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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
高坂未見の世界
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おはよ、お兄ちゃん。

 

 

 「………ちょっとごめんね~。」

 「………zzz。」



 私の数か月間の努力が、ようやく実りました。

 ずっと捜し回っていたお兄ちゃんを、ようやく見つけることができたのです。


 念願の思いが、ようやく叶いました。


 神様、本当にありがとうございます。

 こうしてお兄ちゃんと私を再び会わせてくれて。

 本当に、感謝します。

 


 

 ですが、今のお兄ちゃんの身体状況は非常に良くない状態です。

 もしかすれば、このまま命を落としてしまうかもしれない。

 そんな状態です。

 今すぐにでも病院に連れて行きたいところですが。


 

 今は、「病院に行きたくない」と言う本人の意志に沿ってあえてそれはしません。

 お兄ちゃんの言うことは、どんな事でも絶対に聞く。

 そう、固く決めたので。


 その代わり、私が病院になります。


 知識の乏しい私が、お兄ちゃんを正しく介護できるかどうかは不安ですが。

 でも、この運命の巡り会わせを絶対に無駄にはしたくありません。

 私が、なんとかするしか。

 そうするしかないのです。

 


 不安が募り、震える手を無理矢理動かしながら、私は今。

 お兄ちゃんが身に纏っている服を脱がそうとしています。

 余りにも汚れがひどく、清潔な体を保つためにはいち早く体から離すべきだと判断したからです。

 

 ですが、すやすやと寝ている所をまた起こすのは流石に気が引けたので、「ハサミ」を使って服を切り取っている所です。

 もう服がボロボロなので、洗濯しても使い物にならないでしょう。

 そう判断し、ズズズっと服に斬りこみを入れていきます。

 お兄ちゃんの肌に刃が当たらないよう、慎重に。

 

 この痩せ細った体では、ほんの少しの出血も命取りになりかねないでしょう。

 だから慎重に、この体を扱わないといけません。

 それが正しい知識かどうかは解りませんが、私の本能がそう言っています。

 

 「……よいしょ。」

 「……zzz。」

 

 そして無事、上半身の服を切り取ることが出来ました。

 ボロボロの服が、土を落としながらお兄ちゃんの体から離れていきます。

 どれくらい着込んだのでしょう、少し力を入れただけで破れそうです。


 今すぐ新しい服を着せることはできないので、今の間だけは温かい毛布を被せるくらいにしておきましょう。


 さて、次はズボンです。

 こちらもかなり汚れており、泥の付着具合が凄まじいです。

 さっきよりもさらに慎重にハサミを通す必要があるでしょう。


 ゆっくりと、ジョキ、ジョキと斬りこみを入れて。

 とりあえず、下着を含むズボンの大部分を取り外せました。 


 そして。



 その………見てしまいました。



 何と言うか、意図的に見たわけではないのですが。

 ……こんな風になってるんだなぁと。

 


 それよりも今はズボンを脱がすのが先決です。

 そして、細かく移動しながら丁寧に服を脱がしていき。


 多少手間取りましたが無事お兄ちゃんの服をすべて脱がすことができました。

 あとは体温を下げないように少し分厚めに毛布を被せて、と。

 とりあえず今はこれで大丈夫なはずです。


 少し体を動かしてしまいましたが。

 お兄ちゃんは相変わらず、寝息を立てています。

 その様子に、ホッとしました。



 「……お兄ちゃん。」

 「………zzz。」


 静かに寝ているその姿が。少し可愛くて。



 思わず「口づけ」してしまいたいような。

 そんな衝動に駆られて。


 

 思わず。


 顔を近づけて………





 「……んん…。」

 「わわっ。」

 「………zzz。」

 「ふふ。………びっくりした。」


 寝ながらお兄ちゃんに、寝言で叱られた気がしたので。


 今は、「口づけ」はお預けです。


 そんな寝姿を見ていると、私も眠くなってきてしまいました。

 今日一日でもかなりの距離を移動したので、疲労が溜まってしまったのでしょう。

 ですが、こんな体のお兄ちゃんから目を離す訳にはいきません。


 なので、頑張ってお兄ちゃんを「監視」しながら寝ます。

 難しいですが、こんな弱弱しい体では目が離せません。


 「お兄ちゃん………。」

 「………zzz。」

 「ふふっ、おやすみ…。」


 私は、お兄ちゃんの手をぐっと握ったまま。


 ウトウトを押し堪えて。


 じっと、お兄ちゃんの寝顔を見続けました。


 

 * * * * *





 「………うんん。」


 

 部屋が、ぼんやりと明るくなっています。

 朝でしょうか。

 

 どうやらいつの間にか。 

 コクリと寝てしまっていたようです。




 「はっ!…お兄ちゃ……ん。」


 私の意識がはっきりしてすぐ、昨日部屋に運んできたお兄ちゃんの様子を確認して。





 ホッと胸を撫でおろしました。


 昨日と同じように、お兄ちゃんは健やかに寝息を立てています。

 どうやら特に問題なく、一夜を過ごせたようです。

 

 「……おはよ、お兄ちゃん。」

 「………zzz。」

 

 まだ寝ているので返事はありませんが。

 お兄ちゃんの「おはよう」を聴くために。

 今日も一日頑張ろう。

 そう思えました。

 



 グぅぅ。



 ……今のは、私のお腹が鳴った音です。

 そう言えば昨日は、朝ごはん以外の食事を取っていませんでした。

 お兄ちゃんもきっと、かなりお腹を空かせているでしょう。


 よし。

 朝ごはんを作りましょう。


 いつも一人分しか作ってなかった朝ごはん。



 でも今日は。


 お兄ちゃんの分も一緒です。



 そんな。

 ちょっと小さな幸せを胸にしまって。

 

 私は朝ごはんの支度に入りました。


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