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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第2章 エリフ大陸編
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第48話:最後の大仕事

ギルティートレインに残った3人が、

勢いよく飛び込んだ運転車両は無人だった。

無論、通常の列車ならば、

運転手がいるハズなのだが、

その姿はどこにもない。


その代わりに目の前に広がるのは、

どこかの集中管理室かと見間違えるかのような、

列車の壁に並ぶ数多のモニターと、

おそらく列車を動かすためのものであろう、

車両の中央に置かれている、

いかにも精密そうな機械の塊。

そして、その機械を破損から守るように、

透明なプラスチックのようなものが、

カプセルの様な形状で覆っている。


スカルドいわく、

この頑丈にプロテクトされている機械こそが、

魔術に使用者の魔力によって動く、

自動運転システムらしい。

そして、この自動運転システムこそが、

ギルティートレインの“心臓部”であるらしい。



「ってか、1つ思ったんだけど」



心臓部に立ち塞がる透明な防御壁を、

コンコンと叩きながら、レナはふと口を開く。



「コレ、今ぶっ壊したら、

 列車がこの場で止まっちゃうんじゃないの?」


「無論だ。

 だから執行駅に着く直前、

 あるいは到着と同時に、

 コイツを破壊する必要がある」


「やっぱり。

 ってことは、マジで一発勝負ってことね。

 まったく、心臓に悪いことだらけじゃないの」



予想通りの答えがスカルドから帰ってきて、

レナは皮肉交じりに大きくため息をつく。


もっとも、今回ばかりはスカルドの制止を無視し、

自分の意思でここへ来た都合上、

文句を言える立場ではないのは、

重々承知しているのだが。



「んで、どうすんの?

 先にこの邪魔そうなヤツだけ、

 ぶっ壊しちゃう?」



レナと同じく、

コンコンと防御壁の強度を確かめるナナズキ。

この列車の中枢部分を守っている壁だ、

そう簡単に壊れるものではないということは、

容易に想像できる。


実際、軽く叩いてみた感覚では、

かなりの厚みを感じる重く、

そして詰まる音がしていた。


だったら、まずはこの邪魔くさい壁を今から破壊しておき、

駅が近づいてきたら、むき出しになった心臓を叩く。

今から時間を効率よく使うという、

ナナズキの提案だった。


しかし、そのナナズキの提案に、

スカルドは静かに首を振る。



「いや、それはやめた方がいい。

 もしこの壁が想像以上に脆かったとしたら、

 下手したら奥の運転装置まで、

 ぶっ壊しちまう危険がある。

 ここは駅に近づいてから一気に潰すべきだ」


「そうかしら?

 この壁、そんな紙装甲には見えないんだけど……」



レナはもう一度、コンコンと叩いてみる。

脆弱な様子を醸し出すような、

軽い音はやはり聞こえてこない。



「万が一のためだ。

 頑丈と見せかけて実は脆い可能性もゼロじゃねぇんだ。

 もし誤って中の機械までぶっ壊してみろ、

 それこそ取り返しがつかないことになるぞ」


「まあ、そりゃそうだろうけど……」


「それに、だ。

 駅に着いてからにしておけば、

 仮にコイツをぶっ壊せなかったとしても、

 最悪、列車から降りることはできる。

 そうすれば、仮に破壊に失敗したとしても、

 生きて帰ることはできるだろうが」



説明口調、というよりは、

どこか諭すように、スカルドは言う。


レナはその言葉を受け、

少しばかり考え込むような素振りを見せたが、

間もなく口を開く。



「……やっぱり、乗ってきて正解だったわ」


「あ? 乗ってきて正解だと?

 冗談じゃねえ、

 俺からしたらお前らがいるのは邪魔以外の何物でも


「あんた、途中で作戦変えたでしょ」


「……ッ!」


レナのその言葉に、

スカルドの眉がわずかにピクッと動く。

スカルドとしては無反応を貫いたつもりだったのだろうが、

当然のことながら、その動きをレナが見逃すはずがない。



「……やっぱりね。

 あんたのことだから、

 あたしとナナズキが乗ってくるまでは、

 破壊するのを優先して、

 駅まで待たずしてぶっ壊すつもりだったんでしょ?

 それが、あたしらがくっ付いてきちゃったから、

 生きて帰ること優先の方法へと変更した、違う?」


「……」


「まったく、あたしらが来なかったら、

 文字通り、イチかバチかのつもりだったのね。

 ホントに来て正解だったわ」



続けざまに並べられるレナの言葉に、

スカルドはふと顔を背けただけで、

何の言葉も発しない。


ただ、その背けた横顔がまるで、

いちいち詮索すんじゃねえ、

そう物語っているようにも見えた。


もっとも、レナとて返答が必ず欲しいわけでもなかったため、

それ以上は特に突っ込むようなことはしなかった。


ただ、逆を言えば、

自分の命を賭ける、

それほどまでにスカルドは、

この忌々しい魔術を止めたいということである。


その思いに応えるためにも、

失敗のことなど考える必要はない。

必ずこの目の前にある機械を破壊する。

レナの全神経はそこに集中していた。


と、ここで今まで黙っていたナナズキが、

まるで話が終わるタイミングを見計らっていたかのように、

ハァ、と1つため息をつきながら、



「何でもいいけど、

 ちょっとは作戦会議したほうがいいんじゃないの?

 駅に着いて闇雲に全軍突撃!

 ってワケにもいかないでしょ?」


「おっと、確かにそうね」



ゴメンゴメン、とばかりに、

レナはナナズキへ軽く手をあげる。



「んでスカルド、実際どうする?」


「ここは一点集中でいくべきだろうな。

 そこの青髪のガキが言う通り、

 ただ漫然と攻撃するだけでは、

 この防御壁はビクともしないだろう」


「な、青髪のガキって……!!」


「あーゴメン、気にしないで。

 スカルドも悪気はないのよ、たぶん。

 ……そうすると、

 この壁の一部分を集中して狙うってことでOK?」


「壁を狙う、というより、

 壁を撃ち抜いてシステムもろともぶっ壊す、が正解だ」



レナの言う通り、まったく悪びれた様子もなく、

スカルドは顔色一つ変えず坦々と話すと、

懐からガムを取り出し、口の中へと放り込む。



「ハァ……。

 ってことは駅に着く直前になったら、

 この防御壁の一部分を3人で同時に最大攻撃。

 それで防御壁を破った勢いそのまま、

 中のシステムも破壊する、

 そういうことでいいんでしょッ!?」



最後は半ばやけくそ気味にナナズキは言い放つ。


先ほどまでのレナ、プログのやり取りと言い、

この目の前にいる生意気なクソガキと言い、

どうも調子を狂わされている。


そのおかげで今ナナズキは、

絶賛ご機嫌ナナメだ。



「そもそもアンタ、歳はいくつなのよッ?」


「そんなことを聞いてどうする。

 ……12歳だ」


「ならアンタの方がよっぽどガキじゃないのッ!!

 私は16歳よ、16ッ!!

 アンタにガキと呼ばれる筋合いは


「見た目は大して変わんねぇだろ」


「そーゆー問題じゃないのよ、

 そーゆー問題じゃッ!!」


「ったく、細かいところまでうっせぇヤツだな。

 作戦会議するんじゃなかったのかよ」


「アンタのせいで台無しよッ!!」



頭から湯気が出んばかりの血相で騒ぐナナズキと、

静かな冷水のごとく言葉を冷静に並べるスカルド。

だが、端から見ると冷水というよりは、

どちらかといえば火に油を注いでいる様な格好だ。


てか、あの身長と童顔で16歳だったんだ、

1人蚊帳の外にいるレナはふと思ったのだが、

その言葉を表に出せば、

面倒ごとが増えることが目に見えていたため、

あえて口に出すことはしなかった。



「まあいい。

 とにかく、執行駅に到着するまでは待機だ」


「ハイハイわかりましたよッ!!」



年下の少年にいいように振り回され、

明らかにふてくされている様子で、

ナナズキは頬を膨らませている。



「まったく……。

 一点集中で同時に攻撃しないといけないのに、

 こんなんで大丈夫なのかしら……」



ハァと1つ、レナは小さくため息をつく。


今回の作戦は、列車が最後の駅、

執行駅に到着する直前から、

降車用ドアが閉まるまでの短時間に、

自動運転システムを護る防御壁を、

3人が1点集中攻撃してシステムごと撃ち抜く、

というものである。


当然のことながら、

3人がバラバラに攻撃するようでは、

最大限の攻撃を加えることはできない。

3人が息を合わせ、

同時に最大のパフォーマンスを発揮することで、

初めて最大攻撃を可能にする。


3人が息を合わせる。


この部分が、何よりも大切な必要因子なのだ。


果たして目の前にいる2人、

実力は申し分ないのは承知しているが、

本当に大丈夫なのだろうか。


しかし、レナの心情を悟ったか、

大丈夫よ、とナナズキはレナに言った上で、



「私だって騎士隊の隊長よ?

 タイミングを合わせるくらいどうってことないわ。

 それに……」


「……それに?」


「どこの誰だか知らないけど、

 人を死に至らしめるこんなバカみたいな魔術を使うヤツ、

 私だって許すワケにはいかないんだから。

 だから、絶対にぶっ潰すわよ」



ナナズキの言葉には、

言葉以上の怒気が感じられた。


杞憂だったわね、

レナはそれ以上、何も言わないことにした。


スカルドやレナだけではない。

ナナズキもまた、このギルティートレインという、

人の意志関係なく死をもたらす魔術の存在に、

大いなる怒りを覚えていたのだろう。

そんなものがこの世にあってはならない、

ナナズキもそう感じているに違いない。


だが、だからこそレナは思う。

もし仮に、この魔術、

今回の事件を引き起こしているのが、

シャック及びファースターの仕業だったとしたら?


さらに言えば、もし犯人が、

ナナズキの上司でもあるクライドだったとしたら?

もちろん、まだ確証があるわけでもないが、

もしその事実を知ったら、

果たしてその時、彼女は何を思うのだろうか。


自分の信じていたものが、

突如目の前でガラガラと音を立てて崩れ去るその時、

彼女はどのような思いを抱くのか。

果たして、その事実に彼女は耐え切ることができるのだろうか。



(っと……。この子は敵なのよ、何を心配しているんだか)



いつの間にか敵という認識を忘れていたレナは、

余計な雑念を吹っ飛ばすべく、小さく頭を左右に振る。


彼女は敵なのだ。

今、こうして協力してこの列車を破壊しようとしていようが、

どれだけ話をして会話が弾もうが、

どれだけ価値観が似通っていて好感が持てたとしても、

ファースター王国騎士隊4番隊隊長の彼女は、

レナにとっては無条件で敵なのだ。


そう、どう考えても――。



「なにボーっとしてんの?」


「のわぁッ!?」



考えることに集中していたレナは、

目の前にいきなり登場したナナズキの顏によほど驚いたのか、

奇妙な声をあげる。



「ったく、何やってんのよ?

 時間的にもうそろそろ駅に着くかもなんだから、

 ボケッとしてんじゃないわよッ」


「そうだったわね、ゴメンゴメン」



まったく、らしくないわね、

心の中で自分に対してレナは呟く。


これも、仮に失敗しても生きて帰ることはできるという、

安心感から生まれるものなのだろうか。

レナの心の中には、ある程度の余裕はできていた。


ただ、



(ま、もし壊せなかったらあのバカ、

刺し違えてでもとか言ってまた1人で暴走しそうだし、

何としても成功させないとね)



失敗のことを前提に考えているわけではない。

スカルドは先ほど生き残ること優先で話していたが、

あの少年のことだ、もし失敗しそうになったら、

レナとナナズキだけ助けて、

自分は命と引き換えに――なんてことは、

十分に考えられる。


そんな変な気を起こさないためにも、

必ず成功させたい、

改めて気持ちが締まる思いだった。



『ご乗車、ありがとうございました。

 次は終点、執行駅、執行駅です

 乗り過ごしのないよう、ご注意ください』


「さて、そろそろだな……」



そうこうしているうちに、

列車はいよいよ終点、

死刑“執行”駅へと近づいていく。


終点を告げる車内放送を皮切りに、

3人の表情が一変し、

車内が一瞬にして緊迫した空気に包まれる。



「最終確認よ。

 私はさっきのフランメ・シュトラーセを撃つから、

 レナは疾風炎を撃って、いいわね?」


「一度見た技の方が、

 タイミングが合わせやすいってことね、

 りょーかいですっと、最大パワーで行くわ」


「そんでもって、そこの……」


「俺は究極の第一質料(プリマ・マテリア)を撃つ。

 タイミングはレナが知っている」



そこのガキんちょ、と言ったかったナナズキを、

まるで見透かしたかのようにスカルドが言葉を被せる。



「……あっそ。

 んじゃタイミングはレナ、よろしく」


「え、あたし!?

 ……まあいっか、どっちの技も知ってんの、

 あたしだけだしね」



徐々に近付く最後のプラットホームを、

先頭車両ならではの視点、真正面に捉えながら、

レナ、スカルド、そしてナナズキは所定の位置へつく。


短剣長剣を構え、口の中の風船ガムをゆっくりと膨らまし、

そして構えた右手に杖を出現させる。



(ったく、こんなくだらないモン使って……、

ここを出たら絶対に犯人とっ捕まえてやるわッ!!)


(父上……俺は必ず、コイツを止めてみせますッ)


(……これでようやく、休戦も終わりね)



列車はスピードを落としながら、

音もなくその場所へと向かっていく。

徐々に大きくなり、

迫り来る無表情な白いプラットホーム。

運転車両がちょうど、

そのプラットホームに差し掛かろうとした時、

スカルドは膨張した風船ガムを上空へと吹き出し、

そして静かに詠唱を始める。



「火は水、水は風、風は土、土は火。

 森羅万象を司る力の祖、

 汝の力にて愚者を浄化せん」



右手を防御壁にかかげるスカルドの頭上に、

あの魔術専門学校で見た、

眩い光が大きな魔方陣を象っていく。



「ナナズキッ!!」


「走れッ、フランメ・シュトラーセッ!!」



レナの合図に合わせて、

ナナズキは構えていた杖を一気に振り抜く。



「喰らえッ、疾風炎ッ!!」



少し遅れて最後にレナが、

長剣を素早く振り上げる。

レナの放った小さな光と、

ナナズキの繰り出した紅い光は、

同じ軌道を描くように真っすぐ進み、

防御壁の一部分へとそのまま突き刺さる。


運転車両という、わずかな空間の中で、

3つの獰猛な力が荒々しく渦巻きながら、

その時を待つ。


そして列車は、

最後の駅、執行駅に停車するために、

ゆっくりと速度を落とし、

いつも通り、執行駅の所定の位置へと、

静かに、完全に停車した。



「喰らえッ! 究極の第一質料(プリマ・マテリア)ッ!!」


「チュースッ♪」


「いっけぇぇ!!」



3人の声に呼応し、

まるで堰を切ったかのように、

白い光が、猛烈な大爆発が、

そして鮮烈な爆発の嵐が、

防御壁目がけて乱れ飛ぶ。


そのあまりの威力、そして光の強さに、

レナ、スカルド、

そしてナナズキの視界は、ただただ真っ白になる。


その光は、ギルティートレインの車内のみならず、

この閉鎖的空間を生み出してきた、

漆黒が圧倒的に勝っていた暗黒空間を、

明るく、そして眩い光で飲み込んでいった。


次回投稿予定→8/16 15:00頃


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