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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
高坂未見の世界
25/54

どうしてそんなに優しいの?

 

 

 「――――はっ!?!」

 「………zzz。」

 「……………はぁ………はぁ……はぁ……。」



 どうやら…朝のようです。

 私は飛び起きるように、布団からバッと体を起こしました。


 とても嫌な夢を見てしまったようです……。

 私が馬鹿だった頃の昔のあの時(・・・・・)、そのままの夢です。

 あれは夢ではなく…現実。

 大好きなお兄ちゃんに……私は……なんて酷い事をしていたのでしょうか……。


 「……はぁ………うぅ………ぐすっ…。」


 しばらく頭が働かず、真っ白な状態でした。

 胸の中で掻き乱れる罪悪感と、自分自身への憎悪感とが渦巻き、吐き気がするほど苦しい。

 その苦しさと共に、喉の奥から込み上げてくる後悔と憂い。

 もうあの時(・・・)の事なんて考えたくなかったのに…。

 考えない様にしようって決めたのに…。なのに…。

 自然と涙が目から溢れ出てきます。

 その涙が垂れるにつれて、どんどん自分という存在が嫌になっていって……。

 憎くて…情けなくて…。


 「嫌……もう考えたくない……もういやだ…ぐすっ……どっかいってよぉ……。」


 私の意志に反して、過去のお兄ちゃんに犯した(あやまち)がどんどん脳裏に湧き出て来て、私の心を襲ってきます。

 そうです。

 全部、私が悪いんです。

 お兄ちゃんが苦しむ事になったのは、全部全部私のせい。

 私の家族から酷い仕打ちを受け続ける破目になったのも、お兄ちゃんが部屋に閉じこもらなければいけなかったのも、食事を与えられなかったのも。

 挙句の果てには、家を追い出されなければいけなくなったのも…。


 全部私の…。

 私の…。


 「もうやだ………私の頭に出てこないで……お願いぃ………忘れさせてよぉ……。」


 もう自分が嫌だ。

 今すぐにでも死にたい。

 どうして私は、大好きなお兄ちゃんにあんな事をしてしまったの?

 男だから?嫌いだから?

 なんで…なんであんな事したの…。

 もう解らない…。

 自分が信じられない…。

 もう何も…考えられない……。


 「う………うぅ……。」



 「………み……みる…。」

 「――!?」


 私が自分の忌々しい過去を嘆いていた矢先。

 私を呼ぶ、か細い声が耳に入ってきました。


 側で寝て居たお兄ちゃんが目覚めて、私に話しかけてきてくれたようです。

 きっと私の嗚咽で目が覚めたのでしょう。

 涙を流す私の顔をじっと見つめ、気遣うような顔をしています。


 「………泣い……てるの…?」

 「お………おにぃちゃん……。」

 「………泣かない、で……僕………みみるが、泣いてるの……いや、だ…。」

 「……。」

 

 駄目だよ……。

 なんで…なんでそんな優しい言葉を使うの……?

 こんな私に、そんな優しい目を向けないで……。

 貴方をそんな醜い体にしたのは、この私なんだよ…?

 そんなに見つめないで……。

 そのお兄ちゃんの目…私大好きだよ…。凄く好き…。

 でもね……その純粋無垢なその優しい瞳が…私にとってはどんな鋭利な刃物よりも鋭くて辛いの……。

 お兄ちゃん…やめて…。

 もっと私を憎んで…。

 じゃなきゃ……辛いよ、私…。



 「うぅぅ……おにぃちゃぁぅぅん……。」

 「………みみる………てぃっしゅ……使う…?」

 「…ぐすっ……ごめん…ありがっ……本当にありがとね……。」

 「………うん……おはよう…みみる…。」

 「…うんっ、おはよ…おはよぉ……。」


 時刻は、朝の6時半。

 まだ外は薄暗く、部屋もぼんやりと青みがかっています。

 そんな部屋の真ん中で、私は。


 私の、この世で一番大好きな人に。

 私が、この世で一番憎まれるべき人に。

 

 身を寄せて縋り、胸に顔を埋めて泣きじゃくりました。



 * * * * *



 「………みみる……大、丈夫…?」

 「…うん、もう平気だよ……ありがと……本当にありがと…。」

 「………。」


 顔を俯けながら、お兄ちゃんにぎゅっと抱き着いたまま数分が経ちました。

 先ほどまでの気分とは一転し、気分は落ち着いています。

 お兄ちゃんが優しく励ましてくれたおかげです。

 私の背中を、子供を寝付かせる時の様にトントンと打ってくれたり。

 時折、私の頭を撫でてくれたり。

 そんなお兄ちゃんの介抱もおかげもあって、涙もぴたりと止まりました。

 本当に…優しくて素敵なお兄ちゃんです…。

 ありがとう…大好きだよ…。


 「……お兄ちゃん…。」

 「………?。」

 「大好き…。」

 「………。」

 「お兄ちゃんは…私の事…………嫌い?」

 「………。」

 「…ふふっ……嫌いに決まってるよね……。散々酷い事してきた私の事なんて……好きになる訳無いよね…。」

 「………。」

 「……。」


 お兄ちゃんは、表情を何一つ変えず私を見つめてくれています。

 その視線が、何だか辛いです。

 当然だよね…。

 取り返しのつかない事、お兄ちゃんにいっぱいしちゃったもんね…。

 ごめんね…。その分、一生かけて償ってあげるからね…。



 

 グぅぅ。


 

 静寂の中、誰かのお腹が空腹を訴えました。

 今のは…お兄ちゃんかな?


 「………ご…ごめ……その……。」

 「…へへへっ、お腹すいたね。…朝ごはんにしよっか。」

 「………。」

 「何かリクエストある?」

 「………。」

 「…いつも通り、お任せ?」

 「………。」

 「…お味噌汁とかでいい?」

 「………うん…。」

 「うん、解った。直ぐ作るから待っててね?」

 「………うん…。」

 

 私はお兄ちゃんからすっと離れ、朝ごはんの支度をしにキッチンへと向かいました。

 なんだか私最近、お兄ちゃんに泣き付いてばかりですね…。

 もっとしゃんとしないと…。

 本当…私は学習しない人間ですね…。

 自分がつくづく嫌になってきます。

 今すぐにでも、自分を捨てたい……。

 

 でもそんな私には今、お兄ちゃんを養うという大事な責務があります。

 その責務がある限りは、自分を捨てる訳にはいかないんです。

 だから…。お兄ちゃん。

 こんな私だけど、側に置いててね。

 きっと私、立派なお兄ちゃんの「道具」になって見せるから。

 昔私が、お兄ちゃんを「道具」として扱っていた時の様に…。


 お兄ちゃんだけの、道具になるの。

 これからずっと。ずーっとね。

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