表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第3章 ディフィード大陸編
92/219

第88話:それぞれの戦地へ

「止まれ! 何者だ!!」



王都キルフォーのど真ん中に構える、

ディフィード大陸の象徴とも言うべき建造物、キルフォー城。


その由緒正しき城郭の入り口を守る兵士が、

今まさに城の中へと進もうとした男女2人に向け、

まるで犯罪者を捕まえるかのように、声を荒げた。



「レナ・フアンネ。

 エリフ大陸王都、セカルタからの使者よ」



金髪の少女は、動じることなく涼しげに答える。



「同じくプログ・ブランズだ。

 キルフォー王への謁見をお願いしたい。

 約束(アポイント)は我らが執政代理の名で取り付けているはずだ」



隣に立つ長身の男も、事もなげにそう答えた。



「セカルタからの使者だと?

 ……少し待っていろ」



わずかに眉をひそめた兵士はほんの一瞬間をおくと、

すぐさま城の内部へと走っていく。



(待っていろ、とか、

兵士レベルでどんだけ上から目線なのよ)


(きっとそういうお国柄なんだろ。

あんまりカリカリすんなって)


(わかっているわよ

ここからはとにかく我慢。

それくらいわかっているわ)



兵士が戻る、その時を待ちながら、

レナとプログはチリチリと肌に感じる、

緊張を隠すように沈黙を小声の会話で埋めていく。


レナとプログ。

そう、今はこの2人しか、いない。





「今から会いに、行きましょう」



レナは一言だけ、そう告げた。


作戦もある程度犠牲にしても時間を――。

それが、悩んだ末に出した、レナの結論だった。



「まぁ、それしかねぇな。

 準備万端、ってワケじゃねぇけど、

 悠長に構えている時間もないしな」


「うん、仕方……ないかな」



状況を察してか、

はたまた完全同意だったか、

プログもアルトもその判断にあっさりと追随する。

蒼音もコクリとうなずき、

状況が完璧に飲み込めないながらも、

懸命に意志を示した。

この場で一番優先すべきは時間、

かくして共通の認識が一致した。


ただ、レナの結論には、続きがあった。



「ただ、ここで二つに分かれましょう」


「え?」



さぁそれなら今すぐにでもと、

キルフォー城に視線を向けたアルトは、

まるで安い人形のように首をカクカクとさせ、

レナの方へ振り返る。



「それは正面突破組と裏から潜入組ってことか?

 それとも、突撃組と待機組っつー話か?」


「後者。前者はリスクが高すぎるし、

 今の状態じゃ無意味すぎるでしょ」


「ま、そりゃそうだわな。

 それに、4人でできるような策でもねぇしな」



詳しく話さずとも真意が合致したレナとプログは、

話をトントン拍子に進めていく。



「ちょ、ちょ、タイムタイム。

 どういうこと?」


「私もさっぱり……どういうことでしょうか?」



傍ら、トントン拍子に乗り遅れたアルトと蒼音は、

慌てて話の先を行く2人を止める。



「要は二手に分かれる、ってことさ。

 片方はキルフォーの王に会いに行って、

 もう片方は外か宿泊先で待機ってこと」


「え、片方は待機ってどうして?」


「共倒れを防ぐためよ」



戸惑うアルトを横目に、レナは続ける。



「いい? ここから先は、ホントに未知の領域なの。

 すんなり話が通る可能性もあるけど、

 逆に相手がワナを張ってて陥れられるかもしれない。

 その時に、4人全員が同じ場所にいてしまったら、

 完全に全滅(ゲームオーバー)になっちゃうでしょ?」


「た、確かに……」


「それで、全員が身動き取れなくなるのを避けるために、

 アンネちゃんとブラさんは二手に分かれようと?」


「そういうこと。

 万が一謁見組に何かあったとしたら、

 助けに行くにしろ、レイに情報を伝えるにしろ、

 待機組が速やかに動くってワケ。

 それに、ぶっちゃけ4人で謁見しに行ったところで、

 必ずしも全員が喋るワケじゃねえからな。

 それなら2人、もしくは3人くらいでも問題なし、ってことさ」



つまるところ、

4人で押しかけて四面楚歌になるよりは、

誰かを城の外に残しておいて、

有事の際はその残った人が……ということらしい。



「今のあたし達はとにかく準備不足すぎる。

 だから正直、事態がどう転ぶかは、

 フタを開けてみないと分からない状況よ。

 そんな状況で全員が行動を共にするのは、

 あまりに危険すぎるわ」



だからせめて、行動を二つに分けて何かがあった時に備える、

それがレナの出した、真の結論だった。


この結論が正解かどうかは分からない。

だが、他に選択肢が浮かばない。

時間を気にしながら、

かつ準備不足の現状を補完する備え。


レナの思考が、わずか1分の間にひねり出した対策は、他にない。

正解かどうかもわからない。

だが、もうやるしかない。



「時間がないわ。

 謁見が遅くにずれこんだら、それだけで印象が悪くなるし。

 誰が行って誰が残るか、急いで決めましょ――」





そうして城に乗り込んだのが、

レナとプログの2人だった。


一方、アルトと蒼音の2人は、

キルフォーの宿屋でひとまず待機することと決まった。

自分が行ってもプログやレナ以上にうまく話せないから、

というのはアルトで、

状況がまだ飲み込めていない自分が行っても、

逆に話をこじらせるかもしれないから、

というのが蒼音。

共に自ら理由を申し出て、

待機組を選択したのだ。



(ま、何となく想定していたけど、

やっぱりコイツと、か)



いまだ戻らぬキルフォー兵を待ちながら、

レナはチラリと隣の、

珍しく顔を強張らせているお調子者男を見やる。


もとより自分は行くつもりでいたし、

もし連れて行くなら、

腕だけではなく、弁も立つプログ、

そしてギリギリ事情を把握しているアルトくらいまでかな、

という思いをぼんやりと持っていたレナ。


そのため、蒼音とアルトの自己申告、

そして俺は別にどっちでも構わないぜ、

というプログのスタンスは、ちょっとだけありがたかった。


これで、やれるべき手は打った。

あとは――。



と考えているうちに、

奥から先ほどの兵士が戻ってきた。



「総帥から謁見の許可が出た。

 ついて来い」



まるでサッサと済ませろ、とばかりに、

門番はレナ達の動きを気にするそぶりもなく、

城の内部へと帰……もとい、案内する。



「ここの兵士ってのは、

 こんなコミュ障みたいなヤツらばっかりなのかしら?」


「さあな。ま、一つ言えるのは、

 明らかに歓迎はされてない、ってことだ」



プログは声のトーンを落としながらも、

残念がることもなく、つまらなそうに坦々と言う。



「多少は気を遣うべき門番ですら、

 この対応だしな」


「確かに」



と、レナは前を行く無礼な門番を見て、



「門番が、あの態度じゃあね」



ポツリと呟いた。


城の門番とは大きく2つの性格を兼ね備えている。

1つは城へ近づく不審者、悪者を撃退し、

城の内部への侵入を阻止すること。

そしてもう一つは、

城に用事があってきた者に対して見せる、

いわば城の『顏』だ。


城下町に住んでいる人々は別として、

初めて城を訪ねて来た者や、

今回のレナ達のように謁見を申し込みに来た者にとって、

最初に接触する城の関係者は、

間違いなく城の門番だ。


そして、その門番がどのような対応を取るかによって、

来訪者はある程度、

城全体のイメージを作りだすことになる。


例えば、門番が口優しく穏やかに、

来訪者への対応をしたとなれば、

訪問者は城全体に対して暖かい、正のイメージを持つだろう。

一方で、門番が素っ気なく、

冷ややかな応対を貫いたとなれば、

城へ訪れた者は、

その門番だけでなく城全体に、

冷淡で暗い、負のイメージを形成してしまう。


人の印象は第一(ファースト)印象(インプレッション)で決まるとよく言うが、

この場合人が城全体、そして第一印象が門番に該当する。


大陸の顏とも言える王都となれば、

当然のことながら負のイメージは嫌う。


少しでも自国の王都に良い印象を持ってもらおうとするのが、

大陸を束ねる立場として、当たり前の行動である。


だが、今レナ達がいる場、キルフォーは違う。

今の門番の対応によって、

レナとプログは、ぶっきらぼうで他人に寄り添おうとしない、

負のイメージがすでに完成している。


下の(もんばん)への教育が徹底されていないのか、

もしくは、あえてそういう教育を施しているのか。


出鼻からいきなり予想の斜め上をいく、

キルフォー上での出来事を目の当たりにしながら、

レナとプログはキルフォー城内へと、

いよいよ消えていく。





一方で。



「アンネちゃんとブラさん、大丈夫でしょうか……」



レナとプログと別れた蒼音は、

不安の色を隠しきれない。


無理もない、

結局対策等を何も話すことなく、

2人は現状敵である本拠地へ向かったのだ。


これで心配するなと言う方が、

その思考を心配されるだろう。


無論、アルトも同じだった。

こちらに残るという判断を自分で下したとはいえ、

城に向かうレナ、そしてプログのことが心配だった。



「……大丈夫だよ。

 あの2人なら、きっと無事に帰って来れるよ」



だが、アルトは蒼音に対しては、

そう言葉を発した。

自分に言い聞かせる訳ではなく、

蒼音に向かってしっかりと伝えた。



「向こうの王様と話がうまくつくかどうかは、

 正直わからない。

 だけど、あの2人の事だから、

 もし交渉がうまくいかなかったり、

 身の危険が迫ったら、

 すぐに気づいて逃げてこれると思う。

 2人ともすごく強いし、

 その場の雰囲気を感じ取るのも早いし」


「アルト君……」


「だから僕達も、

 いざとなった時は、すぐに動きが取れるように、

 緊張感を持って待機していよう。

 きっと、それが今、

 僕達にできる最善の事だと思う」



助けを乞うような眼差しを見せる蒼音に、

アルトはきっぱりと言った。

自分でもなぜこんなに言いきれるのだろう、

と不思議になるくらい、

その言葉には、我の意志が詰まっていた。


レナとプログは、

これから未知の相手に“言葉の戦い”を、

挑んでくる。

だが、それは決して2人だけの戦いではない。


有事の際にはアルトと蒼音の待機組が、

すぐに2人のもとへと駆け付ける、

4人の戦いなのだ。

決して、ただ漫然と宿屋で過ごすわけではない。



「……そうですよね。

 アンネちゃん達に何かあった時の、

 私達ですもんね」


「うん。

 だから、僕達も早く、

 宿屋に行っていよう。

 ここで兵士にでも捕まったら、

 それこそ何の意味もなくなっちゃうからさ」


「はい!」



先ほどまでの表情とはうって変わり、

年下の少年の言葉に蒼音はニッコリとうなずき、



「そしたら宿屋へ急ぎましょう」



善は急げとばかりに、

城下町の外れに位置する、

宿屋の方へと足を向け、

足早に歩き出す。



(これでいいんだよね、レナ。

こっちは僕に任せて。

だから、レナも頑張って……)



夜への移行のため、

徐々に暗くなり始めたキルフォー市街地で、

アルトは心で呟くと、

先を行く赤髪巫女の後に続く。





その背後で。



「うぃ~……っく。

 今日も酒がうめぇ~なオイオイっとぉ~、

 ヒック」



プハァ~と強烈に酒臭い白息を吐き、

数秒に1回はオヤジくさいシャックリをかます、

齢にして20代半ばの男が1人。



「グビグビ……くぅ~ッ!!

 やっぱり寒いときゃ、

 強めのアルコールが身に沁みるってぇ~モンよぉ!」



右手に持つブランデー瓶を直飲みしながら、

無精髭を生やし、ボサボサ黒髪短髪頭のその男は、

デカい独り言を響かせている。


周りに会話がない分、

その酔っ払いの声が広く響く。



「しかし……っく。

 何やらオモロそうな話をしていやがったなしかし。

 総帥に会いに行くだァ?

 ヒック、傑作じゃねーか!

 あの総帥に会いに行くたァ、

 どんだけのバカかアホっつー話だわ!

 ヒャーッヒャッヒャ……ックとぉ!

 こりゃ酒場のヤツ等にも一つ、

 酒のつまみ話でもしてやっかな!

 ハッハッハッハッハ!!」



豪快、というよりどちらかと言えば下衆に近い、

品の無い笑いを見せ、

まるで乞食のような佇まいをした男は、

堪えきれない笑いとシャックリを派手にぶちかまし、

ならず者の憩いの場である酒場へと、

焦点の定まらない眼と千鳥足で向かっていく。



「ヒャーッハッハッハッハッハッ!!」



足元がおぼつかない程に、

泥酔しているだろうにも関わらず、

男は酒場へと、戻る。



「ハッハーッハッハッハ! ………ハハッ」



途中笑い疲れたのか、

汚い男は急に下衆笑いを止め、



「……ホンッと、

 オモシロそうなヤツ等が来てくれたじゃねぇか」



つい数秒前とはまるで別人の、

まるで二重人格かと見間違うような無表情に、

わずかに含み笑いを浮かべて、男はその場を去った。

次回投稿予定→2/12 15:00頃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ