再開…だよね?
私のお兄ちゃんを捜索して、はや数か月。
とある工場の跡地に目をつけ、その中を捜索していたら。
「………!」
物陰から。
人の足が覗いていました。
ひどく痩せ細っていて、泥で真っ黒になっている足。
その足を見て。
私は。
「………お兄ちゃん、だよね?」
震えた声で、その足に向かってそう呼びかけました。
そんな、気がしたからです。
返事がないかもしれない。
全くの別人かもしれない。
そもそも、生きているのかどうか―――
「…………み、み……る……。」
「……!」
返事があって。
その声を聴いて。
ようやく確信しました。
「お兄ちゃんっ!」
私はその声のした所へと駆け寄り。
その人の姿を目に捕えて。
少し、言葉を失いました。
げっそりと痩せ細った体に、ボロボロの服。
全身泥まみれで、所々に傷があって。
顔には、大きな痣。
でも、この人は
間違いなくお兄ちゃんだ!
「お、お兄ちゃん!お兄ちゃん!?大丈夫!?」
「…………。」
「ま、待ってね!今すぐ救急車呼――」
「…嫌だ……。」
「えっ?」
「嫌だ……呼ばないで……嫌だ…。」
そう言ってお兄ちゃんが。
手をわなわなと振りながら、救急車を呼ぼうとする私を制止してきました。
「え、まっ待ってでも―」
「お願い……呼ばないで……お願い……みみ…る……。」
「……でもっ。」
「…お願い……いや、だ……。」
「……えっ…。」
お兄ちゃんは、見るからに。
命に係わるほどひどい状態にあります。
このままだと…。
そう思って、取りあえず。
「わ、わかったよ!じゃあ、取りあえず一緒にいこ?ね?」
「……………。」
「大丈夫?ちょっと…ごめんねっ!」
私は壁に凭れ掛かっている兄を背負い。
車へと向かいました。
背負ったお兄ちゃんの体は。
ひどく、軽かったです。
お兄ちゃんがこうなったのは、全部。
私のせいです。
* * * * *
お兄ちゃんを助手席に乗せて、車を発進させました。
隣のお兄ちゃんは、ぐでぇーっと力なく座っています。
「お、お兄ちゃん?!大丈夫?」
「………。」
「今から急いで病院行くからっそれまで我ま――」
「…やめて……いかないで…………。」
「……え、でっでもさ!」
「いかないで…お願い…お願い…。」
お兄ちゃんが、車のドアを開けて。
外に出ようとしました。
走行中なのに。
「えちょ!待ってわかったっ!行かないからっ、病院行かないからっ!ドア閉めて!お願いっお願い!」
「………。」
なんとか無事、ドアを閉めてくれました。
そう言えばそうだったと、私は一つ思い出しました。
お兄ちゃんは昔、とある病院の中で事故にあいました。
医療機器の故障による事故で、病院で火災が起こったのです。
その火災にお兄ちゃんと、お兄ちゃんの本来のご家族も巻き込まれて。
そのご家族の方々は、お兄ちゃんだけを残してこの世を去りました。
おそらくその時のトラウマで、お兄ちゃんは病院に行きたがらないのです。
さっき救急車を呼ぼうとして止められたのも、それが原因だと思います。
でも、今のお兄ちゃんの体の状態は非常に危険なはずです。
病院がダメなのだとすれば…。
私が、何とかするしかありません。
「お兄ちゃん、じゃあ今から、私の家に行くね?」
「………え。」
「それならいいよね?」
「………。」
返事はありませんでしたが、今はこうするしかありません。
私は急いで車を走らせて、マンションに向かいました。
* * * * *
「よいしょ!」
「………。」
とりあえず、自分の部屋の中までお兄ちゃんを運んできました。
運よく、誰かに見られることもなくここまで来れました。
日はもうすっかり沈んで、辺りは真っ暗です。
私はお兄ちゃんをソファーの上へ寝かせて。
そっと、その泥だらけの手を握って。
「お兄ちゃん、着いたよ?私の部屋だよ?」
「………。」
「…大丈夫?」
「……………う、ん。」
どうしよう。
頭が混乱して、何からしたらいいか、何も思い浮かんできません。
何をすればいいのか―
「……み、みる……。」
「な、何?何かしてほしい?」
「………寝て………いい?」
「へ……えっ、うっうん!ゆっくり寝ていいよ?」
「……ごめん……ごめ……ん」
そう言って、お兄ちゃんは静かに寝息を立て始めました。
…死んで、ないよね?
大丈夫だよね?
大丈夫、寝息を立てているなら死んではないはず。
そう自分に言い聞かせ、私は。
お兄ちゃんがいつ此処に来てもいいように。
二人ですぐに一緒に住めるように。
あらかじめ準備していた「お兄ちゃん専用キット」を用意し始めました。
待っててお兄ちゃん。
すぐに良くしてあげるからね!