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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
小嵜綾香の世界
49/54

人それぞれだよね。


 

 

 「ふぅ~、大量に買っちまったなぁ。」

 「…うん。」

 

 兄貴と買い物を済ませて、今は帰途についている。

 買い物中、同級生の「柏原優輝(かしはらゆうき)」くんと偶然出会い、その彼の妹さん達?の「ひよ」ちゃんと「きさ」ちゃんとも出会った。

 二人とも中々可愛らしくて、言葉遣いもしっかりしたいい子達だった。あんな妹が居てくれて彼もきっと幸せだろう。

 でも、彼と兄妹にしては顔立ちがあまり似着かなかったような…。

 まぁ人それぞれだよね、顔立ちなんて。私こそ兄貴とあまり似てないだろうし。

 

 「そういやお前、さっきなんか考え事してなかったか?何考えてたんだ。」

 「え……あぁ…ううん、気にしないで。」

 「あ?んだよ、俺に言えないような事か。」

 「いや、そうじゃないけど……でも気にしないで…平気だから。」

 「ん?そうか。」

 

 兄貴に、考え事をしてないかと聞かれてしまった。

 それもそのはず。優輝くんの妹、きさちゃんから別れ際に言われた一言が、どうしても頭から離れなかった。


 「黒い犬を引き連れた女の人には気をつけて。」


 会って間もない私に、なぜいきなりそのような忠告をしてきたのか。 

 それが不思議で仕方がなかった。

 たかが子供の一言なのだから、そんなに気にする必要は無いのかもしれない。

 けれどあの一言が、まるで私がその「女の人」にいずれ会う運命にある事を予期しているかのような…そんな「予言」染みた伝言だったから…。

 それがかえって不安で、いつの間にか恐怖心の様な物を抱いてしまっている自分がいた。


 どういう事なんだろう…。

 黒い犬を連れた人なんて捜せば何処にでもいるだろうし、そのきさちゃんの言う女の人がどんな特徴のある人なのかすらも解らないから、注意のしようがない。

 それにわざわざ注意しなければいけない事なんてあるのかな…?


 例えば、出会った瞬間犬を嗾けて(・・・)くるとか…?



 「ほれ、今何か考えてたろ。」

 「……え?い、いや…別に…。」

 「んだよぉ、何か悩み事あるなら俺に言えよ、な?」

 「う、ううん。ホント何でもない。ごめん…。」

 「…ふ~ん?俺を信用できないと…?」

 「そ、そうじゃなくて!ホント…どうでもいい事考えてただけ…。」

 「…ならいいが?」

 「うん…ありがと…。」


 ほら、変に考え過ぎてるせいで兄貴に心配かけさせちゃった。

 もう駄目だな私。きちんと切り替えなきゃいけないね。

 きっとあれは、私を怖がらせようとしてわざと意味深な言葉を残していっただけに違いない。

 イタズラ好きな子だったんだねきっと。

 もう考えないでおこうかな。



 そう色々考える私の様子を、じろじろとしつこく窺ってくる兄貴から懸命に目を逸らしながら。

 しばらくの歩行の末、私たちは家へと辿り着いた。



 * * * * *



 そして昼ごはん。

 昨日作ったカレーがまだ残っていたので、お互いにカレーを掬って食べている。

 昨日よりも味にコクがあって美味しい気がする。

 カレーっていつもそうだよね。作った次の日から何故か美味しくなるの。

 なんか不思議。


 「お前、明日からまたテストだよな?」

 「…うん。」

 「勉強はバッチリか?」

 「…何とか。」

 「おう。頑張って学年トップ目指せよ?」

 「…まぁ…頑張ってみる。」

 「うし、その意気だ。」


 まぁ、テスト頑張るって自分で決めたもんね。 

 何方かと言うと、テスト頑張るのは自分のためじゃなく兄貴のため。

 サボったり出来ない。頑張らないと。

 早くお昼食べ終えて、明日の勉強しなきゃね。

 

 そう意気込んで、カレーを口に掻っ込んだ。



 * * * * *



 「………。」


 黙々と、勉強机に向かってペンを進める。

 プリント等の課題はもう終わってるし、私がするのはテスト範囲の復習のみ。

 今の感じなら特に問題なさそうだけど、念には念をいれないとね。



 ポキポキッ。

 「…ん?」

 


 私のスマホから、LINE(ライン)が入った時の音が発せられた。

 誰からだろう。

 

 「……あぁ。」


 以前出会った「樹人(みきひと)くん」からのLINEだった。

 丁寧な口調の、彼らしい文章が綴られている。


 「お久しぶりです綾香さん。いきなりご連絡してしまって申し訳ありません。実はちょっと相談したい事があって…。仮に、綾香さんに好きな男の人が居たとして、その人が最近仲のいい女友達を連れていたらどう思いますか?そして、その女友達と好きな人がどういう関係にあるのかを聞き出すにはどういった方法を取りますか。何かアドバイス頂けると幸いです…。」


 といった、男の子の相談にしては珍しい内容だった。

 好きな人の女友達…か。

 私に例えると、兄貴が最近バイト先で仲のいい女を作ってイチャイチャしている、みたいなシチュエーションかな。

 確かに、私ならその女の人に嫉妬するかもしれない。

 貴方は兄貴の何を知ってるの?みたいな気持ちになるかな。


 とりあえずそんな感じで、適当に返信してみようか。


 「久しぶり。って言ってもつい最近会ったばかりだけどね。じゃあまず『女友達を連れていたらどう思うか』だけど、確かにちょっと嫉妬しちゃうかもね。好きな人なんて誰にも取られたくないし、自分よりも深い関係になんて絶対なってほしくないもん。で、『どういう関係なのか』を聞き出すには、私ならやっぱ直接本人に聞いたりするかな。アイツとどういう関係なのって。結構勇気が必要かも知れないけれど、それが手っ取り早いもん。」


 と、要件だけ書いて返信した。

 在り来たりな返答になっちゃったけど、私もそんな事考えたことないし…。

 まずはオーソドックスな方法を取るべきな気がするんだよね。


 私が返して数分後、返事が返って来た。


 「やっぱり綾香さんでも嫉妬しちゃいますよね!解ります!でも…どういう関係なのかを直接本人から聞くのはちょっと怖くて気が引けます…。もしかしたらそれが切っ掛けで嫌われたりするかもしれません……。何か別の方法はないでしょうか…。」


 と返って来た。

 男らしくないなぁ…この子は。

 別の方法って言われても…。


 でも確かに、男の子にとっては難しい悩みかもね。

 男の子の視点から考えても、好きな女の子に「アイツと付き合ってるのか?」だなんて言い出し辛いだろうし。

 かと言って何もしなければ好きな人を取られちゃうし、難しいね。


 でも、直接聞く以外に別の方法ってあるのかな…。

 私はそんな事考えた事無いから、何も他に思い浮かばないや。

 ごめんね。


 「怖がっちゃ駄目。直接話すのがベストなんだから。今動き出さないとその人に先を越されちゃうかもしれないんでしょ?まず気軽に「あの人はお友達?」って聞いてみたらどうかな。「友達だよ」って返って来たらとりあえずは良し。「別に友達でも何でもないよ」って返って来たら…きっと付き合ったりしてるんじゃないかな。悪魔で私の考えだからわかんないけどね。」


 と、とりあえず返信。

 こういう悩み相談って私一番苦手かも…。

 なんていうか…私の場合は兄貴一筋だし、兄貴が浮気とかするタイプじゃないのも解ってるから、そんな悩みあんまり抱えた事ないし…。

 

 と、また数分後返事が返って来た。


 「うぅん…やっぱり直接聞くしかないですよね…。もし付き合ってるんだって言われたらどうしましょう…。僕もう立ち直れません…。」


 そりゃ私だってそうだと思う。

 兄貴がいつの間にか彼女作ってたら心が折れちゃうかも。

 もしそうなった場合は、どんな手段つかってでも絶対兄貴を取り戻してやる。

 まぁ兄貴に限ってそれは無いと信じてるけどね。


 「どんな結果でも挫けちゃ駄目。まだキミは中学生なんだしまだまだこれからチャンスが来るよ。キミがその好きな人を、ずっと好きでいる限りはね。」


 とだけ返す。

 何か、すっごく在り来たりな助言しかしてあげられてないな…。

 やっぱ色恋沙汰の悩みは私には向いてないや。

 不器用だもん、私だって。


 そして数分後。


 「解りました…今度兄さん(・・・)に「あの人はお友達ですか」って思い切って聞いてみます。相談に乗ってくれてありがとうございました!また綾香さんに相談するかもしれません。その時はよろしくお願いします!」


 と返って来た。

 


 ……………ん?兄さん?

 あれ…何か私が思っていた終止と違う…。

 好きな女の子に問い質すんじゃなく、自分の「兄」に聞くつもりだったの?


 そうだとすれば…。

 さっきまでの会話の意味合いが色々変わってくるんだけど…。


 まぁ何はともあれ、彼の悩みを解決してあげられたようで良かった。

 ごめんね大した答えが出せなくて。



 あぁ、思わぬ時間を取ってしまった。

 勉強に集中しないとね。


 頭の片隅に何か疑問を残しながらも、私は再び勉強机に向き合った。

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