それにしても……友達が出来たと喜んだ時より、恋愛ゲームの話をしている方が彼女の表情がニコニコと笑って嬉しそうです。こんなにも喋り続けるって事は今まで溜まっていた何かを、吐き出してる感じがしますね?もしかして、ずっと我慢していた恋愛ゲームの話を誰かにしたかったのかも?
「もうっ、聞いてますの?これからが良い所なのですわよ?」
相槌に疲れて適当になっていたのとこちらの隙を窺っているドリルに視線を向けていたので、私が話を聞いて無いと勘違いをしたのか、彼女は少し頬をぷく~と膨らませて拗ねてしまいました。
「ええ、ちゃんと聞いてますよ。病気でベッドから動けないヒロインのために、主人公が一生懸命ヒロインを看病すると言うところまで話をしたのを聞いてましたので続きをどうぞ」
「……聞いて無いと勘違いしてごめんなさい、わたくしの所の使用人に話をしても誰もちゃんと最後まで聞いて頂けないので……あなたもそうだと勘違いしてしまいましたの。でもあなたはわたくしの話を、ちゃんと聞いてくれていたので嬉しいですわ♪」
「使用人の方にもこの話をしたのですか……。まあ……私も恋愛ゲームに少し興味がありましたので話を聞いてられましたけど、恋愛ゲームに興味が無い人だと最後までは聞いていられないかもしれませんね」
彼女は申し訳なさそうな顔で、私に謝ってくれました。傲慢な雰囲気があるのに、自分に非がある時にはちゃんと謝る事ができるのは恋愛ゲーム風に言うと私の彼女への高感度がアップです。
それと……今さらっと目の前のドリルの彼女は使用人とか言いましたが、もしかしてお嬢様口調の彼女はどこかの大金持ちの令嬢様なのかもしれないですね?
「そうなのですの……今までわたくしの大好きな恋愛ゲームの話をしますと、楽しそうにしていたみなさんが急に静かになってしまうのはそう言う事だったのですわね……。だからクラスのみなさんもわたくしの恋愛ゲームの話に興味がなかったので、誰もわたくしに話しかけ無くなってしまったのですのね」
たぶん、そう言う理由もあると思いますが……クラスのみんなが彼女に話しかけないのは、その口調と傲慢そうな態度が原因だと思うのですけどとは口にはしません。たぶん私がそれを言うと、彼女はとっては普通の事がみんなにとっては不愉快だった事実でショックを受けてしまうと思ったからです。
「ところであなたも恋愛ゲームをなさったりしますの?」
「いえ、恋愛ゲームは一度もした事ありません。テレビのCMで恋愛ゲームの存在を知ったくらいで、私は今手元にあるような小説を日頃から読んでいますので恋愛ゲームだけじゃなくゲーム自体あまりしませんね」
「じゃあ、この機会にあなたもわたくしと一緒に恋愛ゲームをしませんか?そうすれば、恋愛ゲームの素晴らしさも理解できて……さらに友達同士の会話も楽しくなりますわよ?」
彼女は私に恋愛ゲームをして欲しそうに、顔色を窺っています。恋愛ゲームの話をして引かない友達の私にも恋愛ゲームをして貰えれば、今まで誰にも理解してもらえなかった同じ趣味の友達が出来て嬉しいのかもしれません。
誰かが言ってましたけど、ちょっとエッチな可愛い女の子のアニメを見たりゲームをしている事を周りにカミングアウトするとその趣味を良い意味で理解されないと孤立してしまうそうです。
目の前の彼女のクラスメイトも、お嬢様口調と傲慢な雰囲気で恋愛ゲームの話をする彼女の事をどう扱っていいのか分からずに放置しているのかもしれませんね。
「そうですね……今までずっと小説ばかり読んでいましたが、そろそろ別の事を始める良い機会なのでしょう。私にも出来る恋愛ゲームありますか?ゲーム機は無いので、私のスマホで出来るゲームに限りますけど」
私も家族に連絡するために赤色のスマホは持っていますがゲーム自体やらないので、恋愛ゲームと言うゲームがあるのは知ってはいてもやる機会はありませんでした。
でも前々から絵で描かれた女の子達と恋愛するゲームってどんな風なんだろうって思ってはいました。だから、この機会に少しだけ体験しても良いかなと思っています。でもその前に……。
「うふふ♪良いですわよ!あなたにも出来る恋愛ゲームを教えて差し上げます!わたしくのお勧めのあなたのスマホで出来る恋愛ゲームは……」
「ちょっとすみません。その前にお互い知らなければいけない事があります」
「?」
彼女は話の途中で中断されたので、少し不満みたいですが今話さないと後でお互いが気まずい事になるのは分かっているのでしかたがないです。私は彼女の手を軽く握る。
「私達せっかく友達になったのにまだお互い名前を名乗っていませんでしたね」
「そ、そうでしたわ。友達になる事ばかり考えていて、すっかりその事を忘れていましたの……」
「では、お先に名前を名乗らせていただきますね?私の名前は”姫ノ宮 桜”。今日この学園に転校してきました。趣味は読書です。好きな色は赤色。今日から友達としてよろしくお願いしますね」
私の名前を聞いた彼女は少し目を見開いて驚いた様子でした。はてさて、私の苗字?名前?に問題がありましたでしょうか?前の学校の噂はこの学園には届いてないので、安心していたのですが。
彼女は自分の番だと思い出したのか、驚いた様子から一変して凛とした様子で私の顔を見ます。
「わたくしこそ、今日からよろしくお願いしますわ姫ノ宮さん。わたくしの名は”水無瀬 可憐”。姫ノ宮さんと同じ二年生で趣味は恋愛ゲームで可愛らしい女の子と楽しい時を過ごす事ですの。ところで……姫ノ宮さんが今朝の騒ぎの”あの転校生”でしたの。女子生徒に大人気でモデルで活躍している輝木和人の誘いを迷いも見せずに断ったって噂になっていましたのよ?」
その事ですか、朝職員室に向かうために歩いていたら……廊下でいきなり壁に私を押し付けて、ドンっと壁を叩いたスラッとした男の割りには艶の良い黄色い長い髪の人はそんなに人気でしたか……。
でもいきなり、そんな事する人からの誘いなんてノーセンキューですよ?
「噂になるほどですか……私はあまり雑誌など読まないのでモデルの人とは気が付きませんでした。いきなり失礼な事をしてくる人だったので、お誘いなんて受ける訳がありませんよ」
「女子生徒から甘いフェイスで王子の二つ名を持つ輝木和人の誘いを、モデルと知らなくても断れるものですの?正直わたくしも輝木和人の事が好きではありませんが、あの甘いフェイスで誘われたら断るのに少し躊躇してしまいますわ」
少し眉を寄せた彼女は私の顔を不思議そうに見ています。彼女の言う輝木和人と言う人の”顔”はそんなにも、女性を惑わす魅力があるとは……初日から失敗してしまいました。
私、姫ノ宮 桜には重大な欠陥があります。それは”異性の顔”が認識できないという事。小さい頃はそんな事はなかったのですが、公園でのある出来事を境に異性の顔が認識できなくなりました。
ひどい時は一時期精神病院に入院をしていましたがまぁ、顔が認識出来ないだけで”声””身体””服装”などでその人が誰かを認識しているので問題ない筈でしたが……。どうやらこの学園の王子様の誘いを断った事で、前の学校と同じく”異物”扱いが早まりそうです。
「探したぞ」
ドクン…
「……っ」
さて、どう誤魔化そうかと思案していると……近くに背の高いウルフカットの赤い色の髪の男の学生が歩いてやって来ました。私は声に反応してその赤い髪の男の学生の方を向くと、何故か分かりませんが段々と胸の鼓動がドクンドクンと強くなって顔が熱くなり呼吸が苦しくなります。
……私はどうしてしまったのでしょう?
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。