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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
小嵜綾香の世界
39/54

私の「計画」


 


 「え~、では皆さん。明日からテストが始まりますが~。ちゃんと勉強は出来ていますか~。」

 「してな~い。」

 「最近忙しかったも~ん。」

 「別に赤点でもいーし。」


 「……。」

 

 2限目の終わり。


 何と言うか。

 このクラスの皆は基本態度が悪い気がする。 

 こんなもんなのかな、高校って。


 どうやら様子を見るに、皆はさほど勉強していないらしい。

 これはチャンス。

 私は割と勉強している方だし、もしかしたら成績上位人に食い込めるかも。

 ちょっとだけ、そんな期待が膨らんだ。

 

 明日がテスト初日。

 出来ればいい点取りたいな。



 * * * * *



 「ねぇ、あやは勉強してる?」

 「…私?私は……まぁまぁしてる方かな。」

 「へぇ~。意識高い系かー。」

 「後でノート写させて~。」

 「…う、うん。」


 友達の「なっしー」と「りーしゃん」が、そう私に話しかけてきた。

 この二人はあまり真面目な性格ではなく、割とおふざけが多いタイプだ。

 この間は授業中に「ゼリー」なんか食べていたし、忘れ物の常習犯として先生たちからも目をつけられている。

 私もたまにこの二人に振り回されるけど、友達だから仕方ないよね。


 「そう言えばあやってさ、お兄さんいるんだよねー。」

 「え、うん。」

 「仲良いの~?」

 「禁断の恋とかしてたりしてー!」

 「し、してない……。」

 「いいなーお兄さん、私一人っ子だからさー。」

 「私も~。もう親がうるさいの何のって~。」 

 「……。」

 「ねぇあや!今度あやの家に行ってもいい?」

 「え、え…。」

 「私も行きた~い!テスト終わったらいく~!」

 「お菓子持って行くからさー!」

 「…あ、えっと…か、考えとくよ。」

 「よろしく~!」

 「楽しみー!」


 …困ったなぁ。

 いつかは訪れる運命だとは思ってたけど。


 友達を家に招いたことなんて、私は一度もない。

 私の家の事情を何も知らないこの二人を家に入れるのはちょっと気が引ける。

 深く事情に介入されるのも嫌だし。


 まぁどの道、友達を家に招くかどうかは兄貴次第。 

 兄貴か駄目と言うなら駄目だし。


 家のすべての権利は、兄貴にあるからね。

 私一人じゃ、何も決められない。



 * * * * *



 「バイバイあや~!」

 「うん、バイバイ。」

 「バイバーイ!」

 

 何事も無く学校が終わって、二人と別れた。

 私はいつも通り、帰りのバスに乗り込んで出発するのを待つ。

 外からはやっぱり、グラウンドを走る野球部の掛け声が聴こえてくる。


 「……頑張ってるなぁ。」


 野球部は夏に大会があるらしく、それに向けてテスト期間中もずっと部員総動員で練習に励んでいたらしい。

 テストよりも、きっと部活の方が大事なんだろうな。

 なんか凄いな。そこまで何かに一生懸命になれるって。


 「…部活かぁ。」


 私も、何か一生懸命になれる物を探さないと。


 でも。

 私に出来る事ってなんだろう。

 そんな事、一度も考えたことない。 

 今の私には、何も無い気がする。



 それよりも早くバイト見つけたいな。

 兄貴には止められたけど、でもやってみたい。

 もう高校生なんだもん。それくらい経験しときたいし。

 どれくらい稼げるのかも、解っとかないと。



 なんて考えてたら、バスが出た。

 帰ったら、明日のテストの勉強しようかな。

  

 兄貴は、今何してるかな。



 * * * * *



 「ただいま~。」


 …。


 「あれ。」


 帰ってすぐ、家の中に呼びかける。

 兄貴の返事はない。

 部屋の電気も点いてないし、テレビも消えてる。

 見たところ靴も無いし、何処か買い出しに言ってるのかな。


 「……はぁ。」


 ため息をつきながら荷物を置いて、ソファーにドンと座る。


 目の前の机の上には、カタログが置いてある。

 兄貴が朝「ヘッドホンが欲しい」と言いながら見ていたカタログだ。

 何となく手に取って、ぺらぺらとページを捲ってみた。

 

 「……。」


 そしたら1ページだけ、明らかに不自然な「折り目」がついたページがあった。

 兄貴がきっと意図的にここに折り目をつけたんだろう。

 気になって軽くそのページを見渡していると。


 一つだけ、ボールペンでマークしてある「ヘッドホン」があった。

 見たところ、このページの中で一番値段が安い。

 それに評価もそこそこ高そうなヘッドホンだ。


 「…兄貴、もしかしてこれが欲しいのかな。」


 印がついているという事は、兄貴がこれを求めている可能性が高い。

 値段的にも、これくらいなら今の私の貯金で買えそう。

 これなら…。



 「…よし、買おう。」


 私はその印のついたヘッドホンの画像を写真で撮って保存した。


 決めた。

 私がこれを買って、兄貴にプレゼントする。

 別に何か特別な意味はないけれど。

 日頃の感謝をこめて、プレゼントしよう。


 そう決めて、私は元あった場所にそっとカタログを戻した。

 これを私が見たってバレちゃいけないからね。



 * * * * *



 「うっす~。ただいま~。」

 「…おかえり、兄貴。」


 しばらくして、兄貴が帰って来た。

 両手にはぎっしりと食材が詰まった袋が握られている。

 やっぱり買い物に行ってたみたい。

 


 「………兄貴……ん。」

 「おう。」


 チュッ


 日課通り、兄貴とキス。

 いつもよりも、長めの。

 二人分だからね。


 「………。」

 「………。」


 そう言えば、もう何回も兄貴とキスしてるけど。

 まだ一度も「舌」を絡めたことがないな。



 せっかくだし、試してみようかな。



 「………れ…。」

 「………?…。」


 兄貴の口の中に、舌を入れようと試みた。

 でも。

 

 うまくいかない。

 兄貴が口を閉じて防いでくるからだ。



 「………んん…。」

 「………。」


 全然、私の舌を受け入れてくれない。

 何でよ。やろうよディープキス。


 

 何度も舌を伸ばしたけれど。

 結局思った通りにキス出来ないまま、唇が離れてしまった。


 「ぷはっ………ねぇ、なんでよ。」

 「何が。」

 「………やろうよ。ディープキス。」

 「また今度な。」

 「…む~。」


 兄貴はいつもそうやってお預けにする。

 ずるいよ。散々セクハラしてるくせに。

 肝心な事は何にもしてくれないんだから。

 何だか満足できない。


 今度長いキスするときは絶対ディープキスしてやる。

 


 * * * * *



 「ねぇ、今日も夜勤?」

 「だな。」

 「…そっか。」

 「すまんな、いつも家で待たせちまって。」

 「ううん。……頑張ってね。」

 「あぁ。」


 兄貴は今日も夜勤らしい。

 本当にいつもご苦労様。

 無理しないでね。


 そうだ、肩揉んであげよう。

 私はさりげなく、すっと兄貴の後ろに回り込んで。

 肩を揉んであげた。


 「お、気が利くじゃねぇか。」

 「たまにはね。」

 「………いやぁ、いい妹を持ったもんだ。」

 「でしょ?」

 

 兄貴がぐったりと体を伸ばして、完全にリラックスモードに入った。

 足を机の上に置いて、ちょっと態度悪いけど。

 でも何か兄貴らしい。


 「そういやお前テストは?」

 「…明日から。」

 「おう、頑張れよ。」

 「うん。」

 「100点は取れそうか?」 

 「…無理。」

 「あ?」

 「そんなの無理に決まってんじゃん。」

 「おいお前、勉強してたんじゃねぇのかよ。」

 「したよ。でも100点なんて取れる自信ない。」

 「駄目だ。満点取ってみろ。」

 「嫌。」

 「………ほう?お前俺に逆らうのかぁ?」

 「じゃあさ、もし兄貴がテスト受けるとしたら、兄貴は100点取る自身ある?」

 「俺は無理。」

 「ほら。」

 「……っち。まぁ満点じゃなくても、努力はしろよ?」

 「うん、頑張る。」


 変な所で折れてくれる兄貴がなんか面白い。

 私の期待通りの反応してくれるから話しやすいな。

 そう言う所、結構好き。


 「よし、肩はそんなもんでいいや。次、足やってくれ。」

 「え…………うん。」


 まさか兄貴からオーダーしてくるとは思ってなかった。

 言われた通り、兄貴の前に座って足を揉んであげた。


 「ふくらはぎの辺りを頼むわぁ。」

 「…うん。」

 「あぁ~~、効くわぁ~。」

 「……。」


 まさか足まで揉むことになるとは。

 予想外すぎて、ちょっと戸惑ってしまう。

 でも、言われたことには従わなきゃね。

 これから夜勤なんだし、少しくらい負担を減らさないと。


 「…お前なかなか揉むのうめぇな。」

 「え……そう?」

 「あぁ…お前こういう仕事向いてるかもしれないな?」

 「…エステってこと?」

 「エステとは言わねぇが……なんか、こういうマッサージの仕事とかよぉ。」

 「……そうかな。」

 「あぁ、なかなか上手いぜ。」

 「…ホント?……そっか。」



 そう言われると、なんか嬉しい。

 マッサージするお仕事か。

 ちょっと興味出てきた。 


 そういうバイトってあるのかな。

 誰かをマッサージするだけのバイト。

 今度探してみようかな。

 兄貴に褒めて貰えたなら、本当に向いてるのかもしれないし。

 

 

 そう思いながらしばらく、兄貴の足をひたすら扱いた。

 兄貴はそのたび気持ちよさそうだった。

 何か変な声も出し始めてちょっと引いたけど。


 満足してくれたみたいでよかった。



 * * * * *



 「う~し、行ってくるわ~。」

 「うん、いってらっしゃい。」

 「勉強しとけよぉ?」

 「するって!」

 「ホントかね~?…まぁ無理し過ぎずにな。」

 「…うん。」


 そう言い残して、兄貴が夜勤に行ってしまった。


 私の気を使ってくれるのは嬉しいけど、ちょっとしつこいのが兄貴の嫌な所。

 もう、ちゃんとするって言ってるのに。

 世話焼きな兄貴だなぁ。


 「……。」


 さて、兄貴にはそう言っちゃったけど、勉強よりも先にしたいことがある。



 私は、ちょっとした「計画」を練り合わせるため自分の部屋に駆けていった。



 さっき写真を撮った、「ヘッドホン」の値段。

 今の私の貯金と照らし合わせて、買えるかどうかを確認するのと。

 あのヘッドホンを売ってそうな最寄りのお店。

 まずはそれらをちょっと調べる。


 明日からテストだけど、テストは一日中あるわけじゃない。

 私の学校の前期末テストは、各科目ごとに日が分けられていて、修得している教科のテストさえ受ければそれ以外の時間は基本自由という事になっている。


 つまり、何時かの日にどうしても暇な時間が出来てしまうのだ。

 そしてその暇な時間の間に、先に買おうと思っていた「ヘッドホン」を買いに行く。

 

 これが私の考えている「計画」だ。

 

 時間は限られてるし、あまり学生としては良くない行為かもしれないけど。

 兄貴を喜ばせるためだもん。

 それくらいしてもいいよね。

 高校生なんだからさ。

 その分、テスト頑張るもん。



 「…ここのお店なら売ってるかも。」


 この辺りからは少し離れた場所にあるけど、お目当てのヘッドホンを売っていそうなお店が、スマホの検索からヒットした。

 ここなら、テスト終わりに寄ってもすぐに帰ってこられそう。

 

 「よし…値段的にもたぶん買える…はず……。」


 貯金額的に、少し金銭面では不安が残るけれど…。

 でも何とか買えそう。

 

 計画を実行するのに最適な日は、ちょうど明日。

 明日は、私の修得している科目は2教科のみ。

 しかも、午前中にすべて終わる。

 午後の時間を使って、きっとヘッドホンを買いに行ける。



 「兄貴…楽しみにしててね…。」


 密かなドキドキを胸にしまいこんで。

 私は、明日のテスト結果をより良い物にするため。


 

 勉強机に向き合った。

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