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お兄ちゃん依存症  作者: 南瓜
高坂未見の世界
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貴方に会いたい

 


 とあるマンションの一室。


 日当たりがよく、電気がなくても全域に日が差すほど明るい部屋。


 部屋は綺麗に整頓されている。

 むしろそれは、物寂しさすら感じ時させるほど生活感がない。

 家具は充実しているが、使用している形跡はあまりない。

 だが、埃は被っていない。


 誰が見ても、無機質だと思うような佇まいの部屋。




 そんな部屋に住む、一人の女性。


 白いショートヘアに、よれよれのピンク色のシャツと白いショートパンツ。

 短い前髪を上へピンと立てる様に括りつけている。

 背はあまり高くはない。

 服装によっては、少女と言えてしまうかもしれない様な風貌をしている。


 そんな女性は今。

 




 軽い「鬱」状態にあった。



 * * * * *



 「はぁ……………。」 



 私の名前は「高坂未見(みみる)」と言います。


 このマンションに、とある事情で今は一人で暮らしています。


 生活に何不憫ない環境で過ごさせてもらっており、仕事も安定していて稼ぎもそこそこって感じです。

 一人で住むには、何も不満はないと思います。


 でも、足りない物が。


 足りない人がいるんです。




 私の、お兄ちゃんです。

 




 ですが現在、私のお兄ちゃんは。

 事実上、消息不明の状態にあります。




 戸籍がなく、どこかに住んでいるのかすら解りません。


 なぜなら、私のお兄ちゃんには「名前」がないからです。

 


 私とお兄ちゃんは、血が繋がっていません。 

 いわゆる「義理の兄妹」です。


 ですが、私は一度も。

 そのお兄ちゃんと「家族」であったことがありません。


 同じ家に住んではいましたが。

 私も含む、家族全員が。

 お兄ちゃんを「亡き物」として扱っていたからです。


 家に「養子」として迎え入れたお兄ちゃんに、名前も与えず、お兄ちゃんを「電気」の止められた部屋に閉じ込めたまま、ご飯も共にせず、私たち家族の生活環境から完全に「阻害」していたのです。


 そのうえ、掃除等の家事を無理矢理ヤラされて。

 それでも見返りはなく、やることを終わらせたらすぐ部屋に閉じ込めて。


 そんな一種の「奴隷」のようにして、私のお兄ちゃんは家族に扱われていました。


 そして私がその家族の元を出る少し前に。

 お兄ちゃんは家を「追い出され」ました。

 勿論その時のお兄ちゃんは行く当てもなく。


 そのまま、何処かに行ってしまいました。


 その後どうなったかは、未だに解りません。

 生きているのかすらも。


 何も、解らないのです。




 そして、そのお兄ちゃんと疎遠になってはや数か月。



 私は、そのお兄ちゃんに。


 自分でもよく解らない、「恋愛感情」を抱いていることに気付きました。


 一人になってようやく理解できた、あの人の存在。

 私にとってかけがえのない、大切な存在なんだと。

 今更になって、ようやく気が付いたのです。



 「………どうしよう。」



 でも、そのお兄ちゃんと連絡を取る手段がありません。

 そもそも。


 生きているのかすら。



 「……………ぐすっ………ぐすっ……。」



 一人暮らしするには広すぎる、この部屋も。

 元は、お兄ちゃんと「同棲」するのが目的で選んだ場所です。


 何処かに行ってしまったお兄ちゃんを迎え入れ。

 生活を共にし、今までお兄ちゃんが受けてきた雪辱を、今度は私がお兄ちゃんにしてあげるのだと。

 そんな決意と共に、ここに住み始めました。

 ですが。


 何か月捜し回っても。


 

 いくら場所を変えて捜しても。



 お兄ちゃんがいません。



 手掛りも、何も見つかりません。

 何も、情報がないのです。

 仮に遺体として見つかったのなら、何か情報があるはずなのに。

 それもありません。


 捜索願を警察に出そうとしても、名前が解らないんじゃ断定できないと取り合ってくれませんでした。

 こっちはこんなに必死に捜しているのに。


 「……………ぐすっ………お兄ちゃん………ぐすっ…。」


 私はお兄ちゃんと呼んでいますが。


 まだ一度も、あの人をお兄ちゃんと呼んだことはありません。

 今まで、あの人にこんな感情を抱いたことなんて無かったから。


 昔の私は、あの人を「人」として扱っていなかったから。

 何か不快な、「道具」か何かとして扱っていたから。


 あの人を「家族」として、見ていなかったから。



 「………ぐすっ…うぅぅ……お兄ちゃん…お兄ちゃんお兄ちゃん……ぐすっ。」


 あの人に謝りたい。


 あの人をお兄ちゃんと呼びたい。


 あの人の声が聴きたい。


 そして伝えたい。



 今までごめんなさい。

 これからは貴方に尽くします。

 どんな事でも。

 なんでもします。

 好きなだけ私を使ってください。

 今まで、私が貴方を散々ひどい目に会わせてきたように。

 これからは、貴方が私をこき使って下さい。 

 私はどんな言いつけにも従います。

 貴方が「死ね」と言うなら、貴方のお望みの死に方でこの世を去ります。

 貴方が「出ていけ」と言うなら、私の全財産を貴方に託してここを去ります。


 だから。


 だから。



 「うぅぅぅぅぅ!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃぁぁぁぁん…うえぇぇ…ぐすっ……うぅぅぇぇぇぅぅ……。」




 一度でいいんです。


 ほんの僅かな時間でもいいんです。



 神様。

 お願いです。


 私とお兄ちゃんを。


 会わせて下さい。



 いつかお兄ちゃんに会う。


 ただそれだけが。




 今の私の生き甲斐です。

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