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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第1章 ワームピル大陸編
6/219

第4話:アルト・ムライズという少年

レナが(強引に)乗り込んだ最終列車は、

ルイン駅から終点であるファースター駅まで、

およそ2時間弱かかる。

その間に、通過する駅は1駅もない。


また、外の風景も漆黒の闇が広がっているため、

時計を見ない限り、

どのくらいの時間乗っているのかを、

レナとアルトは知ることができない。


しかし、列車内にあった掛け時計は、

魔物によって全て破壊されてしまっていた。

そのため、今どの辺を走っているかも、

どのくらい乗っているのかも見当がつかない、

まさに”時間の暗闇状態”のなか、2人は進んでいく。



「はぁ、こうなるなら腕時計してくればよかったわー。

 アルト、腕時計とかしてる?」


「ごめん、持ってはいるんだけど、

 部屋に置いてきちゃった……」


「……腕時計って普通、

 常に腕にしておくモンじゃないの?」


「いや、まぁ寝るときに外して、

 それ以来……」


「あぁ、そういうことね。

 てか寝てたんだ、

 だから魔物にも気づかなかったのね。

 でも途中で気付かなかったの? その、鳴き声とかで。

 ってか、むしろなんでアルトの部屋だけ無事だったのか、

 とても意味不明なんだけど」


「あぁ、たぶんだけど、

 念のためと思って、

 寝る時に魔物の嫌う、

 お香を炊いてたからじゃないかな。

 うちのばあちゃんが、

 列車でも万が一のために持っていけって……」


「どんだけあんたのおばさまは用心深いのよ。

 まあでも、そのおかげで助かったんだから、

 感謝しかないわね、ホントに」



レナとアルトは7号車を歩いていた。

10~8号車は個室用列車ということもあり、

魔物と遭遇することもなく、

また乗客に出会うこともほとんどなく、

順調に進んでいった。


というのも、

個室用列車は他の列車に比べて料金が割高なため、

利用する乗客は少ないのだ。

事実、この3車両で個室を使っていたのはアルトを含め、

3人しかいなかった。

無論、アルト以外の乗客は……だったが。


そんな中、順調に歩を進めながらも、

少しずつ、焦りという見えない魔物に、

レナ達は襲われつつあった。


順調に進んでいるように見えても、

実際、現在の時刻がわからないとなれば、

否が応でも急がざるを得なくなる。


まぁなんにせよ、

急ぐに越したことはない、

レナがそう考えながら、

足早に6号車に足を踏み入れたが、

ピタッとその歩みが止まる。



「……! っと」



すぐ後ろを歩いていたアルトが慌てて止まり、

前方に目をやると、

ブラッドウルフが2匹、

固まって待ち構えている。



「う、うわ……。

 本当に魔物だ」


「さてと、2匹なら何とかなるわね、

 チャッチャと片付けるわよ」



いるとは解っていても、

本当に魔物がいることを確認し、

若干顔が青ざめるアルトをよそに、

レナは両剣を抜くと、1匹目へと突進していく。

そして、長剣で一気に腹部を薙ぎ払った後、

素早く短剣で、

すぐ近くまで襲い掛かってきていた、

2匹目も薙ぎ払う。


1匹目は一撃で倒れたものの、

2匹目のほうは薙ぎ払いが浅かったのだろう、

ほんの一瞬足が止まっただけで、

苦しそうな表情を浮かべながらも、

再びレナへ襲い掛かってくる。



(チッ、仕留め損ねていたかッ!)



レナは1匹目に向いていた体を、

素早く2匹目に入れ替え、

今度は長剣で腹部を突き刺す。

これで2匹目もようやくとどめを刺



「フギャアァァァァァ!!」


「!!」



レナが慌てて右を振り向くと、

さっき仕留めたはずのブラッドウルフが――。


いや違う、1匹目はすでに倒れており、

別のブラッドウルフが、

レナを目がけて突進してくる!


2匹に見えた魔物の群れは、

後ろに1匹隠れており、実は3匹いたのだ。



「! 厄介なッ……!」



2匹目に長剣を突き刺したことで、

右手の自由は奪われている。

レナが体をひねって懸命に避けようとするが、

ブラッドウルフの鋭い爪が、

わずかにレナの右腕をかすめて



パアァァン!



乾いた爆発音が、

6号車内の全ての音を独り占めする。


驚くレナの目の前で、

おそらく即死だったのだろう、

3匹目のブラッドウルフの体が、

静かに崩れ落ちる。


レナが驚きの表情のまま後ろを振り返ると、

そこにはわずかに銃口からの煙を残した、

拳銃を左手に握りしめ、

構え立つアルトの姿があった。



「よかった、何とか……!」



喜びというより安堵の表情を浮かべて、

アルトが力なく笑う。


アルトは何とかレナの助けになりたいと、

銃を撃つタイミングを、背後から計っていた。


しかし、レナのあまりの俊敏さについていけず、

銃を撃つのを躊躇していたのだが、

その分、後方から戦いの様子を、

しっかりと伺うことができていた。


そのため、レナよりも早く、

3匹目の存在に気付いたのだった。



「あ、ありがとう……。

 助かったわ」


「そ、そんな全然!

 僕は当たり前のことをしただけで!」


「まさか3匹目がいたとは、完全に油断ね。

 これからもうちょっと、

 気を付けないといけないわね」


「そ、そんなことないよ、

 レナすごいよ!

 魔物をあっさり倒すなんて!」


「そう? あんなの普通だけど。

 魔物は動きが単調な分、戦いやすいしね」


「え、普通って……。

 あ、ちょっと待って」



アルトがレナに駆け寄り、

右腕を覗きこむ。


先ほど3匹目のブラッドウルフの攻撃を受けた影響で、

傷ができており、わずかではあるが血も出ていた。



「あぁこれ?

 大丈夫よ、こんくらい放っておけば、

 すぐ止まるって」


「ダメだよ! ちょっと待っててね」

 


そういうとアルトはそっと目を閉じ、

何やら独り言を呟き始める。


???とレナが戸惑っていると、

ハッ! というアルトの声に呼応するかのようにほんのり白く、

それでいて暖かい光がレナの傷口に広がる。

そして光が消えた時、

レナの傷口はすっかりなくなっていた。



「おぉー! どーもですっと!

 アルト、気術使えるんだ!」


「えへへ、まぁね。

 といっても、まだまだ勉強中だから、

 これくらいしかできないけどね」



アルトが、親に褒められた子どものように、

照れながら話す。



この世界には自然の力を借りる“魔術”と、

自らの体内の“気”をコントロールして、

力を開放する“気術”が存在する。


魔術は自然の力を借りて、

外部に直接的な影響を与える術式のため、

炎を出したり、風を巻き起こしたりといったものが主になり、

生物の内部への干渉ができる術は、

ほぼないといっていい。


一方気術には、魔術のような直接的な衝撃

(魔術ほど特化していない分、その威力は若干削がれる)の他に、

「自己再生促進力」という、

魔術にはない特有の属性が存在して、

いわゆる「治癒術」と言われている。

その他にも気を高めて集中力、

あるいは一時的な人体能力の、

上昇・低下といったものも可能であり、

どちらかと言えば、

生物の内部への干渉といった術式が多い。


基本的には、この魔術と気術は同時に覚えることはできない。

というのも理論上は可能なのだが、

2つの術式は相反するため、

より高度な術を覚えれば覚えるほど、

相反する力が強まり、

自分の力がコントロールできなくなってしまうのである。

そのため、今だかつて魔術と気術、

両方を極めたという人は、

存在していないと言われている。



「治癒術は基本中の基本だからね、

 見習い程度の僕だと、

 まだこれくらいしか使えないってワケなんだ」


「ふーん。

 でも、それでもすごいじゃない。

 あたしそんなの使えないし、

 怪我しても今までは完全放置だったから、

 助かるわ」



そんな会話をしつつ、

2人は6号車から5号車へと歩いていく。

見渡す限り、どうやら5号車には魔物は見当たらない。


今までの傾向からして、

どうやら魔物はグループで行動しているようで、

そのおかげで魔物がいる列車と、

いない列車がはっきりしている。


この列車は大丈夫、

安堵を浮かべたレナはふと、

気になったことをアルトへと訊ねてみた。


「ってことはアルトが王都ファースターを目指すのは、

 やっぱり気術を勉強するためなのかしら?」


「……」


何気なく発したレナだったのだが、

不意にアルトの足が止まる。


魔物の姿が見えたからではないし、

レナの発言に不快感を示したわけでもない。


反応がないことに疑問を感じ、レナが振り返る。



(あ、あれ?

なんかまずい事でも聞いちゃったのかしら?)



わずかな静寂が、5号車に流れる。


少しうつむきながらも、

アルトはようやく重い口を開いた。



「実は、母さんを探してるんだ」


「え?」



まったく予想していなかった言葉に、

思わず固まるレナ。


「僕はファイタルに住んでて、

 僕の母さんは有名なガンマンだったみたいなんだ。

 でも僕が物心ついた頃には、

 旅に出ちゃってて顔を覚えていないんだ。

 ばあちゃんに聞くと、

 その時の旅も魔物討伐のためで、

 数ヶ月したらまた戻るって言って、

 出ていったらしんだけど、それっきり…」



1つ1つ、言葉の意味を噛みしめるように、

アルトは続ける。


アルトの言うファイタルとは、

ワームピル大陸のルインよりもさらに北の山奥にある村で、

ファースターに向かう列車の駅で言うと、

ルイン駅の1つ前の駅になる。



「そう……なんだ。お父様は?」


「父さんは僕が生まれる前に死んじゃった。

 だからばあちゃんと2人でずっと暮らしてきたんだけど、

 僕はいずれ、母さんを探しに行くって決めてたんだ。

 それでばあちゃんを説得して、

 今日ファイタルから出発してきて……」


「おばあさまは反対しなかったの?」


「そりゃあ、最初は反対されたよ。

 でも約束したんだ、

 必ず母さんを連れて2人で帰ってくるって。

 母さんのことだから、

 きっとどこかで何かの都合で、

 帰れなくなってるだけだと思うから。

 だから、2人で必ず帰ってくるって。

 そしたらばあちゃんも最後はわかってくれて」


「そうなんだ。母さん、か……」


アルトの言葉を受け、

レナは列車の窓越しに、

真っ黒な夜の空を見つめる。



(自分の母さんって、どんな人だったのだろう)



レナは10歳くらいまでの記憶がなく、

マレク一人に育ててもらっている。

そのため、母親はおろか、

父親も含めて両親のことを、

まったく思い出せないのだ。


もしかしたら、まだどこかであたしのことを、

必死に探してくれているんだろうか。

もしくは、本来ならばアルトのように、

自分から探しに行ったほうがいいのだろうか。


マレクに拾ってもらって最初の頃は、

幾度となくそのようなことを考えていた。

だが、ここ数年はもはや頭の片隅にすら置かない、

その程度の事になってしまった。


もし本気で自分のことを探してきてくれるなら、

7年の歳月もあれば、

世界中どこにいても必ず見つけてくれるはずだ。

なのに、そんな素振りの人が、

レナを訪ねてきたことはないし、

風のたよりにも聞いたことはない。

ということは、きっともう、

自分たちの両親は探すことを、

諦めてしまっているんだろう。


だとしたら今の生活を壊してまで、

会いに行く必要があるんだろうか、

それならば、

本当の子どものように育ててくれたマレクと、

一緒に生活していたい――。

それがレナの本音になっていったのだ。



「……レナ?」



アルトが黙りこくってしまったレナの顔を覗き込みながら、

心配そうな表情で話しかける。



「あぁ、ごめんごめん。

 それじゃあお母様を探し出すためにも、

 こんなところでへたばるわけにはいかないわね」


「そうだね、うん」


「よし、先を急ぎましょ」



今はこの列車を止めることが先、

アルトの声のおかげで切り替えられた、

頭の中でそう呟きつつ、

レナは4号車へと向かっていった。




レナが列車に乗ってからどれくらい経っただろうか、

その間列車は速度を緩めることなく、

しかし速めることもなく坦々と同じ速度で走る。

列車の中の時計は魔物が壊してしまったため、

レナ達は現在の時刻を知る術はない。



「……ファースターが近づいてきたわね」



レナが窓を覗き込みながら呟く。

今までは山間部を通ってきたここともあり、

街灯もないただただ真っ暗な道を走ってきたのだが、

ここに来てぽつぽつとではあるが、

街灯の灯りが見えるようになってきたのだ。


そんな風景の中、

2人はついに2号車まで到着した。

あとは1号車、そして運転室を残すのみである。


あれから数回、複数の魔物に襲われることがあったが、

レナの剣技とアルトの後方支援により、

特に手間取ることなく片付けるこができていた。



「ふう、ようやくここまで来たね。

 運転手さん、無事だといいけど……」


「いや、それよりまず先に1号車よ」


「そだね、早く抜けちゃおう」


「待った待った。

 大体、こういう時って、

 最後にお楽しみが来るのよね」



ドアに手をかけ、

早く1号車に向かおうとするアルトを制して、

レナがため息をつく。



「え? お楽しみって……?」


「お楽しみと言えばお楽しみよ。

 まぁ、最悪なことにあたしたちには、

 まったく嬉しくないプレゼントってトコね」


「やめてよ、そんなこと言って、

 本当にいたらどうするのさ」


「いや、たぶんいるわね、

 それらしいことも聞いたし。 

 さて、それじゃ行きますか」



そういうとさっきとは打って変わって、

まるで肝試しの前に、

怖い話をされてしまった子どものような、

そんな不安げな表情を浮かべるアルトをよそに、

レナが1号車へのドアを、ゆっくりと開けた。


その先には……




「まぁ、当然こうなるわね」



口ではそうは言っているものの、

レナは先ほどの2倍くらいの、

大きなため息をつく。


ドアを開けたその先に待っていたのは、

ざっと数えて4~5匹はいるブラッドウルフと、

その親と思われる、

通常のブラッドウルフの、

倍くらいの大きさの体を持つ、

ジャイアントウルフだった。



「ちょっ、数……」


「さすがにこれは多いわね。

 下手なこと、言わなきゃよかったわ……」



そう言いながらも、

レナは素早く2つの剣を抜いた。

続いてアルトも、慌てて左手に銃を持つ。



「いい? まずあたしがちっさい雑魚のほうを片付けるから、

 アルトは後ろからあのデカいほうの動きを見てて。

 あたしを襲ってきそうになったら、

 銃で足止めを頼むわね。

 あの大きさだと、おそらくあたしやアルトの一発だけじゃ、

 倒れないと思うから、足止めさえできれば大丈夫よ」


「え、でもあんな数の敵をどうやって……」


「そこは何とかするから。

 いいわね、頼んだわよ!」



レナはそう言い残すと、

周りのブラッドウルフをめがけて、

飛び込んでいく。



「え、ちょっ……!」



アルトが言葉を発する間もなく、

レナが長剣で1匹、

そして振り向きざまにもう1匹を斬り倒していく。


と、ここでコイツは危険、

とおそらく察知したのだろう、

ジャイアントウルフがレナをめがけて突進してくる。



「このッ……!」



アルトがジャイアントウルフめがけて銃を構え、

引き金を引く。


パァン、という乾いた音と共に弾丸は空気を切り裂き、

ジャイアントウルフの左前足に見事命中する。

ジャイアントウルフは前足を傷つけられたことによって、

突進するのを一旦やめる。



「ナイスッ!

 ……ッと!!」



レナは声を弾ませると、

襲い掛かってきた3、4匹目のブラッドウルフの攻撃をかわし、

素早く3匹目のブラッドウルフと、

ジャイアントウルフのいる延長線上に位置を取る。


そして長剣の剣先を下に向け、

意識を集中させた。

オレンジ色の炎が剣を包み込む。



「炎牙!!」



叫び声と共に、一気に剣を振り上げる。

約700℃の炎がまず、

一番手前にいたブラッドウルフを直撃する。

そして、いつもなら弾け飛ぶ炎が、

ブラッドウルフを包み込んだ後に、

そのままの勢いで後方にいた、

ジャイアントウルフまで到達し、直撃。


ここでようやく炎が弾け飛んだ。

第一波を喰らった3匹目のブラッドウルフは、

そのまま倒れた。

しかし、後方にいたジャイアントウルフには、

それほどダメージは与えられなかったようだ。



「す、すごい……」



まるで生まれて初めて炎を見たかのように、

アルトが思わずぽつりと呟く。



「チッ、さすがに、

 これくらいじゃ倒れないか」



レナは悔しそうに舌打ちする。


だが、それでもここまでは、

レナの予定通りだった。

これで残りはブラッドウルフ1匹と、

ジャイアントウルフのみ。

レナの細かい位置取りによって、

4匹目のブラッドウルフは、

アルトとは最も遠い距離にいるし、

ジャイアントウルフはたった今、

炎を喰らわせることによって、

注意をレナのほうに向けるようにした。


おそらく4匹目を仕留めに行く時に、

ジャイアントウルフは再び、

レナを襲うだろうが、アルトがあと1回、

時間を稼いでくれれば――。


そう考えたレナは、

4匹目に狙いを定めて再び動き出し



「う、うわぁぁぁぁ!」


「!?」



レナの後方で、

アルトの悲鳴が聞こえる。


嫌な予感がしたレナは向きを変え、

声の聞こえた方へと振り向く。

すると、なんとジャイアントウルフがレナではなく、

アルトに向かって突進しているではないか!


ジャイアントウルフは、

直近に攻撃されて注意がむいていたレナではなく、

レナよりもやや近くにいたアルトのほうを、

攻撃対象として捉えたのだ。


アルトも銃で必死に応戦しているが、

先ほどのレナの炎の攻撃にみとれてしまっていた分、

反応が遅れてしまっている。

それに加え、必死に銃で応戦しているものの、

いずれも致命傷には至っていないせいか、

若干パニック状態になっているだろう、

撃っては逃げ、撃っては逃げの繰り返しになっている。



「しまった!」



慌ててレナがジャイアントウルフに斬りかかる。

長剣は右後足を捉え、

ここでようやく、

ジャイアントウルフが動きを止めた。


だが、予定を変えてまで、

慌てて斬りかかりにいったため、

レナの後ろは、ガラ空き状態だ。

そんな丸腰状態の獲物を、

最後のブラッドウルフが逃すはずがない。

レナが気付いた時には、

すぐ後ろまで鋭い牙をむき出しにしながら、

襲い掛かってくる。

一方、一度はひるんだジャイアントウルフも、

レナに狙いを定めている。

完全に挟み撃ちにさ



ドゴォッ!!



レナの視界から、ブラッドウルフが消える。


というよりもレナの視界の右の方へ、

物凄い勢いで吹っ飛ばされていく。

そしてその代わりに、

レナの視界には、

ブラッドウルフをグローブの付いた右腕でぶん殴った、

アルトの姿が入ってくる。


「この……!」


そのアルトは、

レナの視界に入るなり、

素早くレナの頭上に銃を構え、引き金を引く。

今にもレナに襲い掛かろうとしていたジャイアントウルフは、

頭部に直撃を受け、

思わず後ずさりする。


アルトにぶん殴られた上、

吹っ飛ばされて壁に頭部を強打した、

最後まで残っていたブラッドウルフは、

そのまま動かなくなった。


どうやらアルトは右手で気術と組み合わせた格闘、

そして左手で銃を使いこなすスタイルで戦うようだ。



「レナ! 大丈夫!?」


「えぇ、何とか。

 助かったわ、ありがとね」


「ごめん、僕がもっとしっかりしてれば……」


「そんなことないわよ……って話したいところだけど、

 とりあえずまずは、

 こっちを片付けるのが先決ね」



自分のミスを帳消しにしてくれた感謝を述べつつも、

攻撃の機会を伺っている、

ブラッドウルフを睨み付ける。



「ダメージは与えているみたいだけど……。

 これは長期戦になりそうだね」


「まずいわね、

 さすがにここでの長期戦は避けたいわ」



そう言いながら、

窓の外をチラッと確認するレナ。

先ほどよりも街灯の数がかなり多くなっている。

どうやらファースター駅までは、そう遠くない。


ということは、いくら長期戦でこの魔物を倒したとしても、

もし運転手が不在だった場合は、

時間切れという、

一番の魔物に勝てなくなってしまう。

そしてその先に待っているものは当然、

死だけである。



「だとしたら短時間での一点集中しかないね」


「よし、それ採用。

 あたしが先に行くから、

 そのあとアルトが続いて。

 それで、一通り攻撃し終わったら、

 すぐに右に避けて」


「え、何で?」


「最後に一発、お見舞いするから」


「……了解!」



そうこうしているうちに、

なかなか攻撃してこないことに苛立ったのだろう、

ジャイアントウルフが鋭い牙を見せながら、

猛然と襲ってくる。



「それじゃ、頼むわよ!」



そう言い残すと、

レナもジャイアントウルフめがけて突進する。

そしてジャイアントウルフの鋭い牙がレナを襲う刹那、

レナの体がひらりと宙を舞う。


レナの細身の体と金色の長髪が、

空中で美しい共演を実現させながら、

ジャイアントウルフの頭部めがけて、

長剣を勢いよく突き刺す。


そしてレナは、

ジャイアントウルフの胴体部分にうまく着地し、

その胴体を使って、

まるでトランポリンのように跳ねて再び宙を舞う。

その際、素早く長剣を引き抜き、

宙返りして戻る際に半身の体制になる勢いで、

先ほど長剣で突き刺した部分を、

短剣でスバッと薙ぎ払う。


同じ部分を2度、

しかも他の部位より比較的弱点としている、

頭部への攻撃により、

苦しそうな様子を見せたジャイアントウルフだったが、

それでもまだ、倒れる様子はない。



パアァァン!



レナの流れるような一連の動きの直後に、

銃声が鳴り響く。

レナに続いた、アルトの攻撃だ。


3連撃を喰らい、

ジャイアントウルフが思わず、

悲鳴にも聞こえる鳴き声を発しながら、

銃弾が飛んできた方向に目をやると、

目の前には大きな男の人影が。



「いっけぇぇぇ!!」



怒号にも似た叫び声と共に、

アルトが渾身の一撃を頭部に叩き込む。


突き、斬り、銃弾、“気”による殴打という、

4連撃を受けたジャイアントウルフの呼吸は激しく乱れ、

もはや4本足で立っているのがやっとという状態だが、

それでもアルトという目の前の獲物を倒さんと、

懸命に前足の鋭い爪で襲い掛かってくる。


アルトはその攻撃を若干慌てながらも、

打ち合わせ通り右に避ける。

残りの力を振り絞り、

その姿を追いかけようとしたジャイアントウルフの、

目の前に現れたのは、

炎をまとった長剣を右手に持つ、

少女の姿だった。


先ほどの攻撃を終えたレナは、

宙返りの反動を使ってアルトの攻撃の裏に隠れ、

素早く意識を集中させていたのだ。



「いっけぇぇ! 炎破ッ!!」



レナの叫び声と気合に呼応したのだろうか、

より大きい、そしてより速い炎が、

ジャイアントウルフの頭部めがけて飛んでいく。

4連撃を喰らって満身創痍だったジャイアントウルフに、

もはやその炎をかわす、

もしくは炎に耐えきれるほどの、

力はもはや残っていなかった。

炎はジャイアントウルフを直撃し、

炎が弾け飛んだ瞬間、

ジャイアントウルフの体が、

ゆっくりと床に落ちた。



「はぁ……はぁ……。

 も、もう大丈夫だよね?」



その場に力なく座り込んでしまったアルトが、

息を切らしながら言葉を発する。

極度の緊張感で戦っていたのだろう、

両手がまだ若干震えているようだ。



「そうね、もう大丈夫みたい……。

 改めてありがとね、アルト。

 また助けられたわね」



アルトに右手を差し伸べるレナ。

やはりレナのほうが魔物と戦い慣れているのだろう、

疲労の色は隠せないが、

息を切らしている様子はない。



「そ、そんなそんな!

 こっちこそありがとうだよ!

 レナがいなかったら……!」



レナの手を使ってゆっくり立ち上がったアルトが、

若干顔を赤らめながら、

まるでマンガのように両手を振りながら話す。



「いえいえ、どーもですっと。

 ……ってヤバッ、急がないと!」



三たび外の様子を確認したレナの目に、

多くの街灯、そして王都ファースターの街並みが飛び込んできた。

いよいよ、のんびりと話してる時間はない。



「うわわわ、ま、ま、まずいよこれ!」


「行くわよ、アルト!」



街並みと迫り来るタイムリミットを確認して、

今までの疲労がぶっ飛んでしまったアルトと共に、

レナは死闘を繰り広げた1号車を後にして、

先頭車両である運転室へ走っていった。

12時に更新と言っときながら1時越えての更新です、読んでいただいている方々、アクセスしていただいている方々、大変すいません。

…って書いてる暇があればはよ更新せい、って感じですね(笑)

どうか皆様穏便に…

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