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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
高坂未見の世界
4/54

再開…だよね?



 私のお兄ちゃんを捜索して、はや数か月。



 とある工場の跡地に目をつけ、その中を捜索していたら。



 「………!」


 

 物陰から。



 人の足が覗いていました。


 ひどく痩せ細っていて、泥で真っ黒になっている足。



 その足を見て。

 私は。



 「………お兄ちゃん、だよね?」



 震えた声で、その足に向かってそう呼びかけました。

 そんな、気がしたからです。


 返事がないかもしれない。

 全くの別人かもしれない。

 そもそも、生きているのかどうか―――



 「…………み、み……る……。」

 「……!」


 返事があって。

 その声を聴いて。


 ようやく確信しました。


 「お兄ちゃんっ!」

 

 私はその声のした所へと駆け寄り。


 その人の姿を目に捕えて。



 少し、言葉を失いました。


 げっそりと痩せ細った体に、ボロボロの服。

 全身泥まみれで、所々に傷があって。

 顔には、大きな痣。

 

 でも、この人は

 間違いなくお兄ちゃんだ!


 「お、お兄ちゃん!お兄ちゃん!?大丈夫!?」

 「…………。」

 「ま、待ってね!今すぐ救急車呼――」

 「…嫌だ……。」

 「えっ?」

 「嫌だ……呼ばないで……嫌だ…。」


 そう言ってお兄ちゃんが。

 手をわなわなと振りながら、救急車を呼ぼうとする私を制止してきました。

 

 「え、まっ待ってでも―」

 「お願い……呼ばないで……お願い……みみ…る……。」

 「……でもっ。」

 「…お願い……いや、だ……。」

 「……えっ…。」


 お兄ちゃんは、見るからに。

 命に係わるほどひどい状態にあります。

 このままだと…。

 そう思って、取りあえず。


 「わ、わかったよ!じゃあ、取りあえず一緒にいこ?ね?」

 「……………。」

 「大丈夫?ちょっと…ごめんねっ!」


 私は壁に凭れ掛かっている兄を背負い。

 車へと向かいました。


 背負ったお兄ちゃんの体は。


 ひどく、軽かったです。




 お兄ちゃんがこうなったのは、全部。



 私のせいです。



 * * * * *


 

 お兄ちゃんを助手席に乗せて、車を発進させました。

 隣のお兄ちゃんは、ぐでぇーっと力なく座っています。


 「お、お兄ちゃん?!大丈夫?」

 「………。」

 「今から急いで病院行くからっそれまで我ま――」

 「…やめて……いかないで…………。」

 「……え、でっでもさ!」

 「いかないで…お願い…お願い…。」


 お兄ちゃんが、車のドアを開けて。

 外に出ようとしました。

 走行中なのに。


 「えちょ!待ってわかったっ!行かないからっ、病院行かないからっ!ドア閉めて!お願いっお願い!」

 「………。」

 

 なんとか無事、ドアを閉めてくれました。

 

 そう言えばそうだったと、私は一つ思い出しました。



 お兄ちゃんは昔、とある病院の中で事故にあいました。

 医療機器の故障による事故で、病院で火災が起こったのです。

 その火災にお兄ちゃんと、お兄ちゃんの本来のご家族も巻き込まれて。

 そのご家族の方々は、お兄ちゃんだけを残してこの世を去りました。


 おそらくその時のトラウマで、お兄ちゃんは病院に行きたがらないのです。

 さっき救急車を呼ぼうとして止められたのも、それが原因だと思います。



 でも、今のお兄ちゃんの体の状態は非常に危険なはずです。

 病院がダメなのだとすれば…。




 私が、何とかするしかありません。



 「お兄ちゃん、じゃあ今から、私の家に行くね?」

 「………え。」

 「それならいいよね?」

 「………。」


 返事はありませんでしたが、今はこうするしかありません。

 私は急いで車を走らせて、マンションに向かいました。



 * * * * *



 「よいしょ!」

 「………。」

 

 とりあえず、自分の部屋の中までお兄ちゃんを運んできました。

 運よく、誰かに見られることもなくここまで来れました。

 

 日はもうすっかり沈んで、辺りは真っ暗です。


 私はお兄ちゃんをソファーの上へ寝かせて。

 そっと、その泥だらけの手を握って。


 「お兄ちゃん、着いたよ?私の部屋だよ?」

 「………。」

 「…大丈夫?」

 「……………う、ん。」

 

 どうしよう。

 頭が混乱して、何からしたらいいか、何も思い浮かんできません。

 何をすればいいのか―


 「……み、みる……。」

 「な、何?何かしてほしい?」

 「………寝て………いい?」

 「へ……えっ、うっうん!ゆっくり寝ていいよ?」

 「……ごめん……ごめ……ん」


 そう言って、お兄ちゃんは静かに寝息を立て始めました。




 …死んで、ないよね?

 大丈夫だよね?


 大丈夫、寝息を立てているなら死んではないはず。

 そう自分に言い聞かせ、私は。

 

 お兄ちゃんがいつ此処に来てもいいように。

 二人ですぐに一緒に住めるように。



 あらかじめ準備していた「お兄ちゃん専用キット」を用意し始めました。



 待っててお兄ちゃん。


 すぐに良くしてあげるからね!

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