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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
小嵜綾香の世界
43/54

プレゼント…成功?


 「…ただいま~。」

 「おうやっと帰ったか。どした、いつもより遅いじゃねぇか。」

 「ゴメン…色々遭ってさ…。」

 「ほう。」

 「………じゃあ……ん。」

 「おう。」


 チュッ


 電車とバスを経由してやっと家に帰ってくる事が出来た。

 まさか繁華街に行くだけであんな事になるなんて…。

 もう疲れた…クタクタだ。


 帰って早々、兄貴からキスのお迎えを受ける。

 短いキスだけど、これが無いと家に帰ったって感じがしないんだよね。

 口が離れても、ほんのりと残るこの甘さが大好き。

 兄貴とのキスじゃなきゃ、こんな甘いキスはきっと出来ないだろうな。


 「で、テストはどうだったよ。」

 「……。」


 私は無言のまま、兄貴に向けて「Vサイン」を出した。

 

 「…さすが俺の妹だな。」

 「でしょ。もっと褒めて?」

 「うし。じゃあ…」

 

 兄貴はそう言うと、私をそと抱きしめてくれて。

 同時に、頭を優しく撫でてくれた。

 兄貴の硬い胸が頬に密着して温かい。

 その温もりをもっと間近で感じれるように、私も兄貴の背中に腕を廻し、ぎゅっと抱き返す。

 幸せ。

 今日一日の努力が、これで報われた気がした。

 

 「どうだ、満足か?」

 「…うん……最高。」

 「よろしい。…着替えてきな?」

 「うん。」


 私は兄貴の体からそっと離れて、部屋に向かった。

 「ヘッドホン」入りのカバンを、大事に抱きかかえながら――。



 * * * * *



 「……よし。」


 部屋の中で、カバンからこっそり「ヘッドホン」を取り出し。

 そっと、ベッドの上に置いてそれを鑑賞する事にした。


 一度変な男に盗られかけた、このヘッドホン。

 でも、白いショートヘアの可憐な女性が颯爽と現れて。

 その男を撃退し、私のカバンを取り返してくれた。


 あの人が居なければ、こうして家に帰って満足げにヘッドホンを見る事も無かった。 

 本当に、あの女性には感謝している。

 咄嗟で思いつかなかったけど、名前か電話番号聞いておけば良かったかな。

 そうすればまた逢えたかも知れないのに…。

 また逢えるといいな…。


 私も、将来はあんな素敵な女性になりたいな。

 強くて可愛くて、思い遣りのある人間に。



 「……お。」


 ふとスマホを見ると、ヘッドホンを買ったお店で偶然知り合った「男の子」から、いつの間にか一通だけ「LINE(ライン)」が入っていた。

 確か…樹人(みきひと)くんだったっけ。


 「……律儀な子。」


 書いてあった内容は至ってシンプルだった。

 「どうも、紗河樹人(さがわみきひと)です。先ほどは見っとも無い姿を御見せしてすみませんでした。また御都合が宜しければいつでもお話ししたいです。今後ともよろしくお願いします。」

 

 とだけ書いてあった。

 既読付けたまま放置するのも可哀想だし、私も返事しないとね。


 「こちらこそよろしくね、樹人くん。夜になったら兄貴にヘッドホンプレゼントするつもり。君も早く、お兄さんにヘッドホン渡せるといいね。」


 と、私もそれだけ書いて返信した。

 なんか素気ない気もするけど、あんまりこういうの慣れてないし…。

 素気なくていいよね。


 「さてと……。」


 ヘッドホンを勉強机の上に置き、私はリビングに戻ることにした。

 今すぐにでも兄貴に渡してあげたいけど、それは夜までのお預け。


 兄貴、どんな顔するだろうな。

 ちゃんと喜んでくれるかな。



 * * * * *




 「…あ。」


 私がリビングに戻ると。

 兄貴はソファーに座って、以前見ていた「ヘッドホンのカタログ」を眺めていた。

 何か、難しそうな顔をしながら悩んでいる。



 その様子振りに、急に何だか不安になって。

 怖くてたまらなくなり、少し声を張って兄貴に話しかけた。

 

 「兄貴…!」

 「おう、どした。」

 「……またヘッドホン載ってる奴見てるの?」

 「おう。今度こん中のどれか買おうと思ってな。」

 「……。」


 ペンを持って、以前折り目を付けていたページとは違うページを見ているようだ。

 もしかして……。

 別のヘッドホンに…心移りしちゃった…?


 

 「…兄貴さ。」

 「ん?」

 「そのカタログのヘッドホンさ……欲しい奴に、印とか付けてたりする?」 

 「あ?あぁ。一応チェックはしてるぜ。」

 「……。」

 「それがどうした。」

 「……あのさ…。」


 今言うべきか。

 本当は晩ごはんの後とかに「サプライズ」として渡すつもりだったんだけど…。

 今言わないと、他のヘッドホンに心移りしちゃうかもしれない…。

 それだけは嫌だ…。


 「その印付けたヘッドホンさ…。」 

 「あぁ。」

 「…………えっ……と…。」

 「…おいなんだよぉ。もったいぶらずに言ってくれ?」

 「……。」


 別に悪いことはしてないんだから…。

 言っていいよね…。


 「もう……私が買っちゃったって言ったら……怒る…?」

 「…買った?お前がか。」

 「うん………兄貴に……プレゼントしようと思って……。」

 「…………あ?」

 「だから…その…。」


 あぁ、何でプレゼントするつもりなのにこんな気持ちにならなきゃいけないの…。

 何か悪いことしちゃったみたいじゃん…。

 こんなつもりじゃ…。



 「…おい綾香。こっち来い。」

 「……。」

 

 兄貴が突然剣幕な顔つきになって、私を手招きした。 

 心なしか、声のトーンも先ほどまでとは違い低くなっている。


 あぁ…怒られるのかな…。

 こんなつもりじゃなかったのに…。

 私は兄貴に、喜んで貰おうと思って買ってきたのに…。


 今更ながら思い出した。

 兄貴は私に「俺のために金を使うのは止せ」と以前話していた。

 きっと、私が兄貴のためにヘッドホンを買った。その事に腹を立てたんだろう。


 渋々と、兄貴の側に座った。

 手を太ももの間に挟んで、いつ怒られてもいい体勢に入る。

 そしていつ怒鳴られてもいいように、顔を緊張させた。


 「ヘッドホン買ったって本当か。」

 「……はい…。」

 「いつ買った。」

 「……今日…テスト終わった後に…。」

 「自力で買いに行ったのか。」

 「……うん…。」

 「金はどうした。」

 「……お小遣い、全部切り崩して買った…。」

 「もう一銭も残ってないって事か。」

 「……はい…。」

 「…もう一度確認するが、お前が使う訳じゃなく、俺のために買ってきたんだな。」

 「……はい…。」


 お願い兄貴。

 怒らないで。

 私、兄貴に喜んでもらおうと思って買ったんだよ…?

 それなのに…こんなのって…。

 嫌だ…。

 泣きそう…。

 あんなに頑張ったのに…。



 「今そのヘッドホンはどこにある。」

 「……私の部屋にある…。」

 「そのヘッドホンはこの、俺がマーク付けてた奴で間違いないか。」

 「……え…うん…。」

 「新品か?中古か?」

 「…え……新品だと思う…。」

 「ほぉ!」

 「…?」

 「もう一回聞くぞ?この俺がマークしてあった、このヘッドホンに間違いないな!」

 「…うん。」

 「ほほぉ!」


 恐る恐る兄貴の顔の様子をを窺うと。

 先ほどまでの剣幕な表情とは違い、凄くイキイキとした顔に変化していた。

 え…怒るんじゃなかったの…?


 「よし!でかした!今すぐ此処に持って来い!」

 「え…う、うん…。」

 「ダッシュだ!ダァッシュ!」

 「は、はい!」


 何故か兄貴にヘッドホンをせがまれ、私は駆け足で部屋に戻った。


 何よ。さっきまでの怖いムードは何だったのよ。

 拍子抜けしちゃったじゃん。



 * * * * *



 「おっほぉ!マジかぁ!何だよお前が買ってたのかよ先に言ってくれよぉ!」

 「……。」


 なんか。

 期待を裏切られた感じが否めないけれど。

 買ってきたヘッドホンを兄貴に手渡した瞬間、兄貴は子供の様に目を輝かせながらヘッドホンを掲げて大喜びし始めた。

 何はともあれ、喜んでくれたのは凄く嬉しい。

 嬉しいけど……。


 何か…私が思ってた喜ばせ方はこれじゃない。

 凄く私の気分が滅入っているし。

 何だろう。ムカつく。 


 「いやぁマジで嬉しいわぁ!」

 「…ねぇ、兄貴。」

 「どした!綾香ありがとなぁ!」

 「……。」

 「いやぁまさか手に入るとはなぁ!」

 「……。」


 兄貴は凄く、凄く喜んでくれている。

 これはきっと私のおかげだよね。

 

 私の、せいだよね。



 何だろう。

 何でか解らないけど。

 

 キレそう。



 「…ねぇ、兄貴。」

 「おぉ?」

 「……やっぱそのヘッドホン、返して。」

 「………は?」

 「…返せ。」

 「お、おい綾香…何怒ってんだよ…。」

 「今すぐ返せ。早く返せ。さぁ返せ。」

 「お、おいおい落ち着け綾香………何怖い顔してん―――」

 「兄貴のバカああああああああああああああ!!!!」

 「うぉぉぉ!?」


 さすがに我慢の限界だった。

 思い切り、兄貴に飛びかかってやった。


 別に本気で怒るつもりはないんだけどさ。

 苦労して手に入れたヘッドホン何だから、私だって色々思い入れがあるの。

 それをさ、兄貴に怖い顔されてこっちは怒られるかもってビクビクしてたのにさ。

 それが何よ。いざ手渡してみたら見ての事か大賑わいじゃない。

 折角好きな人へのプレゼント何だからさ、私だって理想の渡し方とか色々考えてたよ。

 それなのに……それなのに……。


 「もうっ!兄貴なんか大っ嫌い!」

 「えぇ!?す、すまんって!俺何か悪いことしたか!?」

 「もおぉ!嫌い嫌い嫌い嫌いぃぃ!」

 「わ、悪かった!悪かったから!お願いだ!嫌わないでくれ!」

 

 しばらく兄貴に、そうやって八つ当たった。

 女心を踏みにじった罰なんだからね。


 もう、本気でプレゼント失敗したかと思ったんだから…。

 私のあのプレゼント買った時のときめきを返せ。


 もし喜んでくれなかったら、本気でどうしようかと思ったんだからね…。

 もう、兄貴の馬鹿。意地悪。

 


 何だか凄く歯切れの悪い渡し方だったけど。

 でも無事、好きな人にプレゼントを渡すことが出来ました。

  

 いつもありがとうね、兄貴。

 日頃の感謝を籠めて買ったそのヘッドホン、大事に使ってね。


 あと、大嫌いって言ったのはもちろん嘘。

 大好きな人にこそ、大嫌いって言えるんだよ。

 それくらい、兄貴なら解ってくれるよね。



 「うぅぅ!兄貴のバカバカバカバカバカバカバカバカ!」

 「わ、解った!俺は馬鹿だ!大馬鹿者だ!だから頼む!腰の上で暴れないでくれえええアアアアアッー!!」

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