表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
小嵜綾香の世界
38/54

私は何もいらない。

 

 「……………ん…。」


 

 朝かな。

 外で鳥がチュンチュン鳴いてる。

 

 まだ6時半。


 なんか最近は、夜遅くまで起きてても早く起きれる。

 なんでだろ。

 兄貴のおかげ?


 「………はぁ…。」


 口から勝手に、ため息が出てきた。

 なんか最近ため息ばっかついてるかも。

 これはなんでだろ。


 これも、兄貴のせい?


 ううん、きっとテストのせい。

 勉強はできてるけど、勉強できてるからこそなんか憂鬱な気分になる。


 やだなぁ。テスト。

 早く終わらないかな。



 * * * * *



 「おはよ、兄貴。」

 「うっす。」


 やっぱり兄貴は、もう起きてる。

 電気の点いてない、暗いリビングのソファーに座って何かのカタログを見ている。

 夜勤明けなのになんで早起きできるんだろう。

 意識高いなぁ。素直に関心してしまう。


 私なんかとは、大違い。


 「何読んでるの?」

 「ん。なんかいい『ヘッドホン』ねぇかなって。」

 「…ふ~ん。」


 さりげなく兄貴の隣に座って、そのカタログを覗いてみた。

 兄貴も、私に見えやすいようにカタログを傾けてくれた。

 今開いているページ一面に、ずらりと「ヘッドホン」の値段と見た目が載っている。


 「…高いね。ヘッドホン。」

 「あぁ、なんか安くていいのねぇかなぁ。」

 「…欲しいの?」

 「まぁな。」

 「……私が買ってあげる。」

 「お前金ないだろ。」

 「…でも貯金してるよ?」

 「じゃあその金は自分のために使え。お前の金だろ。」

 「…嫌。」

 「あ?……お前俺に逆らうのかぁ?」


 兄貴がくいっと、私の顎を掴んで引き上げた。


 すぐ目の前には兄貴のニヤついた顔がある。

 もうちょっと近づけば、キスできそう。


 「…なんで買っちゃ駄目なの。」

 「駄目とは言ってない。だが俺のために金を使うとか、そう言うのは止せ。」

 「なんで。」

 「駄目だからだ。」

 「嫌。」

 「……お前もなかなかナマイキになったなぁ。嬉しいぜ。」

 「…買わせてよ。私だって兄貴に何かしてあげたいもん。」

 「うるせぇ。お前は大人しく俺に世話されてればいいんだ。」

 「…………私はペットか何か?」

 「あぁそうだ。お前は俺の大切で、かけがえのない命よりも大事な可愛いペットだ。」

 「……。」



 何よそれ。

 ずるい。


 いつもはそんな事言わないのに。

 なんか、不機嫌なのかな。

 あと、言ってる内容と態度が全然合ってない。

 

 「で、そんな可愛いペットちゃんには何か欲しい物はないのかな?」

 「……ない。」

 「嘘つけぇ、何かあるだろ。JK(女子高生)なんだからよ。」

 「……ないもん。」

 「ほんとかなぁ~?」


 そう言いながら、兄貴が私のわき腹をすりすりと撫でてきた。

 くすぐったい。

 思わず笑ってしまいそうな衝動を抑えつつ。

 私は頑なに否定する。 


 「……私は、何にもいらない。」

 「強がるな。ほれ、素直に言いな?」

 「……いらないってば。」


 兄貴が突然私の欲しがる物を、しつこく聞きただしてきた。

 私には、それにどういう意図があるのか解っていた。



 もうすぐ、私の誕生日だから。



 きっとここで、私が何か欲しい物を言ってしまえば。

 兄貴はプレゼントとしてそれを買ってくる。

 しかも、なるべく高価な物を。


 それが嫌だ。

 兄貴にはもう迷惑をかけたくない。

 むしろ、私が兄貴にプレゼントしなきゃいけない立場なのに。


 だから、絶対言わない。



 「ほれほれ綾香ちゃ~ん?お兄ちゃんにおねだりしてみな~?」

 「…キモイ。」

 「おいさらっとひどい事言うなよ…。」


 兄貴は変態だけど。

 凄くお人よしだから。


 だから、これ以上迷惑はかけない。


 兄貴が辛くなることは、絶対しない。


 そう決めてるの。



 * * * * *



 ぼちぼちと、学校へ行く準備をしている。

 軽くシャワーも浴びて、髪をセットして。

 

 で、朝ごはんに手をつけようとしてるんだけど。



 「おい綾香~何か欲しい物言ってくれよぉ。」

 「……。」

 

 兄貴がしつこい。

 もういい加減あきらめてよ。私は何もいらないんだってば。


 「なぁ~綾香~。」

 「……。」

 「ほぉ~そうか~そんなに『ダイヤモンドの指輪』が欲しいのか~メモメモ~。」

 「…!!そ、そんなのいらないッ!!」

 「冗談だって。」

 「…もう。」


 そんなの冗談だって解ってるよ。

 でも、兄貴なら本気で買いかねないと思ったから。

 それくらい、兄貴は馬鹿ほど優しいから。


 「…ほんとだってば。」

 「ん?」

 「…何にも、いらないもん…。」

 「ホントに何もいらないのか?」

 「…うん。」

 「ホントだな?」

 「うん。」

 「ほんとのホントだな?」

 「だからうんってば。」

 「ほんとのほ―――」

 「う゛っっっっっっん゛っっっっっっ!!!!」

 「…アッハイ。」


 もう。

 さすがにしつこすぎ。

 怒るよほんと。



 「…だからさ。」

 「おう。」

 「私が、兄貴に買ってあげたいの……プレゼント。」

 「駄目だ。」

 「嫌。買う。」

 「……じゃあもう『セクハラ』してやらねー。」

 「…そ、それはイヤッ!」

 「だろ?」

 「……。」

 

 何よ。

 今日の兄貴いつもよりイジワル。

 なんか、感じ悪い。



 「まぁいいや。また今度聞くわ。」

 「…もう聞かないで。」

 「嫌だね。」

 「嫌、聞かないで。」

 「嫌。」

 「嫌!」

 「んだよぉ。お前そんな頑固だったかぁ?」

 「うん。」

 「まじかよ…。」



 もう、しつこい兄貴なんか嫌い。

 私の事思ってくれてるのは解るけど。



 そんな優しい兄貴だからこそ。

 金銭面では、迷惑かけたくないの。

 それだけは解って。兄貴。


 * * * * *



 「じゃあ、行ってきます。」

 「おう、行ってきな。」

 


 何とか兄貴の質問攻めから抜け出して、家を出れた。

 もう、なんか変にイライラする。

 

 今日の兄貴は一段と必死な感じだった。

 そんなに私に何かプレゼントしたいのかな。

 もう、ホント馬鹿な兄貴。



 そりゃ嬉しいよ。

 そこまで私の事思ってくれてるんだもん。

 

 でも、何もいらないの。

 ううん、いらないんじゃない。



 私が兄貴に、何か買ってもらうような権利はない。



 兄貴が苦しい思いをしているのは。

 私のせいだもん。

 


 だからごめん兄貴。


 私の誕生日は。

 素気ない物にして欲しい。

 

 ケーキもいらないし、ご馳走もいらない。

 

 だからその分、兄貴が誕生日の時はご馳走にしよ?

 その為に、私も頑張って貯金するから。


 

 兄貴が私の事を優先するなら。

 

 私は、その逆なの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ