親友
授業が終り、学校から家へと帰って来ると、私はマリリンとまた強君の話をした。
「やはりお嬢様は強様に告白すべきです」
「こ、告白。そんな恥ずかしいことできないよ」
私は言葉に詰まって、顔を赤くした。
「それでは恋は実りませんよ」
「その前に照美ちゃんがいるのに…」
強君と楽しそうに話していた照美ちゃんの姿が蘇る。
「強君は照美ちゃんが好きなんだよ」
「それは訊いてみないと分からないじゃないですか。ここはいつもの強い調子で強様に告白すべきです」
今日のマリリンは随分と引かない。
「なんでそんなに熱心なの」
私はマリリンに恐る恐る訊いてみた。
「それは私がいっつも恋に奥手で損をしているからです。お嬢様には私のような失敗はして欲しくないのです」
「そうなの。マリリンも奥手なの」
「実は私も友達と同じ人を好きになったことがありまして、結局相手に遠慮して告白もできずに終わった恋があったのです」
「なんだマリリンも同じじゃん。だったら私に何も言えなくない」
私もなんだかほっとして胸をなでおろした。
「いいえ、今の状況では照美様が強様のこと好きかどうかも分からないのです。そのことが、はっきりすればお嬢様は告白できるかもしれないじゃないですか」
「うーん、言われてみればそうね…」
「そうです。お嬢様。是非、照美様に訊いてみるべきです。友達として」
「友達として?」
「そうですよ。友情とは大事なことを打ち明けるべきものでしょう」
「友情かあ」
私は先日照美ちゃんの前で泣いたことを思い出した。いつまでも友達だよね。それに対して照美ちゃんは明るく答えた。友達だよと。
それから数日後、私は学校帰りに照美ちゃんと待ち合わせをした。待ち合せ場所は昔子供の頃よく遊んだ公園だ。ほとんど記憶がなかったんだけど、ネットで調べたりして、だいたいの場所が分かった。行ってみると、何もかも変ってなくて、とても懐かしい気持ちになった。
よく遊んだブランコやシーソー、砂場が今も変わらずそこにあった。懐かしくて懐かしくてあったかい気持ちになっていると、照美ちゃんがランドセルをしょってやってきた。
「唯ちゃん、待ったあ」
「ううん。全然。今日は急に呼び出してごめんね」
「別にいいよ。特に用事もないし、強君のところに遊びに行くぐらいだし」
いきなりその名前がでてくると、ものすごく緊張する。肩の上ではマリリンが、がんばれとばかりに肩を叩いた。
「あのね」
私の声は思わず裏返った。
「その強君のことなんだけど、照美ちゃんは強君のこと好きなの?」
「好きだよ」
彼女は屈託もなくそう言った。
私の心はガランガランといろんなものが落ちて来た。
「だって唯ちゃんも好きでしょ、強君のこと」
彼女は満面の笑みを浮かべて、えくぼを膨らませた。
好きって、彼女の言ってる好きって人として好きってこと?
「あのね照美ちゃん、私の言う好きというのはつきあいたいっていう意味での好きなんだけど」
それを聞いた照美ちゃんは顔をさーっと赤くした。
「ゆ、唯ちゃん好きなんだ。強君のこと」
ようやく意味の分かった照美ちゃんは恥ずかしそうに下を向いた。
「そ、それでね。もし照美ちゃんにそういう気持ちがあるんだったら、私は強君に告白する気ないんだ」
「そんな遠慮しなくていいよ。私ね。強君のことそういう意味では見てないんだ。なんっていうか、兄弟みたいな感じなの。頼れるお兄さんって感じなんだ。だから唯ちゃん全然私に気にしなくていいんだよ」
「ほんとに? ほんとにそれが照美ちゃんの本心?」
「もちろんだよ、唯ちゃん。だって私達友達だもの。私がほんとに強君のこと好きになったら、私も唯ちゃんに言うから安心して。ねっ」
彼女は明るくそう言った。友情ってほんとにいいもんだね。ねえ、マリリン。