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描け、わたしの地平線  作者: まるそーだ
第2章 エリフ大陸編
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第36話:みんなが選ぶ道

「えっと、

 それでトーテンの町はここからだと、

 北西の方向で合っているんだよね?」


「そうよ。

 トーテンの町の近くまでは列車で行けるわね。

 連日の徒歩での旅路だと、

 BBAの足腰には堪えるから本当に助かったわぁ~」


「……ちょっとプログ、アレはツッコんでいいの?」


「知らん。俺に聞くな」



セカルタ城の正門前で、

アルト、フェイティ、レナ、

そしてプログはいつものように、

他愛もないやりとりを繰り広げている。


気が付けば、空に浮かぶ太陽は、

南中高度に近いところまで達していた。

レイに呼ばれたのがちょうど朝の9時だったので、

都合3時間くらい、話をしていたことになる。



「すまない、厄介事を押し付けることになってしまって……」


「皆さん、どうかご無事で……」



一方、4人を見送りに来たレイとローザは、

深々と、こうべを垂れる。



「いいって、気にしないでよ。

 あたし達から首を突っ込んだ話なんだし。

 じゃあローザ、少しの間だけ待ってて。

 ご両親のことでなにかわかったら、

 すぐに戻ってくるからね」



2人とも固いわねぇ、

と心で呟きつつ、

レナはぽん、とローザの肩に手をおく。





時は少しさかのぼり、セカルタ城内にて。





「え?」


「聞こえなかった?

 あたし達が行ってくるわ、って言ったのよ。

 そうすれば、その手続きってのも早めにできるでしょ」



大きく目を見開くレイに対し、

レナはもう一度、その言葉を彼の耳へと届ける。



「列車とは関係ないけどおそらく、

 その件もシャックが絡んでいると思うの。

 なら、あたし達も無関係ではないでしょう?」


「それはそうだが……。

 しかし……」


「俺もレナの意見に賛成だな。

 手続きの件もそうだが、

 学長からシャックの情報を聞き出すのは、

 執政代理にしかできないことだろ?

 トーテンの調査の件なら、俺達にもできる。

 全ての項目が大事ということなら、

 分担できるものは効率よくやったほうがいいと思うぜ?」


「しかし……。

 関係者以外の君たちを、

 これ以上巻き込むわけには……」



レナとプログの言葉にも、

レイの歯切れは悪い。


トーテンの件も今回の魔術学校の件も、

言うなれば王都セカルタの、

しかもトップレベルの問題である。

現代でいうなら、

警察機動隊や刑事が出動するレベルの問題だ。

殴り合いのケンカのところに一般人が仲裁に入る、

というような次元の問題ではない。


そして、魔術学校の事件を解決したレナ達は、

あくまでもイレギュラーなわけであって、

決して関係者というわけではない。

そんな彼女らに今回の案件を任せるには、

あまりにも事が、そして荷が重すぎるだろう。


だがその一方で、

早急にやるべきことが多すぎて、

猫の手も借りたい、というのもレイの本音である。

かといって誰にでもたやすく、

頼めるような、そんな簡単な事案ではない。


しかし、あの事件を解決できた、

彼女たちなら、あるいは――。




しばらく心の中で葛藤を繰り広げていたが、

程なくしてレイはふう、と一つ息をつく。



「今まで俺が話したことは、すべて国家機密だ。

 君たちを、先生を、

 そしてローザ王女を信頼しているからこそ、

 話したことだ。

 ゆえに他言無用、これだけは必ず守ってくれ」


「当たり前じゃないの。

 こんな話、そんじょそこらの人に、

 話せるわけないじゃない」


「すまない、恩に着る。

 それと……これを持っていってくれ」



レイは懐から何やら取り出すと、

レナに手渡しする。



「これは?」


「通信機だ。

 俺の物と対になっているから、

 何かわかったら、これですぐに連絡をくれ」


「そんな便利なものがあったのね。

 どーもですっと」



嬉しさ半分、物珍しさ半分ってところだろうか、

レナが通信機を手に嬉々としている。

レイがこれを手渡してくれたということは、

つまり、そういうことである。



「トーテンの件、よろしく頼む。

 もし危険なことがあるようだったら、

 無理せず俺に報告してくれ」


「まっかせないってッ!

 事件解決の報告を必ず届けてあげるわよ」



レナは満面のドヤ顔を、

申し訳なさを全身から放つ執政代理へと届ける。



「僕も行くよ。

 シャックに関わることなら、

 母さんに関することだって、

 何かわかるかもしれないし」


「ま、俺もクライドの野郎には借りがあるからな。

 当然参加させてもらうぜ」



アルト、プログもここぞとばかりに声をあげる。

2人にも2人なりの想い、

そして覚悟が背後に見え隠れする。


と、ここでしばらく口を開かないでいたフェイティが、



「そうね~、せっかくだし、

 BBAも参加させていただいてもいいかしら?」



にっこりとほほ笑みながら、BBAは言う。



「え? 先生、来られるんですか?」


「あら、ダメなのかしら?

 BBAがいたほうが、

 レイも安心すると思うのだけれど?」



わずかながら表情を曇らせたプログの変化を、

フェイティが見逃すはずがない。

すかさずそう話すと、

チラリとレイの方へ視線を送る。



「そうだな。

 人手はあればあるほどいい。

 先生にもぜひお願いしたいです」


「はい、じゃあ決まりね。

 ありがとうね、レイ」


「……」



元生徒からの100点満点の回答に、

フェイティは心躍らせている。

そこには、もはやプログが口答えをする余地はなかった。


さて、残るは……と、

レイが口を開こうとした時だった。



「私は……残ります」



小さな、小さなローザの声が、

全員の耳に聞こえてくる。

レナ、アルト、プログ、そしてフェイティは、

その言葉に慌てて振り返る。



「私、決めました。

 ここに残ります。

 これ以上、みんなに迷惑をかけたくない。

 クライドの狙いは私ですし、

 私のわがままで、

 みんなを危険な目に遭わせたくないんです。

 それにフェイティの言う通り、

 お父さんやお母さんのことは、

 落ちついてから探せますし……。

 だから、私はここに残ります」



こみ上げる想いを必死に押し殺しながらも、

ローザは今作れる精一杯の笑顔を、

仲間に向ける。

だが、無理に作りだした笑顔は、

逆に痛々しさを浮かび上がらせていた。


レナはそんな健気なローザに歩み寄ると、

頭の上にそっと手を置く。



「……ごめんね。

 もしご両親について何かわかったら、

 すぐに戻ってくるから」



レナとて悔しい。

出来ることなら、一緒にいてあげたい。


だが、トーテンでの危険を考えた時、

彼女を100%守れる自信があるかと言われれば、

答えはノーだ。

それに、もしかしたらトーテンに行った後に、

さらに危険な場所に行くことになることも、

十分に考えられる。

それならば、たとえ仮ではあっても、

安全な場所を確保できている、

この場所にいたほうがいいに決まっている。


だから、今は――。

そして、いずれは――。


こうして、

レナ、アルト、プログ、フェイティはトーテンの町へ、

ローザはセカルタ城へ残ることとなったのだ。





そして、時は現在に戻る。



「先ほど先生が話されていたが、

 ここからトーテンの町の近くまで、列車で行ける。

 大体1時間くらいで行けるハズだ」


「りょーかいっと。

 確か駅は街の外れにあるのよね?」


「ああ。

 駅員にはお前たちのことは話してあるから、

 切符は買わなくても大丈夫だ」


「あら、何から何までありがとうね」


「いえいえ。これくらいしかできませんが。

 それより、どうかお気を付けて。

 何かあったら、すぐに連絡してください」


「ハイハイ、わかっているわよ。

 よし、それじゃあ、そろそろ行きますかッ!」



レイの言葉に手で合図を送りながら、

レナは一歩、セカルタ城から足を踏み出す。



「あ、ちょっとレナ!

 レイさん、ありがとうございましたッ!」


「ったく、相変わらず忙しないねえ……」


「あらあら、みんな元気いっぱいね。

 それじゃレイ、行ってくるわね」



続いてアルト、プログ、フェイティが、

城の外へと歩み始める。


またここから、新たな一歩を、

太陽の光降り注ぐセカルタ城門前で、

レナ達は踏み出した。



「皆さん……。

 どうか、よろしくお願いします」



残されたローザは今一度、

去りゆく4人に深々とお辞儀をすると、

レイと一緒にセカルタ城内へと姿を消していった。





セカルタ市街は、昨日となんら変わることなく、

人と活気に満ち溢れている。

唯一違う点と言えば、

所々から聞こえてくる、

人々の世間話の内容だ。

事件が解決され、情報統制も解除されたのだろう、

学生が行方不明になっていただの、

学長が捕まっただの、

学校がしばらく休校になるだの、

世間話の話題を独り占めしている。


まあ、事件の次の日なんてこんなモンよね、

レナ達はそんな思いを抱きつつ、

学校とは真反対にあるセカルタ駅を目指して、

市街地を進んでいく。



「執政代理との話は終わったのか?」


「ぬおわッ!!」



予期しないタイミングで少年からの声が降りかかり、

レナは思わず変な声をあげてしまう。


声のした方へと振り返ると、

そこには――。



「あら、スカルド君じゃない」


「びっくりしたわ……。

 もう、いきなり話しかけてくるんじゃないわよッ」


「今から話しかけますよ、

 なんてわざわざ説明するバカがいると思うか?」



そこには、やはり壁に寄りかかりながら腕組みをする、

もう一人の事件解決の功労者、スカルドの姿が。

当然のことながら、口をモゴモゴさせている。



「最上階でカプセルに閉じ込められていた学生だが、

 全員無事だったらしいぞ」


「? あのあと学校にいったの?」



お前らが執政代理と会っている間にな、

レナの問いにスカルドはそう答えると、



「それと、最後に解いた問題、

 あれはレアングスがわざと、

 簡単な問題にすり替えていたようだな」


「どういうことだよ?」


「最上階の問題を司るシステム部分を調べたら、

 俺達が2問目を解いた後のタイミングで、

 故意に問題がいじくられている履歴が残っていた。

 理由は本人に聞いてみないとわからないが、

 おそらく、2問目で侵入者に気付いた学長が、

 はやく学長室まで来れるようにしたんだろう」


「ふーん。なるほどね。

 ま、おかしいとは思っていたのよね。

 学長室への問題が、あんな簡単でいいのかって」


「ま、まあ事件は解決したんだ、

 結果オーライってことでよかったじゃねえか」



この手の話になると、

レナにいじられる未来しか見えないプログは、

慌てて話を締めにかかる。



(ま、あんたはほとんど役に立ってなかったけどね)



その未来通り、横目でチラッと様子を見て、

心の中で呟くレナだったが、

それを言葉にすることはしなかった。



「あんたにも色々とお世話になったわね、

 どーもですっと」


「礼などいい。

 俺が好きでやったことだ。

 それより、お前らはこれからどうする気だ?」


「あたし達はちょっと用事があって、

 これからトーテンの町に行くわ」


「そうか」



スカルドはそう言うと、静かに目を閉じる。

そしてしばらく、無言になる。


話が終わったのだろうか?

それとも、何か考え事をしているのだろうか?

レナやアルトが???となっていると、



「俺も行こう」



閉じていた目を再び開き、

スカルドは静かに言う。



「は?」


「俺もトーテンの町に行く。

 しばらく学校は休校だ。

 それに、トーテンの町に行くということは……だろう?」



もたれ掛っていた体を起こし、

ツカツカとレナ達に歩み寄るスカルド。

口元が隠れているので、

表情をうかがい知ることはできない。


だが、レナやプログ、フェイティ、

そしてほぼ初対面であるアルトですら感覚的に理解した。


この少年、おそらくトーテンの町で起こっている、

事件のことを知っていると。



「BBA達がトーテンに行く用事、

 スカルド君は知っているのかしら?」


「判断はお前らに任せるさ」



念のため、と思ったフェイティはスカルドに訊ねるが、

その問いにスカルドは答えることはない。


ここでレナは考える。


スカルドの性格上、

国家機密レベルの話を知っていたところで、

ベラベラと他人に言いふらすようなことはしないだろう。

しかし、だからといって放置しておくわけにもいかない。

それに、スカルドの魔術の威力は凄まじいものがある。

トーテンでは何が待ち受けているのか、

まったくわからない。

レイの言うように、人手は多い方がいいだろう。

だとしたら、ここであたし達が取るべき選択肢は――。



「あたしは別に構わないけど、

 みんなはどう?」


「まあ、いいんじゃねえの?」


「BBAも賛成ね。

 スカルド君の頭脳が役に立つかもしれないしね」


「みんながそう言うなら」



レナが選んだ選択肢を、

3人はすんなりと受け入れた。

もっとも、アルトの場合は、

スカルドの人物像がいまだつかめておらず、

他の2人の意見に流された格好になったのだが。



「それじゃ、決まりね。

 とりあえずよろしく頼むわ」


「ああ。

 そういえば、もう一人の女はどうした?

 仲間じゃなかったのか?」



レナの言葉を受けつつ、

スカルドはふと視線を左右へと走らせる。


牢屋を出て早々と城をあとにしたスカルドが、

ローザが城に残ったということを知るはずがない。



「えっとね、ロー


「おーっとぉ!!

 あの子のことかい?

 あの子は旅の途中で出会った、

 孤児だったんだ。

 だから、執政代理に頼んで保護してもらったのさ」


「そうそう、アックスからここに来るときに出会って、ね」



アルトが口を開いたその瞬間、

プログがじつにわざとらしい大きな声で、

アルトに被せてくる。

さらにフェイティの続けざまの白々しい声のおかげで、

アルトの言葉は、どこぞに吹っ飛んでいってしまった。


その様子は、どれだけ子どもであっても、

言葉さえ理解できれば怪しいと感じるくらい、

不審かつ滑稽である。



「まあいい。

 駅に向かうんだろう?

 サッサと行くぞ」



王立魔術専門学校史上、

最高の頭脳を持つスカルドが、

今の怪しい雰囲気を感じとれないハズがない。

だが、何か考えていたのだろうか、

はたまた興味がなかったのだろうか、

特にそれ以上突っ込むこともせず、

スタスタと歩き始める。



「ふう……」



かいてもいない汗をぬぐうしぐさを見せながら、

プログは一つ、大きく息をつく。


プログとフェイティが、

わざわざ大根役者を演じた理由はただ一つ、

ローザの素性をスカルドに知られたくなかったためだ。


スカルドは父親の死の原因、そして復讐の矛先を、

レアングス、そしてセカルタと、

ファースターの王族に向けている。

もしローザがファースターの元王女であることを、

スカルドが知ったら――。


何をしでかすか想像つかないし、

また、想像したくもない。



「え? え?」



だが、そんな事情は露知らずのアルトは、

意味不明な妨害に、戸惑いと?マークを隠せない。



「あとで説明してやるよ。

 さ、とりあえずアイツを追いかけようぜ」



大根役者(男)はアルトと肩をがっちりと組み、

耳元で小さく話すとそのままアルトと共に、

先を行くスカルドのあとを追っていく。



「……下手くそか」



一部始終を見ていたレナは、

ポツリとツッコむ。


最初はレナもプログとフェイティを見て、

何をそんな慌てる必要が?と思っていたのだが、

スカルドの過去を思い返し、

すぐにその意図に気付いたのだった。



「あらレナちゃん、

 BBAの演技もダメだったかしら?」


「……どっちもどっちじゃない?」


「そんな、

 一生懸命頑張ったのに……。

 BBA、涙が出ちゃう、シクシク……」


「わかった、わかったから」



まったく、あたしは何役なのよ、

自慢の長髪をポリポリと搔き、

年甲斐もなくウソ泣きを始めた大根役者(BBA)を回収しつつ、

レナは前の3人を追う。



(スカルドの父親がファースターに連れ去られたのって、

10年前よね?

兵魔戦争が起きたのも確か、10年前……。

もしかしたら、何か関係があるのかしら?

そういえばあたしが記憶喪失なのも、

ちょうどその頃くらいだし、もしかしたら……)



王立魔術専門学校で、スカルドの過去で、

そしてセカルタの執政代理の話でわかったことを、

頭の中で整理しながら、

レナを含めた5人は、トーテンの町へと向かっていく。





しかし、それは突然、

何の前触れもなく、やってきた。

セカルタ駅へ向かうレナ達の背後に、一つの人影。

レナ達は無警戒なのか、

その気配にまったく気づいていない。


その人影はレナ達を追いかけることはなく、

その場でスウ、と一つ大きく息を吸い込むと、

その息とともに、その体に溜まったものすべてを、

今まで溜りに溜まったものすべてを、

ここぞとばかりに、一気に爆発させた。




「ようやく見つけたでやンスよッ!!」

次回投稿予定→5/24 15:00頃

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