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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
高坂未見の世界
3/54

もしかして


 「……準備よし!」


 

 今私は、長期休暇中です。


 私が休暇を取った訳ではなく、職場が「改装工事」に入ってしまったため、一部の部署に関する人のみしか入れなくなっています。


 そして私は、その部署の人間ではないので、自宅で仕事をする用な事になっています。

 

 そして今からは。

 その仕事をほっぽり出して「外出」します。


 遊びに行くわけではありません。



 お兄ちゃんの「捜索」が目的です。



 現状、実家近くでの遺体発見などの情報などがない今。

 未だにお兄ちゃんが生存している可能性があるのです。

 可能性があるならば、何処かの狭い路地か、何処かの橋の下で「ホームレス」生活をしている物だと私は推測しています。 


 もし、もうこの世にいない者だとしても、せめて遺体だけは見つけてお墓を立ててあげたい。

 そんな思いが募りに募って、こうして休日などは基本的にお兄ちゃんの捜索に専念しているのです。


 誰も協力はしてくれません。

 こんな事情を相談できる人もいません。

 お兄ちゃんを「阻害」していた家族はそもそも論外です。

 

 警察は、そんな私の事情を話しても動いてくれませんでした。

 薄々気づいていましたが、やはり警察と言うのは信用するに至りません。

 救急隊員の方が余程頼りになるのではないかと、最近は思っています。

 

 「……忘れ物、ないよね?」


 天気は快晴です。


 今日こそはお兄ちゃんを見つける。


 絶対に!


 * * * * *



 お兄ちゃんの捜索方法は基本、地図を見ながらの手さぐりです。



 地図を見ながら車を走らせ、狭い路地、橋の下、建設中の建物の付近など、人気の少ない所を中心に捜しています。


 捜した場所には✕印を付けて、お兄ちゃんがいるであろう地域を手当たり次第捜索する。こういう単純なやり方です。


 私の頭が良ければ、もっと効率的な捜索方法を模索できるかもしれません。

 でも残念ながら私の知能は、並の並より少し上くらいの物なのでこの方法しか思い浮かびませんでした。

 

 それに、時間帯と捜す場所によってはたまに「変質者」に襲われます。

 もう既に何度か、男性の局部を見せつけられた事があります。

 でもそう言う人達は容赦なく通報し、実力行使に出てきた人達は全員撃退しました。

 こう見えて私は「空手」をそこそこ長い間習っていたので、並の男性くらいならねじ伏せれる自信があります。

 

 「ここはまだだっけ…?」


 車を走らせているうちに、とある橋の下に着きました。


 ここはまだ見捜索です。

 大きな橋の影が光を遮って、あまりよく見えません。


 捜索してみる価値ありです。


 * * * * *



 橋の下は、ひんやりとしていました。

 風も強く、髪が激しく乱れます。


 よく見ると案の定、幾つかの「生活スペース」が設置されているようです。

 おそらく、「ホームレス」であろう方々が住んでいるのだと思います。



 私はゆっくりと警戒しながら、それらの前を横切ります。

 流し目程度に中の様子を見て、お兄ちゃんであろう人がいないかどうかを確認し―――


 「おいねぇちゃん、誰かおさがしかい。」

 「ひぇ…!」


 突然、見知らぬ誰かに話しかけられてしまいました。

 ふっと振り向くと、背を丸くしたおじいさんが私を見ています。

 どうしよう。

 でも、チャンスかもしれません。


 「あ、あの!この辺りに『顔に大きな(あざ)がある人』っていませんか?」

 「…そんなもん老いぼれなら誰でもできるわい。」

 「そ、そうですよね!でも、その人はまだ若い男の人で!」

 「……ん~。確かそこに大きな痣があるやつおったかなぁ。」

 「…へっ!?」


 その人が指さした先にある生活スペース。

 もしかしたらそこに。

 

 私は夢中でそこに駆けより。

 中を見ました。


 私が覗いたその場所には。








 小さな、黄色い花束が置かれていました。



 「……あっ…。」

 「そいつなぁ、少し前にしんでもうたんやわぁ。」

 「………。」

 「ええやつやったでぇ。ええやつほど早死にするもんやさかいなぁ。」

 「………この方の、御遺体は。」

 「どっかに持ってかれよったよぉ。どこいったかまではわからんなぁ。」

 「………そう…ですか。」


 私は静かに。

 その花束の前で合掌し、一礼して。

 

 「………。」


 頭の中が真っ白になったまま。

 話を教えてくれたその人に、申し訳程度の謝礼を渡して。



 その場を去りました。



 * * * * *



 何故かその後、何もやる気が起きませんでした。


 手が震え、自然と涙が込み上げて来て。

 何も考えずに、無心で車を走らせ。


 あそこにいた人がお兄ちゃんだと言う確証がないまま。

 もう半分、諦めていました。


 

 私はお兄ちゃんに、一度も良い思いをしてあげれないまま。

 このまま、全部終わってしまうんだと。

 そう思い込んでしまって。



 軽く、生きる気力を失いかけていました。



 もうお兄ちゃんに、二度と会えないんだったら。

 今私が生きている意味は、あまりないんじゃないかと。

 

 だから、せめてもの罪滅ぼしとして。


 家に帰ったら。



 自決しようと。


 そう決意しました。



 * * * * *





 ですが。


 帰り際に、気になる場所を見つけて。

 その近くで、車を止めました。



 「………ここって。」



 時刻は、もう夕暮れ時です。

 日が沈みかけています。


 そんな時間に、私はとある場所の前で立ち止まりました。



 もう使われていないであろう、工場の跡地でしょうか。

 私が気になるのは。

 その工場の場所と地図を見比べても、地図にはざっくりと敷地が記されているだけなのです。


 こんなに入り組んでいるのに。

 

 

 「………。」


 何かに引き寄せられるようにして。

 私はその入り組んだ工場の中へと入っていきました。

 

 もう使われていないんだから。

 

 不法侵入とか、難しい事言わないで下さいね。



 * * * * *


 中は暗い場所でした。


 周囲の錆びた鉄塔で太陽の赤い光が遮られて、視界が安定しません。



 たまに足元で、クモやムカデなどの害虫がかさかさと動いていました。


 でも、そんな事は気にも止めず。

 私は工場を見回していました。


 誰かがここにいる気がする。

 磁石のように、ここに吸い寄せられる何かがある。


 そう思って、無心で捜し回りました。

 もしかしたらと思って。

 必死で、歩き回りました。



 そこで。



 私は―――

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